神さま、目を輝かす。
お〜……
コレはまた見事に溶けていらっしゃる。
横一文字に薙いだように抉られている地面は、その断面が高温によって紅く溶けていた。
妄想をそのまま形にしてしまったのだろうけど、どれだけの出力で設定してあるんだ? アレ。
完全に兵器じゃん。
イヤ、確かにレーザー砲なんて大量殺戮兵器でしかないんだけれども。
威力がヤバすぎる。
立入禁止、侵入禁止の警告用としては過剰過ぎる装備だよな。
さすがに、骨も残らないような悲惨さは必要ない。
……と思ったら、冒険者Aさん、ちゃんと生きてた。
腰が抜けたのか、尻もちをついて震えているけど。
「や〜、ごめん、ごめん」
軽い調子で近付いたのだが、恐怖で根が合わないらしくガチガチと歯を鳴らしていた。
そんなに怖かったか。
スマンね。
どれだけ辺りを見回しても、他の冒険者や村人の姿が、見つけられない。
まさか、この人以外全員レーザー砲の餌食になって溶けたなんて言わないよね。
「オレは斥候として先んじて来たんだ。
見たことのない馬鹿でかい建物があったら、警戒するのは当然だろう」
水を飲ませて一息ついて、ようやく話せるようになった冒険者が、なぜ一人でいるのか説明してくれた。
良かった。
せっかく無駄な殺生しなくて済んだと思ったのに、意図も意識もしない所でそんなことになっていなくて。
でも、危険を知らせてくれる霊玉を持たせたこの人、冒険者チームのリーダーだと思ったんだけどな。
リーダーって、どっしり構えて剣で闘い盾で攻撃を防ぎ、バッタバタと敵を倒していくイメージがあったんだけど。
まさかの、偵察役。
確かに斥候は重要な役割ではあるけれど。
偵察はどうしても、敵陣地で伏撃を受けたり、バッタリ遭遇戦になったりするので、死ぬ確率が高くなる。
司令塔が殺られてしまったら、その部隊は立ち行かなくなってしまい全滅の危機に立たされる。
大将がしちゃなんない仕事でしょ。
だが、冒険者は軍隊ではないし、出来る人がやれる範囲で出来ることをする、というのが普通のようだ。
一番高齢で経験を積んでいるし、他のメンバーに比べたら地頭も悪くない。
そのためこの冒険者A――アルベルト・ヴォン・フェルナンデスは大将に担ぎ上げられながら、今回の斥候のような捨て駒がやるようなことから、備品管理の雑用のようなことまで幅広くやっているんだって。
それはいいように使われているだけではなかろうか。
「……もしかして、貴族?」
「あぁ、名前で分かっちまうよな。
地方領主の十男坊だったんだが、随分前に、没落したのをきっかけに冒険者になったんだ」
じぅなん。
少子高齢化の心配が全く不要な響きだな。
あぁ、でもそれだけの子どもがいるのはお貴族様基準かもしれないし、そうとも言えないのか。
ヌリアさんの所は一人っ子のようだし。
村には子供が全然いなかったもんな。
霊玉を取り落としてしまった、非常に情けない理由ではあるが、せっかく来たのだ。
道中どんな様子だったか報告も聞きたいし、現状の取り繕っていない村人たちの様子を見れた方が良いだろうと言うことで、冒険者たちが待機している所まで案内してもらうことになった。
チュインッ!
……街から遠ざかろうとした瞬間、レーザービームが目の前をかすって行った。
うん、コレは怖いわ。
「ゴメン、装置のスイッチ切ってくるの忘れてた」
再びへたりこんで変な笑い声を上げているアルベルトに謝罪した。
その場に留まったり、街方向に引き返す分には作動しないのに、カノンの自宅方向に向かおうとすると砲撃されるのか。
なら、村の人たちを受け入れたあとは、また電源入れても良いかもね。
おもらししたことは俺の胸のうちにしまっておくよ、アルベルトくん。
……ゴメンて。
誤作動を起こしてもいけないので、とりあえずカーサ・トッレのレーザー砲は一旦破壊した。
だって、電源がなかったんだもん。
ON/OFFに出来た方が良いかな。
カノンの家方面から人が来るのなんて、俺とカノンを除けば今回限りだろうし、生体認証昨日だけ付けて常にONにしておくな。
う〜ん、迷う。
カーサ・トッレに行って帰ってしてる間も、ず〜っと笑い声を上げていたアルベルトを平手打ちで正気に戻し、村人たちが待機している場所へと案内して貰った。
顔が腫れたのは俺のせいじゃないです。
なかなか正常状態にならないコイツが悪い。
冒険者も村人たちも、疲労の色は出ているが、怪我もなく脱落者も当然居らず、彼らはしっかり任務を遂行してくれたようだ。
ちょっと意外だった。
なにせ村人からしてみれば、自分たちを殺そうとした犯人だし、冒険者からしてみれば、殺し損ねた獲物な訳じゃん。
一悶着はあると思ったんだけど。
到着も早かったし、アルベルトたちは結構有能な奴らなのかも。
だが、出発した時に数えた頭数と確かに合っているのだけれど、薄暗かったし見落としていた。
年寄りがいない。
村には誰も残っていないことは俺が確認した。
気配察知で人数を確認したのだから、隠れていて見落としたなんてことは起こりえない。
置いてきたということもないのなら、何でだ?
背負子に子供を担いで運ぶガタイのいい冒険者が、正門までぐるりと回る道中、どこの集落もこんなもんだと教えてくれた。
むしろ、ここにいる村の人達は結構年配者が多いとか。
年配って言っても、一番上でも四十代しかいないと思うんだけど。
コレで年寄り呼ばわりされんの?
収穫に対して人の数が多すぎると口減らしをする所もあるし、疫病が流行れば体力のない年寄りと子供から死んでいく。
この国では全面禁止されているが、口減らしがてら、食料確保がてら、共喰いをするような場所もあるとかないとか。
このガタイの良い冒険者も、町で問題行動が多かったこともあり、口減らしと言うか追放と言うかをされて以来、五年くらい冒険者稼業をしているそうだ。
噂話程度の信憑性の低い話だそうだが、食人風習があるんだ。
あな恐ろしや。
コレだけデカい街を作るなんて流石賢者だ、などと背の低い冒険者がカノンを褒め称える。
ソレ、俺が造ったモンだし。
この賢者様は仕上がりに文句しかつけてねぇぞ。
まぁ、能ある鷹は爪を隠すと言いますし。
勘違いさせておけば良いだろう。
なんでも、川の向こうに‘’エルフの墓所‘’と呼ばれる広大な森があるそうなのだが、ソコをカノンが管理しているのは有名な話だそうだ。
王の権能と呼ばれるだけあり、カノンの言葉は王の言葉に等しい力を持つ。
その彼が出入りの一切を禁じている‘’エルフの墓所‘’に入るつもりは最初からなかった。
ただ、珍しい上に強い魔物が生息していると言うことで、自分たちの腕試しついでに‘’最果て‘’の地まで辿り着いたら、川を隔ててコチラ側が、地元では別の名前で呼ばれていることを知った。
それをいいことに、懐が寂しくなってきたし、一攫千金を狙って森に侵入しようとしたんだって。
屁理屈かよ。
あとはカノンが想像していた通り、通りすがりの竜を見つけてヒャッハーして後を追ったのに、その竜は素材も肉もあらかた引っ剥がされて無惨な姿に変貌しているし、ムシャクシャするし、腹いせに村を襲ったんだって。
単なるストレス発散に村一個壊滅させようとすんなよ。
民度が低すぎる。
二人共、俺が村に到着した時、笑いながら老若男女問わず切り刻んでたし。
悪びれた様子がない所を見るに、コレがこの世界では普通なのだろうか。
なかなかにショックだな。
なにせ何でもかんでもカノンが基準だし。
アイツ、すぐに怒るけど常識と秩序は弁えているからなぁ。
王の権能だっけ?
王様の名代を務めるくらいだから、理性的に事を判断しなきゃならないことが多いのだろうし、カノンがこの世界では特殊枠なのかな。
一応、話が比較的通じたリーダーであるアルベルトは止めたそうだよ。
リスクを説明し、損益を考えたら引き返した方が良いって。
そんな屁理屈捏ねた所で、王の権能に見つかったらタダじゃ済まないって。
だけどそれで止まるようなバカ共じゃないんだよ、とアルベルトは深い、深〜いため息をついた。
苦労しているようだ。
頭頂部が寂しくならないと良いね。
そういえば、略奪と殺戮に参加せずに、竜の亡骸近くに居た奴がいたな。
アレがアルベルトか。
殿を務める、杖は持たずに槍を手にしているヒョロ長い人は話に微塵も参加しない。
真面目なのか、寡黙なだけなのか。
声を張り上げるタイプには見えないし、最後尾とは少し距離があるからそのせいなのかな。
アノ人、あの騒動の時、懐に隠し持っているナイフで村の人を生きたまま解体していたような気がするんだよね。
勘違いだったら良いなぁと思っている人物なので、街に着くまでにどんな人なのか把握しておきたかったんだけど。
類は友を呼ぶとも言いますし、天然バーサーカーの仲間は同じく戦闘狂なのだろうし。
俺の思い描く冒険者の立場確立の礎になって欲しいので、やはり人選はしたいよね。
街を拠点に冒険者活動して欲しいなとは思うのだけど、人格的に問題がある人はちょっとねぇ……
もしくは、この世界でも類まれなる性格破綻者の劇的ビフォーアフターを見せつけた方が良いのだろうか。
冒険者ギルドに所属すると、あんな荒くれ者がこんな品行方正に劇的変化! とか売り文句付けた方が組織として機能しやすいのかな。
元貴族の万能なアルベルト。
体格の良い喧嘩っ早いガルバ。
背の低い手癖が悪いサージ。
寡黙な武器収集が趣味のジャビル。
四人で富という意味を持つディヴィティアエと名乗り冒険者をして、三ヶ月程経つそうだ。
口がくすぐったくなりそうな発音の名前だ。
言いにくい。
そして、意外と活動期間が短い。
アルベルトは長い期間一人で、もしくは短期間限定のその場限りのパーティを組んで、日銭を稼ぎながらアチコチ旅を続けているそうだ。
カノンが言っていた、街の中でも問題なく過ごせて護衛や用心棒などの仕事を名指しで受ける便利屋さんをするタイプの冒険者だね。
ガルバもソロで活動して長く、実力のある冒険者として結構有名なんだとか。
だが、破滅的に馬鹿だった。
酒場で違法賭博によりサージにお金を騙し取られそうになり殴り飛ばし、そのサージの身体が吹っ飛んだ先が、新しい武器を求めて地図を広げていたジャビルの机だったとか。
乱闘になりかけた所、ちょうどガルバたちの悪名にビビって用心棒として酒場に雇われていたアルベルトが仲裁に入り事なきを得たんだって。
なんで今の流れでパーティ組むことになるの?
三人とも関わっちゃいけない人間判定されるべき所じゃない??
どうしてそうなったのか、何故かダンジョンを無事に踏破した三人。
ジャビルのお目当ての武器も手に入れたし、ソコソコの収入もあった。
道中小さないさかいこそあったが、終わってみれば良い思い出だ。
そんなこんなで別れるつもりでいたのだが、三人と一足早く別れたアルベルトの後方で、一分と経たないうちから喧嘩を始めた三人。
コレは実力はある分放っておいたらかなり危ないタイプだと思ったアルベルトは、三人の手綱になるためにパーティを解散出来ないままズルズルと時間が経ち、今に至るそうだ。
村の惨状を思い返すと、手綱になれていない気がするのだが。
そう言うと、国に属していない集落がひとつ消えた所で、被害はその場にいた人達だけで済むが、コイツらはガンつけられたと言えば衛兵でも殴り殺すし、賭博場でイカサマして捕らえられたと思ったら平気で脱獄してくるし、新しい武器が手に入れば試し斬りすると言って無差別テロを巻き起こす。
そんな連中なものだから、発散出来るところでしておかないと大きな街が生贄になってしまうのだと嘆いた。
村の人たちからしてみればたまったものじゃないのだが。
なんでそんなことをするのか問えば、何となくとか暇つぶしとか楽しいからとか。
別にその行動理由が間違ってるとは言わないけど、起こした行動は確実に間違っている。
この世界でコレが普通なのかといえばそうではないから、街から追い出され冒険者なんぞしている訳で。
……うん、こんなのばっかりなら、冒険者がチンピラだとか落伍者だとか言われても致し方ないだろうな。
絶対的に集団生活を送るのに適していない。
もっと楽しいこと、もっと欲を満たしてくれるものを体験して、そのために人に迷惑をかけるようなことは我慢しなくてはいけない。
そんな幼稚園児でも分かるようなことから学ばせなくてはいけないのか。
あぁ、でも脳味噌って鍛えないとドンドン退化していくのだから、赤子に言って聞かせるレベルの所から始めるべきなのか。
道のりが長すぎる。
アルベルトが実力として自分たちの上をいくから、彼の言うことは比較的まだ聞くそうだ。
弱肉強食の社会で生きる獣のようだ。
それならカノンの言うことも表面上は聞くだろうし、やれるだけやってみよう。
最悪、俺がコイツらの生命握ってるんだしね。




