神さま、倫理に欠ける
「盛りがってる所悪いが、すぐには出ないぞ」
地図を広げてどこから行こうか、何から集めようか。
ココは何が有名だ、アソコは何が危険だ。
そんなことを精霊の皆から聞いて心を弾ませてたら、まさかのストップがかかった。
ウッキウキのテンションMAXな遠足気分のお子様に頭から氷入りの冷水ぶっかけるなよ!
くだらない理由だったら殴るぞ。
「まだ肉が冷蔵庫に残ってるだろうが!」
「確かにそれは大事だな!」
とっても大事な理由だった。
それなら致し方あるまい。
『ボクらの肉体、鶏肉に負けるの?』と言う哀愁が込められたウェントスの呟きは無視してとりあえず今日はもう就寝!!
おやすみなさい!!!
肉云々ももちろん大事だが、旅支度というものも大事な訳で。
カノンには通い慣れた道中でも、不慣れなお荷物になり得る俺が一人増えるだけで、随分旅程が変わるだろう。
身長差もあるしね。
一歩の歩幅が違うんだよ。
当然、俺の方が歩数が増える分疲れやすくなる。
そうなると休憩をとる場所が変わるし、普段よりも日程は後ろ倒しになっていく。
三日かかる町まで、流石に六日かかると言うことはないだろうけど。
あ〜、イヤ。
カノンは一人旅の時はなるべく魔物と遭遇しないように、遭遇しても逃げることを優先するスタイルで旅をすると言っていた。
俺という足でまといが居るとそれは難しくなるだろうし、下手をすると倍以上の時間がかかる可能性もあるのか。
足は早い方だし持久力もあるが、あくまでその記録は整備された平たい屋内での活動に限る。
昨日森の中を歩いて実感した。
土って、地面って、歩くのホントしんどい。
体感では分からない、緩やかな勾配は無意識に足の筋肉に力を入れさせ膝に負担を強いる。
雨が降って湿っている草木は滑りやすく、踏ん張ればその分体力を消耗する。
ただ整地されたトラックを延々走るのとは訳が違う。
体幹をもっと鍛えないとマズイ。
……寝る前の筋トレ、再開するか。
異世界転移して、こんな地味なヨガやレジトレをすることになるとは思わなんだ。
ついでに、朝のラジオ体操も再開するか。
モチロン、第一から第三まで、全てだ。
覚えているかがちと不安である。
朝の疑似太陽光の代わりにホンモノの太陽光を浴びて起床。
今の季節は夏真っ盛りだそうなのだが、早朝は涼しい。
運動場で大人数でやっていたラジオ体操を一人寂しくやる。
と言っても掛け声も音楽もないから少し適当になるが。
音楽がないと、あれ?次の動作ってどれだっけ? ってならない??
腕は前から出すんだっけ? 上にあげるのが先だっけ?? ってなる。
風が通れば、全身運動をして火照った身体を冷やしてくれた。
水分補給を済ませたら寝起きの日課完了だ。
ここ最近、バタバタしててサボっていたから地味にツラい。
昨夜もヨガをすればスジが痛み、筋トレをすれば翌朝筋肉痛になると言うたるみ具合。
それとも、異世界転移した時に俺の筋肉どっかにおサラバしちゃったとか?
何百年経ってるかは知らないけど、実はその間に筋肉分解されちゃった??
俺の感覚としては目を閉じて開けたら次の瞬間異世界でした、だから、そんな理不尽なことあってたまるかと言いたいのだが。
一匹減ったシュケイの小屋に行き朝の分の卵を回収。
畑にいたテルモに野菜を幾つか貰って朝食を作る。
毎日毎食卵ばっかだと、流石に飽きてくるんだけど、タンパク質は大事だしなぁ。
運動の後だと尚更だ。
牛乳があればプリン作って貰うのに。
確かもう使い切っちゃったんだよね。
昨日カノンが使おうとして「あれ!?」って言ってたの覚えてる。
なにせカノンの食物庫事情の予定から二人増えているのだ。
食材が無くなるのはその分早くなる。
テルモは、他の精霊たちに悪いしと、今日から食事はなるべく遠慮すると言っていたが。
精霊の身体とヒトの肉体と任意で切り替えられるようになっている。
精霊の身体でいる時間が長ければヒトの肉体維持のためのカロリーも栄養も少なくて済むだろう。
……という話だ。
人の身としては、理解しにくい感覚だよな。
そしてヒトの肉体でいる時間は畑の世話をする時と、料理を作る時だけって言うし。
作ったものくらい食べようよ。
それなら俺が作ったもの食べるとか言うし。
テルモが作ったご飯の方が美味しいのに、変なの。
カノンは食料事情は気にするなって言ってるんだけどね。
野菜も薬草も元気なのはテルモが居るおかげだろうし、そのお陰で収穫量が増えているからむしろプラスになっていて有難いまであるそうだ。
地の精霊効果って凄いね。
あぁ、それを言い出したらアクアの存在も凄いそうだ。
昨日持ち帰った聖水の質が、アクアが浄化を施した分の品質が明らかに違うんだってカノンが興奮してた。
「落ちたの?」って聞いたらアクアに水ぶっ掛けられ、カノンには後頭部にツッコミ喰らった。
ひどい。
今までの最高品質の聖水が、水晶球の白滝で汲んできたものだったそうなのだが、それを凌ぐ高濃度の霊力が含有されていて、回復薬の出来具合が天地ほど違うそうだ。
試したのか。
どう試すのか聞くと、腕に長めの切り傷を作って、傷口の端にそれぞれ別の回復薬を一滴垂らして修復速度と傷口の治り具合をみるそうだ。
我が身で人体実験かよ。
と言うか、回復薬って飲むものではないのか。
塗り薬タイプのもあるんだね。
服用するタイプでも、塗布するタイプでも、主原料が水なので聖水の質は非常に重要なのだそうだ。
アクアが出した水も浄化作用の高い聖水と言っても良い品質だが、汲んできた聖水をアクアが更に浄化すると飛んでもない品質になるんだって。
下手したら、生薬を何も入れなくても傷の回復が早くなるし、漬け込まなくても吹きかけるだけで魔物の死骸の浄化が出来るかもしれない、と熱弁された。
屍鬼種に出会した時の為に霧吹にでも入れておくか、とニヤリしていたのだが、その凄さがイマイチ分からなくて置いてけぼりにされてる気分だ。
屍鬼種って言うのは、ゾンビとかゴーストとか、生物の死体やその魂魄がなんらかの形で動いて人を襲う魔物化した存在全般を指すそうだ。
妖精のイタズラだったり、死体に寄生する魔物だったりが犯人な訳だが、その原因は大抵浄化されず埋葬もされず放って置かれて瘴気が大量に溢れ出すからだ。
瘴気さえ発生しなければ、死体は土へと還る。
なので屍鬼種になっても、瘴気さえ何とかすれば倒せる。
逆説的に。
瘴気をどうにかしないと、肉体を破壊しても動き回るし襲ってくる。
肉が腐って骨からズル剥け、眼球が零れ落ちてる状態の頭部がゴロゴロと坂道を下って襲ってこられた日には夜眠れなくなる。
そりゃ死者には悪いが確かに恐怖体験だわ。
「……そう言うご遺体をこのヒト達の身体にしたらダメなんです?」
『ちょっと!』
『冗談にしてはタチが悪ぃぞ!』
『さすがに、却下』
やはりダメか。
倫理観をひとまず置いておいたら、悪くない案だと思ったんだけど。
ヒトのカタチをしているし。
妖精のイタズラって言うのも、どのようにしているのか詳しいことは分かっていないとしても、操り人形みたいに糸を括りつけてする訳ではないそうだし。
魔物が寄生出来るくらいなら、妖精も寄生して肉体を操ってるのかもしれないし。
そう仮定すると精霊もワンチャン、イケるのかなって思っただけなんだけど。
色んな強力な素材を掛け合わせた肉体ですら強度不足で弾け飛んだ。
もし人間の死体を利用した屍鬼種を浄化したら、そこに残るのは人間の死体だ。
人間の死体は魔物に利用されただけで、屍鬼種の死体と言う素材にはならない。
「ただの人の身では精霊様の持っている巨大な霊力を抱えきれない。
埋葬をされず彷徨っていた屍鬼種になってしまった遺体を、埋葬もせず利用しようとそもそも考えるな」
死者に対する冒涜だと怒られてしまいました。
ちょっとした思いつきなのに。
降臨だとか神依だとかあるなら人間の肉体だって素材として使えるだろって思っただけなんだけど。
だからって人を適当に拉致してきて本人の意思関係なく身体を乗っ取るわけにはいかないし。
それなら落ちてる遺体を有効活用すれば良いのかな思ったんだけど。
腐ってしまってたら気分的にダメか。
この世界の神様的存在に使われるなら身体の持ち主も栄誉かな〜って。
思ったんだけど、ダメか。
自分が肉体と遺伝子を切って貼ってした結果の産物だし、実験と称して生きた状態でもアレコレしたりされたりしていたもんだから、そこら辺の感覚が世間一般様とズレているんだろうな。
倫理観は情報としてしか知りません。
情緒として育ってない。
群れの中で生きるなら大事なことになるよな。
カノンにあからさまにドン引きされてるし。
ちょっと悲しくなるので心の距離とるのやめていただけませんかね。




