神さま、目敏く起きる。
改めて買ってもらったジュースを飲みながら、暗くなるまで馬車の改造の続きをする。
足回りはダンジョンに行く前にしたけど、中身は材料がなくてまだ出来ていなかったから。
材料を買ってくるのは木材屋で良いよ、と商人のオジサンに言ってあった。
本当に大丈夫なのか、再三確認を取られたが、精霊術でどうとでもなると伝えると、精霊術の便利さに閉口した。
今からでも教会の門を叩くべきかと悩み出したので、それだけは辞めておけと言っておいた。
精霊を崇めるのは良いけど、今はまだ辞めておくべきでしょ。
問題が解決したらどうぞ、どうぞ。
ご自由に。
外壁への運搬料は取られたが、それでも材木屋で買うよりはコストが抑えられたようだ。
手間はかかるが、製図通りのものが本当に出来上がるなら、本来はこの十倍以上のお金が掛かるのだと鼻息を荒くしている。
書き起こした通りに作れれば、ね。
ガンバリマス。
木材屋は原木とか丸太とか、あまり加工していない状態の伐採した木を扱っている所。
材木やはその原木を乾燥させたり加工したりして、すぐに使える状態にして販売している所。
加工賃が入っていない分、木材屋の方が安い。
俺は「スキル」でも精霊術でも、いくらでも使って加工できるからね。
カノンとアルベルトに正体を明かした今、影でコッソリ誤魔化しながら「スキル」を使う必要はなくなった。
便利なものは使えば良いのさ。
葉節の少ない、質の良い木材を選んでくれたんだな。
そんなことを思いながら、手をかざして水分を抜く。
生木を乾燥させるのは初めてのことじゃない。
慣れたもんで、あっという間に外皮が硬くなっていく。
木の形と風合いをそのまま使うなら、鬼皮を剥いて皮肌を磨くけど、机を作るわけじゃないしな。
木材は十文字挽きで良いのかな。
建築用の材木が欲しいんじゃないし、そんな厚みのある材木はいらない。
米字挽きでも立派になりすぎる。
安くおさえたいのだから、多少木の模様が不格好でも良いだろう。
丸太中心の髄は避けて、縦横斜め、あらゆる方向から取れるだけ材木を取る。
人の目につきやすい部分は、綺麗に細かい木目が入っている糸柾目を使うけど。
どんな杢目が出ても、それもひとつの味だろう。
自然が作り出した年輪の模様は、人それぞれ好みはあるかもしれないが、どれも美しい。
パッと分解し、キレイな杢目の板は避け、それ以外の材木を更に細かいパーツに分解していく。
DIYと言うよりも、プラモデルでもしている気分だ。
商人のオジサンは大工仕事はからっきしだけど、せめて出来ることをしたいと申し出てくれたので、角をヤスリがけをお願いした。
だが、「スキル」で次から次へと用意され山となっていく部品に「早すぎる!」と文句を言われた。
ちゃんと俺も後でヤスリがけ手伝うから。
その他、設計図通りに取り外し可能な棚受けや、折りたたみが出来るよう蝶番を金属から作り出す。
ゼロから作ると大変だけど、金属から別の形の金属を形成するのはカンタンだ。
あっという間に終わった。
俺たちと別れたあとも商人のオジサンはこの馬車を使い続ける。
彼が使いやすい高さを話し合いながら部品を組み立て、取り付け、固定する部分は釘でしっかり打ち付ける。
素人仕事なので、せめて安全面に配慮して釘は多めに打っておいた。
だって人が寝転んだり座ったりするんだもの。
万が一があっては困る。
計算上は合っていても、この世界は林業という概念そのものがない。
木を間引いたり、成長過程で枝打ちしたりしていない。
野生の木の強度が、キチンと管理されて育てられた木の強度とどれほど違うのかが、俺には分からない。
魔物と一緒で樹木もこの世界の方が強いって言うなら安心なんだけどね。
そんなの、木の種類によるとしか言えないわけですし。
霊力がこもっている聖木なんかは、細い枝でも、叩きつけても折れないくらいに強度が高い。
つまり霊力が大量に込められる木は強い傾向にある。
だがそれも、霊力を抜けばただの木だ。
叩けば割れるし釘も打てる。
あぁ、霊木から霊力を極限まで抜いた後に形成して、その後また霊力を込めたら強い家具が出来そうだね。
余裕が出来たら実験してみよう。
その衝撃に耐えうる釘も必要になるが。
木組み工法で家や家具を作れれば良いが、アレは匠の技だからねぇ。
知識があっても、実際に作ろうとしても難しいよ。
トニさんとの連絡はカノンがとってくれて、無事明日、二の鐘で第一陣が出発することになった。
二の鐘って、かなり早いね。
朝の七時とかだよ。
門が開くと同時に、トニさんたち正規の移民組が王都から出る手続きをする。
コッソリ移住する人たちは、その前に秘密の通路で城壁外に移動することとなる。
トニさんたちの護衛として雇われた冒険者たちとして、一緒に街道に出る手筈だからね。
スムーズに行動できないと怪しまれてしまう。
なので、俺たちが行動し始めるのは一の鐘が鳴る頃か、もしくは更にその前。
未明からだね。
……早起きできる自信がない。
寝ずに起きているべきだろうか。
俺以外は夜明け前から行動するのに慣れている。
そのため子供は寝ていろと言われたので、遠慮なく起こされるまでは寝ていよう。
なぜそんな朝早くから、と疑問に思うよね。
餓死者が出ないよう焦らずに済むように、肉の大盤振る舞いをしていたわけだし。
そう。
俺たちの路銀稼ぎも理由の一つではあったのだが、何より保護を必要とする人たちへの救済活動の一環として、アレだけの規模で魔物を大量に狩ったのだ。
元気な人は城郭に登って俺の戦う様子を見学出来ただろう。
実際多くの観客がいたそうだ。
魔物が襲ってきても、それを対処できる人がいる、という事実は人民に活力を与えただろう。
多くの人の目が外部へ向けば、食糧難の人たちにも食べ物を振る舞いやすくなる。
トニさんたちには、適当に理由をつけて買えないような人達にも分けてあげてって言っておいた。
実際、有志が炊き出しもしたそうだし。
普段食べられないような人にも行き渡るよう、手は尽くしたと思うのだけど。
だが、俺の見通しが甘かった。
お祭り騒ぎに参加しなかったとしても、炊き出しにはどんな人でも来ると思っていた。
タダだしさ。
現実は、想像以上に逼迫していた。
家からもう出られないレベルの人が中にはいたのだ。
当然、炊き出しになんて来れるわけがない。
肉体的な衰弱からか、精神的な孤立のせいか、その両方か。
ろくに食べてこなかった人なんかに、ガッツリ肉を食べて消化するだけの健康な臓器は備わっていない。
そういう人がいると、カノンとトニさんは人伝で聞いた。
最近、見かけない人がいると。
現場に急行し、薄めた回復薬を飲ませて現在、命は繋いでいるが、胎児がかなり危ない状態である。
母親も飢餓状態の中、失礼な言い方になるが、よく流れなかったなと思う。
ワラの上に破れた布を敷いただけの布団の上では、体力もなかなか回復しないだろう。
そういう人が他にもいないか聞き込みをしたら、十人弱、緊急搬送するべきであると判断した人がいた。
ある程度育った子供なら、労力として使えるから保護されることが多いそうなのだが……
体調の回復が見込めないからと、兄しか保護して貰えなかったと語る子もいる。
クソが。
子供なら小さいし、折りたたみのベッドを開いた状態で寝かせながら移動させても、ギリギリなんとかなるだろう。
イヤ、やってみなきゃ分からないけど。
そんな状態では座らせて移動するのもシンドいだろう。
少しくらい窮屈な思いをしても、我慢して欲しい。
カノンの回復薬でどれくらい体力が戻っているかだよね。
早朝に出発したとしても、馬車に揺られるのは、健常な人間でも不慣れだと耐力を消耗する。
様子を見ながら、ゆっくり移動しなければならないかもしれないな。
さすがに鎧牛は買えなかったが、シュケイの有精卵は買えた。
無事に孵るかも分からないので、とりあえず十個購入。
全部雄じゃないことを祈る。
一度にこの量を買うのは珍しいなと、店主に声をかけられた。
基本自産自消なので、この時間だし、夕飯に使うには多いな、と疑問に思ったようだ。
別の街から来たことと、孵化させたいことを言うと、孵った時にキチンと聖水をあげて育てないと、先祖返りをしてかなり凶暴になるから要注意だぞと言われた。
聖水ってそんな一般流通しているものではないのに、その注意は効力があるのか?
オレの場合は精霊術でどうとでもなるけど。
お礼ついでに肉も買ったら喜ばれた。
俺が仕留めた魔物の肉のせいで、大量に余ってしまっているそうだ。
加工すれば良いが、その手間もかかるから在庫が減るのは助かるのだと。
申し訳ないので、冒険者たちに食べさせる分の肉も追加購入した。
大荷物になったので紐でまとめてくれたのだが、むき身のまま、肉の断面図もモロに見える状態で渡されるのには驚いた。
衛生観念をご存じないようだ。
こんな状態でも疫病の類が発生しないのは、精霊のおかげなのかねぇ。
塩や香辛料の類は肉祭りのせいで完売御礼。
残念ながら買えなかった。
だが、しかし!
それを見越していたカノンが大量にではないが、買っておいてくれたのだ!!
よっ! 大統領!!
ネタが通じなくて思いっ切り冷たい空気が漂ったけど。
大統領って役職を持っている人間はこの世界にいないのだから通じなくても当然である。
だからといって掛け声で国王なんて言えないしね。
いくらその正体が、見た目幼女の中身セクハラ気質なオッサンとはいえ、不敬にも程がある。
普通の一般人でもなれる役職で一番位が高い人はなんて言うんだろ。
日用品や食料品店しか買っていないし、最低限の店しか見ていないが、買い物というのはなかなかに楽しいと学んだ。
見るだけでも初めてのことだらけなのに、買った商品は自分で持たなきゃいけないから重たいし、スリに合いそうになるから足元以外も気を付けて歩かなきゃいけないし。
気を休める暇がなくてなかなかに大変だ。
でも、それ以上にワクワクする。
天井がない世界というだけでも感動するのに、そこを当たり前に沢山の人が闊歩している。
夢みたいだ。
人が多い所を歩くのって凄い刺激になる。
遠慮してたら前に進めないし、ドンドン流されて後退してしまうのも初めての体験だ。
肉の大盤振る舞いによる効果だから、普段はもう少し人通りは大人しいそうだが。
ならば余計に今、今日体験できて良かった。
王都でそんな状態だと、他の町だと経験できなかったかもしれないんだもんね。
変なことに感動するやつだなとアルベルトには笑われたが、オレからしてみればこの世界が俺の常識からズレている。
変なのはコチラの方なのだよ。
必要物資は申請制で許可が降りたものだけ配給される。
食事は決まったものと栄養剤。
たまに二種類のうちどちらが良いか、選ぶことは出来たけど、稀にだし。
魔物の肉は見た目を思い出すと少々食べるのに勇気がいるが、熟成もされていない野味溢れる大きな塊肉に、皆何も疑問に思うことなく当たり前に食べている様子も、とてもおかしい。
そこに紛れて同じように肉にかぶりつくと、この世界に参加出来ている気分が楽しめる。
髪色を偽り、自分の力を誤魔化しとしているが、この世界に参画できていることが嬉しい。
カノンも浮世離れしているからね。
彼と共に行動していても、世界に馴染んだ感覚がイマイチ得られなかったのだ。
それが今、現地の人と火を囲んで談笑しながら食事を共にしている。
なんだかとってもこの世界の一員として生活出来ている気分に浸れて良いね。
裏では半径十m四方に展開している防護壁に近づく魔物を、人知れずことごとく蹴散らしているけれど。
倒したら後処理しなきゃだから。
風で吹き飛ばしているだけだよ。
明日、失敗したらどうしよう、だなんて誰も言わない。
そうなっても自分の責任ではないと思っているからだろう。
自分と他人の境界線をキチンと引けている証拠だ。
手助けはするが、それは依頼されたからだ、とある種の開き直りをしている。
助けられるならばそれに越したことはない。
だが、助けられなかったとしても致し方ない。
そう考えられるのだろう。
俺がそう考えられないのは……出来れば、すべての人を助けたいと思ってしまうのは、この世界では異質なのだろうな。
でも、この考え方は、改めたくない。
この世界から浮く要因だとしても。
俺が、俺である限り。
少しは緊張していたのか、カノンたちが身支度をしている物音で目が覚めた。
普段なら、その程度の音ではこの時間だと起きないんだけどね。
大きなあくびをしたら苦笑されたが、起きれたことは褒められた。
そうそう。
そうやって褒めてくれた方が伸びるタイプだから。
是非今後もそうやって褒め称えてくれたまえ。
再び大きなあくびをして、俺は装備の類は付けずに馬車の荷台から降りた。
コレから会うのは、荒事とは無縁な堅牢な城郭に囲まれた世界しか知らない人。
しかも大半が子供と女性だ。
安心して道中任せられると判断してもらうための要員として、武力派だと一目見て分かる人は沢山いる。
アルベルト、そのほか護衛依頼をした冒険者のひとたち、総勢十名。
だが、打ち解け慣れてもらうための顔馴染みはトニさんしかいない。
カノンは二つ名こと有名だが、顔はあまり知られていない。
下手に名乗られると何かの詐欺かと疑われてしまうかもしれないから、彼には素性を隠してもらうことにした。
普段も別にわざわざ名乗ったりしていないって言っていたし、問題ないだろう。
カノンには、壁から脱走してきた人たちの、馬車への誘導に回ってもらう。
認識阻害の精霊術を使えるから、避難民が移動に多少まごついても誤魔化すことができるし、魔物に襲われそうになっても一人で対処出来る。
そうなると誰が内緒の出入り口を使って壁の中に迎えに行くのか。
消去法で、俺が適任になるのだ。
出迎えは友好的で人畜無害そうな人が良い。
警戒されては行動に支障が出るからね。
なのでいかにもな装備は全て置いていく。
狭い壁の穴を抜けるのも大変になるし。
俺も認識阻害の術が使える。
それに万が一警吏に見つかっても、相手に怪我をさせずに無力化できる。
見つかってしまうと、第二弾の移住計画が難しくなるから、見つからないのが一番だけどね。
……まぁ、そんなことを考えれば勝手に立ってしまうのがフラグというものだよね。




