表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もと神さま、新世界で気ままに2ndライフを堪能する  作者: 可燃物


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

127/265

神さま、呪いの正体を暴く。




遠く見える横たわる死骸から、湯気のように揺れながら立ち上るのは、瘴気だろうか。

冬ならば蒸気の可能性も考えられたが、今はまだ温かい季節だ。

それはない。


野生の魔物と違い、家畜化した魔物から瘴気が出ているのは初めて見た。

死ぬと発するようになるのか、はたまた、呪いのせいによるものなのか……



トルモ町人其ノ壱と出会ってしばらく後、死んだ魔犛(ムータス)の目撃例のある場所へと向かう途中で何人か町人と会って話を聞いた。

どの人も、魔羊(アルヴィス)と違って魔犛(ムータス)は脱走癖があって困ると口々にグチを零した。

そのグチの矛先が、魔羊(アルヴィス)ではなくトルエバさんに向けられることもある。

長は代替わりしているのに、大変だね。



外部から嫁に入ったと言う女性なんかは、トルモ町は守護神がいるのだと外部、ことさら放牧民の間では噂になっているのだと話してくれた。


何かに守られているかのように、家畜が魔物に襲われることがなく、略奪者と遭遇しても被害が少ない。

戦士が負傷しても魔馬(カバルス)が討たれることもない。

その負傷も生命が奪われるようなものではない。


なにより、その強襲を仕掛けた敗走者は、その後近いうちに原因不明の謎の死を遂げる。

手助けした者に対しては特に何も起こらないが、不利益をもたらそうとしたものに対しては、なんらかの不幸が必ず下る。


一度や二度ならまだ偶然と言えるが、トルモの一族の興りから数え出すと、その回数は数え切れぬほどだと言う。



その女性は、元々他部族の放牧民だったが、ココから遥か遠い北の地でトルモの戦士に望まれて嫁に来たそうだ。

外見が好みでもないし、一番強い戦士というわけでもない。

しかもその時同じ部族内で結婚をする予定の相手も居た。

なので断りを入れた。


今旦那となったその人はキチンと、突然の告白に謝罪をし、傷心の顔をしながらも拒否を受け入れた。


だがその後から、奇妙なことが女性の周り起こり始める。


風邪っぽい症状が家族の間で長く続いたり、そのせいなのか、父や弟が落馬し帰らぬ人となったり。

決定打は、婚約者がその土地では珍しい長雨が続いたとある日に、落雷に撃たれ亡くなったこと。


哀しみに暮れた彼女の元にまた彼のトルモの戦士が訪れ、良ければ自分と一緒にならないかと再度告白をされ、受け入れた。

その途端。

凶作にまでつながった永く続いた雨が、止んだ。


「旦那はすごくいい人なのよ。

 ほんと、いい人。

 ただ……やっぱり、思うところはあるわね」


相手が善人だからこそ、彼女の身の回りに起こった不可解な、偶然の一言ではとてもじゃないが済ませられない現象の数々の異質さが浮き彫りになるのだろう。

二度目の告白の時も、「こんな時に言うのは卑怯かもしれない」「君の哀しみが癒えるまで待つ」と、慮ってくれる優しい言葉を多く貰ったそうだ。

薄気味悪がった母や祖母に、追い出されるように早々に嫁がされたが。


望むか否かに関係なく、トルモの住民にマイナスになることが起きた場合、その対象は呪いに侵されるのか。

……タチが悪い。


自分のせいで家族を、恋人を死なせてしまった。

そんな負い目はあるが、今はトルモ町の一住民として、今度はその恩恵にあやかっているのだから複雑な気持ちだと眉を下げた。


よほど、誰かに言いたくてたまらなかったのだろう。

元外部の者として見たトルモ町の異質さが出てくる、出てくる。


増築を重ねたひとつの屋敷で町の者全員が寝食を共にするとか、鍛治が女の役目だとか。

どんなに忙しくても隊長が悪くても、必ず化粧を施し玄関前に飾られた土地神様を表した壁布に挨拶をしなければならないとか。


陣痛で苦しんでいる時ですらそれを強要された時には、本気で故郷に帰ろうかと考えたそうだ。

それは……酷いな。


だが、結婚をして内に入ってしまえば、それすらも受け入れてしまう程に、この町での暮らしぶりは贅沢と言えた。

集団での行動が義務付けられている事柄もあるが、それは少なからずどの集落にもあることだし、食べるものにも困らない、なにより魔物の脅威に晒されることもない。

快適な生活を送らせてもらっていると笑った。

総合的には満足しているようだ。


言い淀んだ後、自分のように外部から嫁に入った子供は、必ず一人は子が連れていかれると、突如、ストン、と表情を無くした顔で告げられた。


子が流れるや死産である、ではなく‘’連れていかれる‘’と言った。

祀っている魔羊(アルヴィス)へ捧げるでもなく。

‘’連れていかれる‘’のだと。


ゾワッと悪寒が背筋に走る。


少し喋りすぎたと、先程の能面のような顔つきから一変。

人懐こそうな笑顔を浮かべて、手を振りながら屋敷のある方へと女性は帰って行った。



「……今の話、どう思う?」


「肝が冷えて涼しい通りこして寒くなった」


「ああいう言葉を使ったと言うことは、町の者には信仰している対象が何なのか見えているのだろうか」


片やガクブルと自分を抱きしめる形で震え、もう片方は解呪の考察をしていた。

性格が如実に現れる。


この世界にも怪談ってあるのかね。

確かに俺も背筋がゾ〜っとしたし、寝苦しい夜を過ごさなくて良さそうと思ってしまったけれど。


捧げる、という自発的な言葉ではなく、連れていかれる、という他動的な言葉を使ったのは、確かに気になった。

実際に何かしらの存在が、赤ん坊を持っていってしまうのだろうか。



聞いていた場所に辿り着いたが、魔犛(ムータス)の姿はどこにもなく、ちいさな血溜まりがひとつ、残されているだけだった。


引きずったような跡はない。

大きさからして、かなりの重量があるであろう魔犛(ムータス)を、放牧に出掛けず残っている人たちで運ぶのは、かなり難しいだろう。


なにせ残っているのは女性か年寄りか怪我人がだし。

あと、旅をするのに体力が足りない幼い子どもか。


わざわざ比較的歩きやすい、俺たちが通ってきたあぜ道ではなく、横に逸れた原っぱを、そんな重量物を引きずらずに持ち運ぶのは現実的では無い。

台車の類もないのだし。


……俺が遠目で見た時は、瘴気が立ち上っているような魔犛(ムータス)の死骸があったように思えたのだけど。

気のせいだったのかな。


連れていかれるという言葉といい、突如消えた死骸と言い、神隠しのようなものが起きるのだろうか。


血溜まりから、何か情報が得られないかと鑑定眼を通して視てみる。


お、思っていた以上に出てくる。

産まれて間もない、迷子になっていた魔犛(ムータス)と同じくらいの月齢なのかな。

生後四八日で体重は既に一二〇kgを超えていたようだ。

デカい。


死後三時間も経過していない。

オスだったために、アザゼルに連れていかれた、とある。


アザゼル……旧約聖書偽典に出てくる、堕天使の名前と同じだな。

武具の作りかたを教えたとか、捧げられた供物を持って行くとか、重なる部分はたしかにあるが。


「アザゼルって名前に聞き覚えはある?」


「……なんだ、突然」


「あぁ〜……何かね、見たものの情報が見える能力があってさ。

 ソレに、この血の持ち主がアザゼルに連れていかれたって書いてあるのよ」


鑑定眼のこと、そう言えば話していなかったね。


説明したらカノンに滅茶苦茶羨ましがられた。

回復薬ののバリエーション増やすの簡単になるもんね。

実際、かなり便利だし。


羨ましかろう、ふふん。

どうやって手に入れたのか、自分でも分からないけど。

だから使い方の教えようもないんだよ。

メンゴ。


アザゼルは言い伝え程度の、精霊と対極にいるとされる存在だそうだ。

魔物を統べる者とか、人間に危害を直接加えた精霊が罰としてその力を奪われた姿とか。

一部の地域に伝わっているだけで、あまり一般的な知識ではなく、カノンも詳しくは知らないらしい。


アルベルトなんかは、魔物の王だと聞いたことがある程度だそうだ。

悪魔や魔王、魔人や魔族。

さまざまな呼び方をされている存在で、俺の部下や親戚の類じゃなかったのか? と素っ頓狂なことを言われた。


確かに魔王と言い伝えられているけれども!

精霊のには家族や知り合いも居るが、そんな不良集団とは関わったこともありません!!

甚だ遺憾である。


話を総合して考えると、とりあえずアザゼルは害悪だってことだね。



アザゼルは、旧約聖書偽典では人間の娘と結婚をした天使の一人だ。

禁忌とされていたのに子供を成して、その子供が世界を混乱と混沌に導いたため、その罰として神が大洪水を起こし、ノアの方舟を作ることになったとされている。


生贄を受け取る役目を持っていたり、戦争の道具の作りかたを教えたり、確かに行動が被るな。

誰だよ、名付けたの。


なにせ一説では全ての悪魔の頭領とまで言われるサタンと同一視されているような存在である。

名前通りの悪魔なら、物凄く強いと思うんだよね。


神様がいる世界だもんね。

実は悪魔もいるんだよと言われたら、素直に受け入れるしかない。


そんな脅威が魔物の他にも居るというのなら、もっと早く言ってよと、文句のひとつくらいは言うけれど。



正攻法で解呪するなら、大量の聖水と霊力が必要になる。


まず呪物を聖水に浸す。

現世に影響を及ぼすまでに濃縮され込められた、怨念や執念の類は視認できるようになっている。

瘴気に似た雰囲気のモヤだそうだ。

魔犛(ムータス)の遺体から登っていたアレだね。

それが出てきたら、散り散りにならないよう一気に、その念が抱え込んでいる力よりも強い霊力を叩き込んで消滅させる。


呪物を精霊術で燃やす方法もあるが、モヤが煤や煙と混ざって分かりにくくなるからオススメ出来ない。

念の塊だー! と思って攻撃したら単なる煙でしたっていったら、かなりマヌケよね。


悪魔の類がホントに居るのか精霊に聞けば、それに準ずる存在は確かにあると言われた。


この町に巣食う存在がその手のヤツだとしたら、かなりの霊力を消耗することになるよね。

なにせ、精霊の対極にいるような存在なんでしょ。

そんなもんを圧倒的なゴリ押し方法で消そうなんて言ったら、どんだけのチカラが必要なんだよって話。


アザゼルは風の属性を持っている悪魔だったよね。

あくまで地球の神話の類では、だけど。


諸説あるがアザゼルは人間を好んでいたとされる。

彼に捧げられる二頭の山羊のうち、一頭は殺され神へと奉納される。

自分の取り分であるもう一頭は、民衆の罪を全て被せ昇華させ罰から逃れさせようとした。

自分への供物なのに、己のものとはせずに、人のために使ったってことだね。


神が独占していたあらゆる知識を人間にもたらしたのもアザゼルだし。

だから錬金術師や知識人なんかは、堕天して悪魔になったかとも、アザゼルを崇めていたそうだよ。



そんな人好きな悪魔の名前をしているくらいだし、対話でどうにかならないかなぁ。

考えた瞬間ダメ、ムリと頭の中で方々からツッコミが入った。


風属性であるが故に、神話にある通り洞穴作って岩で塞いで封印するのが一番平和的解決方法だと、テルモから助言された。

今の俺やカノン、ついでにアルベルトでは戦闘になった時に適わないだろうとまで言われてしまった。


そんな強いの?

悪魔の階級ではザコ扱いされるヤツなのに??


地球の常識は、この世界の非常識。

コレもその法則に当てはまるのかな。

神話の話だし、地球でも別に常識とはされていなかったか。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ