神さま、呪詛を浴びる。
いつも御覧頂きありがとうございます。
活動報告にも書いたのですが、飼い猫様の頭突きにより今日の更新データが吹っ飛びました。
一生懸命書き直したのですが、普段より短くなってしまいました。
更新も遅くなり申し訳ありませんm(_ _)m
トルモ町までの道のりはまだ長い。
この魔犛は子供とはいえ魔物だ。
持久力もあれば体力だってある。
飼い慣らせば背中に乗ることも可能だと思っていたし、これを機に試してみよう。
そう言って鞍も鐙もないのに商人のオジサンはヒラリと子魔犛の上に飛び乗った。
存外安定しているらしく、物を運ぶことに慣れているでもなかろうに、子魔犛はどこか楽しげに、リズムを取りながら商人のオジサンを乗せ軽やかな足取りでトットコ歩き出した。
俺たちが来た道の方に。
「逆だ、逆っ!」
急いで捕まえに行き誘導をするが、何がそんなに魅力的なのか、何度方向転換しても森へ進もうとする魔犛。
俺ではどれだけの力で引っ張れば、どのような指示を出せば良いのかも分からない。
仕方なく商人のオジサンには降りて牽引してもらう。
だが可愛い顔をしていても、さすがは魔物。
牽引しようとした商人のオジサンに逆らい踏ん張って地面を抉り、それでも引っ張るとイヤイヤして引きずり倒した。
しかも錐のようなものを地面から生やしてコチラを攻撃してくる。
生後二ヶ月経ってないんだよね!?
術使うとか凄すぎない!!?
俺はともかく商人のオジサンはあんなのに貫かれたら死んでしまう。
慌てて地面に干渉して術を相殺した。
イヤ、俺だって刺されたら危ないけどさ。
地面から生えているってことはテルモの領分なので刺さる心配をする必要がないから。
子魔犛は自分の足で町に向かうつもりはなさそうだ。
森の方には喜んで進むのに、町の方へはテコでも動こうとしない。
文字通り馬車の荷台で転がっていたアルベルトを叩き起こし、同席をお願いした。
狭くなるとか獣臭くなるとかワガママを言ってきたが、気配察知による索敵がしっかり出来るのならカノンと代ってもらえば良いと告げると黙りこくった。
移動中も安全な荷台で修行していれば良かったのに寝ているのが悪い。
だが興奮しているのか子魔犛は頭を振って暴れる。
何度も町の方へと引きずったし、俺たちが町に連れ戻そうとしていると察知してしまったのだろう。
この状態では、荷馬車の中の物が壊れてしまう。
乗せることが出来ない。
一度興奮状態から落ち着かせることが出来れば大人しくなるだろう。
そう言って魔物を生け捕りにする方法があるからと、カノンが手本を見せてくれた。
霊力の膜を作って包み込むやり方と、霊力をロープ状にしてそれで捕縛するやり方の二種類だ。
膜はコツがいるけど暴れる魔物を抑え込むのに有効。
綱は霊力を込めれば込めるほど頑丈に出来るので、大きく力のある魔物に有用だそうだ。
ほうほうと頷きやってみる。
まぁ、難なく出来る。
俺はね。
だが、アルベルトは膜の厚みを均一に作れず、できた穴から子魔犛は目敏く逃げてしまった。
縄も、注ぐ霊力を一定に出来ないのか、弱い部分から千切れてしまい逃げられた。
なるほど。
人に教える時は今みたいにならないように注意しろよ、と言えばいいのね。
アルベルトは分かりやすく落ち込むが、こんな所で道草を食っている場合ではない。
俺が作った捕縛した縄は、スターターロープ並の強度にしてある。
尋ねてみると、そう言う練習方法もアリだとカノンからゴーサインが出たので、コレを維持し続けられるように練習しておけ、と霊力の縄を手渡した。
「……握ってるだけでものすごい量の霊力持ってかれんだけど」
「うん、ガンバ」
うめき声を上げながらも頑張っているアルベルトのために、ひとりと一匹を荷台に乗せる作業は請け負った。
その頃には落ち着いたのか諦めたのか、子魔犛は大人しくなっていた。
その後しばらくはなんの問題もなく、遠くまで伸びるあぜ道を、ひたすら舗装する作業を続けた。
開けた視界の先に家が見えたのは、昼を過ぎた頃だろうか。
一悶着あった割には、随分と早く町に着いたもんだ。
そう思ったのだが、あの家、なんだか様子がおかしい。
かなり大きな平屋なのだが、煙突がひとつもないのだ。
この世界はガスも電気も通っていない。
そのため家電製品の類もなく、換気扇も当然ない。
そしてヒーターやエアコンのような暖房器具もないので、冬の大事な熱源として、コンパクトな造りの家ならリビングと台所が一緒になっている。
そういう場合は屋根から延びる煙突は一本。
広い家だとかまどと暖炉がある部屋が別になるので煙突は複数屋根から延びている。
アパートみたいな集合住宅だと、その煙突は屋根の上から列を成して飛び出ていた。
夕飯時だともの凄い量の湯気と煙がモクモクと空へと登っていくんだよ。
その様子に、地球温暖化とか考えなくて良いのかとつい、思ってしまったのはナイショだ。
そもそも、ココ地球じゃなかったわ。
はっはっは〜。
煙突が設置されていない場合は、屋根が煙出しの構造になっている家もあった。
だが前方に見える家は、そのどれでも無いんだよね。
平屋かと思ったけど、それにしては背が高く、二階建てにしては低い、中途半端な大きさだし。
「トルエバさん、あの家、何です?」
「家?
……あぁ、畜舎ですかな」
まだ商人のオジサンの位置からは見えないようだが、心当たりがあったようで答えてくれる。
牛や豚も、人が切り拓くには難しい鬱蒼と雑草が広がる土地すら、時間をかけてではあるが易々と食べて拡げてくれたと、開墾史にあった。
トルモ町が牧畜によって開墾した土地はかなり広いようだ。
魔物の方が身体も大きく力も強い。
魔羊なんかは葉どころか木々の根すら食べる悪食だそうで、この先一帯は、商人のオジサンが幼い頃はまだ原生林が広がっていたそうだ。
ここら辺一帯も原始林だったそうだが、商人のオジサンの代で拡張されたのだとか。
そんな森林破壊の権化みたいな魔物を家畜化しようだなんて、ご先祖様は凄いこと考えたね。
環境破壊や保全の考え方がないのだろうか。
それだけ食べる魔物なので、放牧する土地をローテーションしないと植物が育たない。
なので必要な道具を管理したり、管理者の仮眠用ベッドが置いてある場所を畜舎と称して、アチコチに点在させているそうだ。
俺が知ってる畜舎と違った。
自然に溢れているから、牧草を育てるって考えには至らないのかな。
完全管理出来るまで、人に従順になっていないからって理由もあるかもしれないけど。
繋いでおくとなったら、かなり大掛かりな設備がいりそうだもんね。
塩水を入れる器と井戸水は分けて設置したり、魔羊は雨に濡れるのを嫌がる性質があるのでタオル類も置いてあると言うが、盗まれたりしないのだろうか。
カギで管理されているとは言うが、ならず者なんかには通用しないだろうに。
言えば、魔羊はとても頭の良い魔物だからか、トルモ町の財産と言える、魔羊そのものや畜舎のような小屋に危険が及ぶと鳴いて報せてくれるそうだ。
何それ、メッチャ賢いな。
見渡す限りでは、他の魔犛も魔羊の姿も見えない。
一番近い放牧場はココだそうだが、この子魔犛は一体どこから迷って、あんな森の入口まで来てしまったのだろう。
ふたつ目の畜舎が見えても、周囲に魔物の姿は見えない。
俺の索敵範囲に引っかかるせいで、逃げて行ってしまうのだろうか。
それなら、子魔犛だって俺が姿を確認する前に飛んで跳ねて逃げていただろう。
カノンの家のシュケイもそうだったし、家畜化された魔物は他の魔物とは少し違うのだろうね。
聖水で育つことにより、霊力や精霊の残滓に恐れない性質に変わるのか。
それとも、魔物化するのはあくまで後天的な要因によるもので、瘴気に犯されることで凶暴化する、とか?
「……十km程先に、魔羊の群れがいるな」
「その距離ですと、トルモがある位置になりますな」
「え!?
カノンそんな遠くまで気配読めるの!!?」
「集中すればな。
……教え子に実力を越されてなるものか」
後半、ボソリと呟いた言葉はひとつも漏らさず俺の耳に届いた。
ほほぅ、“賢者様“が危機感を覚えるくらいに俺の成長は目覚ましいものですか。
ほほほぅ、それは頑張りがいがありますねぇ。
だが、目を瞑って集中しようとすれば、街道を通すことが出来ない。
……今度試してみよう。
途中何度か子魔犛が暴れたが、アルベルトが頑張って霊力をゲッソリ頬がコケる勢いで注ぎ続けてくれたお陰で大事に至ることなく、トルモ町に到着することが出来た。
沢山の家畜を放牧をしていることもあり、他の町や村とは違って柵が建物の周りを囲ったりはしていない。
……というか、家が全然ない。
小屋や畜舎は幾つか点在しているのだが。
あるのは、豪邸レベルのかなり大きな家がひとつ。
大半の住民が放牧の旅に出るから、うんぬんかんぬん言っていたっけ。
住民が総勢何名なのかは知らないが、一万人までは流石に収容出来る大きさはない。
村や町の呼び方の差がイマイチ分からないな。
商人のオジサンが案内するままに、俺は道を作るのを辞め、カノンはその大きな家の前に馬車を停めた。
それを待つことなくノックをすることもなく、無遠慮に扉を開け放ち中へ入って行ってしまったのだが、俺たちはどうすれば良いのだろうか。
とりあえず、アルベルトが限界だろうから縄の制御を代わってやらなければ。
そう思い幌の上から飛び降り、ふと、開いたままの扉のその奥。
玄関に飾られた、タペストリーだろうか。
それを視界の隅に映し込んだ、その瞬間。
全身が総毛立つ感覚と共に、胃の中身全てがせり上がってくる衝動に襲われた。
こんな場所で吐いてはいけないと、ダッシュでその場を離れたが、途中で我慢出来ずに馬車の陰で戻してしまった。
……口の中が酸っぱ苦い。
「どうした?」と御者台から降りたカノンも、玄関に飾られたモノを見たのだろう。
同じように走ってきて似たような場所で吐いた。
キラキラエフェクトかモザイクをかけたくなるが、しゃがむ前にゲロってしまったために、靴にも吐瀉物が掛かってしまった。
洗うのが先だ。
自分のものかも、カノンのものかも分からないソレらを、土を掘って埋めて汚れた靴を洗い流し、口の中もすすいだ。
「……ナニ?アレ??」
「……呪物としか分からん」
まだゲッソリと青白い顔をしているカノンに聞けば、何かは分かったらしい。
呪物。
人の念や負のエネルギーが込められた、災いをもたらし、誰かを呪う儀式に用いられる品物。
ゲストを出迎える、家の顔とも呼ぶべき場所にそんなものを飾るなんて。
トルモ町は排他主義なのかな。
そんな場所に余所者の俺たちを呼ぶんじゃねぇ。




