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①-9 畑荒らし

放課後、僕は狐の化け物が荒らしたとされる、学校の近所にある畑に来ていた。


学校の近所という事もあって、畑からは生徒が部活動をしている様子を見ることができる。グラウンドから、野球部に体験入部している新入生の悲鳴が聞こえてきた。今何周走っているのだろう。


来週には、しなしなになってそうである。

気の毒に。


「小僧よぉ、気軽に呼び出すのやめてくんない?予定が詰まってんだけどぉ」


僕の肩に乗って八咫烏(やたがらす)の八郎先生は、ぼやいている。

狐の化け物が出たというので、畑の調査に僕は先生の力を借りることにした。

まだ、前回支払った日本酒の対価を貰っていない。

先生には、ちゃんと働いて貰わないと困る。


「八郎先生に予定なんか、ある訳無いじゃ無いですか。あまり先生を舐めないでください。今日だって僕が呼び出さなきゃ、あのゴミ捨て場で延々とゴミ漁りをしてたんですよね?」


「……小僧の俺様のイメージって、そんなに悲惨なのか?流石にそこまでじゃねぇよ」


八郎先生は、ちょっと悲しそうにしている。

いや、純然たる事実でしょうに。


「それで、先生。何かわかりますか?」


「そうさなぁ……ん、何か匂わねえか」


先生はクンクンと、地面の匂いを嗅ぐ。

匂い……そう言われると、ツンとした匂いがする。

この匂いは……シンナー?


「それに……葉っぱに塗料がついてる……なんだこれ」


里芋が食い荒らされたって聞いていたけど、それだけじゃないな。畑に生えてる葉っぱに、赤、青、黒などの、数種類の色がついてる。絵の具?……いや、これはスプレーか。


「畑を荒らしたのは、化け物じゃなかったのか」


スプレーなんてものを使うのなら、これは人間の仕業かもしれない。

そう思い至って、僕はガッカリしていると、


「いや、この感じは当たりだぞ小僧。確かにこの場所には、()()()()()。俺様の『感』が(ささや)いておる。小僧よかったなぁ、ヒッヒ」


と先生が言った。

八郎先生は、ゴミ捨て場で綺麗な石を見つけた時と同じようなテンションで笑っている。

思いの外嬉しそうで、ちょっと愛らしい。


「先生。ここにいた狐の化け物って、今どこにいるかわかりますか?」


「あー、わからねぇな。時間が経ちすぎてる。全盛期ならまだしも、今の俺様じゃどうにもならねぇよ」


「そうですか……いえ、ありがとうございます。ここに狐の化け物がいたことが分かっただけでも、収穫はありました」


欲を言えば、狐の化け物の居場所が知りたかったが、安い日本酒でそこまでの働きを要求するのは酷というものだ。


僕はしばらく畑で化け物について調べた後、帰宅の途についた。


※-------※※-------※※-------※※-------※


「センパーイ、おかえりなさい〜」


帰宅して僕の部屋に入ると、ベットで寝っ転がりながらゲームをしていた十色ヒトミが、おかえりの挨拶をしてきた。

足をバタバタさせながら、彼女は楽しそうにゲームをしている。すっかり夢中なようで、彼女はゲーム画面に釘付けだった。


「ただいま十色(といろ)くん。十色くんは、今日ずっとゲームをしていたのかい?」


「はい、ずっとやってましたよ〜。今は邪神龍(じゃしんりゅう)エグゼリオンをこれから倒しに行くところです」


「へ?もうそこ?」


それだけ進めるには、少なくとも昨日ゲームを貸してから寝ずにやらないと、時間的に到達できないと思うのだが……


「いや〜ついつい面白くてやってしまいますね。シナリオも面白いですけど、何よりキャラが成長していくのが楽しいです」


現実もこんな感じでレベルが上がればいいんですけどねー、と彼女は言う。

彼女にしては珍しく、皮肉っぽい言い方だった。


「……ゲームのやりすぎはよくないよ。少しは休憩しないと」


「はーい、ほどほどにしときまーす」


そう言いながらも、彼女はゲームをやめる気配はない。別にいいのだけれど、体調は大丈夫なのだろうか。彼女が特殊な状況にあるからこそ、気になってしまう。


「先輩は今日何をしていたんですか?」


「八郎先生と一緒に化け物探しかな。学校の近所で狐の化け物が出たみたいなんだ。十色くんの神隠しに何か関係があるんじゃないかと思って」


「……それで、こんな夜遅くまで帰ってこなかったんですね……」


今は夜の十一時。

確かに、帰るのが少し遅くなってしまったか。


「先輩……別にそんな頑張らなくていいですよ。多分、大丈夫ですって。何とかなります。だから、先輩は自分のしたい事をしてください」


「これが僕のしたい事だよ。僕の家の仕事は、君みたいなオカルトで困ってる人を助けることではあるけれど、正直それはどうでもいいんだ」


「それは、前に言ってましたね。私を助けるのは義務感で、他に目的があるとか」


「まあ……そうだね。人助けは二の次で僕には別の目的がある。それを一言でいうと……僕はオカルトが好きなんだ」


そう、僕はオカルトが好きだ。

この世界の裏側に溢れているオカルトは、僕の好奇心を刺激する。

あの日から、非現実的な日常に僕は魅了されてしまったんだ。


「ただ僕は君のオカルトについて、知りたいだけなのさ。人助けをしてヒーローになりたいわけじゃない。君を助けるのは義務感であり、好奇心なんだ。だから、君が僕の行動に負い目を感じる必要はない。そんな重く受け止めるようなものじゃないよ」


「……極度のオカルトマニアってことですか」


十色ヒトミは僕の話を聞いて、興味を示したかのように僕を見る。これを言うと、だいたい引かれてしまうため、彼女の反応は新鮮だった。


「……それじゃあ、そんなオカルトマニアな先輩に一ついいことを教えてあげましょう」


彼女は丸眼鏡を外して、僕を見つめる。

彼女の瞳は透明に澄んでいて、僕の顔が映っていた。


「私のこの眼は、幽霊とか妖怪が見えるって言いましたけど……それ以外に何が見えると思いますか?」


「さぁ、僕には検討もつかないな」


僕の答えを聞いて、彼女は笑みを浮かべる。

その彼女の微笑みは、秘密を明かすことへの喜びと緊張が張り付いているように見えた。


「これは、誰にも言わないで欲しいんですけど――――――」


彼女はそう前置きをして、その眼の秘密を口にする。


「私の眼は、感情の色を見ることができるんです……これは他の人にはナイショですよ?」

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