神さま、鑑定眼を使いこなす。
分岐点まで戻ったと声を掛けられたので、また幌の上に移動した。
無理矢理引きずり出して精神安定剤にしまったことは申し訳ないとは思えども、商人のオジサンに説明するのは面倒臭い。
なので荷台を覗き込まれる前に、テルモを再び創り出した次元の裂け目にポイッと放り込んだ。
アルベルトには、精霊の皆のこと話しても良いけど……おいおいね。
あまりオツムの良い人ではなさそうなので、気にしないでいる内に忘れてくれやしないだろうかと考えている。
荷馬車に揺られ、エルモ町のように塩害で困っている村と町に寄り道しては、同等の施しをカノン経由で与えていった。
全く知らない小僧から、コレ駄目アレしろソレ使えと言われるよりも、有名な賢者様から言われた方が受け入れやすい。
元々、たまにだろうが規模が小さかろうが、生活向上のための救援活動はしていたのだ。
なんの問題もあるまい。
普段はコッソリ、あまり目立たないようにしているので、今までの分も含まれた厚すぎるおもてなしに、カノンは非常に嫌そうな顔をしていたが、それくらいだ。
甘んじて貰っておけ。
名も無き村の人達がそうだったように、与えられることが当たり前だと勘違いをされても困る。
その集落にとっては決して少なくはない見返りを要求した。
商人のオジサンからしてみれば破格も良いところだそうだが。
日々の生活に困窮している人達には、明日食べるものが減るのはなかなか辛かろう。
不平不満を陰で言っているのを耳にしたからと言って、ケンカを売るような素振り派見せないで欲しい。
どうせ、施しの価値が分かるのなんて、何日も、何ヶ月も経った後になるのだ。
今それを理解できる人が少ないのは仕方ない。
若い女の子を宛てがわれた時には笑ったが。
別に婚活なんてしてねぇし。
人を物のように扱う性根には、憤りも呆れを通り越して笑うしか無くなる。
生贄なんて前時代的にも程がある。
それが村の総意なのかと尋ねれば肯かれた。
本気かよ。
この旅は神々の代理人である精霊の導きのもとに行なわれているのだ、とそれらしいことを述べ、神々に感謝するようとくと説き、皆が口々に精霊への感謝を口にし洗脳が完了する頃。
精霊は男女も老いも若きも拘りはしないと告げ、言い出しっぺの村長さんを、燔祭用の供物として提供して貰おうと提案した。
「今先程、精霊様への御礼という栄誉を与えられたのだから喜べと、そこな娘に仰っていたではありませんか」
アレコレ理由をつけて固辞しようとするので、胡散臭いと後ほど評される慈愛に満ちすぎた笑みを浮かべ適当に言ってみた。
そんな俺とは対照的に、大勢の前でイヤイヤと駄々をこね咽び泣き、信用も威厳も何もかも失墜したのを見計らってから、「まぁ、精霊様は生贄なんて望んでおりませんが」と告げた時の、あの顔よ。
腹抱えて笑いたくなった。
我ながら性格が悪い。
生命をとられるよりはマシだろうと脅し村長さんの家に押し入り、家の外観からは想像も出来ないほどたんまり溜め込んでいた金銭を徴収しておいた。
内訳を聴取すれば、村の収穫物を他の町や王都に赴き販売した時に得た金銭を再分配する時、手数料として掠めたお金だそうだ。
すぐに生命をとられないと確証した村長は、正当な報酬であると主張しだした。
さっきまでチビりそうな勢いで泣き叫んでいたクセに。
何偉そうにしてるんだか。
俺はそういう時の詳しいルールや手数料にどれだけ貰うのが普通なのが分からない。
エルモ町の代理で同じことをして得たお金で回復薬を渡していた商人のオジサンに、妥当なのか聞いてみる。
それはそれはもう、酷いお怒りを貼り付けた顔で「この痴れ者が」と侮蔑を多分に含んだ言葉をツバと共に吐き捨てたので、どう考えても正当性が無いと判断した。
商人のオジサンのここまでゆがんだ顔は初めて見たかもしれない。
銀貨の枚数を確認し、村人の数も確認し再分配。
割り切れず残った数枚を袋に戻して村長さんに渡した。
怨恨が残ってもいけないので、村人全員から等しく、他の町村でもしたように、今朝収穫した作物を納めるように申し渡す。
井戸は村全体で使うものなのだから、一人に責任を負わせるのではなく、等しく請求するのが正しいだろう。
カノンは物は少なく手間を多く取るようにしていたが、料理はマズイから嫌だ。
食事時でもないのに作らせるのは申し訳ないし。
打ちひしがられている村長の分は、その奥さんと、先程差し出された娘さんがお礼と謝罪と共に持ってきた。
似ても似つかないが、村長の娘さんだそうだ。
村一番の美人というわけでもなさそうな、年頃よりも若干若い子が選ばれたのは何故かと思ったら、身内だったのか。
思考こそクズのソレだが、村長としての役割を果たそうとしたことは評価されるべきだろう。
見返りが何か、最初言わなかったしね。
生贄って過ぎた施しに対する返礼のセオリーと言えばそんなもんだし。
責めるだけは出来ないか。
村長に、必要な物資は何か聞いてみる。
意図が分からず口ごもったが、促すと、恐る恐ると言った感じで指折り挙げられる。
薬に布製品、雨水を溜めておくためのタライに麦などの主食……
まぁ、色んなものが足りないようで、出てくる、出てくる。
村長としての務めは、今回に限らずしっかり果たしているようだ。
だからこそ、供給が不足している物資の把握が出来ているのだ。
俺のお気持ちだけで悪だと判断して良い人ではないな。
王都の現地民ですら、自分たちが食べるものに困窮していた。
村で取れた農作物を売ることはすぐ出来ただろう。
だが王都で売買して手に入れた金銭では、必要なもの全ては買えなかったのだろう。
だからと言って、村人に断りもなく溜め込んだら、それは単なる横領だ。
正義感で行ったことだとしても、だ。
小麦はこの土地ではなかなか育ちにくいだろうな。
東側が崖に面しているので、麦に日光が当たる時間が少ないのだろう。
ここの立地条件だと、ソバなら育つだろう。
ただ、ソバって土壌のリン酸含有量でかなり生育に差が出るんだよな。
他の農作物よりも顕著なの。
だからといって、過リン酸石灰や重過リン酸石灰を作るためだけに、硫酸なんて劇薬渡すわけにはいかないし。
この季節だと霜の心配はしなくても良いのが救いだが。
作物が育ちにくいなら、育てたことがないソバを新たに育てるよりも、小麦を育て続けた方がノウハウが継承されているだけマシだろう。
飢えは死に直結するし、精神的な病にも繋がる。
どうにかしたいと思うが……ふむ、どうしたものか。
「カノンって小麦も育ててたけど、特に肥料あげていなかったよな?」
「あそこは土地に霊力が満ちているし、地精霊の恩寵もあったからな。
基本、要らん」
あぁ、なるほど。
科学思考が抜けきらないせいで、どうしても化学式で物事を考えがちになる。
だがこの世界では、本当に霊力さえあればどうにでもなるんだな。
土地を霊力で満たすにはどうしたら良いのか。
聖水を、撒き散らしたり、精霊を召喚したり。
手段は幾らでもある。
だけどそれって、俺やカノンだから出来ることなんだよね。
一般人には出来ないことだ。
この村には精霊術師はいないそうだし。
永続的に土地を癒し、霊力を上げる方法はないのだろうか。
精霊石を使ったお守りで出来ることは、反対属性の魔物を退けることのみ。
それも込められた力を使い切ったら終わりだ。
効率的にエネルギーを使えるように装飾具は拵えてあるけれど、精霊石の力を使って土地を浄化し霊力で満たせたりするのだろうか。
そのまま置くだけではダメだろうな。
それで効果が得られるなら、エルモ町近くの浜辺で、あんな大漁……違った。
大量の魔物に襲われたりしない。
精霊も、神様的存在なら、崇め奉られることで力がみなぎったり、優先的に力を奮ってくれたりしてくれるのだろうか。
もしそうなら、神像のひとつでも作って御堂でも建てて祀れば良いと思うのだけど。
カノンは考えたことはなかったそうだが、確かに教会が存在する町は魔物が襲ってきにくい特性があると言う。
それに王都もそうだが、井戸の水は浄化せずともそのまま飲める。
立地的な問題だと思っていたそうなので、果たしてそれが信仰によるものか、確証は出来ないそうだが。
そうなると、毎度申し訳ないが精霊の皆に聞くことになる。
手を煩わせるのは嫌なんだよな。
「知識」みたいに共有出来れば楽なのに。
それか、鑑定眼を通して見てみたら解決策まで記載されてくれればとても便利なのだけれど。
鑑定眼は底が知れない。
突然降って湧いて人を頭痛まみれの混乱に陥れながらも、かなり便利なため正体が分からないまま今日に至る。
今まで念じた機能がそのまま都合よく反映されてくれているが、今回も同じように「解決策を表示して」なんて願ってその通りになるのだろうか。
しばし待つが、なんの音沙汰もない。
これまでは願えば次の瞬間にはその結果が反映されていた。
さすがに今回は無理か。
……イヤ、具体的に“何の”解決策かを指定していないせいなのかもしれない。
物質の鑑定をしてくれる機能なのだ。
今回ならば土壌のリン含有量を増やす方法だとか……それもダメか。
土地の指定範囲が広すぎるかな。
ソバの種を見れば「春の終わりに播種し秋の終わりに収穫する擬穀類。痩せた土地やpH6程度の土壌でも結実する。他花受粉。花が臭い」とある。
注意事項が多めの説明書きだ。
ソバの花って臭い自体は強くないけど、確かにクサイと言うよね。
肥溜めとか、鶏糞みたいな臭いがするとか。
まぁ、それに関してはスライムもいない、自給自足をしている人里離れた村ならば下の臭いは慣れたもんだろう。
……実際、今も臭うし。
その程度、育てるとなっても麦よりも育てやすく、大量に収穫出来るなら問題にすらならない、些末なことだ。
栄養価も高いしね。
ソバの実をいくつか地面に埋めて改めて見てみると「播種晩限を超過している上、窒素・リン共に含有量の低い土壌であるため結実する可能性は非常に低い。精霊の恩寵を与えれば可能」となった。
霊力に満ち満ちた街の畑は作物が育つまでの期間が短かったし、収穫量も多かったもんな。
やはりこの世界は、科学で考えるよりも霊力で考える方が良いのだな。
小難しく考える必要もない。
単純かつ明瞭でムダがない。
霊力って素晴らしい。
精霊の恩寵を与える方法は無いか考えると「聖水を継続して散布する。霊玉/精霊石を埋める。霊玉/精霊石を砕いたものを散布する。地精霊の眷属を住まわす/召喚する。地精霊に帰属する祭司を置く」と表示された。
うわ、つくづく思うわ。
鑑定眼ってメッチャ便利。
霊力が宿ってるものを撒いたり埋めたりは想像した――というか、既に他のところでやってるから分かる。
眷属も樹の妖精がそうだしな。
だが、祭司?
神官とか巫女さんとか、ああいう祭祀を執り行う人のこと??
やっぱり神様なだけあって祀られるのは大事なんだ。
信心深さが霊力の源になるとか面白い。
カノンにこの村の問題の解決作を話すとやはり、人身御供とまでは言わないが、一人に村全体の責任を取らせるのは如何なものかと渋られた。
立候補者でもいれば話は別だが、と言われたので目を光らせた。
助けられたと思っているであろう、今ならチャンスと言わんばかりに村長の娘さんに話を持っていく。
“返報性の法則“と言って、人には与えられたら返さねばと思ってしまう心理があるのだよ。
それが好意でも悪意でも同じ心理が働くので、悪いことをしたら悪いことも返ってくるんだけどね。
お返しと違って、仕返しは二倍、三倍になるのが常だ。
だからそれをさせないようにと、村長が私腹を肥やそうとしていた件は、溜め込んでいたお金を、第三者かつ絶対的に上位に位置するカノンの手によって村民全員に返却したのだ。
俺が関わったことで、村長が私刑に処されたら嫌だし。
好意や厚意の類は、やってあげたと自分が思っている半分以下の価値しか相手に伝わらないとされている。
お返しは仕返しと違って二分の一、三分の一返しだと思っていた方が良いんだよね。
アレだけ尽くしてあげたのに! って思うとイライラするし、争いや諍いの元になるからさ。
お返しは返ってこないと思っていた方が、健康的な心持ちでいられる。
期待していたものが手に入らなかった時って必要以上に落ち込むからね。
ム、それを考えると、巫女になる話しを持っていくのは辞めた方が良いだろうか。
別に死ぬんじゃないし、単に毎日捧げ物して誠心誠意お参りすれば良いだけだし、聞くくらいは良いか。




