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もと神さま、新世界で気ままに2ndライフを堪能する  作者: 可燃物


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123/265

神さま、畜産倫理を説く。




魔物の気配に似ているが……なんだ? コレ??


光射し込む森の出口を遠方に望む頃。

索敵に引っ掛かる気配を感じた。


魔物はとても分かりやすい。

瘴気を孕んでいるためか、気配察知のために薄く全方位に広げている霊力に反発する。

相反しているからなのだろう。

自己主張が激しく感じる。

なのですぐに見付けられる。


人間も少なからず陰鬱とした感情を腹に抱えているので、魔物ほどではないが分かりやすい。


瘴気みたいに、目に見えるような負のオーラをバリバリ漂わせている人は早々いない。

だが直接、よくよく集中して対象を見ると、その内に溜め込んだ負の感情も見ることが出来る。


「あ、今日機嫌悪いな〜夢見悪かったのかな〜」

「あれ? 俺なんか失言しちゃったかな〜??」


と顔色ではなく、視認できる程度に発せられるモヤを見て、対象の状態を判断出来る。

だが、その気体のようなものが見える頃にはカノンは怒髪天をついている。


なのでお貴族様仕様の本音を隠したキラキラオーラ漂うスカした笑顔にも、怒りの青筋が浮かんで見える。

誰がどう見たってご立腹だと分かる状態にならないと視えないのなら、あまり意味を成さない。

もうちょっと利便性が高くなれば良いのに。


鑑定眼も、人の状態に関してはあまり役に立たない。


詳細が表示されるのは、その人の経歴やバックグラウンドだけだ。

今日の体調やその時の気分などは、詳細表示を求めても、丸三角バツの三段階評価でしか書かれない。

そんなもん、見りゃ分かるっつぅの。



気配察知で難しいのは、家畜化された魔物だな。

聖水を生まれた頃から与えられているためか、瘴気を殆ど内包していない。


それこそ、どんな生物でも生きていれば覚える感情から発露する不平不満を抱えている程度。

元が魔物だから、その不服が大きく膨れやすい特性はあるようだが。

理性が乏しい分、タガが外れやすいのかな。


理由まではちょっと分からない。


前方からコチラに向かってくる気配はひとつ。

魔物は総じて気配も実際のサイズも大きい傾向にあるが、この個体は比較するとかなり小さめ。

だが、人よりは大きいのに感知できる瘴気は人並み以下。


総合して考えると、家畜化された魔物だろう。

シュケイや鎧牛なんかともちょっと違うけど。

見たことない家畜なのかな。


動きもノンビリしているし、歩いているのか……歩いているにしても、時折立ち止まっているし、何か用があってコチラに向かってきているのではないように思える。


森を出れば身体強化で視力を上げて姿を見確認出来る。

突然突進してくる可能性もゼロではないので、注意喚起だけはしておくか。


「森を抜けた、約一km先に何かいる」


「何かって何だ」


「姿確認出来ないし、分かんない」


「なるほど。

 …………魔犛(ムータス)の子供だ」


一kmも先まで気配が読めるようになったのか、と驚きながらも褒めてくれて一呼吸置いた後、俺が分からんと言ったことを平然と答えるカノン。


気配察知は、慣れれば種族や分類の大まかな判別が出来るようになるし、極めるとその個体名も分かるようになるそうだ。

確かに、なんとなく程度だけど、違いは分かった。

それが個体名まで識別出来るようになるのか。

便利だね。


人も、何度も会うような親しい間柄であれば、その人の気配の特徴で見分けられるようになる。

そして気配察知が届く先なら、離れていてもどこにいるのか把握出来るようになると言う。

その気配を消されたらどうにもならないそうだが。


あぁ、だから父親が行方不明になった時に探すことが出来なかったのね。

忍者みたいな真似しやがって、ナマイキなヤツだ。


それにしても、やっとひとつ追いついたと思ったのに。

実は俺は更にその上を行ってました〜とか、ネタばらしするんじゃない!

やる気が削がれる!!


全国津々浦々、長年アチコチ旅をしまくって、色んな魔物と対峙してきたのもあり、カノンは離れた魔物でも、細かく判別することが出来るそうだ。

大まかになら種族分類。

よく見る個体ならばその個体名。


だから、ヒトデ型の魔物でもイービルスターやパラライスターみたいに、色んな名前があるのにも関わらず、全て一括りに“シースター種“って言うのか。

ペンマウルスも最初は大猫種って言っていたもんね。

視認して、ちゃんと「コレなぁに?」の聞けば個体名で答えてはくれたが。


ははぁ〜、なるほどね〜。


魔犛(ムータス)の子供!?

 群れからはぐれてしまったのでしょう。

 保護しなければ」


こんな所に野生の魔犛(ムータス)がいるわけがないと商人のオジサン(トルエバさん)は慌てた。

魔犛(ムータス)は放牧の民には欠かせない、保温性の高い毛が獲れるからと、トルモ町が実験的に少しずつ家畜化している魔物。

本来は高山地帯に生息している。


海側の、こんな町からまだまだ離れている場所にいるのなら迷子に違いない。

やっと自家繁殖に成功した所で、産まれるのを待ち望まれた子供だ。

魔物になんか襲われてなるものか! となんだかメラメラ燃えている。


家畜は町の大事な財産だ。

早く保護をしてあげたいのには同意である。


だがそうは言っても、アナタ。

魔物に襲われた時に自分では倒さないでしょうよ。

いざ戦闘になった時は、人任せにして後方でガクブルしているだけのクセに。


一丁前に勇ましいことを言うでない。

ギャップで風邪ひくわ。



少しスピードを上げると断りを入れられ、了承をすると即座に長鞭を振るった。

クンっと、慣性の法則に従って身体が後ろに引っ張られたような感覚に陥る。

慌てて荷台の枠組みを掴み、落とされないよう力を込めた。


荷物は取り付けた棚にお行儀良く並べてあるので、落ちたり崩れたりはしなかっただろうが、寝ていたアルベルトは無抵抗のままキリモミされたような状態になったのだろう。

幌の中()派手な音が幾度か聞こえた。


静かなのは大したことがなくて寝続けているからなのか。

音が奏でた通り、大惨事になっていて気絶をしているからなのか。


このスピードだと声を掛けるのは難しそうなので、早く用事を終わらせるのが先決だろう。

アルベルトは頑丈だし。

怪我をしていたとしても、回復薬をぶっかければ治る。



「道から外れた、二時方向三〇〇メートル先」


商人のオジサン(トルエバさん)の焦りなんて知る由もなく、魔犛(ムータス)の子供はノンビリと草を食んでいた。

姿を確認したあと、魔犛(ムータス)を怖がらせないように馬車を減速させ、その操縦をカノンに任せた商人のオジサン(トルエバさん)は、ヒラリと御者台から飛び降りひとりで小走りで向かって行った。


いつの間に手に持っていたのか、ロープと……餌かな?

手の中に持っていた何かで釣って、素早く捕縛をしていた。

手馴れているな。


呼ばれたので向かうと、牛と山羊を合わせたような見た目の動物がマイペースに口を動かしていた。


遠目で見た時は牛っぽいと思ったが、その瞳孔は横長だし、毛は随分と長い。

魔物基準で言えば、その身体は随分と小さい。

だが、体高だけで俺の胸の位置まであるし既に角まで生えている。


コレで生後二ヶ月と経っていないと言うのだから驚きだ。



元々魔羊(アルヴィス)の放牧を代々していたが、テントの素材に使われる野生の魔犛(ムータス)も、よくよく観察すれば肉の他にも草を食べるし、食性が野生の魔羊(アルヴィス)と近いものだと気付いた所から、どうにか家畜化出来ないかと試行錯誤を重ねている最中だそうだ。


なにせ魔物の子供はあまり姿を見せない。

親が隠しているからなのか、余程景色への擬態が上手いのか。


運良く子供と呼べる大きさの個体を見付けても、連れ帰る途中で死んでしまうこともあったし、メスが多く、ほど良いツガイを用意することが出来ずに、繁殖の成功には長年至らなかった。


妊娠していた魔犛ムータスの腹から出てきたのがオスだった時には一族総出で一晩踊り明かしたと言うのだから、余程悲願だったのだろう。


商人のオジサン(トルエバさん)が繋いでいるのは、ようやく二世になるそうだ。


「余計なお世話かも知れないけど、近親交配はさせないようにね」


「きんしんこーはい?」


「え〜っと……

 親が同じとか、親が兄弟だとか。

 そう言う……血が近い個体同士で子供を作ったらダメだよってこと」


遺伝子や染色体の話が通じない人に、血の近さとか言って分かって貰えるのだろうか。


経済動物によっては、欲しい結果を得るために敢えて近い血で交配することもある。

乳量が多い個体が多く出る遺伝子同士を掛け合わせるとか、肉が多くとれるように身体が大きく成長しやすい個体同士を掛け合わせるとか。


だが、それはリスクが伴う。

人間同士でも三親等内での婚姻が禁止されていたように、健康面での脆弱性や繁殖能力の低下など、奇形種の誕生の危険性が高まるのだ。


近交退化は発育不良や死廃増加を招くのは、数値として表すことができる。


出生率が徐々に下がるのは、それを商いとして行っているならば死活問題のはずだ。

今、ではなく何代か経てから発生するため、イマイチ理解と納得は出来ないかもしれないが。


近交係数の増加率一%ごとに、乳牛の場合は搾乳できる乳量が年間二四.八kg減るとか、解体して獲られる枝肉重量が〇.九三キログラム減るとか、算出されている数値は、あくまで牛の話だし。


良い結果になれば品種改良と言えるが、それは近交係数を割り出した上で、綿密に計算した上で行われてきたものだ。

オスは同系交配の方が良いとされるとか、肉牛ならば近親交配の方が肉が柔らかくなる傾向にあるとか、数字には書き記されない部分も沢山ある。

俺では伝えきれない。


元が魔物だと、遺伝子情報が肉体にどのように作用しているのかが分からないし。

なにせ聖水などという奇天烈水で肉体に変化がもたらされ、霊力という名の不可思議エネルギーによって生体が変異する世界だ。


地球の常識が通じないんだもの。

どうにもならん。


だが、生き物である以上は遺伝子を持つのだろうし、リスクは避けるべきだ。

障害が出る可能性が高まる劣性ホモが誕生しないよう尽くすのは、家畜を扱う者として最低限の義務だろう。


メンデルがこの世界にもいたら良かったのに!

この世界での分離・独立・優性の法則を導き出して!!


一卵性双生児同士を掛け合わせたら一〇〇%ホモ接合型遺伝子が産出される計算になるから劣性致死遺伝子や染色体異常個体が出るとか、言ってもあくまで事前確率の算出でしかない。

机上の空論でしかないからね。


なにせ一卵性双生児同士の場合はどっちもオス同士かメス同士になってしまうからさ。

子の成しようがないのだよ。


例外はまぁ、ないとは言わんけど。



特に反論をされるようなことはなかったが、オスの魔犛(ムータス)を手に入れられたのは全くの偶然だし、経験上メスの個体の方が絶対的に多い。


今手網を引いている二代目は、母魔犛(ムータス)と父親が同じだと言う。

今の所、成長速度に変化は見られないが、気を付けて見ておくと言って貰えた。


交配一代目の出来は良かったし、数を増やしたいとは思っている。

今牧羊に出ている者たちにも、若い個体を生け捕りに出来たら持って帰ってくるように言ってあるので、流産や死産のような悲しい結果が出てしまう前に何とかしたいと答えてくれた。



だが実は今の話を聞き、魔羊(アルヴィス)の飼育において引っ掛かる部分があるのだと告げられた。


最近、交配の成功率が低くなっているし、発育不全や毛が伸びない個体が増えている。

年老いた個体ならば理解も出来るが、二年目の若い魔羊(アルヴィス)ですらそんな状態になっている。


それもあって魔犛(ムータス)の家畜化に本腰を入れて取り組んでいるんだとか。


呪いや瘴気のせいだと思っていたが違ったのかと、俺の話を聞いてかなり驚いているそうだ。


なにせ、人間でも同じことが起きているから。


トルモ町は遊牧の民で形成されている組織だから、どうしても強い戦士がモテる。

そして強い戦士の子供が増える傾向にある。


そうなると、母は違うが父が同じ子が結構いると言う。


おおっと、コレはかなり香ばしい事案じゃないかい?




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