神さま、眠る。
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精進しますので、生暖かい目で見守っていただけると幸いです。
「……なんだ?
これは?」
ザクザクと進路方向にあるジャマな草を切り払いながら、やっと合流したカノンとアルベルト。
周囲の景色と不釣り合いな氷塊を見て、二人が怪訝そうな顔をするのは、致し方ない。
火の精霊が眠りについている今、コレだけの氷の塊を作り出せる精霊はいない。
そりゃ「なんじゃこりゃ」と言いたくもなる。
燼霊を氷精霊に生まれ変わらせたのって、二人が寝込んでいる時だったからね。
そして俺は、その事実をまだ報告していなかった。
火の精霊以外に、巨大かつ広範囲に氷を生み出せる存在を、把握していなくて当然だ。
……あとで、重要なことを報告しなかった、お叱りを受けそうだ。
今は、なかなかに霊力の残量が心許なく、氷精霊の相手でとても疲れているので、お手柔らかにお願いしたいところなのだが。
カピバラを倒すために、さてどうしようかと悩んでいたら、頭の中で氷精霊のお目覚めの声が響いた。
どうやら、彼女が精霊に生まれ変わるために眠りについた地脈点が、ちょうどこの遺跡だったようだ。
出入口の石像にかなりの霊力が持っていかれたのも、その一部が氷精霊へと流れでいったかららしい。
封印を解くための霊力を、横からつまみ食いしていたってことか。
精霊石で出来た柱や壁へとぶつかった精霊術も、一部が霊力へと変換されて氷精霊へと流れ込んだ。
そのために、通常ならば何年、何十年と目覚めるのに時間がかかるのに、ほんの数日でお目覚めになられたというワケだ。
闇の精霊の拘束術を解いた直後に、カピバラを即死させられるだけの精霊術で攻撃すれば、せっかく加減して倒そうとしていた努力が、水の泡に帰すことになっていた。
ソレを全身氷漬けにすることで免れた。
イヤ、正直ありがたかった。
寝起きで仕事をさせるだなんて、人使いが荒過ぎる。
そう文句を言われ、まだ加減を覚えていないために霊力をゴッソリと奪われてしまったために、俺は今、とても疲れている。
……イヤ、そうではないな。
人使いが荒いことは許してやるが、褒美に地の精霊と会わせろと、ギャンギャン喚かれたのがシンドかった。
精神的に疲弊している。
俺、ちゃんと氷精霊に創り替える時に、地の精霊への恋情の類はナリを潜めるようにしたと思ったんだけどな。
執着心が俺の想定を超えていた、ということだろうか。
まぁ、地の精霊とは彼自身が許可を出すか、氷精霊が地の精霊へのしつこいレベルの恋心を落ち着かせない限り、会えないようにしてある。
どう足掻いたって今は会えないのだ。
地の精霊の心の安寧のためにためにも、大人しくしていて欲しい。
そう伝えたら、メソメソとグチを零しながら、早々に姿を消した。
カピバラごと遺跡全体を凍らせた、過度な精霊術が示すように、まだ完全に精霊として生まれ変わった自分に慣れていないのだろう。
力を消耗し過ぎたようで、再び眠りについた。
チャッカリと、消える前に俺から霊力を盗んで行きやがったので、どうせ数日したらまた目が覚めるだろう。
精霊としての自覚を、水の精霊あたりにでも教えこませようか。
勝手に人の霊力を持っていってはいけないことも、よく教え込んで貰わねば。
地の精霊のためではなく、世界平和のために行動しなきゃならんのだよ、と生前は弟であった水の精霊ならば根気強く教えてくれるだろう。
火の精霊の熱操作で作り出した氷とは違い、氷精霊が生み出した氷は、霊力を注ぎ続ければ、いくらでも温度が下がり続けるし、いくらでも氷の状態を保ってくれる。
氷、と言っても、水が凝固したものではないのだろう。
過冷却すると、中のカピバラの細胞が壊れてしまうため、そこまで温度は下げられない。
素材の質が落ちるし、何より、肉が食べられなくなる。
お肉、大事。
再び氷精霊の目が覚めたら、是非とも実験をしたいところだね。
氷塊の中に閉じ込められたカピバラは、既に事切れている。
コオリウオやコオリミミズじゃあるまいし、血液が凍ろうが凍結圧で身動きが取れなかろうが、むしろ氷の中じゃなければ生息できません、なんて生物は限られている。
例に漏れずこのカピバラも、聖遺物による進化の促進が発動する間もなく、全身の血液が凍り、心臓の鼓動も程なくしてその動きを止めた。
咄嗟のことだったし、ほぼ無意識に氷精霊の力を借りたせいで、かなり広範囲に精霊術が及んでしまったのが誤算だったな。
既に霊力供給は切ってあるので、次第に溶け始めてはいるようなのだが、吐息が白い。
風が吹いていない分、洞窟の外よりはマシだが、それでも結構寒い。
霊力を供給をすればするだけ冷えるなら、逆に奪って溶かすことも出来るのかな。
……あ、出来そうだ。
さっきよりも早い速度で溶け始めた。
急激に溶かすと、毛皮の質とか落ちそうだし。
肉の味も落ちるだろうから、ゆっくり溶かそう。
杖を抱えたツワとも合流し、遺跡全体の氷を溶かすのは後回しにして、先にカピバラの解体をすることにした。
この世に一匹しかいない、貴重な魔物だからね。
鑑定眼を発動させながら、失敗しないように皮や蹄を剥ぎ取っていく。
その間、大猿の背中側が特に防具として優秀であると言って、余波によって氷漬けにされていた個体を幾つか持ってきて、アルベルトが解体をしてくれた。
普段戦うとしたら、倒すことを優先させるため、どうしても傷がついてしまう。
一枚ものの魔羊等の革の表面に、ツギハギだらけに大猿の皮を合わせたものが、大猿の革鎧と呼ばれる。
そうなるとどうしても、繋ぎ目の部分が脆く裂けやすい。
だがコレなら、その脆弱性は無くなる。
高く売れるぞと、アルベルトはいつになく浮き足立っている。
その割には皮と精霊石しか回収しなかったので、他の部位はどうするのか聞いたら、他に素材になるようなものはないから、浄化して埋めるのだと言われた。
肉もスジっぽくて美味しくないから、ムリに今食べることはないだろうと。
本当にそうなのか、試しに鑑定眼で視てみる。
……その結果に、カノンをチラッと見て、口を噤んだ。
「……何だ?」
「イエ、ナンデモアリマセン」
大猿の頭部を、花薄荷のようなハーブと一緒に丸ごとゆっくり丸一日蒸し焼きにした後、頭蓋骨から脳ミソから、全て混ぜて潰して乾燥させる。
そうすると、薬の材料になるらしい。
そんな時間がかかる上にグロいこと、したくない。
しかも手間暇かけて作る割りに、効能は鎮痛剤。
生薬で鎮痛作用欲しいなら葛根湯でも飲んでおけば良いと思う。
漢方に近い概念に則っているとは言え、この世界の生薬は、霊力のおかげか万能性がある。
この猿頭霜もどきも、劇的な効果が得られるのかもしれない。
だとしても、そんなひとつの薬のために丸一日サルの頭部とにらめっこしているヒマはないからね。
サルの生首を四次元ポシェットに入れるのも、気分的に嫌だし。
頚袋にでも入れろってか。
イヤだよそんな、戦国時代の武将でもあるまいに。
カピバラは毛皮に歯、蹄の他は素材にならないと聞いていた。
だがソレはあくまで水豚鼠の話で、この聖遺物を取り込んだカピバラは、少々違うようだ。
全身、内臓から骨に至るまで、薬や何らかの道具作りに使える。
まぁ、とにかく内臓の占める割合がメチャクチャ多い。
排泄器官もないのに、こんなに腸が長くてどうするんだと言いたくなった。
なんと言っても、盲腸がデケェ。
水豚鼠だった時の名残なのだろうか。
医食同源を地でいくようで、内臓を食べると、それぞれの臓器の病状が改善されるそうだ。
つまり、盲腸を食べたら中膵炎が治る、というのだろうか。
腸内フローラを整えてくれるのなら、お腹の不調を抱えている人には良いかもしれないね。
水の精霊に手伝って貰って内臓を洗いながら、つくづく思う。
……あのウミウシも、きっと良い素材になったんだろうなぁ、と。
霊玉すら回収出来なかったからね。
イヤ、俺がキンキンに凍らせてしまったからなんだけど。
そしてソレを微塵レベルに砕いてしまったからなのだけれども。
黙々と解体をしていくカノンも、ウミウシを思い返しているのか、眉間のシワがいつもの三割増しである。
謝罪をしたら、血を洗い流した内臓は霊力を込めた聖水に漬け込んで保存をするか、今乾燥までさせてしまうか、悩んでいただけだと返されたが。
ホンマかいな。
聖水に漬け込むための瓶に、余裕なんてあったっけ。
四次元ポシェットの中を手探るが、空き瓶はヒットしない。
「カノンの方に空き瓶ある?」
「お前の革袋は容量無制限なのだろう?
余分に持ち歩いていないのか?」
首を横に振ったら、天を仰がれた。
気が利かなくて済まないねぇ。
何を入れたか分からなくなるのがイヤで、必要最低限の買い出し品しか入れていなかったのだ。
今度からは手当り次第買って放り込んでおこう。
いつか使うかもしれない、と思うものは、大抵いつになっても使わないから、迷ったものは、そもそも買わないようにしていたんだよね。
懐に余裕はあるのだし、次大きな街に立ち寄った時には、是非とも散財しよう。
品質を変化させないような、手頃な葉っぱを採集し、袋を作って乾燥させた内臓を部位ごとに入れてツルで縛る。
肝、肺、腎、心、膵、胆、脾……胃は分けるとしても、腸って大腸や小腸で分けるべきなのだろうか。
まぁ、量があるし。
分けておくに越したことはないだろう。
その間にカノンは霊玉の検分をしている。
いつになく真剣な眼差しだ。
俺に任せれば、鑑定眼で一発なのに。
とはいえ、霊玉を見つめる眼差しは、まるで恋人を見るかのように熱を帯びている。
単なる趣味だな、アレは。
光の精霊の影響か、白いマーブル状に筋が入った霊玉は、内包されている霊力がかなり多い。
王都規模の街ならば、向こう百年は余裕で街全体を覆う防護壁を展開させ続けることが出来る。
アレ、売ろうとしても、多分買い手がつかないぞ。
国に献上するのかな。
もしくは、研究材料にするか。
倒したのは俺なので、重要部位の所有権は俺にある。
だが俺が持っていても、宝の持ち腐れになってしまう。
ならば有効活用出来る人間が持つべきだ。
俺は、初のカピバラ料理が堪能出来ればそれで良いよ。
カピバラはネズミと同系種だ。
少し遠い所にウサギがいる。
だからどちらかというのであれば、鶏肉に近いんじゃないかと思ってたんだよね。
色も薄いピンク色だし。
なのに、豚肉に近い味がした。
コイツは驚きである。
イヤ、施設では豚肉は滅多に食べられなかったから、俺の知っている豚肉は、あくまでこの世界で食べた鱗猪だけど。
鱗猪よりも、ちょっとクセがあるかな。
なんか燻したような、深みのある味だ。
燻製にしてはいないため煙の風味がないので、なんだかちょっと頭が混乱する。
熟成していなくても、十分柔らかく甘味が強いのは、術によって常に浮いていて、筋肉を使っていなかったからだろうか。
鱗猪よりも脂身の層が薄め、かつ程良くサシが入っている。
焼肉にはもってこいの肉質である。
適当に焼いても、多少焦げたとしても、その柔らかさが損なわれることはない。
冒険を体験してもらう意図があるとは言え、女性に地べたに直接座らせて、洗いはしたがそこら辺に転がっていた平べったい石でただ肉を焼く、野性味溢れた食事だ。
村から出たことがないツワには、刺激が強すぎるのでは……?
そう思ったが、欠食児童の前に肉を置いたら、ソレらは些末な問題だったようだ。
今にもヨダレを垂らしそうな顔をしているのに、犬のように「よし」と言われるまでずっと正座で待っていたが。
行儀が良すぎる。
そんなでは、生きていけないぞ。
食べだしたら止まらなかったので、自分で状況判断して動くことが出来るようになれば、問題はないか。
逆に言えば、出来るようになるまでは、弱肉強食の世界には放り込めない。
食育のお願いは、街に向けてしていなかったな。
改めてするべきだろうか。
学校に行くようになれば、昼ごはんを沢山の人と一緒に食べることになる。
その様子を見れば、自然と身に付ける、かな。
食事を摂りながら、コレからツワが住む予定の街の興りや、どのような街なのかを説明する。
やりたいことを見つけるのならば、設備が整い人脈も徐々に整いつつある街は、最適といえる。
なにせ、街にいる人は基本的に人が良い。
良すぎるレベルだ。
きっと、ワケありのツワを含めたオンドル町からの移住者を、温かく受け入れてくれる。
どんな街にしたいと考えているかの空想もも交えて話す過程で、この後俺たちはどうしようか、という話になった。
ツワを一人転移させるか、冬の間の移動は諦めて、共に街へと戻るか。
モーブス・ウイルスの原因になっていた、毒伏翼は粗方倒した。
また増えたとしても、能力を底上げする聖遺物を回収するのだ。
今回のような猛威を振るうことは無くなる。
悪霊も、アレだけ数が増えたのは、聖遺物の影響だとカノンはみている。
この辺一帯に及ぼした魔物の凶悪化は、時間と共に薄れていくはずだ。
近くにあるオンドル町がその間に襲われないのかは心配だが、約束を守りさえすれば、なんの問題もない。
守らなかったとしても、周辺に置いてきた竜の素材によって、町自体が襲われる可能性は、ほぼない。
提供した目録の、その殆どが消えたら、否が応でも狩猟に出なければ、食料の確保が出来なくなる。
その際に魔物に襲われたとしても、それこそ、自業自得なのだ。
俺たちの知ったことではない。
ここら周辺に脅威となり得るような存在は、探知出来ない。
町や村もオンドル町以外にはない。
眠りについている状態の氷精霊が最も強いかな。
ココを出る際に、出入口にあった石像に霊力を注げば、またすぐに目が覚めるだろう。
そうすれば、カノジョは地の精霊に会うために精霊としてのお役目を遂行してくれる。
この豪雪も寒さも、少しは落ち着きを取り戻すと思う。
カノンとアルベルトのように、雪には慣れているからと油断して、いつもより少しずつ悪化している天候によって体力を奪われ倒れる人も、減るだろう。
ならば、ムリに今、コレから更に厳しくなることが分かり切っている雪道を進まなくても、問題は無い。
例年と違いすぎることがあるならば、対処しその原因を突き止めるためにも、先を急ぐべきだ。
しかし解決した今となっては、その理由がない。
研究材料が山ほど眠っている四次元ポシェットの中身を整理するためにも、街の発展具合を確認するためにも、一度振り出しに戻ってみても、良い気がするんだよね。
久しぶりに寝心地の良いベッドで、お布団に埋もれて熟睡したいという願望もある。
……霊力の残量が三分の一を切って以降、眠気が酷いな。
満腹になったし、余計かも。
「俺、一旦仮眠するから、どうするか、決まったら起こして……」
「ああ、お休み」
「おやすみ」
「……おやすみ?」
カノンとアルベルトのマネをして言ったツワの言葉を聞き終えるのと、ほぼ同時に、俺の意識は夢の世界へと旅立った。
雪中行軍か、街に戻るか。
はたまた、全く別の意見があるのか。
さぁ、二人はどう判断するのかな。
いつもご覧頂き、ありがとうございました。
「もと神さま、新世界で気ままに2ndライフを堪能する」雪国編、コレにて完結です。
無意味に長くなりました(いつものこと)
保護者組に風邪をひかせてみようと、軽い気持ちで始めたのですが。
どうしてこうなった(いつものこと)
身内の不幸が立て続けに起きたり、貯金が心許なくなっていることもあり、メンタルバランス崩しているし、いい加減就職しろやと言う話なので、一旦区切りにさせて下さい。
イグニス、眠ったままで放置してゴメンよ。
キチンと起こす所までは書きたいとは思ってる。
でも、他の話を書きたい欲求が芽生えているのもある。
どの行動が先になるかは分かりませんが、また気が向いた際に読んで頂けると幸いです。
ありがとうございました。
皆様のご多幸をお祈り致しております。
2025/05/15追記
誤字脱字の報告も、ありがとうございます。
見落としておりまして、先程一気に適用させて頂きました。
また、新連載『正体不明のハズレスキル『整理士』は、止まった世界を平和に導く。』(https://ncode.syosetu.com/n2213km/)を連載開始しました。
暇潰しの一助となれば、幸いです。
2025/07/01追記
『もと神さま、新世界で気ままに2ndライフを満喫する』(https://ncode.syosetu.com/n8952kr/)開始しました。
レイム達の旅の続きを書いていくつもりです。
宜しければご覧下さい。




