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①-11 彼女の身辺調査

人生で初めての体験。

僕はバナナの皮を踏んで転んでしまった。


十色(といろ)ヒトミから自身の抱えている能力について、告白を受けた翌日の朝のことだ。

学校へ向かう通学路の坂道を歩いていたら、急にバナナの皮が足元に現れた。


転んで擦りむいた膝からは血が出てしまい、そのせいで制服のズボンに赤いシミができる。ギャグ漫画みたいな転び方をしたので、僕は恥ずかしい気持ちになった。


恐らくこれは呪いのせいだろう。

自分にかけた『コトノハ』の代償による被害に違いない。

そうでなければ、ただドジな奴になってしまうので、呪いであってくれと僕は心から願う。


そんな憂鬱な朝の通学路。

今日こそ僕は、神隠しの原因を突き止めることを心に誓った。


※-------※※-------※※-------※※-------※


現場百遍(ひゃっぺん)

何処かの偉い刑事が、そんなことを言いました。


だから僕は、十色ヒトミが神隠しに遭ったという体育館に来ていた。休み時間や放課後は人の出入りが多い。したがって、じっくりと調査するには授業中しかないので、今は二限目の始まりだったりする。


僕もすっかり不良学生になった。

先生たちからの評価も、マイナスを突き抜けている。

まあ、髪の毛が真っ白な時点で、手遅れなところはあるけれど、授業態度がよければもう少し違ったのかもしれない。


僕は体育館の壇上に上がって、十色ヒトミが新入生代表の挨拶をしていた時に、見ていたであろう景色を想像してみる。


彼女は何を思って、この壇上に上がっていたのだろう。


これからの学生生活に思いを馳せる新入生達。

子の晴れ舞台に色めき立つ保護者一同。

毎年のルーティンをこなしている先生方。


そんな彼ら彼女らに見られながら、十色ヒトミは何を思い感じていたのか。

僕の経験上、それを解明しない限り、神隠し事件を解決することができないと感じていた。


オカルトはいつだって、人の心が生み出す現象なのだ。


そこがオカルトの面白い所であり、人の気持ちに寄り添えない僕にとって難しいところなのであった。


※-------※※-------※※-------※※-------※


「……ここか」


十色ヒトミのことを知るために、放課後、僕は彼女の自宅に来ていた。

彼女の自宅は、学校から徒歩二十分圏内の住宅街にある。

見た感じ、ごく普通の一般家庭の一軒家といった印象だ。


彼女の自宅の場所は、学校の先生から聞き出した。


もちろん、住所のような個人情報は普通に聞いても教えてくれるわけがないので、『コトノハ』を使用した。


人に『コトノハ』を使う場合、力を伝えるための媒介が必要になる。


樹齢五千年の神木から作られた呪符に、人魚の血を混ぜられたインクで文字を書いて、それを呪いの対象に見せたり貼り付けなければならない。


そうしないと、他人を上手く呪うことができないのだ。自分を呪う分には、体にインクで文字を書くだけで問題ないのだけど……


「来たはいいものの、どうしようかな」


本人からは聞けない彼女のパーソナルな部分を、家族から話を聞きたいと思ったのだけど。

うーむ。


ピンポーン


とりあえず、インターホンを押してみた。

しかし、人の気配はない。

留守みたいだ。


「私の家に何か用?」


出直そうか考えていたら、制服を着た女子に声を掛けられた。(あで)やかな黒髪ストレート、紺色のブレザーとチェック柄のロングスカートに身を包む彼女は、何処かイライラしていて余裕がない様に見える。


その制服には見覚えがあった。

確か、この辺で一番の進学校、獅子ヶ浜高等学校の制服だった気がする。

私の家と言っていたことから、この感じは十色ヒトミの関係者……彼女の姉といったところだろうか。


「あなたは……十色くん……いえ、ヒトミくんのお姉さんですか?」


「何?あなた……あいにく、妹は神隠しとやらで行方不明なの。ただの野次馬なら迷惑だから帰って」


十色ヒトミの姉と思われる人は、取り付く島もない様子だ。正しい反応だと思う。いきなり行方不明の妹について尋ねる白髪頭の人間に、警戒しないほうがおかしい。とりあえず、まずは自己紹介をして警戒を解かないと。


「僕の名前は、天月キョウヤ。ヒトミくんと同じ北文高校の二年生です。僕は訳あってヒトミくんの神隠しについて調べています。妹さんを助けるために、お姉さんにご協力をお願いしたいのですが……」


胡散(うさん)臭い。なんで、入学したばかりの妹のことを助けようだなんて……そもそもあなた、妹とは面識はあるの?ただの興味本位なら、(ねじ)り殺すわよ」


刺々(とげとげ)しい彼女の視線。

今の彼女からは、普通に聞いても十色ヒトミのことを話すとは思えなかった。

―――――それならば、仕方ない。


「気を悪くしたのならば、すみません……ですが、興味本位という訳ではないんです。僕は仕事をしなくてはいけない。だから……」


そう言って、僕は本日二回目となる『コトノハ』を使用することにした。


【アナタハ素直ニ話ヲスル】


僕は『コトノハ』が書かれた呪符を彼女に見せる。


「僕に話を聞かせてはもらえませんか?」

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