神さま、付与を試せず。
怪我をさせてしまったことを深くお詫びしたら、さっきの腕の傷をよく覚えておくように、と想定していない言葉を返された。
嫌味や愚痴のひとつは返ってくると覚悟していたのだが。
ところで、詫びの言葉は受け取っては貰えないのでせぅか。
精霊術は人ならざる偉大な存在の、自然を司る力のその一端を借り受けて人間が行使するものだ。
自然の力は神々の御力とも言える、強大な、本来人間のような矮小な生物が扱えるようなものではない。
それを行使するのだ。
精霊術の研究や伝授の際の怪我は、結構しょっちゅうよくあることなのだそうだ。
だから気にする必要性が微塵もないと。
だからこそ、回復薬の追加を作ろうと思い、新しく作ったばかりだったが、昨晩薬草をさらに干したのだそうだ。
あ、雑用させたかったとか、回復薬の納品分はもっと沢山いるとかそういうお話ではなかったのね。
回復薬は何ヶ月と日持ちするものではない。
それを考えれば食料の残量的に10日後に納品分を作る予定だと言われた。
むしろ、回復薬を用意し忘れてたと言って驚かせたことを侘びられた。
そして回復薬が詰められた試験管を幾つか棚の中から出してきた。
また怪我をするの、決定事項なの?
精霊術を使う時に精霊の反感を買ったり、付与の時素材から引き出した霊力の制御に失敗し反発を喰らったりすると、先程のような身体の内部から壊れるような怪我をする。
精霊術は親から子へ、その素質が受け継がれるものだからなのか、特に血管の損傷が激しい傾向にある。
確かに、治すとき1番苦労したのは血管だったな。
爆発でもしたの? って疑問に思うレベルで指先の原型とどめてなかったんだよね。
個人の霊力の質や力を貸して貰う精霊の性格、またお互いの相性によって行き来する必要な霊力は変わってくる。
カノンがコップ一杯の水を精霊に頼んで出して貰う時に必要な霊力の量は、俺がコップ一杯の水を頼む時と、起こる事象や結果は同じでも違ってくる。
カノンは霊力の質が風に偏っているから、水と土の精霊術を使う時に必要な霊力が多い傾向にあるそうだ。
回復薬ホイホイ作ってるから水の精霊術が得意かと思いきや、違うらしい。
ロウソクに火を灯す。
その灯した火を消す。
土塊でコップを作る。
コップ1杯の水を出す。
それぞれ、だいたい同じ位の霊力が必要だよね。
その中でも得意な属性の精霊の力を使う時は自分の中の霊力の減る量が気持ち少ないような気がするね。
という聞き取りによる統計ならあるそうだが、正直微々たる差でしかないし、苦手な精霊術でも反復練習をしていれば自ずと消費霊力は減る。
なので「他人と比べて自分はこの精霊術を使う時どれだけの霊力を消費するのか」ではなく「自分はこの精霊術を使う時どれだけの霊力を消費するのか」を覚えなければならない。
他人と比べるのは危険なのだ。
力を行使してくれた精霊に対し、霊力を多く渡す分には基本的には問題ない。
だが、霊力が枯渇した場合、昏倒や最悪死に至るので魔物が生息する場所で残り霊力の配分を間違えないように気を付けるべきなのだ。
死体さえ家族の元に帰らないことは、悲しいかなよくある事だが、だからと言ってそうして良い訳では決してない。
それに霊力の枯渇はだいぶシンドい。
目眩・頭痛・倦怠感・関節痛・各種幻覚・空腹感・etc.....様々な症状が襲ってくる。
精霊術を多く使った時は自分の体調の変化をよくよく観察することが大事だと言われた。
稀に無遠慮な精霊がいるので、渡したら渡されるだけ調子に乗って霊力を術者から吸い取って食い尽くされてしまうパターンもあるそうだ。
なので、「自分はこの術使う時はこれ位の霊力渡しますよ。むしろこれしか渡さないから追加請求とかしないでくださいね」と念じながら精霊を呼び出した方がいいそうだ。
世知辛い。
多く霊力を渡しすぎてもいけない理由の一つに、似たような性質の霊力を持っている別の精霊術士に対し「前の人は同じ術発動させた時10の霊力くれたのにお前は5の霊力しかくれないのか!」と精霊の怒りを買ってしまう事件が発生してしまうといけないから、と言う配慮もあるそうだ。
精霊の怒りは術者のみならず、見境なく人間に及ぼされるから。
過去の文献には、真偽は確かではないが精霊の怒りを買った国が瞬きするほんの一瞬で滅ぼされた、という伝承もあるそうだ。
自然の力をそのままマルっと人間に貸してしまえるような力を持っているのなら、確かに風の精霊が竜巻起こしたり、水の精霊が洪水を起こしたりすれば、さすがに一瞬は大袈裟でも短時間で街ひとつ壊滅させるくらいは出来そうだよね。
それを考えると、ルールの整備と、精霊術の一覧と消費する霊力目安の早見表の作成をしたほうが良いのではなかろうか。
さっきカノンに誘導して貰って霊力を外に放出する感覚は分かった。
だが、それを数値化することも適量精霊に渡すと言う行為も全く掴めない。
再度を手を合わせ霊力の誘導をして貰う。
流れる方へエネルギーを押し出したり、気を抜いて自然に流れるまま放置してもダメなようだ。
前者はさっきやってしまったように、カノンの手が死ぬ。
後者は、最初は良くても徐々に流れに勢いがついてしばらく後に結局カノンの手が死ぬ。
用意された回復薬だけでは完治には至らず「スキル」を再度使うことになった。
やはり、俺の怪我の治りの早さは回復薬のおかげではなかったようだ。
単なる飲み薬で急速に骨が生えたり傷が塞がったりする不思議な効果があるのだけでも驚きなんだけどね。
幾度か繰り返し上達すれば良かったのだけど、残念ながら俺の霊力の扱いが上手くなるよりも先にカノンの胃袋の限界が来た。
そりゃ1本の量は少なかったとしても、何本も飲めばお腹いっぱいになるよね。
回復薬って不味いし、お腹溜まるの早そうだから余計に。
あの酸っぱ甘苦い薬を何度も飲ませることになったのに全然感覚が掴めない。
自分のことは結構小器用な人間だと思っていたのだけれど。
どうやらこの世界では通用しないようだ。
本当に、微塵も分からないのだ。
あ、なんか今自分の体から出たな〜程度の感覚で、意図せず出たスカシッペの如く、止めようと思って止められるものではなかったし、んじゃ反対にもっと勢いよく出そう! と思っても上手くいかない。
前途多難である。
今の俺はケレップの装着されてない蛇口みたいなもので、基本霊力が垂れ流れっぱなし。
流そうと思うと水栓の調節が効かず常に最大までレバーを下げた状態に一気になってしまう。
微調節が一切出来ないのだ。
紋様具に霊力を込める時になんの感覚もしなかったのは、常にたれ流れている霊力で道具を扱うに充分足り得る量が賄えたからだったようだ。
付与は霊力が低い人間でも行えるが、霊力が多すぎる人間がどのようにすれば良いのかは、残念ながら分からないそうだ。
使える術者の絶対数が少ないと思う言っていたから、経験談もなかなか集まらないだろうし、仕方ないよね。
カノンも霊力が多い方なのだそうだが、幼い頃から扱ってきたため全く制御が出来ない人がどうすれば制御出来るようになるのか分からないと困惑していた。
記憶が戻れば扱えるようになるかもしれないし、と慰められたがそもそも記憶喪失自体が嘘ですからね。
とりあえず、カノンが小さい頃やっていた制御の練習方法を片っ端からやろうと言う話で落ち着いた。
結局、自分で自分の防具を作ることは出来ないので「これをこうしたかった」と希望と要望を伝えると、カノンがその通りに付与をしてくれた。
基本風属性付与の軽量化。
追加ですね当ては速度加速をつけて蹴り技使ったり走ったりする時の威力を向上。
カノンが縫ってくれたジャケットの胸と胴部分は表面が、素材になった魔物の特性上攻撃を吸収してくれるとの事だったので裏地に耐性強化を付与してもらった。
冒険初心者にはお値段的に過ぎた装備ではあるが、防御力がとにかく低い。
本当に大丈夫なのか心配されたが、攻撃なんて当たらなければいいのだ。
問題ない。
装備はなんの問題もないのだが、なんだかんだ言っても出来るだろうと舐めて考えていた付与が微塵もできない、と言うかスタート地点に立つことすら出来なかったのがショックだ。
「初めてなのだからできなくても仕方ない」と慰めてくれたカノンには申し訳ないのだけれど、それを良しとされる環境にいなかったので、正直、胃痛を覚える。
初めてのモノづくりは苦い失敗談で終わってしまった。




