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08 休めない休日

「うへ……疲れたぜ」

 ロアは決闘に負けたので昼まで散々連れまわされ、ワイバーンだけでなく他のいろんなのも倒した。ゴブリンとかコボルトとか。特にコボルトは外見がただの犬だったのでなでようとしたところ噛まれた。マーシュによれば噛みついて病気をうつす他に、牙に魔法をまとわせて体のところどころに支障を起こそうとしてくるらしい。すぐに解が特製の消毒液を飲ませてきたので助かった。かなりすっぱかった。

 昼になったら一度ホテルに戻ってきてまたベーコン野菜パンを解と一緒に食べ、一息つけるかと思ったらまた森に連れていかれて、もう夕方である。

「明日はゆっくりしような。もう動きたくねー」

 解は今日ギルドでもらったお金をみてにやにやしている。あれほど動き回ったのにその元気はどこから出てくるのだろうか。

「そういえば、マーシュちゃん眷属が欲しいんだってね! こんど一緒に遠くに行こう!」

「そうね! そうするわ!」

「俺はここにいる……」

 ロアがそう言うと、解が飛びついてきた。

「一緒行こう! なんかちょうどよさそうなところ、ギルドで聞いてくるから!」

 解はギルドにテレポートした。

 ロアが大きくため息をつくと、見かねてかそれとも寿命のためか、マーシュが模様の刻まれていないただの板チョコレートを取り出して渡した。

「ありがとう。……にっが!?」

「あら、ごめん。まだ早かったかしらね」

 ささっとコップにカフェオレを瓶から注いでくれるマーシュ。これは普通においしかった。

「いぇーい! 戻ってきたよっ!」

 解が苦衷から飛び出てきた。何枚か束になっている羊皮紙を手に持っていて、その一枚目を少し悲しげな顔で指さした。

「……ここ、初心者が多い町なんだって。だから近くにはワイバーンぐらいしか強いのがいないんだって……」

 がっくりと肩を落としているあたり、今は解はテレポートで遠くの街へ行くという考えを持たないようだ。少し安心しつつ、カフェオレの残りも飲み干した。


 翌日。ホテルを出ようとしたらまた受付嬢が待ち構えていた。息が荒いのでまた走って来たらしい。

「ぜー、ぜー。すいません。緊急じゃないですけど、明後日、変異種の討伐隊を、組もうということになってます……はー。たくさんいることは解様がたくさん倒して証明してくれたので、ありがとう、ござい……」

 受付嬢の体が力を失って倒れた。

「おい、大丈夫か?」

「す、すみません……かれこれ四日徹夜してまして……動けません……うひゃっ!?」

 解が受付嬢をかばんに突っ込んだ。親指を立てていい笑顔だ。

「しっかり人も入れられるよ!」

「入れられるよじゃなくてだな……一言言ってから入れろよ。びっくりするだろ」


 今回は散歩である。昨日で十分なお金は手に入ったので、ロアのために休憩の日を取ることになった。というかロアが駄々をこねた。商店街はかなり続いているので、前回見ることのできなかった少し遠い街並みも見ておくつもりだ。ついでに何か買いたい。

「この剣なんて言うんだっけ! いかにも西洋っぽい!」

「サーベルだな」

 まず解がギルドの近くにあった武器屋のショーケースに夢中になっている。ギルドの近くなのもあってだろう、武器屋は結構繁盛していて中には人が何人もいる。

「これハルバードだよね! かっこいい!」

「重そうねえ」

 解がもう少し背が低ければ両親と子供に見えたかもしれない。もしかしたら今でもそう思われているかもしれない。

「買いたいのか?」

「え? 見てるだけだよ。もっといいもの持ってるし」

 かばんに手を突っ込み、剣を取り出す解。刀身も柄もすべて黒く、はめ込まれたサファイアが妖しく輝いている。

 解がそれを自慢げに「どう? すごいでしょ!」と言うが、はっきり言ってロアにはただの黒い剣にしか見えない。もしかしたら魔法のスーパーパワーが込められているのかもしれないが、魔力感知に無縁な日本人高校生には分からない。

「振り回すなよ。捕まるとかごめんだぞ」

「大丈夫、絶対に捕まらないよ!」

 なんだか警察が向かってきてもこてんぱんにし返すと言っているようにしか思えない。実際そういう意図なのかもしれないが、いずれにせよロアからすれば大変な迷惑である。

 五分もすると今度は別の店に興味が移ったようだ。パン屋の窓に顔をくっつけるようにして中の美味しそうな商品を見ている。

「買うのか?」

「え? 見てるだけだよ。もっとおいしそうなもの持ってるし」

「お前は何をしたいんだ……」

 冷やかしだろうか。ロアにはわからない。

「お! なんかステンドグラス!」

 次の興味は教会らしい建物に移った。冒険者ギルドと同じような高さだが、横幅は少し小さい。三角屋根の上には十字架があり、窓はカラフルなステンドグラスだ。誰でも入れるように大きな扉が開いている。

「お祈りし――」

「駄目! 絶対に駄目よ!」

 そう言えばマーシュは悪魔だった。悪魔はつまり神様と敵対関係にある生き物なので、教会のことが大嫌いなのだろう。もしかしたら聖なるパワーか何かでやられてしまうのかもしれない。


「人少なくなったね」

 しばらく歩き続けると商店街は終わったようで、とたんに店も人もいなくなった。どうやらホテル街ではなく一軒家街らしい。

 そこからさらに歩くと、もっとひどい場所に出た。道は舗装されているがそのまわりにはレンガを積み上げただけのような建物、刈り取られていない雑草が見える。スラムというものだろう。

「おいそこのお前!」

「おや」

 後ろから、聞いたことある声がした。

 後ろを向くと、おとといの見た目だけはかっこいい嫌なやつ――ロックが立っていた。その後ろには仲間と思わしき女が二人立っている。片方は魔法使いのようだが、もう一人はロアによく分からない。剣やらナイフやらを大量に服に括り付けている。

「うーわ! しつこいなあ。しかもやっぱり予想通りのパーティー構成だよ。ハーレムの気分はどう?」

 解がしょっぱなから煽りに行く。後ろの仲間たちがそれぞれ杖、拳を構えたが、下卑た笑みのロックが手で制する。

「お前には僕のプライドを汚された! めちゃくちゃにされて黙っているとでも思ったか?」

 ロックが腰の剣を抜き、解の額にそれを突き付けた。それからロアの方もじろりと向く。脅迫のつもりらしい。

「残念だったなぁ! お前はただのウッドのガキ! シルバーランクの僕には手も足も出せない! そこから黙ってこいつが殺されるのを見――」

「マーシュ」うかつにロックに聞かれて解が刺されたりしないよう、小声でつぶやく。「後遺症は残すな」

「オッケー!」

 マーシュがすごい速度で手のひらから風を放ち、剣を弾き飛ばす。マーシュは今はロアと解にしか見えないので、いきなり剣が吹き飛んだように見えただろう。

 そしてあっけにとられた表情のロックの顔面に全力の殴打を放つ。見えない拳でとんでもない威力の攻撃を受け、後ろに吹き飛ぶ。ドミノ倒しの要領で魔法使いらしい仲間も巻き込まれた。

「な、何をした!」

「俺はあく――」

 解が慌てて指パッチンし、ロア陣営とロックだけを巻き込んでこの間の魔法を使った。この世界についてはよく知らないが、教会があるということは分かったのでうかつに「悪魔と契約してます」という発言をしたらまずそうだ。

「こほん。俺は悪魔と契約してるからな、一般人雑魚のお前では手も足も出ない」

「っ――!?」

 ロックが地べたに座り込んだまま目を見開く。しかしすぐに、狂ったように笑い始めた。

「あっはっはっはっは! これは傑作だ! この事を教会に報告すればお前たちは死罪! 破滅だぁ! 二人とも! 聞いたよな――」

 後ろを向き、仲間に言質を取ったことを確認しようとする。

 しかし仲間達は何の反応も返してくれなかった。

「おい!? おいっ、どうした!?」

「ま、俺たちに手を出さなきゃ許してやるよ」

 ロアはポケットから『ミルキーウェイ』を取り出し、額に突き付けた。

「お、脅す気か!」

「これ以降も手ぇ出すのか?」

 銃を上下に振り、カシャンという音を鳴らす。それにロックは「ひっ」と悲鳴を出す。

「わ、分かった! もう関わらない! だから命はっ!」

「そうだ、それで良い」

 解がふー、と息をついて指を鳴らす。するとようやくロックの仲間たちも動き出す。

「だい、大丈夫ですか!?」

「くそっ、クソクソクソクソぉおおおおおおおお!」

 ロックの叫び声を背に解は肩をすくめてみせた。

 休みの日だったはずだが、今日は午前中だけでどっと疲れてしまった気がする。

 次回、ロアくんがワイバーン討伐隊として大活躍します。お楽しみに!

「面白い!」とちょっとでも感じてくださった方にお願いです! ぜひブックマーク、五つ星の評価をよろしくお願いします! していただいたら作者のモチベーションとテンションが爆上がりします!

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