①-10 感情の色
「感情の……色?」
彼女から秘密の告白を受けても、僕はいまいち理解ができなかった。感情の色が見えるって、どういうことなのだろう?
「人の感情って、よく色で表現したりするじゃないですか。怒りだったら、赤。悲しみの、青。恋する気持ちは、ピンクだったり。憎しみや嫉妬とかは、どす黒い感情って言ったりすると思います」
十色ヒトミは、人差し指を立てて解説をする。
そう言われると、なるほど感情の色か。
色のイメージは人それぞれだと思うけど、共通認識として感情に対する色のイメージは、彼女の言った通りであると僕は思った。
「私にはそれが見えるんです。人が今どのような気持ちでいるのか、それを見ることができる。とても面倒な力です」
と、ウンザリするように彼女は言った。
色々と彼女も苦労しているのだろう。
特異な力を持つことの大変さは、僕もよく分かる。
「それじゃ、君は僕が今何を感じているか分かるってこと?」
「うーん、それが……神隠しにあってから見えなくなったんですよね。何ででしょう?」
そう言って彼女は首を捻る。
それは今の僕にも分からない。
せめて、まだ見ぬ神様がどの様な存在であるか分からないと、彼女の身に何が起きているか推測する事もできないだろう。
「じゃあ、今君は普通の人と同じように世界が見えている、というわけか。それってどんな感じなのかな?」
「清々しい気持ちです。文字通り世界が変わりました。度の合っていない眼鏡のせいで、あちこちぶつけてしまうことも無くなりましたし。私、今最高って感じです」
彼女は本当に楽しそうだ。
少なくとも僕からはそう見える。
「先輩は、コトノハでしたっけ。特別な力を持っていて嫌になったりしないんですか?」
「僕は……この力を嫌だって思ったことはないかな。結構便利だし、ちゃんと代償があることに安心する」
特別な力の代償に不幸な目に遭う。
それは、僕は正しい在り方だと思っている。
代償の無い力は、気持ちが悪い。
タダより安いものはないのだから。
「マゾですねぇ〜先輩。代償なんて無いに越した事ないでしょうに。私には分からないなぁ。嫌なことはなるべく起きない方がいいに決まってます」
「マゾっていうな。僕だって嫌なことは起きてほしく無いよ。ただ、気に食わないだけさ」
「フーン、そうですかぁ」
そう言う彼女は、納得がいかないような顔をしている。
彼女は僕に共感できないようだ。
わざわざ力に代償を求めるような考え方は、一般的では無いのかもしれない。
「ま、先輩は自分で力を使うことを選択できるからいいですよね。私の場合、眼鏡をかけていないと否応無く見せられるんです。人間の感情なんて、見るものじゃないですよ」
「見れるものなら、僕は見てみたいけどね。感情の色。人の気持ちが分からないって、僕はよく言われるから、それを見る手段があるなら見たいと思うよ」
僕がそう言うと、彼女は変わったものを見るような目で見る。
そんなに変なことを言っただろうか。
「……本当に、いいものじゃ無いです。人の気持ちが分かるってことは、本音と建前が分かってしまうってことなんです。他人が自分のことをどう思っているのかなんて、知らないほうが幸せですよ」
そう言ったきり、彼女は黙り込んでしまった。
その反応から、これは彼女の地雷だと僕は判断する。流石にそのくらいは、僕にも分かった。
「あー、今日はもう遅いし、寝ようかな。十色くんはどうする?」
こう言う時、何を言ったらいいか分からない。
とりあえず、寝よう。
そんな逃げの思考に僕は従ってしまう。
「私は……邪龍神エクゼリオンを倒さないといけないので」
十色ヒトミはボスを倒すために、ゲームを再開した。彼女にベットを占有されているため、仕方なく僕は床に布団を敷いて寝ることにする。
敷き布団で寝るのは、何年振りだろう。
普段よりも低い視点で見る僕の部屋は、知らない場所みたいで落ち着かない。
疲れが瞼を閉じて、視界は暗闇に包まれる。
音が遠くに聞こえ始めて、僕の意識は底に沈んでいく。
おやすみの挨拶は聞こえなかった。
カチャカチャとゲーム機のボタンを押している音が、虚しく僕の部屋にこだまする。
彼女は本当にいつ寝ているのだろう。
そんなことを思いながら、僕は眠りにつくのだった。




