神さま、運動をする。
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無手ではいけないからと、投げたナイフを拾いに行くようアルベルトに言われた。
「負けた時に少しでも自尊心傷つけられないため?」と挑発したら、アッサリ苦笑で流された。
出自がシッカリしている人はこの程度の揺さぶりじゃ効かないか。
三バカには効果テキメンなのに。
ジャビルの近くに解体用ナイフが落ちているので拾いに行ったら、まだ目眩が続いているだろうに、睨みつけるの攻撃付きでナイフを投げて寄越された。
これもプライドってヤツかねぇ。
そんなもん、腹の足しにもならない枷みたいなもんだろうに。
「ありがと。
……アルベルトって強いの?」
刀身を向けて投げたのに、怯むことも怪我をすることもなく、ナイフが俺の手元に戻ったのが気に食わないらしい。
チッと舌打ちして短く「当然だ」と返された。
ぶっきらぼうではあるが、お返事を貰えただけヨシと考えよう。
「なら、充分以上に離れて、村の人たち守ってね」
カノンとの手合わせって精霊術ばっかりだし、テルモとは組み手をする程度だから、人間相手の肉弾戦ってメチャクチャ久しぶりなんだよね。
楽しみだ。
三バカは、ホラ。
準備運動だから。
あんなの試合とはいえないでしょ。
ナイフを懐にしまうと、アルベルトに怪訝な顔をされた。
自分は大剣を構えているのに、俺が武器を持っていないのがアンフェアになるから嫌なのだろう。
武器を取って来いって言ったのもそうだけど、いわゆる、騎士道精神みたいなものかね。
おキレイごとじゃ生きていけない冒険者稼業が長いだろうに。
お貴族様の十男坊だったよな。
そうなると、家督を継ぐことはないから家業の手伝いか、分家して事業を興すか。
もしくは、騎士団に所属し家を護るか。
その選択肢のうち、アルベルトは騎兵となるべく育ったのだろうね。
つまり、馬術も得意なのだろうか。
想像するだけでメッチャ似合うな。
身に付いてしまったものって消えないものなんだろうなぁ。
とてもキレイに型にそった、分かりやすい構えをしているもんね。
「大丈夫、杖があるから」
言ってまとっていた杖を具現化すると、対峙しているアルベルトだけではなく、三バカや村人たちからも息を呑む音が漏れ聞こえた。
唾を飲み込む音とか、ハッとした時の音ってそうそう聞こえるものじゃないと思うんだけど。
何十人って単位で同時にすると耳に届くものなんだな。
「さすが賢者の弟子、ということか」
「イヤ?
弟子は名乗らせて貰えないよ」
師弟関係になれる程俺に教えることがないからと、カノンを師匠呼ばわりすることは固く禁止されている。
自称弟子も、カノン自身がいたたまれなくなって恥ずかしい思いをするから絶対に名乗ってくれるなと言われている。
「では、本当に小姓なのか?」
「や、有り得んから」
掌をフリフリして否定したら一層首を傾げた。
なんでその二択しかないんだよ。
あ、でも、確かにカノンとの関係性を聞かれたら何て答えれば良いんだろ。
友達、とは違う気がする。
保護者か?
親子以上に歳は離れているが、その言葉が一番しっくりするような気がする。
この世界における身元保証人だし。
「……まぁ、今話すことではないか。
準備はいいか?」
コクリとひとつ頷くと、足元にあった大き目の石を拾い、上に投げた。
地面についたと同時に試合開始ってヤツだね。
おぉ、なんかソレっぽくてワクワクするな。
アルベルトの足回りにも、加速の付与がされているのだろう。
石が字面に着地するや否や、一歩踏み込むと同時に、充分過ぎる程に開いていた距離を一気に詰められる。
振りかぶって向けられた一撃を杖で受け止めそのままいなし、その勢いを利用して側頭部に打撃を叩き付けた。
……つもりだったのだが、屈んで躱された。
運動神経良いねぇ。
体幹もよく鍛えられてる。
屈んだ体制のまま、胴体にタックルをお見舞いして来やがった。
もちろん避けるけど。
地面を蹴ってアルベルトの背中に杖の先端を押し付け、ソコを支点にクルリと宙返り。
攻撃を躱しついでに背後を取った。
杖に霊力を込めて一発ノックアウトさせるつもりでいたが、いつの間にか手にしていた短剣で、振り返りざまに杖の軌道を逸らされてしまった。
……あ。
街の外壁に当たった。
まぁ、俺の霊力だからか、着弾音こそ響いたが壊れてはいないし、良いか。
そちらに気を取られている間に、アルベルトは右手に大剣、左手に短剣と、隙のない姿勢を構えていた。
二刀流か。
へぇ。
実際に双剣使いっているんだ。
イヤ、居るは居るだろうさ。
宮本武蔵なんか有名だしね。
だが、チャンバラのようなお遊びならまだしも、実戦で使うとなると握力や取り回しの技術の問題等で、かなり難しいとされている。
日本刀のように斬れ味が鋭いものならまだしも、剣って言うのはソレそのものの重さを、振り回して攻撃に乗せて初めて威力を発揮する。
刃はついていても、斬れ味はイマイチだから叩き斬る、と表現した方が良い位だし。
だから、切断面がグチャグチャになってしまう。
村のオッチャンの腕も、時間経過云々を抜きにしてもくっつけるのが大変だったのはそのせいだ。
細胞が潰れているから修復するのに時間が掛かるんだよ。
アルベルトが持つ大剣は、両手剣と見間違えるレベルで長くかなり重そうな造りをしている。
刀身の厚みも結構あった。
つまり重量も三kgはゆうに超えるだろう。
それを片手で振り回す筋力も握力も凄まじいし、剣の重みに振り回されない膂力も体幹も、全てにおいて素晴らしいの一言に尽きる。
ジャビルが強いか聞かれて応と即答するのも頷ける。
実際、そんな装備で俺のスピードに付いてこられているのだ。
とても強いと言える。
気になるのは、ガルバ同様圧縮した濃ゆい霊力を身にまとっていることだ。
ヤツみたいに器用に腕だけを特に強化している、なんてことはない。
それ以上の霊力をギュギュっと濃縮して身体全体を覆っている。
それだけの霊力を持っているってことだよな。
俺にも、カノンにも遠く及ばないが、よく洗練されているのだろう。
揺らぎがなく安定している。
だが、全身にそんなことをして、後から倒れたりしないのかな。
プライドを守るためならこの位屁でもねぇぜ! ってことなのだろうか。
まさかのワンチャン、反動も副作用もナシ、とか。
そうなら嬉しいんだけどな。
強さそのものには特に興味はないが、魔物が蔓延るこの世界では、強くなければ行けない所が山ほどある。
強者とはつまり、自由を獲得することに繋がる。
ソコのところ単純で良いよね。
狭い施設で育った身としては、自由ならば世界一周隅から隅まで行ってみたいところだ。
なので今よりもっと強くなれるのならとても嬉しい。
まとえるようになった武器は自分の手足のように扱うことが出来る。
大剣を受けても杖に傷一つ付かなかったのは、ガルバの大斧を腕で防げたように、杖にも霊力を流していたから、その分強度が増していたのだろう。
ん?
もしかしてコレって、霊力そのものを腕や杖に付与した、とでも思えば良いのだろうか。
だが、入れようと思えばどれだけでも入っていくしな。
ドンドコ流せば流すだけ霊力を吸収していく杖を見てその仮説はスグに否定した。
付与対象によって込められる霊力や性質の上限が違うにしても、コレだけ霊力を注ぐことは今まで出来た試しがない。
さすがに違うか。
まぁ、終わったらアルベルトに聞いてみよう。
彼なら理屈で説明してくれそうだ。
目潰し目的で水をぶっかけるが怯まず突進して間合いに入ってくる。
ジャミル相手にナイフを投げると同時に走ったのを見られてるし、通じないか。
残念。
大剣と杖でも鍔迫り合いと言うかは不明だが、バインド状態に持っていかれるのはコチラが不利だ。
両手で受けてくれればまだ良いが、アルベルトは双剣術の使い手だ。
彼が片手でどれだけ捌けるのかにもよるが、もし大剣のみでコチラの攻撃を受け止められ、力が拮抗した場合がヤバい。
左手の短剣があるからな。
グサリとヤられてしまったらお終いだ。
距離をもう一度取るため、杖を取り回して大剣を弾かせて貰う。
パキンッッ
……ぱきん?
緊張関係漂う戦いの場に不似合いに鳴り響く、イヤに高い音。
一瞬何が起こったか理解できなかったが、それはこの場にいる全員が同じだったようだ。
開いた口が塞がらないようで、みんなが皆、視線を同じところに集中力させている。
つまり、折れたアルベルトの剣先に。
「あ”ーーーーっっっ!!」
「あ〜……」
霊力を注ぎ過ぎた杖の強度が、アルベルトの剣よりもかなり強くなり過ぎたらしい。
弾いた時、俺の手には軽い手応えしか返ってこなかったんだけど。
彼の剣にはバッチリ衝撃が伝わっていたようで、見事に剣身の半ば程からポッキリ折れていた。
多分、さっき俺のガルバへの攻撃を受け止めて欠けてしまったところから逝ってしまったのだろう。
なんか、ゴメン。
アルベルトの戦意喪失ということで、この勝負俺の勝ちで良いのかな。
なんかイマイチ盛り上がりに欠ける、ヤな勝ち方だけど。
なんて声を掛ければ良いのか分からないままでいると、突然アルベルトが柄の割合が高くなった大剣をポイッと放り捨てた。
それと同時に、その右手には杖が握られる。
あらま、コイツも精霊術をしっかり使える人なのね。
「――地の精霊よ、敵を貫け
地の弾丸!」
ぽひゅん
短い詠唱と共に放たれた精霊術!
だがしかし!!
なんともお粗末すぎるその攻撃は避ける意味すらなかった!!!
マヌケな音と共に、土で出来た弾丸は俺に届くことなく消えてしまった。
マジメな顔して使うからどんな強力な精霊術が飛んでくるのかと身構えたのに。
なんのギャグだよ。
「ダメだよ、そんな石コロ飛ばすだけの攻撃じゃ。
コレくらいしないと」
笑わせてくれたお礼に、アルベルトが出したのと同程度の大きさの礫を宙に浮かせる。
そしてそれを円錐状に加工。
更にドリルのような溝を彫り込みそれを回転させ、アルベルトに向かって放った。
当てるつもりはなかったのだが、とっさに身構えようと動いてしまったが為に、彼の頬を撫でた後、礫は地面を抉り静止した。
テンション上がったせいで、思ったよりも威力高くしちゃったか。
軽く、触れるか触れないか程度だったと思うのだが、見事にアルベルトの頬には横一文字の傷が入り、耳の一部を欠損させてしまっていた。
今日何度目か分からない尻もちをついた彼は、呆然としながらも「参りました」と口から降参の言葉を零した。
なんか、締まらない終わり方で不完全燃焼だ。
誠に遺憾である。
ちぇ〜。




