①-2 オカルトは、どこまでも僕を掴んで離さない
県立北文高等学校の入学式で、新入生の女生徒が一人、神隠しに遭った。
神隠しに遭った女生徒は、十色ヒトミという名前だという。
新入生代表の挨拶の時、それは起こった。
入学式に参加している生徒、先生、保護者が注目している中、新入生代表であった彼女は、忽然と姿を消した。
あまりに突然の出来事で、現場は騒然となり、入学式は中断。警察沙汰となって、世間ではちょっとしたニュースとなっている……
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《それまで新入生代表の女の子が、ふつーにスピーチしてたのに、気がついたら、目の前から消えてたの》
コトネはメモ帳にそう書いて、僕に見せる。
僕とコトネはリビングのソファに座って、入学式に起きた神隠しについて話していた。
僕の妹、天月コトネは昔から話すことができない。
声が出せないのだ。
言葉を話す代わりに、妹はメモ帳に文字を書いて意思を伝える。
医者からは、心因性の発声障害と言われていて、ストレスなどで話すことができないらしい。コトネは原因に心当たりがないと言っている。
僕には妹が何を思い、考えているのか、なんて分からないので、常日頃もどかしい気持ちになることも多い。
悩みがあるのなら、相談して欲しいと兄としては思う。
「消えたってどんなふうに? 身体が煙になったとか、それとも見えないくらい身体が小さくなった、みたいなこと?」
《煙というより、透明になって見えなくなったってイメージが近いのかな。目の前にいるのに、認識できないみたいな感じ》
認識できない……か。
それは厄介そうだ。
「その神隠しに遭った十色ヒトミって子は、どんな子だった?」
《丸い眼鏡をかけた長い髪の女の子で、背は私より少し低かったよ。あと、新入生代表なのに、身だしなみが悪かった》
サラッと酷いことを書くコトネだった。
《やっぱり、今回の神隠しの事件に首を突っ込むつもりなの?》
「もちろん。めんどくさいけど、家業だからね。こればっかりは、しょうがないよ」
納得のいかない顔して、コトネは頬を膨らませた。
コトネのオカルト嫌いは、筋金入りである。
《 ( *`ω´) 》
「そんな怒らないでよ。コトネには迷惑掛けないようにするからさ」
《 ( ̄^ ̄) 》
「いや、出来れば文字にして……伝わらないから」
《しらない》
コトネは俯いて、スマホをポチポチし始めた。
ショートカットをブラウンに染めた妹が、リビングのソファで丸まっている。
その姿は、まるで気まぐれな猫のよう。
妹が拗ねてしまった……少しは兄の事情も考えて欲しいものだ。
「ごめん、これだけは教えて欲しいんだけど―――神隠しが起きた時、コトネは何か感じなかった?」
ジトっとコトネは僕を睨むように見てから、呆れたように小さくため息を吐いて、メモ帳に何か書いている。
それから、乱暴にメモ帳を僕の顔に投げつけた。
メモ帳には簡潔に、
《なにかいた》
そう書かれていた。
それを見て、僕は薄く笑う。
オカルト嫌いの妹ではあるけれど、妹は第六感が鋭かった。
だからこういう時、コトネの感覚は信頼できる。
ははっーと手を合わせて、目を瞑り、頭を下げて、僕はコトネに感謝する。
コトネにメモ帳を返したら、《ちょこれーとぱふぇ》とメモ帳に書いて催促してきた。今月は懐事情がピンチだけど、仕方ない。
僕はコトネにチョコレートパフェを食べに行こうと、提案した。
それを聞いて、コトネは少し機嫌を取り戻す。
まあ、たまには家族サービスをしないとな、そんなことを僕は思いながら、コトネと近くの喫茶店に向かうのだった。
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オカルトは、どこまでも僕を掴んで離さない。
神様とか悪魔みたいな、そんなオカルトがこの世界の裏側には溢れている。人は死んだら仏様になるし、虚空に念じれば空だって飛べる。表向きは何も無いように見えて、少し見方を変えれば、世界は歪んで裏返る。
その事を知ったのは、僕が五歳の時。
僕の家は『コトノハ遣い』という呪い師の家系だった。
言葉で人間の認識を歪める『コトノハ』という呪いを代々伝えてきた一族で、昔はたくさんの人間を呪い殺したとか、そんなロクデモナイ話を小さい頃に聞かされた。
だから僕の家では、人殺しの罪を償うために、オカルトに苦しむ人々を助けている。過去の罪の清算をしなければならない、と僕の祖母は言っていた。
そんなこと、今を生きる僕には関係ないと思ってしまうため、家業についてはウンザリしているというのが、正直なところだ。
人助け、といえば聞こえはいいかもしれないが、一銭の金にもならず、助けた人からはオカルトなんて気味が悪いと引かれる始末。
ボランティアよりも割に合わない。
こんな仕事やりたくないと、何度思ったことか。
家業とはいえ、この仕事を僕が続けている理由。
それは五年前、母が殺されたことに起因している。
母の死は普通ではなかった。
当時、死体の第一発見者となった僕は、最初それが母であることに気づくことができず、得体の知れない化け物のように感じたことを覚えている。
それは『死』そのものだった。
人の所業ではない、オカルト的な『死』。
頭蓋からはみ出た脳、両目は飛び出していて、眼球は地面に張り付いている。上半身の皮がキレイに剥がされて、赤と黒に染まっていた。両手両脚は捻じ切れていて、裂かれた下腹部から溢れたハラワタは、蠢めく幼虫のようであった。
亡骸となった母を見て、これは普通ではあり得ない殺され方だと僕は悟る。
神か悪魔か、化け物か。
オカルトによって母は殺されたのだ。
この殺人事件の表向きは、母を殺したのは父という事になっている。母が死んだ直後、父が行方不明となってしまったので、重要参考人として指名手配されていて、今も捕まっていない。
父が母を殺したのか、それは僕には分からない。
殺したのだとしても、オカルトが絡んでいる。
そう、僕は睨んでいた。
だから、母を殺したナニカを確かめるために、僕は父を探し出し、この世界の裏側であるオカルトを追求する。
それがたとえ、どんなに残酷な現実だとしても。




