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もと神さま、新世界で気ままに2ndライフを堪能する  作者: 可燃物


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神さま、慌てる。


精霊の姿は朧気で、半分透き通ったように見える。

術者の霊力によってその捉え方は様々で、俺の目には半分向こうが透けて見える程度なのだが、中位精霊までしか召喚出来ないような術者には、おそらく最上位であろう精霊の姿はその目に映さなかった。

確かにそこに存在しているのにも関わらず。

そのせいで、その事に気付くまではよく嘘つき呼ばわりをされていた。

遠い昔のことだ。


儚げなその姿とは裏腹に、その纏っている空気は無条件でかしずきたくレベルで神々しく、また恐ろしい力強さを秘めている。

下位と侮られた呼ばれ方をされる力が弱い精霊でも、人間など足元にも及ばない、絶対的強者。

精霊とはそういう存在だ。

信仰の対象になるのも頷ける。


人間同士が戯れるようにその身に触れることは出来ないとされている。

一般的には。

一応、触れる方法はある。

直接触たいのならば、精霊側が触る許可を出し、その上で触る人間側は霊力をその身に纏って少しでも精霊に近付かなければならない。

そうしなければ髪の一筋、服の端にすら触れることは出来ない。

ごく一部の人間しか使えない霊力が扱える術者の中から更に限られたごくごく一部の者にしか与えられない特権。

俺が知っている限り、その権利が与えられているのは片手で足りる程度の数。

しかも、その内二人は故人だ。


そんな精霊の最高位と思わしき存在が突然現れたと思ったら、訳の分からないままレイムに自宅への帰宅を促された。

混乱するまま、いざ家の扉を開けたら同等の霊力を纏った存在が四柱、我が家で寛ぎこちらに向かって手をあげ挨拶をしてきた。

しかも、そのうちの一柱は随分懐かしい顔だったように思う。


……一体どんな願望があってそんな意味不明な夢を見たんだか。

自称記憶喪失の怪しい奴を保護して居候ができたことが、意外と負担になっているのだろうか。

他国から来たのか、要所々々のちょっとした日常の行動が不可思議な奴。

保護した時の格好こそ怪しいが、幾つか会話をし悪い奴ではないのだと直感で思ったので追い出さず、この近隣の国で最低限知っておくべきことを教えておこうとお節介を焼いてしまったのだが……

はやまったか?


どこからどこまでが夢なのか現実なのか不確かなまま、目を開くと昨晩見かけたのと同じ薄く緑色を帯びた残滓で光っていた。

見慣れたはずの部屋が全く違うもののように見える。

昨晩の残滓は、真夜中だったし寝惚けたのかと思っていたのだが。

夢ではなかったようだ。


現実というのは夢よりも随分と突飛なものなのだな。

つまり、覚悟を決めなければならない。

下に降りたら、夢の中の出来事だと思っていた光景は現実としてそこに存在するのだろう。

余りに現実離れした状況だったので、頭が思考を放棄して気絶でもしてしまったのだろうか。

長年生きてきて、そんなこと1度たりともなかったと言うのに。

情けない。


精霊は一般的に意思疎通が出来ないとされている。

精霊は召喚時の定型文があるのだが、その言語形態から違うし精霊同士では人間には通じない特別な言葉で話しており、会話が出来ないものだと言われている。

一般的には。

だが、実際は中位では多少の思念による意思疎通が出来る。上位ならばそれが難なくできる。

あくまでこちら側の要望を一方的に伝えられるだけだが。

精霊の喋る言語が人間のものと違うため、精霊が何を言っているのかは分からない。

言葉による会話は出来ないのだ。

少々、長年連れ添う相手ときちんと対話が出来ないのは寂しいと思うが致し方ない。


……そう言えば、居候が最初口にした言葉は、精霊の話すものと音の起伏や調子が似ていたな。


下からはどんな話題で盛り上がっているのか、歓声や拍手が聞こえる。

いや、盛り上がりすぎだろう。

酒盛りでもしているのか。

あいつの目が届くような場所には置いていなかったはずだが……家探しでもしたのだろうか。

好きなように使えばいいとは言ったが、遠慮が無さすぎではないだろうか。


さすがに節度は守れと注意をすべきか。

精霊への供物で酒を捧げることはあるし、あの人達は呑める、のか?

物質への干渉は出来ないと言われているが、精霊に関しては未知なことが余りにも多すぎる。

今の通説が、常識が、全て正しいとは限らない。


階下に降りると、見たことのない人が一人、増えている。

あいつの知り合いか。

迎えが来たのなら、有難いが。


そんなことを考える少しの間に、瞬時に迎えの人(?)の服が替わった。

何かの見間違えかと思ったが、次は突然どこからともなくプリムラやローゼの花が空を舞う。

……旅の大道芸人か何かか?

屋内で火でも吹かれたらたまったものじゃないのだが。


「……何をしているんだ?」


声を掛けると、俺に微塵も気付いていなかったのか、居候の身体が見事に飛び跳ねる。

あぁ、これは、あれだ。

悪戯が見付かった時の子供の反応。


先程までの賑やかさはどこへ行ったのやら。

見事なまでの静寂が訪れた。



◇◇◇◇◇



なんということでしょう。

コレだけの人数分がいながらカノンが降りてくるのに誰も気付かないなんて!


どうやって誤魔化そうか。

イヤ、別に誤魔化す必要はないのか?

どうなんだ??


現状ってカノンの目にはどう映っているのだろうか。

目の前にしたら気絶するレベルの精霊が四柱と、さっきまでいた精霊と外見が同じヒトがひとり。

そして俺。


その俺と言えばテンションがダダ上がりしていたせいでウッカリしていたが、もしかしてコイツらとの会話、英語になってなかったか。

施設の中では仕事中は日本語も英語も織り交ぜながら使っていたが、プライベートでは英語を使うのが基本だった。

実際、この場にいる大半は人間だった頃使っていた言語は英語だ。

無意識にそっちに切り替わっていた気がする。


海岸でルーメンとした会話はどうだった?

……『Did you call me?』って言ってた気がする〜

HAHAHA〜


あ、ヤバい。

テンションおかしくなってたから思考もおかしくなってるわ。


そんなテンパってる俺の手をポンポンと叩き落ち着くよう促してくるテルモ。

ハイ、深呼吸します。


「……おはよう、カノン。

具合はどうです?」

「悪くはねぇが、混乱はしてる」


デスよね〜。

俺は記憶喪失って設定のままいけばいいのか、どうなのか。

コイツらとの関係をどのように説明すればいいのか。

考えなくてはいけないことが山程あるが、カノンがコチラを睨む目はいち早い説明を求めている。


Oh、ヤバい。

俺って余計なことを考えないよう、基本与えられた命令ばかり淡々粛々とこなすよう求められてきた。

そんな風に過ごしてきたからこう言う、知識に載っていないピンチをどう切り抜ければ良いのかがマジで微塵も分からん。

俺も処理落ちして気絶出来たら楽なのに。

そして目が覚めたら万事解決していればいいのに。

秘技、他人任せ。


『ボクから説明しよっか?』


ココで挙手するのが、何故ウェントスなのか。

他の精霊達より幼い分空気が読めないのか。

イヤ、そうは言ってもこの世界では少なくとも100年以上は生きてるはず。

……単なる性格か。


だが説明を率先してやろうかと問う割には、その口から出てくる言葉は相変わらず英語だ。

説明する気ないだろ。


『しっつれいな!

ボクはこの子のおとーさんと契約してた時期があるから顔見知りなんだよ!』

「……へ〜」


まぁ、とりあえず長丁場になるだろうからと、テルモに促されカノンを椅子に座らせた。

家主なので当然、上座に。

ウェントスが説明をすると言うので、その間に茶を淹れようとテルモとイグニスが台所へ向かった。

その背をアクアが追う。

この場に残された精霊さん達は日本語話せるんですかね?

ウェントスは絶対無理だぞ。


台所の食器は見れば分かるけど、あの紋様設備はコチラ独特のものなのかな。

今なら肉体のあるテルモなら火も水も使いたい放題だろうに。

何故日本語を使える二人を伴って行ってしまうのか。

お茶は確かに喉が渇いたので飲みたいが、かむばっく!


ガチガチに固まって挙動不審なカノンの様子なんて気にもとめずにベラベラ話しかけ続けるウェントス。

言葉が通じてないのに気付いてないのか。


笑顔でまくし立てていたのに、徐々に少し拗ねた表情に変わっていく様を見てカノンは慌てる。

しかし片や英語しか喋れないし、片や日本語しか分からない。

会話が通じる訳もなく。


あ、イヤ。

カノンは召喚の時に英語をチョロっと話していたか?

でも、俺が目覚めてすぐにアレコレと質問した時には通じた気配が無かったし、定型文として召喚する時の詠唱として意味も分からず言葉を幾つか丸暗記しているだけか。


次第に不機嫌になっていくウェントスを見てオロオロあからさまに焦るカノンはなかなかに新鮮で面白いが、助け舟を出さないと流石にまずそうだ。

ウェントスの霊力が怒りによってか漏れて天井から吊るされている薬草を揺らし始めた。

見た目通り、子供のように堪え性がないようだ。

癇癪持ちと言ってもいい。

そんなヤツに強い力を与えてはいけません。

与えたのがこの世界の神様だし、既にもう存在しないというのなら文句の言いようも無いけどね。


「久しぶり、とか、自分のことを覚えているか、とか聞いてマスよ」


他にもカノンの父親との思い出話とか幼い頃のカノンの面白エピソードとか。

なかなか興味深く面白い。

昔父親が死んだ時カノンと契約を結ぼうかと進言したのになんで無視したのかも聞いていた。


現状と同様、ただ単に言葉が通じなかっただけなんじゃなかろうか。


「レイムはこの方々が何と申されているのか分かるのか」

『……レイム?』

「記憶喪失だと言うので、不便だったのでレクイエムから文字ってこいつに付けた仮名です」

『あぁ!

だから昨日神の子羊とか歌ってたのね!』


名前だけ反復して問われたから、さすがにその言葉の意図は汲めたのだろう。

鎮魂歌由来だと説明したら、そんなしんみり感傷的なの似合わない、とルーメンがケラケラと笑い出した。

殴り飛ばしたくなる。


盗み聞きかよ、悪趣味な。

……イヤ、あれだけ大声を出していたのだから盗み聞きもクソもないか。


「あまり、その子をからかうものではないよ」


台所から戻ってきたテルモにたしなめられ、一緒になって宙を笑い転げていたウェントスとルーメンは「は〜い」と返事をして大人しくなる。

なんでテルモの言うことそんな素直に聞くの?

生前、この三人は面識無かったはずなのだが。

階級も特別テルモが上な訳ではななかったし。

この世界に来てから構築された関係性なのかな。


淹れたお茶を俺とカノンの前に置き下座に座ろうとするテルモ。

それを見たカノンは席を立つが、結局テルモに笑顔で制され渋々座り直した。


「さて、それでは私の方から説明させて貰おうか」


日本語が喋れる元純血日本人で理知的で大人なテルモは適任ですな。

よろしくお願いします。


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