①-1 天国だか地獄にいるお母様へ「僕は悩んでます」
ボチボチ書きます。
拝啓、天国だか地獄にいる、お母様。
いかがお過ごしでしょうか。
僕、天月キョウヤは高校二年生になりました。
月日が経つのは早いもので、お母様がこの世を去られてから、もう五年になります。家業の方は相変わらず忙しく、学業やアルバイトとの両立が難しいと感じている今日この頃です。
「あなたは人の心が欠けているわ」
生前、お母様から頂いたお言葉です。
この言葉は、僕の心の中心でタップダンスをしていて、未だに忘れることができません。
最近、この言葉について、よく思い返すことがあります。
それはどんな時かと言うと、流行りの泣けると評判の映画を見ても、「人が死んだんだなぁ」くらいの感想しか抱けず、友達から白い目で見られることが、少なくなかったり。
またある時は、クラスで一番人気があって、カワイイと評判の女の子から告白されても、ドキドキすることもなく、寧ろ付き合うのは面倒くさいと返事をしたら、告白してきた女の子は泣いてしまって、同じクラスの全ての女子から顰蹙を買ってしまった、なんてこともありました。
そんな時にお母様の嘲笑うような、お言葉がリフレインして聞こえてくるのです。
僕は人の気持ちに共感出来ない。
お母様の言う通り、何かが欠けているのでしょう。
正直気にしています。
このコンプレックスを、僕は何とかすべきでしょうか。できれば教えて頂きたいです。親として、息子に何を思うのか。
……少し暗い話になってしまいましたね。
それでは近況について、書きたい思います。
愛しの妹が今年、僕と同じ高校に入学してきました。
その入学式に起きたことなのですが……
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新学期の初登校日。
最近鬱陶しいと感じている僕の白髪を揺らすように、春の風が穏やかに吹いていた。春の陽気は、まだ少し寒さを孕んでいて、新学期に心躍る僕の緩んだ気持ちを引き締めてくれる。
県立北文高等学校は、通学が面倒くさいことで有名だ。
最寄りの駅からは、徒歩で四十分以上かかり、傾斜の急な坂道の上に学校があるため、高校に入学してから一年経った今でも通学に慣れる気がしない。
今年から同じ高校に入学する妹も、この苦行を味わうことを思うと少し心苦しかった。
妹の進路について、僕は何も言わなかったけれど、僕の影響を少なからず受けているのだろう。
それが1ビット程のアニゴコロを刺激する。
拷問のような通学路の坂道を登りながら、僕は新学期について考える。今日は始業式で授業がないため、比較的気が楽だ。新しいクラスの発表が待ち遠しい。
「あのぅ……すみません、ちょっといいですか」
期待と不安を内混ぜにした気持ちで、新学期を噛み締めていると、僕は校門前で声を掛けられた。
校門前で声を掛けてきたのは、丸眼鏡をかけたロングヘアの小柄な女の子。髪はボサボサしていて、身だしなみが悪い。北文高校の制服を着ているが見覚えがなかった。
彼女は、ぼーっと校門前で立っている。
「掲示板のクラス分けの張り紙を見たんですけど……私の名前が無いんです。私は今回落ちたという事でしょうか」
と言って、彼女は空を仰いだ。
その姿からは、なんとなく哀愁が漂っている。
「状況がよくわからないけど……君は新入生? だったら、入学式は明日だったような……」
「…………………………………………………なるほど」
彼女は納得したように頷いて、一瞬止まった後、ウネウネと悶え苦しみ出す。ワナワナと震え上がって、最後には燃え尽きた灰のようになっていた。
えっと……なんなんだ……この子。
「……大丈夫です。こんなのノーダメージ、ノーダメです。私の輝かしい青春の1ページの彩りにすぎません。今日の恥は、明日のお弁当のおかずにしてやりますよ」
「そう……お腹壊さないようにね」
僕がよく分からない忠告をすると、彼女は「心配してくれて、ありがとうございます」と素直に感謝された。
良い子なんだろうけど、なんか変な子だな。
「いつもこうなんです……重要なことがあるときは、いつもこう……何か上手くいかないんですよね」
彼女はしょぼんとして、ブルーな気持ちになっているようだ。こう言う時なんて言えばいいのだろう。
「まあ……新生活が楽しみで、ついフライングしてしまうことはあると思うよ。だからその……」
「そうですよね……こう言うことって、よくありますよね……励ましの言葉ありがとうございます!」
彼女は僕に敬礼して、ニコリと笑った。
立ち直りが早い。
いや……そう開き直って言われると、少しは気にして欲しいと思ってしまう。うーむ、これは僕が天邪鬼だからそう考えてしまうのだろうか……
「さようなら、また会いましょう先輩」そう言って、彼女は去っていく。
その後ろ姿は、儚く散っている桜の花びらと合わさり、春の始まりを感じさせた。
――――――これが、僕と彼女の初めての出会いである。
彼女の名前は『十色ヒトミ』
翌日の入学式で、神隠しに遭う少女なのであった。




