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もと神さま、新世界で気ままに2ndライフを堪能する  作者: 可燃物


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神さま、思案する。




スパルタ教育という言葉がある。

極めて厳格かつ過酷な教育を施す時に使われるものだ。


地球の古代ギリシアで、幼少期の子供に行われた、あまりにも非道な軍事訓練の様子を比喩として使われたのが始まりだとか。


この世界でもスパルタ教育と呼ばれるのか、それともこの土地を発祥として新たな名前が付けられるのか。

はたまた、施された人物の名前が付けられるのか。


「『この子が生き返ってくれるなら、わたしはなんでもします』だったよな?

寝てる暇なんて無いぞ。

さっさとペンを取れ」


「す、少しくらい休憩を挟んだ方が良いのでは……」


治癒術をかけたら疲労も取れるのかの確認したら、俺的にはなかなか良い具合に疲労回復が実感できた。


なので他の人もそうだろうと思い帰ってきて早々母子に治癒術を施した。

その後、ヌリアさんは半べそをかきながら、フリアンくんは頭を悩ませながら引き続き机へと向かっているのである。


カノンにドン引きされるようなレベルなのだろうか。

細かな休憩は入れてるのに。

その方が効率が良いからね。


机に座り慣れていないこの人たちの程度に合わせて、三十分の勉強、ストレッチをセットに、トイレや軽食、仮眠の休憩の時間もしっかり設けた六十分ワンセット体制だ。

コレでスパルタとか言われたら俺が泣くぞ。


俺は一時間半一コマで勉強と仕事とアレやコレやとやっていたのに。

食事時間が短いと消化吸収に時間がかかる上内臓にも負担が掛かるからと、食事の時間はしっかり確保されていたが、各コマ休憩時間は十分だけ。

移動時間が必要な場合は休憩と言えるものではなかった。


詰め込みすぎて魂が抜け駆けている気はするが、勉強とは習慣化が大切だ。

一日目から手を抜いては、この先一生甘えが生じる。

この街の将来を担うファースト居住者が手本となる人物にならないでどうする。


スポ根をするつもりはないが、そんなむずかしいことを教えているわけじゃない。

数の概念は、さすが大人なだけあってヌリアさんは理解していた。

なので彼女にはフリアンよりも少し先に進んだ、四則計算の加算を教えている最中だ。


逆説的に、ソレしかまだ教えていない。

加減乗除の第一段階じゃないか。

小学校入学したての子供が通る道だ。

手で指折り数えることが出来るんだから、なんとかなる。


俺はカノンに教わらなくても読み書きができるようになったのだから、それ位は冒険者たちが到着する前にできるようになって欲しいところだ。


……俺の場合、自他共に認めるくらいに記憶力が良いことを考えれば、書き取りは勘弁してやるか。

外部ストレージがあるって便利だよね。



間違ったことを教えるといけないのでカノンに俺が教わり、同時進行で母子に文字と計算を教える。

ちょっと変な絵面だな。


地球移民組が教えたのか、元々この世界でもそうだったのかは不明だが、十進法も加減乗除の記号も、何もかもが俺の記憶にあるものと同じなのがとてもありがたい。


一から覚えなければいけなかったらちょっと大変だった。

書き間違えをしそうで。


言葉も口語は日本語と同じなのでありがたい。

ただ、書き取りする文字は違うからね。

そこがミスをしそうで面倒だ。


教師役が間違えたら威厳が損なわれてしまう。

間違えて平仮名やカタカナを書いてしまわないか冷や冷やしながら教えた。



五十音図を作って、それに該当する絵を添える。

それを目に見える所に貼って、暇さえあれば見て言葉を覚えて欲しい。

トイレが良いんだっけか。


紙とか木札が量産出来ればカルタとかトランプを作って文字を覚えたり、数字の計算を学んだりしながら遊べるんだけど。

楽しむことは、何かを学ぶ時にはとても重要だからね。


あと必要なのは飴と鞭。

最初は村での出来事もあるし、カノンは畏怖されているだろう。

そう思いカノンに鞭役に徹して貰うつもりだった。


だがしかし。

教育に関して、カノンは生ぬるい。

猫舌の人でもイッキ飲み出来てしまう位のぬるさである。


すぐに休憩を挟もうとするし、つまづいた計算式を見ては答えを言ってしまう。

俺に精霊術を教える時も感じたが、コイツ、教えるの下手すぎ。


それなら俺が煮え湯役をせねばバランスが悪い。


俺だって別に教えるのが上手だとは言わないよ。

立場上部下を持ったことはあるけれど、それって施設では階級で管理した方が利便性が高いからってだけだし。


教育課程は受けたことしかない。


その時の記憶をなぞっているだけなのだが……

当時の俺よりも二人共年齢を重ねているのだし、その分脳も発育しているのだから多少詰め込みになっても大丈夫かと思ったんだけどな。

ダメか。


幼い頃から文字や数字に触れ合っていないと、土台が出来ていないから難しいのかな。

知識に貪欲なタイプならイケそうだけど、この二人はつい数時間前まで前時代的な生活を送っていた村人AとBだ。


後進的とも言える生活を送っていたのに突然、最先端とまではいかないだろうが、住居から生活から勉学から、何もかもガラリと変わっては受け入れるのは難しいのかもしれない。


とりあえず今日は休ませた方が利口だな。

自分の足を動かした訳ではないが、長時間の移動は疲れたろう。

肉体疲労は脳の疲れに直結する。


その疲れ自体は治癒術で取れたはずだが、精神の方はそうもいかない。


過度のストレスに晒された状態では筋肉が硬直してしまい、血流が悪くなる。

脳に充分な血液が回らず酸素も栄養も不足してしまっては効率が悪いか。

栄養ある食事を摂ってしっかり眠ってエネルギー充填して貰おう。


もう、日も暮れるしね。



カノンが村で買ってきてくれた材料に豆と牛乳があったので、トウモロコシと一緒に茹でて粉砕した後、濾してポタージュスープにした。

高栄養価のものを急に食べて胃腸がヤられたらいけないし。


あとは竜肉の残りをなんちゃってローストビーフ――ローストドラゴン? にして、久しぶりに食べる生野菜のサラダに添えた。


村の人は生野菜を食べる風習が基本的にないらしく、トマトやキャベツも全部火を通してあったんだよ。

せっかく畑の採れたて野菜を食べられると思っていたのに、夕食で出されたのがガッカリご飯だったからヤキモキしてたんだよね。


しかもゆで汁捨てるし。

ビタミンCを代表とする水溶性ビタミンを捨てんな、ボケェ! と殴り込みに行きたかったよ。

女性に無体を強いてはいけないと思いとどまった俺、えらい。


俺は地の精霊テルモの前世が料理人で、彼に懐いていたから料理をする所を見学させて貰ったり、その時に料理のコツだとか栄養学だとかを聞いていた。

もちろん、テルモの前世以外にも料理人はいた。

なのに料理の仕方が伝わっていないとは、どういうことなのか。


カノンはそこん所しっかりしていたんだけどね。



知恵熱を出しかけていた母子は、初めて食べるであろう生野菜に嫌そうな顔を隠そうともせず拒否反応を示したが、勿体ない精神を持ち合わせているようで、ヌリアさんは恐る恐る、フリアンくんはえぇい、ままよ! と言わんばかりに勢いよく口に運んだ。

性格がよくわかる。


二人とも眉間に皺を寄せ、何度か首を傾げながら咀嚼をし飲み下したあと、目を輝かせて二口目を口に運んだ。

生野菜のシャキシャキした食感ってクセになるよね。

わかる。


「殿方が台所に立つのが不思議でしたが、レイムさまは料理がお上手なのですね」


「そう言うヌリアさんは丁寧語が上手だよね」


「わたしは元々町に住んでいたので」


あぁ、毛色が違うと思ったらそういうことか。

でも、キュウリを生で食べる習慣はないんだ。

町で買ってきたお野菜なのに。


そう言ったらキャベツと同様酢漬けにしたり、種の部分を取り除いて炒め物にするんだとか。

トマトは煮込むし玉ねぎも焼くか煮るかしかしないんだって。


肉も、焦げるくらいしっかり火を通す人がいるくらい念入りに加熱するんだもんね。

食中毒の心配があるからかな。

冷蔵庫も冷凍庫もないのだから、野菜にしても肉にしても、そのリスクはかなり高い。


なるほど。

あの態度は食文化と衛生面の違いによるものだったか。

生の野菜を食べない訳ではなく、見慣れている食材が全く別の形で出されたことに引いていたんだね。


怖々と食べていたが、塩味がきいた食事が久しぶりだと言って、最終的には多めに作った料理を全部キレイに平らげた。

フリアンくんはポタージュが気に入ったようでお代りをしていたよ。


料理作りはクセになると言っていたテルモの気持ちが今なら分かる。

一時的な交流しか持たない他人でも、美味しいと言って貰えるのも、お代りを催促されるのも嫌じゃない。

カノンに至っては俺が料理をするのを楽しみにしてくれている。

下ごしらえなんか手間だと感じるが、面倒臭さよりも喜びの方が大きく感じる。


餌付けしてる感覚だな、コレは。



まだ日が昇っておらず、辺りは薄暗い。

寝るのは確かに早かったが、普段ならまだ夢の中だろうに。

なぜ目が覚めたのだろう。


昨日の強襲で気がたっているとか?

俺ってそんな繊細さんだったのか。

んなバカな。


寝惚けながらセルフノリツッコミして上体を起こす。

近距離ならほぼ無意識で出来るようになった気配察知にひとつ、違和感が引っかかった。


コレは……ヌリアさんだな。

トイレに行く感じじゃない。

外に向かっているな。


フリアンくんを置いて逃走するとは思えない。

外に一体何の用事があるのだろう。


彼女はフリアンくんに肉を食べさせたいから狩りに行くぜ! みたいなタイプじゃない。

村は完全に男女の役割が固定されている社会構造をしていたから、どんな理由があろうと女性が狩りをする、なんて考え自体持っていない。


それなら女性ならではのお願いの仕方をして男性に代わりに狩ってきて貰うような思考を持っている。

別に身体を差し出すとかではなく。

独身男性相手に嫁がするようなことをするのだ。

繕いものをしたり、料理を作ったり。

掃除をしたり、親の面倒を見たり。


男性優位だから何を対価に望むかは男が決める。

相手がどの程度の労力を要求してくるかは分からないから、身体売るようなことをする人も中には居るんだろうけどね。



街中なら外壁に囲われているし、今は跳ね橋も上げているから安全だけど、ひとたび外に出ればそうはいかない。

橋が上げられていることを知らないのだろうか。

操作の方法を知っているかは不明だが、橋を勝手に下ろされてはたまらない。

破壊されたらなおタチが悪い。


仕方がない。

追うか。

防具の類は必要ないよな。

マントだけ羽織ろう。



追う前になにか変わったことがないか家の中をザッと確認したが、カノンが使ってる部屋は問題なさそうだ。

家の中で寝る時まで装備を解いていないことに驚いたが、自宅以外ではそうするのがクセになっているのかもしれない。

スルーして良いだろう。


フリアンくんもよく寝ている。

広い部屋を用意したのに、隅の方に巣作りするように、持参した毛布にくるまっていた。

新品の家に使い古されて汚れた毛布がなんともミスマッチである。


この街での暮らしに慣れるためにも、今夜からは長屋に案内した方が良いかもしれない。

まだ街が住民二人、宿泊二人状態なので一箇所にまとまった方がなにかと便利だと思ったのだが、母子にはコレからのここでの暮らしに早く慣れてもらわなきゃいけない。

家の使い方を覚えて他の人に教えて貰いたいし、早く一軒だけでも窓と扉を拵えよう。


違和感、ひとつだけ見つけた。

台所にあった豆と薬草が一部消えている。


誰かが夜中に小腹が空いて食べたのか?

豆はともかく、花が開いた薬草を??



薄暗いが建物の外観が生成に近い乳白色をしているため、僅かな光でも反射し、街の景観が朧気ながら把握することができる。

秩序に則り並んだ商店も家屋も、今はまだ主が居ないため無機質な物にしか見えない。

今後持ち主の手によってどれだけ様変わりしていくのかが楽しみだ。


川から引いてきた水が流れる水路のせせらぎも、ベンチに木陰を作るために植えた広葉樹の葉が擦れる音も、耳触りが良く心が穏やかになる。


そんな心地の好いチルい風景なんぞ見向きもせず、人一人歩くには広すぎる道路を早足でヌリアさんはひたすら進む。

両手に薬草と大量の豆を抱えて。


家の中だと罪深きお夜食作りがバレるから、遠く離れた所で一人で煮炊きしたいのか?

どんだけ食いしん坊さんだ。


食用にも出来る薬草とはいえ花が咲いているものは質が悪い。

食べるのには不向きなんだけど。

他にも食材はあったのに、なぜ敢えてそれを選んだのだろうか。


こちらには気付かずいくつもの区画を進み、跳ね橋により閉じられた門を見て小さく「あ……」と口から困惑と落胆の混ざった音が漏れ聞こえた。

周囲をキョロキョロ見回し、ココが街の出入口であることに間違いないと気付いたのか、分かりやすく肩を落とした。


「何の用があって外に出たいの?」


悲鳴さえ上げられないレベルで驚かせてしまったのか、持っていたものを全部落としてしまうヌリアさん。

別に気配も足音も特別消したりしてなかったんだけど、本気で気付いてなかったのか。


幽霊やオバケの類いに出くわしたわけでもあるまいに。

そんな驚かなくてもいいじゃん。


目が慣れたとは言え、落とした物を全て拾い集めるのにはちょっと暗い。

光量を抑えた照明を宙に浮かせた。

辺り一面、内堀の中も含め見事に丸い豆が散らばっている。

さすがにこれだけ散らばった豆を全部集めようとすれば、昇ってすらいない太陽が沈むまで時間が掛かりそうだ。


風の精霊術で豆だけをカゴに集め、その間に薬草を拾い集める。


「はい。

もう落とさないでね」


拾ったものを押し付けた所でようやく我に返ったのか、ヌリアさんは慌てて返事をしながら荷物を抱え込んだ。

この頭の回転の鈍さが寝起きだからであることを祈るよ。

体力は寝て回復しただろうし、昨日みたいに七+九の計算なんかで躓いたりしないでよね。



「豆は葬送儀礼のとき、神に捧げる供物。

花は手向けとして共に川に流すのです」


跳ね橋が下がるのを待つ間にそういう風習があるのだと話してくれた。

だが、橋が掛る場所はあくまでも水堀。

百m程幅を取ったので見た目では判断しにくいのかもしれないが、決して河川の類ではない。


空飛ぶ石版で町を往復した時に行きと帰りで川が増えてたらおかしいな? って疑問に思わないか??

だが、ヌリアさんはここに四人で移動するまでの間、ずっと目を瞑っていた。

カノンと二人の時も同様だったとすれば、水が流れる場所が二本になっている事実を知らないのかも。


村から町までに行く間にある川は一本だけ、という思い込みでこの堀が川だと勘違いしても仕方ない。

……のかな?


一人で出歩かせたら危ないので護衛がてら川までの道案内をする。

水路の幾つかは川から引いてきたので、辿っていけば行きつくが、魔物に襲われたら大変だし。

俺が居ればその心配自体が無用だ。


川にはトラス橋でも建てようと思ったのだが、コチラの世界の一般的な橋の形が分からなかった。

なので、歴史が古く重量物の運搬にも耐えられる石造りのアーチ橋を掛けておいた。

持送りアーチ橋のほうが、レンガによる形成は楽だから、現地の人が真似て作りやすいかもしれない。


だが、荷重支持効率が良いとは言えない。

大雨により流されるのは論外だが、どれだけのヒトとモノの移動があるか、推測すら出来ない以上は非常識ではない範囲でなるべく丈夫なものを作るしかない。


……あの街ですらオカシイと言われてしまったので、この橋ももしかしたらお叱り対象になるかもしれないけど。

少なくとも昨日は怒られなかったし、大丈夫だろう。

たぶん。



あの騒動では一人も死んでないのに、一体誰の葬式をするのだろうと思ったら、村自体の葬儀だそうだ。

長年世話になった土地だから、本来は離れる前に村人総出で魂抜きをする。

だが今回はそんな暇はなかったし、簡略した方法で赦してもらおうと多めの供物と花とを持ち出したそうだ。


そうとは知らず急がせて済まないね。


閉眼供養の風習があるんだな。

仏像や仏壇を処分する時にする習わしだったんだけど。


地鎮祭は家を建てる時、安全に滞りなくいくように土着神に祈る儀式だし……

開眼供養って村を興す時にもするものだったっけ。

少なくともこの世界ではするのだろう。


……するのなら、何もせずに街ひとつデーンっ! と造ったのは宜しくなかったのではなかろうか。

地の神様やってるテルモに事後報告だけどしておけば良いか。



日がジワジワとゆっくり昇る中、ヌリアさんは祈りの言葉を捧げ、花を天高く手向け供物を川へと流す。

真摯に手を合わせるその姿はとても美しい。


だだその光景を見て真っ先に思ったのが、食料無駄にするなよという言葉だった。

俺は思いの外、食いしん坊キャラだったようだ。




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