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100年の因縁!ヨハネスVSヒュドラ―

「俺様に勝てると思っているのか」

「当然だよ。だから来たのさ」


海上に設置された特設リングにて海底帝国の支配者ルドルフ=ヒュドラ―とスター流のヨハネス=シュークリームの一戦が行われようとしていた。両者には100年近い因縁がある。


ゴング前から激しい火花を散らし、闘気を全開に高めている。自分以外は頼れるもののないリング。


全ての困難は自分で解決しなければならないが、甘えを断ち敵にだけ集中を向けることができる。


ヨハネスは軽く柔軟をして体勢を整え、深呼吸。この試合で全てが決まる。


(半魚人軍団を引き受けてくれたロディとムース、ネプティーヌを倒してくれた美琴のためにもこの勝負、僕は必ず勝つ!)


太陽に輝く黄金の鱗に緑の髪、琥珀色の瞳はリンのように光っている。鋭い牙が並ぶ口からは時折舌がチロチロと出し入れされている。醜悪で獰猛な半魚人の王をヨハネスは睨む。


高らかに試合開始の鐘が鳴ると、いきなりヒュドラーは口から紫のガスを噴き出した。

毒ガスかと警戒したが吸い込んでも変調はない。リング内が紫の煙に包まれる。煙幕だ。


「ケケケケケケ~ッ!」


奇怪な笑い声をあげて煙の中から拳が飛んでくる。躱し損ね鉄拳を頬に受ける。

普通のパンチなら躱すのは容易だが拳の予測ができなければ、回避は難しい。


ヒュドラーは煙幕の利点を最大限に活かし、どこから飛び出すかわからない拳と蹴りで恐怖を演出しながら責め立てていく。ヨハネスは口の端を切り、早くも流血。


「威勢が良かったのは最初だけのようだな」


ヨハネスはコートを翻し、突風を起こして煙幕を吹き飛ばし通常のリングに戻すと、先ほどまでの借りとばかりに打点の高いドロップキックで強襲。顔面を抉るような一撃にヒュドラーはダウン。


しかし傷は浅く、軽快に立ち上がってくる。舌を出し入れする不気味さも変わらない。今度は唾を弾丸のように飛ばしてきた。躱された唾はコーナーポールに命中し、鉄柱に風穴を開けた。溶けたようでもあり貫通したようでもある。唾の威力だ。


まともに受けたり手で払ったりすればひとたまりもない。冷静なヨハネスも汗を流し表情を強張らせ戦慄させる。ぺぺぺっと吐かれた唾をコートで辛うじて防ぎ、コーナーの最上段まで駆け上がると身軽さを活かしたジャンピングニードロップ。彼の指導係を務めたジャドウ直伝の技だ。


「古臭い技を……」


両眼を光らせ倒立で寸前で回避からの自爆させると、膝を痛めて起き上がれないヨハネスに打撃を見舞う。が、ヨハネスは素早く腕をとって腕ひしぎ十字固めに移行する。


「貴様、ここまで読んで……⁉」

「僕は探偵だからね。相手の裏をかくのは得意だよ」


乾いた音が試合場に木霊する。ヨハネスがヒュドラーの腕を折ったのだ。

技を解除し折れた腕を更に踏みつける。ヨハネスにとっては家族の仇。

腕を折ることに一切の躊躇はなかった。


絶叫する半魚人を反転させ、背中に跨ると顎を両手で捉えてキャメルクラッチ。渾身の力で背骨を折りにかかる。這ったままでロープに逃れようとするヒュドラーだがロープまでが遠い。


「リング中央でかけたんだからブレイクできるはずがない。もっとも、僕はロープブレイクなんて守るつもりはないけどね!」


中性的な顔に凶悪な笑顔を浮かべて背骨をヘシ折りにかかる。脂汗を浮かべるヒュドラーだが、目にはどこか余裕の色があった。


「通常の野郎なら真っ二つだろうが、俺様には効かん」


顔の横についたヒレを丸鋸のように回転させることでヨハネスの細腕を負傷させて技から逃れると、適度に間合いを取ってから背びれを放り投げた。


難なく回避したかに見えたヨハネスだが背ビレは空中で軌道を変えて戻ってくるではないか。


予想外の動きに対処できず、右肩を激しく斬られ出血を招く。右肩に深々と刺さった背ビレを苦悶の表情で外し、海へ放り投げるが、だらりと腕は下がり姿勢が崩れてしまう。


「ククク。所詮は下等生物人間などこんなもの。おとなしく半魚人族を崇めればいいものを」

「誰がお前なんかを」

「強がりか。可愛いもんだ。だが、いつまで持つかねぇ」


ヨハネスの整った顔を爪のついた掌で鷲掴みにして、遠心力で振り回して反対方向のロープに放り投げる。反動で返ってきたところへ胃袋を蹴り上げ、中のものを吐き出せる。


「下等生物は汚物に塗れるのがお似合いよ」


嘔吐するヨハネスをストンピングで滅多蹴りにして高笑い。

紅顔の美少年は血と汚物に塗れ見るも無残な有様だ。自慢のコートも汚れ、試合開始前の面影はほとんどない。彼の長い髪を掴んで無理やり立ち上がらせてコーナーに叩きつけ、ニヤリと笑った。


コーナーの最上段に飛び乗るとピュッと長い舌を伸ばしてヨハネスの細い首に巻き付け、そのまま締めて吊り上げていく。


「これぞ我が得意技、フィッシャーマンズネッグハンギングツリー!」

「ぐ……が……」


強烈な締め上げにヨハネスの顔が紫色になり、大きな瞳は半分白目に、口からは泡が噴き出している。


一気に締め上げられては抵抗する間もない。腕がもがく中、薄れゆく意識で彼は観客席で応援している友の声を聞いた。


「あなたの知性はこんなものですの⁉ わたくしの知るあなたはいつも余裕で誰に対しても一枚上手でしたわよ! こんな魚の玩具に破壊されるなら、わたくしのライバル失格ですわよ!」


(……ムース、一体いつ、きみのライバルになったんだよ……)


「ヨハネス! このままじゃお前一生ジャドウにバカにされるぞ。死んでからもバカにされて、それでいいのか⁉」


(……ロディ。ずいぶんと酷いことを言うじゃないか。僕はジャドウが大嫌いなんだよ。

それを承知で言うなんて、少しは賢くなったね……)


「ヨハネスさん、あなたなら絶対に勝てます!」


(美琴、きみはいつでも僕を信頼してくれたね。あのときはきみをひとりぼっちにしてごめん。だから、今日は……)


ヨハネスの緑の瞳に闘気が戻り、油断していたヒュドラ―に顔面蹴りを浴びせる。

ヨハネスの黒靴のつま先から刃が展開し、ヒュドラ―の額に深く突き刺さる。


絶叫と鮮血を飛ばし、半魚人は激痛のあまり得意技を解除。ヨハネスはトンボを切って間合いを取る。

深呼吸をして、再び対峙。肩の負傷とこれまでの攻防による疲れで、ヨハネスは自分の体力が尽きかけていることを知った。しかし気力を振り絞って敵を見据える。


ふらつく足元。霞む視界。流れ出る汗。満身創痍という言葉が相応しい。

けれど、仲間の声援があるから力が内側からあふれてくるのだ。


聖剣拳エクスカリバーナックル!」


この段階でヨハネスは己の最高必殺技を発動させた。黄金の手刀は振るっただけでコーナーの鉄柱ごとヒュドラーの首を切断する。噴水のように血を噴き出し、ポトリと独裁者の首が落下する。


しかし、ヨハネスは気を緩めなかった。ここからなのだ。100年前もこれで決着が付いたと思ったから取り逃がす失態をしてしまった。油断は禁物と警戒していると、首無しのヒュドラーに異変が起きた。


胴体の首の残りからモコモコと肉塊のようなものがあふれ出したかと思うと一瞬にしてヒュドラーの首が再生したではないか。


「なるほど。これで謎が解けたよ。川村君が見破れなかったのも当然だよ」

「ククク。この能力がある限り俺は無敵だ!」

「本当にそう思う?」

「試してみるか?」

「もちろん」


ヨハネスは左右で聖剣拳を振るい、スパスパと首を切り落としていくがヒュドラーはすぐに何事もなかったかのように首を生やす。


同様の攻防が7度続いたところで、ヨハネスは薄く笑った。

そしてこれまで喉元へ横向きに放っていた手刀を縦に切り替え、胴体を貫く。


「ゴフッ……貴様、これを狙って……」

「横は平気でも縦はどうかな」

「⁉」


胴を貫いた手刀は下から上へと切り裂いていく。


「下等な人間は魚人族に支配され、俺様を崇め続け無様に散ればそれでいい!」

「お魚は三枚に下ろされるのが似合っているよ」

「ケラギャアアアアアアアアアアアアアッ……」


上半身を開きにされては、さすがのヒュドラーも再生することはできない。怨嗟と鮮血をまき散らし、仰向けに倒れ、轟沈。そのまま試合終了の鐘が鳴り響いた。


高々と勝利の手を上げ、仲間のほうを見る。


「やっと、100年の因縁に決着を付けることができたよ……」


仲間に弱々しい笑顔を向けてロープに倒れこむ。疲労が溜まったのだ。

ヨハネスと半魚人との間にはどんな因縁があったのか。


それを知るために、少し時を巻き戻して書くとしよう。

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