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もと神さま、新世界で気ままに2ndライフを堪能する  作者: 可燃物


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神さま、醸造する。




ヤマトの国もナデシコの花も存在しないこの世界で、このセリフを言うのはどうかと我ながら思う。

だが、女性相手に美称としてその言葉を使うことくらいは許して欲しい。


特に彼女は唯一と言っても過言では無い、生粋の日本人なのだから。


「大和撫子が異性の裸見て喜ぶな!

 ……見なけりゃ良いってもんじゃないんだよ、触るな!!」


「あら、どのような傷か診なければ貴方様が転生体なのか転移体なのか、何も判断出来ないではありませんか。

 致し方のないことなのです」


「顔と言動が一致してない!!!」


手をワキワキと動かし、ヨダレが垂れそうなほどだらしなく開かれ口角の上がった口からは、悪代官のごとく「よいではないか、よいではないか」と同じ言葉が繰り返される。


暫くそんな状態で追いかけっこをしていたのだが、うるさかったからか、カノンに後ろから羽交い締めに捕獲された。


胸元の霊玉がひゃっこい!

押し当てるな!!


ジタジタと抵抗を続ける俺を押さえつけるため、アルベルトまで参加して手足を持ち上げられ机に拘束された。

あ〜れ〜。


それは冗談として、裸のまま磔にされるのは、気分的に許容したくない。

何より耳元で「え? 本当に男だったの? え?」とか言って裸体をガン見してくる、目が血走ってるアルベルトがガチで怖い。

コイツの気が迷走しているウチに頼む、早く終わってくれ〜。



身体の隅々まで診られて、汚された気分だ。

うっうっ。

純潔なんてとうに散っているが、ヨヨとわざとらしく泣き伏したくなる。


アリアの眼で見てもらって分かったのは、内臓疾患はないこと。

健康なのは良いことだ。


うん。

そうじゃないでしょ。


しっかり貫かれた心臓は、その形跡自体はあるものの、現在跡形もなく修復していること。

つまり、この肉体は転生体ではなく転移体であると結論づけられた。


だがその心臓だが、修復した際に高濃度の霊力に晒されたため、霊玉と一体化した状態、もしくは一部霊玉化しているらしい。

生の心臓と同様、キチンと鼓動はしているそうだが。


身体の内部に巨大な霊玉があるので、外部に霊力の貯蔵機構を持ち歩かなければならない人よりも、多くの霊力を扱えるのだろう。


心臓と同等の大きさなら、おおよそ拳大だ。

ダンジョンを創り出せるほどの力を蓄積させられる魔石だった、カノンの杖の霊玉と同じくらいのサイズ。

そりゃ桁外れの霊力値が測定されるわな。


精霊術を扱うための臓器として、人の肉体にも霊玉があるとされているが、一般的には小指の爪程の大きさだと言われている。

死んだあとは教会で漏れなく火葬されるので残らない。


言われている、というだけで実際はどうか分からないけどね。

教会の教えが広がっていくにつれて、外科手術も解剖学も廃れていってしまったから。


カノンの家にあった本が、たぶん、唯一だろうと言われている。

王宮内で、クロノスの守護の封印が施されているからといって、ココが確実に安全かと言われたら否である。

クーデターでも起きたら真っ先に狙われる場所だからね。


なので後世に残すべき、希少な本は避難させてあるそうだ。

本当はここに置いてある本は全部運びたいそうなのだけどね。


本は重たいし、場所もとる。

運ぶのは何度も往復すればいぜれ終わるが、置き場所がない。

家の拡張をしないと、難しいだろうね。



さすがにアリアには、何故俺が、どうして今頃、このタイミングでこの世界に転移をしたのかまでは分からない。


心臓の治り方を見て、治癒術や回復薬で治療出来る度合いを超えていることから、この世界に転移した後、精霊が治したのだろうと予測しただけだ。


じゃあ誰が? という疑問が出てくる。


クロノスが手を出した可能性は低い。

アイツも時間を操れるけれど、ちょっとベクトルが違うんだよね。

再生も早送りも、カレが得意とすることからは外れる。

それに、この世界と地球のドッキングに、今も尚能力を全振りし続けているだろうから、そんな余裕ないでしょ。


だからといって、他の精霊の皆にそれだけの力があるかと言うと、微妙である。

霊力の総量としては問題ないが、能力がない。

この世界の神様から与えられた力によって、癒す力を全員漏れなく持っているが、祝福という形で人にもたらされる、些細な現象でしかない。

致命傷を治せるだけの治癒能力は持っていない。


傷を治すのが得意な光と風。

ちなみにルーメンはその上で精神的な安定も促してくれる。

解毒が得意な地。

血液をコントロールできる水。

解熱お呼び代謝促進してくれる火。


皆がいっせーのーで俺に祝福を与えてくれたとしても、ぶち抜かれた心臓を修復するのは不可能だ。


俺が自分の力で無意識に治した可能性も、ゼロではない。

ゼロではないが……限りなくそれに近い。


「完全再生」の治り方とは違うんだよね。

アレは指定したモノの時間の巻き戻し、及び早送りをする「スキル」だから。


巻き戻したのなら、そもそも傷自体が残らない。

どっちみち、流れ出た血液は戻らないので出血多量により死ぬ運命だし。


早送りをするだけだと、いくら傷が塞がっても、それまでに流した血液の量が多すぎたから、結局死んでいただろう。


可能性として最も高いのは、俺が自分で自分の血液を「創造」しながら「再生」したってことなんだけど……やはり、可能性は低いんだよね。

無意識に生成出来るほど、人体は単純な作りをしていない。


それに俺は死の瞬間、自分の手持ちの「スキル」も力も全て出し切った。

生命力も全て捧げて計画を遂行したのだ。


いくら心残りがあったとはいえ、そんな自分勝手な理由で中途半端なことはしない。

他人の生命も巻き込んでいるのだ。

当然だろう。


考えたって答えが出ないのならば、致し方ない。

せっかく生き返ったのだから、第二の人生を謳歌する決意は変わらない。

それに普通の肉体では無くなってしまった事実はあるのだ。

不具合が出ないように自分の肉体の状態把握に務めなければだね。



またすぐに旅立つことへのお詫びとして、ダンジョンで入手したクマ公のぬいぐるみはアリアに渡した。

俺はもう、抱きぐるみがなければ寝れないような歳ではないし!

旅に連れていくには大きすぎて邪魔だからね。


なにより、アリアに似合っている。


「……お兄様が持ってゆかなくて宜しいの?」


「え、カノンってカワイイもの好きなの?」


似合わねぇ! と全力で引いたらアイアンクローをかまされた。

痛い痛い、割れる、漏れちゃう。


まふっと抱いて嬉しそうにお礼を言うさまは、とても愛らしい。

例えカノンが可愛いものを好きだとしても、もうアリアに渡したのだから取り上げるなよ、と没収しようとしたら阻止することを心に決めた。

人の趣味にとやかく言うつもりはないが、このクマはアリアにこそふさわしい。


新たに作った防護壁を展開する装置は、無事に大気中の霊力を使って常時起動しているようだ。

挙動の確認もついでに出来て良かった。



肉の大盤振る舞いは城下町でまだ続いていた。

大きな熟成樽まで通路に運び出され、大人連中は酒盛りをし、顔を赤らめている。

完全にお祭り騒ぎだな。


そっか。

娯楽のひとつに飲酒があるよな。

飲める年齢じゃないから失念していたけど、(オルトゥス)でもお酒を作った方が良いのかな。


樹の妖精(ドリュアス)の実を使ったお酒とかどうだろう。

木の実や果物感覚で果実種を作れないだろうか。


ただ実自体がすっごく希少だしね。

街ならではの限定感満載で良いだろうけど、量が定期的に採れるかまだ分からないし。

難しいか。


畑の作物にばかり気を取られて、果樹の類は全然植えていない。

どうせ一度は(オルトゥス)に戻るのだ。

パッと植えるのも手か?


イヤ、世話が出来なければイタズラに植えても意味がない。

むしろモノによってはマイナスになりかねない。

計画が練られないなら辞めておこう。


キウイフルーツなんかは、繁殖力が強いから土壌の栄養をことごとく吸い取っていく。

周りに弱い木があると枯らしてしまうのだ。

当然、畑の栄養も食い散らかすだろう。


オスとメスを植えなきゃいけないし。

害虫が付きにくいメリットはあるが、他の世話がとにかく大変。

糖度を高めたいなら間引きもかなりしなければならないし。


果樹は剪定も一苦労だ。

枝を伸ばすことに栄養を使いすぎては実が育たない。

かといって枝を切りすぎては葉がつかず光合成の効率が悪くなり、実に栄養がいかなくなる。


果樹はとてつもなく手間がかかる。


あの樽の中身はウイスキーだろうか。

ワインだろうか。


後者なら、是非とも取引をしている果樹園を教えて頂きたいものだ。

そしてそこの人をスカウトしたい。


休眠期の冬が剪定に適しているとか、混み合った枝を切り落とすとか、言葉では説明出来る。

だが俺ではその混み合った枝とはドレを差すのかは分からない。

だって生の木を見たのも触ったのも、この世界に来てからだし。

知識しかないから指導が出来ないんだよ。


その道のプロに教授して貰えるならそれに超したことはない。


癒合剤ってこの世界にあるのかな。

植物のキズぐすりみたいなもので、剪定した枝から栄養分が抜けていったり、病気になりにくくするための薬。

人の身体と同じで、傷口から雑菌が入ったら木も病気になったり腐ったりしちゃうのだよ。

それを防ぐ効果がある。


融合剤の作り方と引き換えに、若くて良いのを一人か二人、(オルトゥス)にくれないかな。



「何またろくでもないことを考えているんだ」


(オルトゥス)の特産物を増やす算段をしていただけなのに。

勘違いも甚だしい。


だが、お酒作りの計画を立てていることを話したら、「やはりろくでもないことを……」と言われた。

なにゆえ。



ビールもワインもきちんとあるが、この世界では販売が制限されているらしい。


健康への害があったり、社会的な弊害を生むことは経験則で分かるだろう。

販売対象年齢を何歳以上に指定するとか、アルコールは度数が高いと引火性が高くなる危険物だから、国や自治体が許可を出した人じゃないと販売できないとか。


飲むのは酒場か自宅に限られるとか……あぁ、普通に路上で今現在飲んでる人がいるのだから、それはないか。


一部の農村では自家製ビールを作っている所もある。

ただし、ソレの販売は禁じられている。

作るのは自由だが、売る方はアレコレしがらみがあるらしい。


まぁ、そりゃそうだ。

発酵は一歩間違えれば腐敗になる。

ろくな知識も持たずに作ったものを周囲に振る舞い、集団食中毒にでもなったら大変だ。

自己責任と言われるのは当然だよな。

そして安全性が保証されないものは売ってはならないと言うのも当然だろう。


発酵している分、水よりも腐りにくい酒類が長旅に重宝されるのはどこの世界も共通なようだ。

その場で消費しない、樽や水筒で購入を希望する人がいたら職業や出身がどこか、根掘り葉掘り聞かれる。


貿易相手の国なら良いが、敵対している国だったら、自分が売ったそのお酒で敵地に自国の損害が出るような情報なり物資なりが届けられる可能性があり出てくるからだ。

なので、その場で消費しないなら売らない、なんて店もある。


だから土産物として酒を作ろう、売ろうなんて考えは「ろくでもないこと」だと言われても致し方ないようだ。



あとはワインを筆頭に、一般販売されている大元の酒類を作っているのは教会だ。

美味しいお酒作りには、人も手間も時間も要する。

お布施という名の活動資金集めに醸造はうってつけらしい。


禁止こそされていないが、醸造の方法は明らかにされていないし、作れたとしても教会にケンカを売ることになる。

ここでもまた教会と既得権益争いの話になるのか。

面倒臭ぇ。


地球でもホップを使ったビールを発明したのは修道院だったそうだしな。

教会って教えを説くために文字を学ぶし、一般よりも教養が高い傾向にある。


教徒が多いならその分割り振られる仕事は少なくなるだろうし、余った時間で研究をする人もいるのかな。

それが酒類を美味しくさせる方法と言うのなら、滅茶苦茶欲にまみれまくっている研究対象だね、と呆れてしまうが。


「そもそも、酒ってそんな簡単に作れるものじゃないだろ」


「イヤ、味さえ気にしなきゃカンタンだよ」


果物を搾っただけのジュースを一杯買ってもらう。

追加料金はいるが、酸味があるから蜂蜜を足すかどうか聞かれたので遠慮なく足してもらう。


容器が殺菌されていないからね。

怖い細菌を増殖させないためにも、完成品を飲みやすくするためにも蜂蜜は必須だ。


ぶどうだったら潰すだけで皮に存在すると酵母で勝手に酒になってくれるんだけどね。

ブドウ糖って言われているだけあって、ぶどうの中には実がついた時点で既に、酒になるための糖も、そしておあつらえ向きに酵母も存在する。

潰して混ぜて化学反応起こせば勝手にエタノールと二酸化炭素に別れてくれる。

とっても楽ちん。


オレンジにだって、酵母も果糖も存在するけど、ぶどうと比べちゃうと美味しいお酒作りの難易度は上がってしまう。

ペクチンを分解してメタノールを生成してしまったら大変だしね。

カップ一杯程度から生成される微々たる量なら……とは思うけど、メチルアルコールって言われるだけあって目散る=失明に繋がるから。

肺水腫から呼吸困難に陥って、下手したら死ぬし。


摂取するのが少量だとしても、体内で蟻酸は大量に作られる。

つまりはアカン。

なので全力でメタノールの生成は阻止するぞ。


カップを左右に振りながら「スキル」を使い、化学変化を促す。

泡が発生したのを確認し、鑑定眼で酒になっているか。

毒物が混入それていないかを確認する。


ついでにちょっと、味もだね、確認しないとだよね。

……だって、美味しいとか書かれると、気になるじゃん。


舐める程度の味見をして、ちゃんとお酒の風味がすることと、甘みがあることを確認した。

ちょっとエグ味がある上に薄く感じるけどね。

まぁ、飲めないことはないよ。

不味くない。


元々の果物の糖度がそこまで高くなかったのかな。

アルコール度数もさほど高くない。


みかんや桃から作るワインって濃縮果汁を使っているもんな。

むか〜し味見させてもらったヤツと比べてしまうと、見劣りするな。


もし教会の問題を全面的に解決しても、お酒を作るだけの施設を(オルトゥス)に増設するのは結構大変かも。


醸造施設も貯蔵施設も敷地面積がかなりいる。

小規模でやるのはコストばかりかかって非効率的だからな。

そうなると人員確保が難しい。


う〜ん……

もろもろ考えると、一旦先送りするべきだな。



カップを受け取ったカノンがひと舐め。

顔を思いっきりしかめた。


それをアルベルトが受け取り一口飲む。

やはり顔をしかめられた。


「ん?

 マズかった??」


「美味しい不味いの意味なら美味しいと答える」


「だけどこれは……だめだろ。

 完全に酒だ」


酒を作ったのだからそりゃそうだ。

こんな簡単に作れると思わなかったと言いながら、カップに視線を落とし続ける二人。


「……飲まないなら返してよ」


「駄目だ」


「未成年飲酒禁止」


言って二人で回し飲みしてあっという間に全部飲みきってしまった。

俺が買ってもらったジュースなのに!




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