神さま、予定を立てる。
自分はうっかりが多い、なんて認識は持っていなかったのだが、意外と俺は八兵衛らしい。
地球に居た時のように、周りに言われたことを、ただこなせば良かっただけの時とは違う。
自分で何をすべきなのか。
自分はどうすべきなのか。
俺は自分で考えて行動するのが非常に苦手なようだ。
そのせいで、ちょっとしたことでミスをやらかす。
「ぶろっこりぃ、というこの野菜はテルモ様が育てたものですか」
カノンの言葉に血の気が引く。
浮かれていた気分が一気に落ち着く。
やっべぇ。
この世界ブロッコリー無いんだ。
どの食材も初めて見るものは首を傾げながら注意深く匂いを確認してから口に運ぶ上、少量を口に含んで暫く様子を見て大丈夫そうなら本格的に食べる。
そんな行動を取っていた俺が何の躊躇もなく、見たこともない食材をバクバク食べてたら訝しまれても仕方がない。
自分で作った料理でさえ、初めて見る食材はどんな味がするのか判らないから味見をシッカリしていたというのに。
テルモが作ったものはなんでも美味しいし安全。
それ以外は毒味をしっかりしよう。
そんな考えがクセになってしまっているせいでこんな迂闊なことをしてしまった。
「ブラシカを起源植物としたお野菜だよ。
コレは花蕾をメインにしたもの。
他にも葉を肉厚にしたものや、脇芽がたくさん生えるようにしたもの何かも作ってみたんだ」
「レイムはコレを食べたことが?」
「ある、ような〜……気がしないでもない。
精霊様が作ったものなんだから、毒が入っているなんてこともないでしょ」
「どっちだよ」とジト目をされるがお祝いムードに水をさした自覚があるのだろう。
「そうか」と一言零した後は、それ以上の追求はされなかった。
皆が精霊になる前の、前世の話はカノンにしていない。
俺の転移前の話もしていないし、記憶喪失の設定のままだ。
いつまでもつのかね?
この設定は。
納得をしてくれていたらとても嬉しいのだけど。
ブラシカと言うのはキャベツのこの世界の呼称のようで、手間をかけなくても育つからと積極的に育てられている、庶民に馴染みのある野菜だそうだ。
病気に強い品種や収穫周期が短いものなんかが作れると良いなと、テルモにアレコレ要望を出したり質問を投げたりしていた。
誤魔化そうとしているのか、どうなのか。
俺には判断できないが、ブロッコリーは好き嫌いが別れそうな食感だねとだけ言っておいた。
喋るとまた墓穴掘りそうなんだもの。
『いいな〜、おいしそう。
わたし達の身体も早く作ってね』
『おいしいもの、食べた〜い!』
そんな微妙な空気をぶった切ってくれたのはルーメンとウェントスだ。
バカ2人の存在が今は滅茶苦茶有難い。
実際、この二人は生前ろくに食べられなかったから余計に食べ物への執着が出やすいのは事実だろう。
二人とも病弱だったからな。
点滴とチューブ食がお友達だったよ。
今回森で採集した霊玉を核にするのは分かったけど、その他の素材は何を使うのか。
そう言えば詳しくは聞いていなかったな。
食器洗いをアクアがしてくれると言うので有難く押し付け今後の予定をカノンに尋ねた。
俺の杖は完成した。
防具も間に合わせのものだが作って貰った。
森に出かけた時も装備していたのだが、特に締め付けがあったとか動きにくいだとかの不具合もなかった。
どれ位の強度があるのかは不明だが、魔物相手に試したいとは思えないのでその確認は不要だろう。
ようは攻撃が当たらなければ良いのだから。
心臓は霊玉。
血液は聖水で良いことが分かっているのでこのふたつはクリア。
今回霊玉はギリギリの個数しか手に入らなかったが、もし必要だとしても歩いて数時間の距離の森に行けば手に入る。
聖水も然り。
追加で必要になっても問題ない。
その他に何が必要か。
何が足りないのか。
骨格と皮は竜種。
内臓は海皇種。
四肢は巨猿種。
あたりが良いのではないかと考えているそうだ。
俺にはそれぞれの魔物がどんな理由で精霊たちの肉体に適しているのかが分からない。
だが、精霊たちもその言葉に頷いてるのだから、少なくとも問題はないのだろう。
その他にも細々必要なものはあるが、メインで今在庫がないのはその三種だそうだ。
なんか、他にも在庫が消えている素材が山とあるから、もしかしたら追加で必要なものが出てくる可能性もあるが、一応それらは属性的にも仕様効果的にも他の素材でカバー出来る見込みだとか。
それに関しては、テルモの前に四体作っているからマイナスの方が多いのは仕方ないのだけれど。
テンション上がって不必要なまでに素材使ってスミマセン。
テルモが肉体に馴染む前だったら、一旦出ていって貰って使った素材が何か確認出来たのにな。
不思議と、瞬時に馴染んでしまったからその確認すら出来なかったけど。
カノンの記憶力と知識頼りになるのだから、信じて集めるしかないだろう。
……なんか、竜とか皇とか。
聞くからに倒すの面倒臭そうな魔物のように感じるんですけど。
バッと大きな紙を机に広げる。
文字を習っていないので多分、としか言えないが、世界地図のようだ。
細かく書込みがされているし大陸の1部にバツ印と赤い訂正ラインが描かれている箇所がある。
長年使っている、手作り品だろうか。
巨猿類は山岳地帯に多く生息すると言われているので、群れからはぐれて下山してきた個体を狙うか、山に入るかで旅程の練り方が代わる。
はぐれ個体を討伐するなら山の麓の街に長期滞在。
山に入るなら登山の装備を揃えなくてはならない。
時期によっては、山で潜伏するのは非常に危険になるので避けたいところだ。
冬眠するタイプの魔物は、冬篭りの前後で非常に獰猛になる。
前は肥えている分対処が比較的楽だが、冬眠明けの空腹状態の魔物は出来るだけ相手にしたくない。
その上で、秋ならば食料を求めて村郷へ降りてくる魔物が結構いる。
治安維持のためにも、いらん体力使わないためにも、巨猿種を狙うのは秋が最も適していると言える。
海皇種の素材は運が良ければ近くの海岸に死骸が漂着することもあるけれど、非常に稀なので、出没目撃例のある海岸沿いにある街に拠点を移して収集することになる。
冬は海の水が凍るので陸から徒歩で海皇種の生息域まで行ける。
それ以外のシーズンは海に出る船に同乗させて貰うことになる。
どの季節も一長一短ある。
冬は動きが鈍く狩りやすいが、戦闘中足場が崩れたら冷たい海の中に真っ逆さま。
死のリスクが高い。
秋は繁殖の季節なのでパートナー探しの魔物の動きが活発化していて、普段見ないような魔物が出没することがある。
色々な素材を集めるのには適した季節だが、全て対処するのは少々厄介。
春はまだ幼い個体が多く狩りがしやすいが、その分沢山狩らなければ必要な量を確保できなくなる。
夏が一番安定して狩りができる。
しかし、面白味は無い。
そんな感じだそうだ。
全部の季節の海に出たことあるの?
あなた??
裏の海がそんな感じなのかな。
竜種に関しては、遭遇出来るのが極めて稀とされており、霊力の多い土地に棲んでいる、のではないだろうか。
そう言われているだけで事実かどうかすら分からないそうだ。
ある意味伝説の生き物。
たまにこの家の上空を飛んでいくのを目撃することもあるから、存在はしている。
アチコチ伝承があるからそれぞれ種類によって強さが全然違うことも分かっている。
家にあった素材は、カノンの父親が森で見つけて、襲ってきたから追い払うのに痛めつけた。
その戦利品だそうだ。
カノンのお父上ってお強かったのね。
地属性の竜種だったそうだ。
テルモの身体として馴染みやすかったのが、素材が地属性だったことがその理由になるのなら、恐ろしいことになる。
そこら辺にいる適当な竜種じゃダメってことになるのだ。
ちなみに、どの魔物も基本的に属性を持っている。
個体の強さや抵抗値で変わってくるが、効きやすい精霊術の傾向があるので覚えて置いた方が先頭の時に楽だと言われた。
水晶球の白滝付近の魔物は精霊術全般効きにくい体質ではあるが、それでもそれぞれが持つ属性の弱点となる精霊術を使えば多少ダメージは通るそうだ。
なぜ行く前に教えてくれなかった?
まぁ、微塵程度しかダメージを与えられないなら、最初から「精霊術は効きません。物理攻撃してください」って言われた方が行動しやすいか。
魔物が生来持ち合わせている属性により、素材にも付与の相乗効果が出たりするそうだ。
風の属性同士を掛け合わせたり、相性の良い属性を持つ素材同士を結合させると効果が倍増する。
つまり逆に、魔物の属性が片方は水、もう片方が火だった場合、付与の効果が打ち消されてしまうこともある。
勿体ないし、下手したら爆発したりするからしないように、と自制を促された。
カノンは爆発させたことがあるということですね。
そんなことを考えながら付与をする人はそうそういない。
あっても一般的な素材同士でコレとアレは一緒に使っちゃ危ないよ、という程度の認識でしかない。
そもそも複合付与が出来るレベルの霊力を持ち合わせている人が滅多に居ないから、研究が進んでいないんだって。
んで、カノンは出来ちゃうからそう言う研究もしている。
だから山のようにいつ何に使うんだ? って量の素材が地下に眠っている。
そっちの研究は、他の研究や実験に比べると重要度が低いからなかなか進められないそうだ。
地水火風の属性持ちの竜種はいるが、ルーメン用の光属性の竜は目撃例がなく、もしかしたら作れないかもしれない。
そもそも、光闇時の属性は聞いたことがないから何の属性素材が同属性の傾向とされるのか、相反する属性なのかも不明だし。
全くのゼロから試行錯誤することになる。
遠回しに言っているが、諦める覚悟をしておいた方が良いってことだよな。
『次作るのは私の分ね』と言っていたのに、作ることすら出来ないかもしれないなんて、流石に不憫だ。
まぁ、世界は広いのだし、カノンの知識がこの世の全てという訳でもあるまい。
素材を集めがてら、ルーメンの肉体に合う素材を別枠です探そう。
ついでに、テネブラエとクロノスの分もね。
地図で示されたそれぞれの素材を集めるために赴く土地は、世界の端から端への大移動になりそうだ。
海も渡るし大陸も横断する。
下手したら年単位かかる規模の収集活動になる。
何か、効率の良い方法があれば良いのだけれど。
いちいち素材入手する度に戻ってくるのは面倒だし。
だからといって持ち歩くのは大変だし。
任意の場所同士を繋げてくれるピンクのトビラが切実に欲しい。
旅も楽になるだろうし。
あ、でも、施設の中歩くのと違ってどこを見渡しても全然違う景色が楽しめるのは良かったな。
森の中は似てるけど微妙に違う景色が続いて迷子になる危険性がとても高いと感じたが。
Dokodemo 行ける Doorを創るにしても、一度行った土地の方が座標指定しやすいだろうし、一回は世界の隅々まで足を運んで、道中徒歩で行くの面倒臭っ! って所があったら行けるようにしよう。




