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もと神さま、新世界で気ままに2ndライフを堪能する  作者: 可燃物


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神さま、彫金する。




日本人の生来持った気質と言われた“おもてなし文化“の凄いところの最たるは、見返りを求めないことだと思う。

相手の求めることを推し量り、自分の手札を最大限に使い、ゲストに満足してもらうことに喜びを感じる。


サービスのように上下関係による義務感からくるものではなく、尽くすことにより相手が喜び、その様子を見て自分の喜びとする。


健全的で正の感情が連なって広がっていくその精神が育まれたのが、キリスト教圏でないことに驚きを隠せない。

隣人を愛し尊ぶことを学ぶ宗教では、神様からの教えであるから、と理由付けされてしまい、ある種の義務感を覚えるからなのかもしれない。


人が住める土地が限定されている上、自然災害大国であったからこそ、困った時はお互い様の相互扶助が生活に染み付いていたのだろう。

だから、海外からの文化を無理に取り入れようとして、失敗したのだろうな。


断絶された島国だからこそ育まれてきた文化は、建造物や伝統工芸のような、目に見えるものだけではないのに。



施設がどんなところだったかと言えば、いわゆる、蹴落とし合いだ。

サービスやホスピタリティなんて腹の足しにもならないようなものは一切なかった。

産卵率が下がった採卵養鶏(レイヤー)のごとく、不要と上が判断した者は処分される。


椅子取りゲームみたいなものだね。

食事も居住スペースも有限だから、限られたソコに収まるべく、自分の有用性を常に示さなければ生き残れない。


まぁ、そこまで殺伐としていたかと言うとそうでも無いんだけど。

処分が死であることには違いないのだが、教育の賜物というか、洗脳による効果というか。


生存権の条件に満たなかった場合は、その椅子は次の世代にお譲りするものである、と叩き込まれているから。

死が恐れるものであったり、痛くて辛いものという感覚もない。


蹴落とされた場合でも、取り乱すようなマネをする人は余りいなかった。

ゼロではなかったけどね。


余程恵まれた「スキル」でもない限り、医療設備と人員を割く価値はないと、病気になれば処分行き。

ウイルスや菌は徹底的に除去されていても、細胞の癌化は防げないからね。


定期的に行われる健康診断に引っかかれば、通知書が渡され、身支度にひと月程自由時間を与えられ、処分となる。


不思議なもので、荷物の処分さえしてしまえば、その通知書に記載された日時を前倒しして、自ら処分を申し出る人は多かった。

死が身近でなかった分、生に対する執着も薄い傾向にあったのだろう。



だから、この世界での生活は、地球から転移した人たちにはかなり苛酷なものだったと思う。


俺は死ぬ寸前、三英雄と生命の取り合いをバチバチにしていた。

イヤ、三人を殺すつもりはコッチはなかったけどね。

コチラは「スキル」を奪うために相手をある程度弱らせる必要があったし、向こうは殺されると思って抵抗するような、施設では珍しい気質の人たちだったし。


あぁ〜、イヤ。

殺されると思って抵抗した、と言うよりは俺の愚行を止めようとしていたって方が正しいかもしれない。


まぁ、そんな経験をしていたから、魔物が襲いかかってくれば抵抗しなきゃ死ぬことが分かっていたし、他の生命を奪って自分が生きられる世界の理も知っていた。


血の一滴、一筋すらろくに見たことがなかった施設出身者には、魔物の解体なんてとてもじゃないが生々しくて出来なかっただろうな、と。


食事は自分で用意するものではなく、出来上がって並べられたものを食べる権利を有するが故に提供されて当たり前のものだと思っていただろうし。

その権利云々すら考えず、意識すらしてこなかったと思うんだよね。

ないことがありえなかったから。



ソレを考えると、町長(エルネス)さんとそのご家族のもてなしは、この世界に根付いている先住民の文化なのだろうな。


客人に料理をさせるなんて、と最初は恐縮していたし。

食料の確保が難しい中でもキッチリとした食事を提供しようと尽くしてくれているし。


それはもしかしたら井戸を掘ったり、商人のオジサン(トルエバさん)が配ろうとした量では心もとないからと回復薬を追加で提供したりした、お返しのつもりなのかもしれない。

だが、当たり前だと享受するのではなく、自分の気持ちを返したいと、誰に言われるでもなく率先して行動をするその様子は、間違いなくおもてなしの心だと思う。


ほんわか、心があたたかくなって良いね。

コレはとても良いものだ。


だけど、問題はその後だ。

獣肉と違ってサッパリほろほろ口の中でくずれる柔らかい魚肉にはコッチの酒の方が合うと言って、客人ほっぽり出して酒盛りを始めるのはどうかと思うよ。

せっかく初めてのお魚料理に舌鼓をうっていたというのに、酒が入った連中はウルサくていかん。


麦があるし、町中には水車もあった。

きっとこの麦酒は輸出や販売は禁止されているが、自分たちで消費する分には製造して良し、とされているお酒なのだろうね。


カノンが勧められたとき、メチルアルコールが含まれてないかだけは鑑定した。

問題はなかったが、アルコール度数が高いものもあるのが気になった。

普段飲むところを見ないのだが、大丈夫なのだろうか。


最初に出されたのが薬草麦酒(グルートビール)で、今勧められているのが柑橘麦酒(ライトラガー)

前者はアルコール度数が一〇%を超えている。

そこそこ高い。

後者は四%程度。

その程度でも、普段飲まないと酔っ払うのではないだろうか。

……前後不覚になるカノンとか、見てみたい気もするけれど。


率先して口を付けているのが薬草麦酒(グルートビール)なので、たぶん回復薬に応用できないかな〜とか考えているのだろうね。

回復薬って青汁みたいな味がするから、少しでも飲みやすいようにしたいのだろう。

俺が飲んだ蜂蜜入りよりも、更に品質を向上させる方法を探ろうとするとは、勤勉なことだ。


俺も勧められたが、未成年ですし。

その概念はこの世界にはないようだけれど。


シナプスの動きを鈍くするわ脳ミソ萎縮させるわ、いいことないので飲みません。

特に青年期は成人の脳よりもアルコールの悪影響を受けやすいからね。

脳を痛めつけると分かっているのに飲めないよ。

脳へのダメージで「知識」にアクセス出来なくなったら、俺のアドバンテージがいちじるしく低下してしまうじゃないか。


興味自体はあるんだけどね。

麻薬の類と一緒。

一回知ったら抜け出すのにとても苦労しそうだし辞めておく。



大人連中は肴が足りないからと町長(エルネス)さん自身が追加で焼いた条鰭種(カジキ)の火の通り具合や味付けに文句を言いながら和気あいあいと飲んだっくれている。


この様子なら、作業の途中でジャマが入らなさそうなので、精霊石のカッティングと、魔物避けの機構を組み込んだアクセサリーでも作ろうかな。


絶縁体代わりの竜の鱗を土台と精霊石の間に噛ませて使う時に鱗を引き抜くタイプのもの。

ボールチェーンに土台と精霊石両方通しておいて使う時にはめ込むタイプのもの。

土台を半回転させると作動するよう紋様をズラして刻んだもの。

押しボタンのようにスイッチを押すと内部で精霊石と紋様が接触して起動するもの。


合計四種類を試作した。


ドグルスイッチのようなレバー降下タイプだと、引っ掛けた時に誤作動を起こしてしまう可能性が高いし、携帯には不向きだろう。

そう思い、五つ目の試作品作りは辞めておいた。

押しボタン式も誤作動は不安だが、安全装置を押しつつメインのボタンも押さなきゃいけない仕様なので、ドグルスイッチよりはマシかなと思って、とりあえず作った。

何よりも使いやすさが大事だからね。


精霊石のカッティングは、見た目の美しさや重量損失を最低限に抑えた不純物の除去の他にも理由がある。

光の精霊術の役割のひとつに四属性の効果の底上げがあるそうなのだが、適切なカットを施すと、精霊石の内部で陽光――光の精霊の恩恵が反射を起こし、内包された精霊の力と効果を増幅してくれる。


透明度の低い精霊石が青系や黒系に多いのは、ルーメンとの相性の問題か。


不透明な精霊石は内包エネルギーの外部出力には向いていないが、所有者を守るお守りとしては効果が高い。

閉じ込められているエネルギーが上手く循環できるよう形を整えるよう半球状にカットするのが良いそうだ。


理由はどうであれ、透明なものはファセットカット、半透明・不透明なものはカボションカットにすべし、というのは宝石と変わらない。

それぞれの輝きを最大限に引き出せば良いのだから。



テーブル側とパビリオン側の組み合わせで輝き方は随分変わる。

知っていても実物をほとんど見たことがないので、「知識」の情報を元に何が適切なのか模索しながら「スキル」でカッティングしていきましょうかね。


不要な部分を「破壊」すれば良いだけなので、職人のような研鑽された技術がなくてもあっという間に量産出来るのは楽で良いな。

細かい作業は腰と目を痛めるからね。


だが、ルビーやエメラルドは発色がキレイに出るように、ダイヤモンドは煌めきを最大限に引き出せるようにするファセット面の、角度と削り出す配置と種類の定型はあっても、それはあくまで量産する時のベターな形。


ベストな組み合わせと研磨の仕方となると、やはりそれは専門職の領域なのだろうね。


永遠の輝き、と称されるような煌めきとは程遠いものにしか仕上がらなかった。

まぁ、それでも見目は決して悪くないのだけど。

けど、もっとこれ以上があるのだろうなと思うと、ちょっと悔しい。

器用貧乏にしかなれないことが。



いつの世も、女性と商人は光り物が好きらしい。

精霊石に負けない位に目を輝かせた町長(エルネス)さんの奥さんと娘さん、あと商人のオジサン(トルエバさん)が手元を覗き込んできた。


直径5mmにも満たない小さな欠片が大半を占めるが、皆の目にも精霊石は魅力的に見えるらしい。


「お星様みたい!」


床に散らばった色とりどりの精霊石は、確かに夜空に輝く星みたいに煌めいて見える。


子供というのは素直だね。

俺とそう歳変わらんけど。


一宿一飯の恩義と言うことで、試作品だからキチンと効果が得られるかは分からないけど、渡しても良いか。

装飾品としても見栄えは良い。

ふと目に入った時に笑顔が生まれるなら、それだけでも充分な価値になる。


この世界で女性は家事を担当することが多い。

指輪だと邪魔になったり指の太さが変わったりして付けられなくなりやすいし、腕輪が良いかな。


コッソリ大きめの精霊石は手の中に隠し、この中でどの精霊石が一番好きか聞けば、キョロキョロ当たりを見回し首を傾げつつも「これ〜」と選んだ。


きっと雫型にカットした琥珀か、六芒星カットしたターコイズかを狙っていたに違いない。

琥珀はテルモにあげるつもりだし、ターコイズは魔物避けに使うのだ。

渡せない。

隠して良かった。


奥さんにもご遠慮なく、と選ぶよう促せば、商人のオジサン(トルエバさん)が我先にと手を伸ばしてきたので叩き落として阻止をした。

レディファーストという言葉を知らんのか。

……知らないか。


娘さんはダイヤのような輝きの中に少し緑色が混ざった、転がっている中では大きめの精霊石を選んだ。

大きい方がキレイに見えるもんね。

オマケに小さな粒を両端に連ねて腕輪を作った。

度台の金属に風の付与を施したので、魔物除け力がアップすると良いな。


奥さんはペリドットのような明るい緑色の粒を選んだので、せっかくだから夫婦揃いで腕輪を作った。

ペリドットの石言葉が夫婦円満とか愛の象徴らしいし、ピッタリかなと。

少し年齢を重ねている二人なので、台座には疲労回復効果を付与しておいた。


アクセサリーにも魔物素材の効果を付与して、武器防具のようにキチンと効果を発してくれるなら、そういう職人さんを増やして一般人の安全面強化を図りたいじゃん。


(オルトゥス)では食事で使える霊力が強化されるかも、という仮説が上がった。

もしそうなら付与が出来る人も増えるってことだし。

そういう人たちの働き口を確保するためにも、色んな実験をしておきたい。


商人のオジサン(トルエバさん)は問答無用で商売繁盛の効果を持つと言われているタイガーアイみたいな見た目の、不透明だが大きめの石で指輪を拵えた。

この歳で指輪のサイズが大きく変化することはないだろうし。

女性みたいに家事をするわけでもないのだからジャマにはならない。


だが、効果を説明しても煌びやかな精霊石を諦めきれなかったようで、チラチラ視線がうるさかったので、結局小さな石を連ねた指輪も贈ることにした。


……恋人でも家族でもなんでもないオッサンに指輪を最初に贈ると言う事実が許せなかったので、大きさを調整する前に、カノンを呼びつけ各属性の精霊石全てを埋め込んだ指輪と腕輪を押し付けた。


三英雄の息子なのだ。

俺の家族枠に入れたとしても問題なかろう。

コレで赤の他人に贈る前に身近な人に贈った実績が作れたね。


自分よりも豪華な指輪を嵌めるカノンの手元を見た商人のオジサン(トルエバさん)と、酒が入って遠慮が消え失せたアルベルトが「い〜な〜」と合唱するのを聞く羽目になったが。

よくよく見れば、商人のオジサン(トルエバさん)も顔が少し赤らんでいる。


酔っ払いってタチが悪いと聞くけど本当だな。

適当にあしらおうとすればするほど絡まれる。


えぇい、鬱陶しい!

サッサと寝落ちろ!!




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