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もと神さま、新世界で気ままに2ndライフを堪能する  作者: 可燃物


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神さま、大魔王(笑)と対峙する。




ぐるりと周囲を見渡したカノンは、俺にだけ聞こえる小さな声で「だから止めたんだ」と呟いた。

ここまで想定して止めてくれていたのか。

面目ない。


それはつまり、カノンも過去にこういう場面にでくわしたことがあるのか。

あるいは自分自身が経験したのか。


まぁ、そっちだろうな。

だからこそ、アレコレ理由をつけて止めようとしたのかもしれない。

自分が経験したシンドい思いを俺にさせまいと慮ってくれたのだろう。


それでもココに戻ることを了承したのは、俺が、俺の意思でやりたいと言ったから、それを尊重してくれたのだ。

頭が下がる。


物理的に頭を下げたら、胸元に続く違和感の正体を知った。

……胸ぐら掴んで来た人の、二の腕から先がソコにぶら下がっている。


二の腕にはソコソコ太い血管も通っているし、あのオッサンさっきまで死にかけてたんですけど!?

これ以上血を流したら失血死の危険性が……


あわあわしながらも、とりあえず壊死を防ぐために適度に凍らせる。

大丈夫。

ちゃんと傷口水で流して霊力の膜で覆った後にその周りを凍らせたから。

運が良ければくっつけられる。

くっつける前にオッサンがくたばらなければ。


そのオッサンに真っ先にすべきなのは輸血なのだが、ギャーギャー騒ぎながらのたうち回っているし、雰囲気的にそれどころではない。

動けば動くほど、が流れる血の量が増えるから止めた方が良いのだけれど……


俺とオッサンの間には、冷気でも出してるの? と問いたくなるレベルで静かにお怒りのカノン様がいらっしゃる。

触らぬ神に祟りなし。

ヘタに刺激せるようなことを俺はしたくない。


「これは一体、どういうことだ?」


底冷えするようなゆったりとした声で問うた言葉に、喧騒がピタリと止んだ。

遠くにいるせいでカノンの顔が見えなかった人も興奮して周りが見えていなかった人にも、声は届いたのだろう。


そして、どれだけカノンが憤慨しているのか理解した。


ズゴゴゴゴッ! と醸し出してるプレッシャーで地震でも起きそうな空気である。

そのおかげで「あ、コレ、自分たちヤバくない?」 という状況にようやく気付けたのだ。

遅すぎる。


普段からチマチマと細かいことで怒ったり呆れたりするヤツではあるが、ある一定のラインを超えたことを仕出かした時は、親や教師のように諭し、気付きを与えてくれるのがカノンだ。

なので、俺はカノンが本気で怒った所を見たことがない。


今回は、初となるガチ怒りだ。

そんな初対面、永遠に訪れて欲しくなかった。


静かに怒る人って基本怖いよね。

この場所から逃げたい。

超逃げたい。


静まり返った広場を見渡しても、誰一人口を開こうとはしない。

顔面蒼白で、歯の根が合わずガチガチ、ガタガタ震えている人さえいる。


英雄譚と言うのは登場人物を褒め崇め讃え、人々に希望をもたらすものだ。

だが、その英雄が敵に回った時は?

希望は転じて絶望に変わる。


カノンの唄は随分と有名なようだし、この場にいる人たちは全員、彼が国を一つ消滅させたとか、湖を干上がらせたとか、そう言う事実かどうかが判断は出来ないが、どの唄にもあるのだから桁外れの力を持っているのであろうと想像は出来ている。

そしてその上で、自分たちの命がどうなるのか、その行く先を握っているのがカノンだと知っている。


だから、問われても答えられないし動くことも出来ない。

まな板の上の鯉でももう少しは抵抗すると思うのだけど。



誰も身動ぎできない中でも唯一動いてた、腕を斬られたオッサンは、ひとしきりゴロゴロし叫び疲れたのか、誰も心配してくれないから自分がいたたまれなくなったのか。

ピタリとその動きを止めて、キッとカノンを睨んだ。

生命知らずにも程がある。


「そこの小僧がヌリアの倅を助けんかったんだ!

かわいそうに。

あの子はまだ五つだったんだぞ!」


オッサンの声に、恐怖でせき止められていた村人たちはまた声を上げ始める。

声は勢いを増し続けたが、カノンが冷淡に放った「それがどうした」の一言で、またピタリと止んだ。


まさか、人一人の生命が喪われたのにそんな言葉を返されるとは思わなかったのだろう。

同情をひく言葉や非難の声を一蹴したカノンは、心底呆れたように首を振りため息をついた。


「それがどうしたと言うのだ。

お前たちは、その危険性も理解した上でここに留まると決めたのであろう?

この先にある世界樹の迷宮に紺碧の聖水滝。

土地の全てが為政者が喉から手が出る程に欲するものだ。

いつ侵略されるかも分からない。

いつ戦地になるかも分からない。

だから巻き込まれぬようこの地から離れろと私は再三言ってきた。

次世代のためにも離れるべきだと。

だが、それでも留まることを選んだのはお前たちだ。

フリアンを殺したのはお前たちの愚かな判断だろう!」


ズガビシャーン! と背後に雷のエフェクトでも飛んでそうな勢いで村人たちを弾級する。

杖の装飾がシャラリと鳴って良い雰囲気が出ているね。


この先って、俺たちが通ってきた場所だよな。

有名な場所なんだ。

全く聞き覚えのない名称出されたからピンと来ないけど。


「自分たちの罪を人に擦り付けるな、馬鹿馬鹿しいと」吐き捨てたカノンは、それでも引き下がろうとしない村長さんやヌリア? さんに蛆虫でも見るかのような侮蔑の目を向ける。


いっそ死ねとストレートに言った方が彼らも楽になれるのではないだろうか。

その目を向けられた訳でもないのに、俺も身震いしてしまう。

それくらい鋭い視線である。


「……ならば、昨晩に時間を戻してやろう。

昨今の世界情勢を鑑みてこの地に留まる危険度は増している。

すぐにこの地から離れろ。

……それとも、忠告を無視しここに留まることをまた選び、殺される未来が待っている今にその時を進め、私に殺されるか。

どちらが良いか選ばせてやる」


昨日、男衆と竜の解体をしている時、いつもより強めにこの村を離れるように説得をしていた。

だが、彼らはいつも通りここに留まることを選んだ。


俺は離れるべきだと説得はしていないにしても、女衆にこの村に留まり続ける理由を尋ねた時、何があろうと離れないと言っていた。

先祖代々守り続けてきた土地だから。

今までもどうにかなってきたのだからと、そう言って。


認知バイアスの一種だな。

今あるものが今後もあるのが当たり前だと思い込んでいたのだろう。

そんなもの、誰に約束された訳でもないのに。


信じたいことを支持する理由や情報ばかりを聞き入れ共感し、あたかも確約された真実のように思い込む。

そして反論する言葉には耳を傾けない。

確証バイアスって奴だ。



選ぶ猶予を与えて貰えるのだ、喜べと言うが、なんだその二択は。

横暴だと言う声が上がるが、正直その通りだと思う。


俺が傷を治した人たちまで殺しちゃうの?

せっかく命を拾ったというのに。

マジで皆殺し確定??


冗談で言っているのではないと、そして反論すれば自分たちの生命がその時点で絶たれると、ようやく分かってきたのだろう。

だが、生命を脅かされたとしても、先祖代々暮らしてきた土地を離れ難いと思うのも彼らには事実だ。

すぐに決めろと言われても難しいのだろう。


理不尽に奪われる時は一瞬で、文句をつける暇も余裕もないから受け入れざるを得ないだけだ。

もしくは、そんなことを考える前に死んでしまう。

受け入れるもクソもない。


だが今相手にしているのは、見知った顔で、自分たちに良くしてくれた相手で、ただ自分たちの行いにお灸を据えるための方便で意地悪を言っているだけではないのか。


ざわめきが引かない広場には、未だにそんな視線が幾つもうかがえる。

アイツらは、カノンが本気でブチ切れてるのが分からないのだろうか。


最悪を想定して動けない人間というのは、どこまで行っても脳みその中はお花畑が咲いているらしい。



「神の愛し子を傷付けたのだ。

選べないと言うのなら、神の代行者である私が貴様らに裁きの鉄槌を下してやる」


いつまで経っても答えを出さない村人に痺れを切らせたのか、カノンは杖の霊玉に力を集束させる。

嵐を呼び甲高い風切り音が不気味に鳴り響くその光景は、神の代行者と自称していたが、どこをどう見ても大魔王だ。


カノンが怒ってくれるのは嬉しいけどね。

俺を理由に大量殺戮しようと言うのなら止めねばなるまい。


だってコイツは優しいから。

俺を責めるのはお門違いだと自分を責めて、絶対後悔するもん。


「ていっ」


気の抜けた声で後頭部にチョップをお見舞してこの場の空気をぶった斬る。


殺伐とした真面目で血みどろな展開は、地球での出来事で既にお腹いっぱいなんだよ。

俺はこの世界では面白おかしく自分勝手に楽しく生きたいの!

シリアスモードはお断り〜。


「いいよ、そんなこと、わざわざカノンがしなくても。

この人たちは、問答無用でこの村から出て行ってもらおう」


俺が相手だと途端に舐めた態度になるのがいっそ清々しいが、ブーイングをし出した連中にカノンが一睨みしただけでシュンとなる様は、滑稽だ。

弱者には強く、強者には媚びへつらうとか。

指さして大声出して笑いたくなる。


地球の先進国ほど法整備もされていない、義務教育も施されていない、前時代的生き方を送ってきた人たちだ。

それが長生きするための賢い手段だったのだろうから致し方ない。


一番笑えるのは、虎の威を借る狐だしね。

笑いすぎてへそで茶をわかせるレベルだよ。


「コイツら、一回死んだも同然の所、俺が生命を救ってやったんだし、コイツらの生殺与奪の権利は俺にあるだろ?

この国は奴隷制度があったよな?」


「あぁ。

村の連中全員売るのか?」


後ろ盾のない、生活が出来ない人間はこの村のように身を寄せあい何とかその日その日の命をなんとか繋いでかろうじて生きる。

だがもし需要がある場合には、奴隷商に保護され奴隷として売り物になることがある。


奴隷にもランクがあり、小間使いとして主人に雇用されるような立場の人もいれば、死なない程度の粗末な寝食しか用意されない使い捨て同然の人もいるそうだ。

それでも、自分で食事や寝床の確保をしなくて良い分マシだと考える人もいる。


奴隷は生命ある道具と呼ばれる家畜と一緒。

もしくは家畜の方が食肉に出来る分優秀である。

そこは地球と同じだね。


見目が麗しい訳でもない、特出した能力がある訳でもない。

そんな村人が高ランク帯で売れるわけがない。

売れたとしても二束三文だ。

そうなると最底辺の扱いを受けることになるだろう。

罰として悪くはないが、人によっては好待遇を受け全く贖罪にならない者も出るかもしれない。


それに、奴隷商がいるような大きな街まで連れて行くのならその方が手間だし金もかかる。

そうなると、カノンはこの問題の落とし所としては納得しないだろう。


大丈夫。

そんなの俺も納得しない。


お礼を言われたくて、感謝されたくて助けに来たのではない。

あくまで、俺が関わったことで今日死ななくて良かった人が死ぬかもしれない状況が嫌だったから、それを回避したかっただけだ。


さすがに助けに入って罵詈雑言投げつけられるとは思わなかったのでショックを受けた。

責任転嫁をするにしても酷くないか? と思った。


だが、非常時の混乱した頭で正常な判断なんてとてもじゃないが出来ない。

平時ですらバイアスかけて現実逃避するようなヤツらだもん。

ムリムリ。


言われてすぐは殴られたように苦しかったし辛かった。

俺も万能感を得て興奮していたし、冷静では無かったから、無駄にショックを受けてしまった。

だが、有象無象の言葉を真に受ける必要なんてない。

礼を言うべき場面でソレが出来ない人間の言葉になんて価値も意味もないのだから。


……結果として、一人助けられなかった事実は、悔しいし、悲しい。

この世界の常識に疎いとはいえ、カノンに言われるまで村に起こることを微塵も予想出来なかった。

この身に迫った危険が、単なる物取り程度の軽い考えでしかなかった。


キチンと考えることが出来ていれば、あの子も死なずに済んだかもしれない。

襲ってきた冒険者や村人を拘束するのなんて朝飯前なのだから、カノンのペースに飲まれずしっかり逃亡理由を聞いていれば良かったのかもしれない。


全て、可能性の話だ。

そしてそれは覆すことが出来ない過去のことだ。

どうにもできない。


そして死者を悼む気持ちは、家族が持てば充分だ。

俺が持つべき荷物じゃない。



いつの間にか目を覚ました冒険者も、口々に文句を言い出した。

空気が読めないようだ。

せっかくぶった斬った重苦しい雰囲気が復活してしまうじゃないか。


それに拘束されているのに無理矢理立とうとしてすっ転んだのは確実に俺のせいじゃないでしょ。

状況をしっかりと認識出来ないのに、よく冒険者なんてして来れたな。


奴隷堕ちの意味を想像出来ていなかった村人たちだが、冒険者たちが口にする奴隷の悲惨さを耳にしてあおざめる。

村から出たことがないから身分も何も関係ない生活してきたんだもんね。

そりゃ想像も出来ないか。


元凶である冒険位は殺しているだろうと思っていたようで、カノンの杖先は村人からズレ冒険者の方に向けられた。

短気だなぁ、もう。


「なんで賢者がこんな辺境にいるんだよ」

「オラクルが相手だって知ってたら襲わなかったよ! 」

「王の権能に喧嘩売るつもりなんて無かったんだ! 勘弁してくれ!」


口々にカノンの紹介おっつ〜。

二つ名って幾つあっても二つ名なのかな。

よりどりみどりだね。


コイツらもどうするつもりなんだと言わんばかりに怖い目付きで冒険者を顎でさした。

お怒りが顔に書いてあるよ。

その顔辞めてよ。

般若の面の方が可愛く見える。


「俺、実験したいんだよね」


「……は?」


怪訝そうな顔をしてはいるが、興味をひけたようだ。

杖に込めた霊力を引っ込め、話せと言わんばかりに腕を組んで仁王立ちになった。

やっぱりコイツは正義の味方ぶった二つ名よりも、魔王(笑)の方が合っている気がする。





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