最強戦力は休暇中!?地球は4人に託された!
スター流屈指の実力者のカイザー=ブレッド、不動仁王、ジャドウ=グレイ、星野天使、川村猫衛門の5人は師であるスターと共に惑星バカンスで休暇を取っている。
長年に渡り肉体を酷使してきたのでたまにはゆっくり体を休めたほうがいいという判断によるものだ。
現在地球に残っている闇野美琴、ロディ、ヨハネス=シュークリーム、ムース=パスティス、メープル=ラシックは留守の間に地球の平和を託された。
食後のコーヒーを飲みながらロディは愚痴る。
「2か月で帰ってくるとは言っていたけど、まだ1か月以上残ってるぜ。そして、今回のヒュドラー復活だ。最悪のタイミングとしか思えないな。せめて隊長は残してほしかった」
「カイザーさん、頼りになりますものね。不動さん、ちゃんと休息とっているでしょうか。
あの人のことですから、バカンスでも体を鍛えていそうで心配です」
美琴の懸念にロディは少しだけ笑った。豪華な設備と青い海、白い砂浜があるという惑星バカンスで黙々とトレーニングに励む不動の姿が3人の頭に思い浮かんだ。
「修行バカだからな、あいつは」
「あなたにだけは言われたくないはずですわよ」
ムースが不敵に笑って毒舌を吐くとロディは快活に笑った。
「俺は生まれついてバカだからいいんだよ。しかし、本当に2か月で帰ってくるかねえ。スターのことだからバカンス延長もあり得るぜ」
「皆さんにはのんびりゆっくり体を休めてきてほしいです」
「戻ってこないかもしれませんわよ」
「え」
ムースの言葉にふたりは硬直する。
「考えてみてくださいな。まず、彼らわたくし達ではと生きている時間感覚が違います。
わたくし達の100年があの方々にとっては1ヵ月くらいのものでしょう。
そう考えると彼らが戻ってくるのは200年後ということも……」
「おいおい。200年は長すぎるだろ」
ロディの突っ込みにムースは指を振って。
「それだけならまだマシですわよ。バカンスというのは彼らの方便で、わたくしたちに本格的に地球を任せて帰ってくるつもりがないかもしれませんわ。他の方々はともかく、スター様なら考えそうなことですもの」
「連絡をとってみましょうか」
美琴は額から冷たい汗を流した。ムースの言葉に妙な説得力があったからだ。
美琴がスターと関わってきた時間は他のメンバーと比べると短いが、それでも彼の自由な行動の数々に振り回され大変な目に遭ってきた。
付き合わされる弟子たちの心労は相当なものがあるだろうが、それでも彼らが離れないのはひとえにスターを慕っているからだ。
美琴は不動に念を送ってみる。テレパシーは彼らにとって地球人が使う携帯電話のようなもので、どこへいても連絡を取ることができる便利な能力だ。目を閉じて念の返答を待つが。
「ダメです。連絡できません」
「畜生! スターが念を遮断する結界を張りやがったのか! 完全にバカンスを満喫するつもりだぞ、あの野郎は!」
念を入れてムースもロディも地球外にいるメンバー全員に念を送ったが、誰からも返事がない。
全てが無駄な努力に終わり、背中を丸めた暗い雰囲気を出しているロディに、美琴はそっとコーヒーのお代わりを差し出した。沈んでいる相手には不用意な言葉よりも無言の優しさのほうが身に染みるものだ。
カップを掴んで熱々のコーヒーを一気飲みしてから、ロディは勢いよく立ち上がって叫ぶ。
「こうなったら俺たちだけでも立派に地球を守ってやれると証明してやらあ! スターが帰ってきたら思いっきり自慢してやるから覚悟しておけよ!」
「あなた、本当にいい性格をしていますわね」
「ありがとな」
くしゃくしゃと髪を撫でられたムースはぷうっと頬を膨らませ。
「褒めていませんわよ。皮肉も通じないなんてどれだけ空っぽの脳みそなのだか……」
「お前たちが脳みそ詰め込めすぎなんだよ。空っぽだからフットワークが軽くてすぐに行動できるってのが俺の強みなんだ。で、肝心なのはこれからどうするか、だ」
「どうするんですの?」
「知るか」
平然と言い切るロディにムースは開いた口が塞がらない。
(このお方、地球で最もバカなのではありませんか⁉)
腰に手を当て意味もなく笑っているロディを半眼で睨んでから優雅に緑茶を飲んでいる美琴に視線を送る。
「美琴様なら何か素敵な案が思い浮かびますわよね。こちらの脳みそをどこかに置き忘れてきた方とは違って賢いですもの」
「そんなに期待されても、わたしもあまり頭がいい方ではありませんから……高校でもお勉強はどちらかというと苦手な方でしたし……そうですね……まずはお風呂に入りましょうか。浴槽に浸かればいい考えが出てくるかもしれませんし」
「さすが美琴様、素晴らしい提案ですわ! さっそく! 今すぐ入りましょう! 善は急げ、ですわよ!」
「フフ。ムースさんも難しい諺を使うようになりましたね」
「わたくしも日々勉学に励んでおりますわよ」
美琴の腕を引っ張ってせかすムースは満面の笑顔だ。
着替えをとってきて浴室の扉を閉める前に、ロディに告げた。
「くれぐれもわたくし達のお邪魔はなさいませんように」
「安心して風呂に入っておきな。ムースちゃん達は俺が守ってやるから」
ロディは椅子から立ち上がって浴室の扉を背にして仁王立ちになる。
腕を垂らし、いつでもホルスターから銃を抜けるように体勢を取る。
彼の大きな背中の影を見てムースはくすりと笑った。
(この方、驚くほど下心とは無縁ですわね。少しだけ見直しましたわ)
「頼りにしていますわよ」
「任せときな」
背中合わせで言葉を交わし、ムースは美琴と浴室で交流を深め、ロディは彼女たちの癒しを守るという、各々の任務に就くのだった。