神さま、ロマンを形にする。
一言で言うなら異空間。
宇宙にでもポンッと放り捨てられたような、どこまでも続く黒色。
足元にすら何も無く、どうやって自分が今、ここに立てているのかが分からない。
地下四階で起動した転移陣は消えていた。
どうやって帰るんだろうね、コレ。
『……――来た途端、帰る算段をするのか』
頭に響く呆れた声に周囲を見渡せば、いつからそこにいたのか。
宙に浮いた椅子に座り、その長い足を組み頬杖をついて胡乱な表情を浮かべる、一人の男性の姿。
……くろのす?
『いかにも』
「えぇ!?
クロノスってことは叔父さん!!?
マジか!
メッチャウケるンですけど!!
って、何その格好!!!?
草ァ生えるわ!!!!!」
気分は久しぶりに見掛けた近所のオコチャマが間違った方向性で高校生デビューを果たしているのを見つけてしまったオバチャンだ。
「あら、ヤダ! アンタったらもぅ!!」って感じ。
ルーメンが自分の記憶にある姿から若返っていたのだから、クロノスだってそうだと予想はついただろうに。
最後に見た、ナイスミドルな無精髭とタバコが似合う大人の男が出てくると勝手にイメージしていた。
な! の!! に!!!
出てきたのがシュッとした兄ちゃんなんだもん。
ギャップがエグくて笑いすぎて腹痛い。
イヤ、まぁ、確かにね。
中年のクセに腹はタポついていなかったにしても、いい歳したオッサンが精霊のピチピチと身体にフィットした裾がヒラヒラの服着ていたら嫌だけどもさ。
膝を折って頭を下げている二人が、奇っ怪な生物を見るかのような眼差しを向けてきていることに気付いて、笑いが引っ込んだ。
滲んだ涙を拭き、しずしずと身だしなみを整える。
クマのぬいぐるみも下ろし、横にキチンと座らせた。
「お初にお目に掛かります、クロノス様」
キリッと二人に倣い右膝をついて敬礼したが、三方向から「「『今更すぎる』」」とツッコミを貰った。
せっかく仕切り直そうとしたのに。
精霊にも、格があるのだろうか。
地水火風の四精霊よりも、ルーメンの方が強いように感じたのは、年の功の言葉通り、転生時期は同じだとしても、彼女は人間時代に過ごした年月が、皆よりもふた回りは長生きしている。
その分気迫があるのだろう。
オカン属性は強いって言うし。
そう思っていたのだが、どうやら純粋に、光の精霊として持っている純粋な力そのものが強いらしい。
比較対象がいると、とても分かりやすい。
クロノスは、その何倍も強いから。
四精霊は不意討ちと心理戦の合わせ技で全力を出せば、一対一でなら勝てると思うんだよね。
生命の獲り合いと限定するなら。
イヤぁ、殺さないように手加減しなきゃとか考えながらだとムリ。
前世よりも格段に強くなってるんだもん。
ムリムリ。
ルーメンに関しては五発で死ねる自信ならある!
一撃喰らわせられたら御の字かな!!
光の精霊なだけあって、攻撃の術が光の速度で飛んでくるんだもん。
しかも、街につけたレーザー砲の威力と比べても、水鉄砲と拳銃並の威力の差だよ。
もちろんレーザー砲が水鉄砲ね。
次元が違うの。
強すぎ。
さすが神様って拍手を送りたくなる。
元神様をやってた身として何か思うところはないのか、と聞かれたとしても、悔しさすら感じないね。
そう答える。
蟻が人間見上げて背が高くて良いなぁ、なんて思わないのと一緒。
人間がゴリラと力比べしないのと同じ。
結果が見え切っているんだもの。
凄いなぁ、と感想は抱いても、ズルいとか卑怯だとか、思わないでしょ。
だって根本から違うのだから。
土俵が違うの。
人工物と天然物の差はココまで開くのか、と思う程度。
そりゃ力が足りなさ過ぎて地球をガチで滅ぼしかけるわ。
良かった、この世界の神様に拾ってもらえて。
七柱に別れても尚、一柱一柱がコレだけの力を持っているんだもの。
元々の神様は、それはそれは強大な力を持っていたのだろうね。
その神様とクロノスの関係を説明して貰った。
ようは、時空を操る能力を持っていたクロノスが、前世時代に別次元にあるこの世界の神様とコンタクトを取り、あらかじめプレゼンをしていたから、地球消滅を既の所で回避出来たということだ。
保護した魂を精霊に転生させるように神様にお願いしたのも彼だという。
モチロン、生前本人からの了承済み(若干名除く)
そして先にこの世界に来て神様と力を半分こして、地球を受け入れる土台作りも彼が引き続き今もしてくれているとか。
陰の功労者ってヤツだね。
ところで、なんで現在進行形でお話しているんだい?
『何年経過したが知らんが、地球とこの世界がまだ馴染みきっておらんからな……』
俺が「スキル」で徹底的に分解したから、親和性は決して悪くなかった。
だが、もともと違う次元にあった存在同士を違和感なく安定させるのにはとてつもない時間と労力を要する。
別次元の檻に地球から移民する人間を長時間放置しておくわけにもいかなかったし、安定する前に“異物”を放り込んだのもいけなかった。
今も尚、馴染ませるためにクロノスは昼夜問わずで働いている社畜状態らしい。
椅子に座ってふんぞり返っているようにしか見えないが。
水を気体と馴染ませようとするならば、植物を筆頭とした生命体を媒介にしたり、金属触媒を利用する必要がある。
地球とこの世界を馴染ませるための媒体には、霊力を利用しているそうだ。
イメージをそのまま形作ってくれる、不思議エネルギーの代表だね。
なので基本クロノスが一人で行っている。
別のイメージを入れられたら、瓦解しかねないから。
一度構築したは良いが、バランスが少し崩れてしまったような、他者に委ねても問題無いような場所に限り、他の精霊も手伝ってくれる手筈になっている。
大陸によっては相性の有無がある。
ちなみに王都周辺はテルモが担当している。
そのお陰もあり、ここら辺は鉱物資源が豊富なのだそうだ。
そのふたつの世界を馴染ませるのに邪魔なのが、瘴気である。
生命体が出す物質の代謝物を糞とするなら、精神の代謝物が瘴気である。
地球で持て余されていた負のストレスは、この世界では霊力を取り込み、代謝することで瘴気として排出される。
不浄のものではあるし、そのまま放置されれば環境に悪影響を及ぼす。
だが、魔物が核に取り込み、それを精霊たちが浄化することで循環のサイクルが問題なく成立していた。
人が精霊術を使えば効率的に浄化することも出来た。
瘴気を取り込みすぎて凶暴化した魔物は、担当区域の精霊王が人知れず倒して浄化していた。
なので瘴気が一定の場所に滞ることはなかった。
なにがキッカケなのかは分からない。
精霊の誰も感知できないような、些細なものだったのだろう。
ダンジョンと今呼ばれている、瘴気が溜まり、瘴気を浄化するための触媒であるはずの魔物が、その瘴気そのものから生み出される、この世界の自然の理から外れる場所が出現した。
おかげで馴染ませる作業が遅れている。
しかも世界規模に増えていく。
他の精霊たちに破壊を命じていた時期もあったが、ある程度時間が経過してから破壊した方が効率が良いからと、放置しすぎた場所もある。
それの尻拭いをカノンはしていたわけだね。
指摘したら、済まないと、カノンに謝罪の言葉を口にした。
畏れ多いとモゲる勢いで首を横に振ったが、目回らない?
長年観察して分かったのは、ダンジョンもある種の魔物であること。
霊玉を核として瘴気を吸い取り成長するのだから、確かに広域で捉えたら魔物と一緒だね。
魔物もこの世界の生命体だ。
突発的な進化をすることもある。
ただ、その進化の仕方が凶悪すぎた。
しかも、突然すぎる。
何かしら、外部から干渉があったのだとクロノスはみているそうだ。
誰が何のためにそんなことをしたのかは未だに不明だが。
ただ、干渉によってどうとでもなるならば、逆にそれを利用出来ないか。
実験をしてみたのが、このダンジョンだそうだ。
核を自分の霊力で染めた霊玉に置き換え、ハッキングのようなことをして、自分の意のままに改変、再構築をした。
今回は邪魔だからと退かされた、瘴気を大量に取り込んでいた核――俺の言葉を借りるならば魔石――を浄化して、ダンジョンを作り替える方法もある。
ほほぅ、つまり。
『ダンジョン経営、せんか?「する!」
金銭の類が発生するわけではない。
報酬がもらえるわけでもない。
だが、そこにはロマンがある!
契約をする時には契約書をしっかりくまなく読んで理解してからサインしましょうね。
口約束でも契約は契約だからね。
イヤ、別に後悔はしていない。
むしろ喜んでプログラムをした。
瘴気の中和と循環のためのものなのだ。
それに消費するエネルギーだって瘴気でなければならない。
カノンから瘴気がほとばしる宝石を奪い取り、何階に設定して徐々に難易度を上げるとか、中に立ち入った人が死なないための救済措置を各所に用意するとか。
次々思いつくまま本能のままに再構築していく。
まぁ、いくらお助けアイテムを設置するようにプログラムしたとしても、瘴気から作られるせいで、それらは全部見事に呪われた品になる。
ダンジョンに入る際は、聖水携帯必至! と注意喚起しなければならないね。
それこそ王都と街で販売したら、それだけでひと財産稼げるじゃん。
教会の悪巧みをぶっ潰すための口実が増えてしまった。
聖水屋さんを作るためにも、早く取り掛かりたいな〜。
階層を強制的に増やし、魔物の種類を多くした。
そのため管理維持に必要な消費コストを、現状の倍以上と思いっきり上げさせてもらった。
コレでこの辺の魔物は瘴気を吸収出来ずに徐々に弱体化していく。
“喰魔の森“と呼ばれ恐れ避けられることはなくなる。
むしろダンジョンの入口はコチラです、と皆が寄ってくるようになっちゃうかもね。
新たにダンジョンが発生する心配もいらないから隣国に迷惑もかからない。
王都と街から、自分に適した難易度に挑戦する、宝物目当てでダンジョンに潜る冒険者が増えれば、倒された魔物の補充をする為にまた瘴気を消耗する。
持っていかれた宝箱の中身の補充のためにも瘴気は消費される。
その宝箱の中身を売る冒険者によってダンジョン産の珍しい品を求めて人が集まるし、金銭を得た冒険者が滞在すれば金が巡る。
金と経済は回してなんぼだからね。
巡れ、巡れ。
人が集まれば、その分人間関係の摩擦によって瘴気は出やすくなるかもしれない。
だが、その瘴気によって恩恵がもたらされるのだ。
ある程度、それこそ殺し合いにならない限りは良いんじゃないかな。
もしかしたら、瘴気が足りなさ過ぎて、今後ワザと瘴気を発生させるシステムを作らなきゃ、なんてことにもなりかねないよね。
なにせ、この世界の人って欲が薄いし。
そうなった時は闘技場でも作るか。
暑苦しい熱気と負の感情が渦巻く殺伐とした舞台を用意すれば、更に人が集まるし。
せっかく俺が丹精込めて作り替えたのに、手直しする程度なら良いが、破壊されてしまったら哀しいので、最終回層は一〇一階にしておいた。
一般人が立ち入れるのは一〇〇階まで。
その先は関係者以外立ち入り禁止でお願いします。
本当は力試しも兼ねて、昔のように一戦しようか。
そう考えていたそうなのだが、三対一でもクロノスからの一撃に秒殺されるレベルで能力に差がありすぎる。
装備品を含め、アップデートして出直してこい。
少なくとも、自力でココに辿り着ける位には鍛えろよ。
そう言ってダンジョンに戻された。
地下四階から五階に移動する間に、クロノスの居る場所に転送するように仕掛けをほどこしていたらしい。
俺が「次の階でクロノスが待っている! ドヤっ!!」ってしてたのを見たので、慌てて仕掛けたそうだ。
ダンジョンを踏破してからの方が作り替えやすいと思っていたので、慌てて呼び付けたのだと頭の中で言われた。
お手数お掛けしましたね。
皆に内緒にしてくれてありがとうよ。
んで、ココがどこかと言うと、先程作り替えたダンジョンの、地下一〇一階。
各階の様子が一様に観れる監視モニターがズラリと並ぶ。
たまにココに来て、不具合ないか確認したり、難易度調節したりするんだ。
ポテチとコーラが欲しくなるね。
もしくは蜜がけボップコーン。
楽しく閲覧するためにも、街に冒険者を呼び込まないと。




