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07 ルールブレイカーコンビ

「いい朝だ」

 ロアは窓の外から聞こえる鳥のさえずりで目を覚ました。布団やベッドはやはり日本の物の方がふっかふかで気持ちいいので帰してもらえるようマーシュに頼んだが、マーシュでも魔力が足りないらしい。どれだけ離れているのだろうか。それとロアたちが異世界人であることはマーシュはすんなり受け入れていた。曰く服装からなんとなく予想していたらしい。地獄の侯爵なだけある。

 解はまだ寝ているようで、布団が丸くなってできた団子の中から手だけが覗いている。

「寝たのか?」

「寝る必要がないもの」

 マーシュは一晩中起きていたらしい。暇じゃないのだろうかと思い周りを見てみた。

 カーペットには虹色に光る立方体が散乱している。その近くにはナイフや金槌のようなものもある。

「……何やってたんだ?」

「これはね、魔力を無理やり結晶にしたものなの。人間界でも質の低いものが出回って入るみたいだけど、これは百パーセント魔力でできた純粋な結晶なのよ」

「そんなもの何に使うんだ?」

 ロアの問いに対し、マーシュはそんなことも知らないのかと言いたげな顔になった。

「これを食べれば、魔法で使った魔力を補えるの」ひとつ指でつまんで掲げる。「このくらいのものを人間が食べれば魔力過剰で爆発するから、私みたいな悪魔とか向けね。あとは魔道具の充電にも使えるかしら?」

 魔力を補充するのに充電という言い方が少し引っかかったが、いちいち指摘しては面倒くさかったのでやめた。

「なあ、それワイバーンに食わせても爆発するのか?」

「ゴブリンに食べさせれば爆発するわ。でももともと魔力の多いワイバーンなら……半々くらいでもっと変異して強くなるかしらね。グロくなるけど」

 ビーフジャーキーにこれを入れて投げつけるという案は無理らしい。名案だとロアは思っていたが、残念である。

「それ全部お前が食うのか?」

「私も食べるけど、こっちで生活するのだから眷属が欲しいのよ。小さく砕いて食べさせれば適度に強化できるわ。たぶん」

 眷属ということはつまり部下みたいなものだ。一応ロアはマーシュに命令ができるので、実質ロアの部下みたいなものでもある。

 ――ぐー。

 ロアのお腹が鳴った。

「何か食べたい」

「これいるかしら」マーシュが魔法で紙に包まれた何かを取り出した。「あんまりおいしくはないけど、中に野菜と肉が入ってて一通りの栄養が摂取できる便利なパンよ」

 ロアが手を出すとマーシュがアンダースローで投げて渡した。さすが悪魔と言うべきかしっかり取りやすい場所めがけて投げてくれたので、ロアの掌に見事におさまった。

 包みを破く。中からカレーパンらしい見た目のパンが現れた。

「んっ、うまいぜこれ」

 美味しくないと言われていたが、予想以上においしい。塩の聞いたベーコンがしゃきしゃきの野菜、柔らかいパンとうまくかみ合わさっている。

「物好きな人もいるものねえ。私の弟とか『塩だけ食べる方がおいしい』なんて言うのよ?」

「それじゃあ人間と悪魔の味覚は違うのかもしれねーな。もぐ、うまい」

 少し食べていると、解の声が聞こえた。

「あぅ……もー朝なの?」

「もう朝だな」

 解はまだ眠たそうな表情で目をこすった後、大きく伸びをした。

「んー……今日は何する?」

「俺は何でもいいけど。しばらく生活できるくらいの貯金は持っておきてーから、それほど危なくもない依頼をやろうかな」

「えー。じゃ、ワイバーン探しに出かけようよ! そっちの方が速く稼げるよ!」

 なぜこいつはこんなにワイバーンと戦いたいのだろうか。昨日ので満足できなかった様子だが、ロアには解の考えがよく分からない。

「じゃあ勝手に行け。俺もういやだ」

「えー……」

 解はあからさまに悲しい顔をした。そこまでされるとロアが悪いことをしているように感じてしまう。

「あ! そうだ! 私と戦って、ロアくんが勝ったら一人で行くよ! それじゃああそこの森で決闘だー!」

「は!? ちょっと待ってちょっと待って……」

 無理矢理手を握られ、昨日ワイバーンと戦った、森の中の少し開けた場所に連れてこられた。


「ルールは単純! なんでもあり! 降参するか気絶するか死んだら負け!」

 それじゃあすぐに降参しようかとも思ったが、降参したらしたでワイバーン狩りに連れていかれてしまう。汚いやつめ、とロアは吐き捨てた。

「死んだらって何だよ、味方を殺す気か」

「死んだ直後なら私の魔法で生き返れるからだいじょーぶ! それに私は死なない!」

 確かに解の魔法の腕は確かだし、そこは信用してもいいだろう。

「それじゃあ審判がマーシュちゃんでいいかな!」

「何よ、ちゃんって……」

 ちびっこにちゃん呼びされたのが気に食わないらしいが、戦う気満々でそれしか考えていない解の耳には届かない。

 ロアは『ミルキーウェイ』、解も拳銃らしいものを構える。

「じゃあ始めるわよ。さん、に、いち、始めっ!」

 すぐに解が小瓶を投げてきた。ロアが反射的に狙撃すると、瓶は砕けて中の赤い液体が爆発する。

 爆風で少し砂埃が舞い、視界が安定しない。ロアは当たればいいなくらいの感覚で煙に向かって撃った。

「【暴風(テンペスタス)】!」

 かっこいい名前の呪文を解が唱えると、砂埃は遠くに飛んで行った。すぐにロアに銃弾が飛んできたが――

「こっちだよっ!」

 すでに移動していたので当たらず、逆に解に銃弾が向かう。

「【夜ノ結(ヴァルム・ノクトゥル)――がっ!」

 詠唱に時間がかかって、銃弾の方が速く到達した。狙いである眉間からはそれてしまったが、左手から鮮血が飛び散った。

「せ、せっかくかっこつけて詠唱してたのに! 詠唱破棄してやるーっ!」

「意味なかったのかよそれ……」

 その言葉通り、何も言わずロアの周囲を火が包む。どうやらひどい火傷はしないように適度に距離を置いてくれているようだが、熱いものは熱い。しかも火がロアの身長より高いので撃てない。

「手も足も出ないよね! ふっふっふ、私の魔法を甘く見たロアくんが悪いんだ! 降参?」

「……」

 ロアが何も言わないと、炎の壁は少しずつじりじりと近づいてきた。

「っ、おいマーシュ! 俺の勝ち判定にしろっ!」

「あっ!? それはずるい! ルール違反! 卑怯者ーっ!」

 ロアからは見えないが、解がマーシュに飛びかかったらしい。金属音や鈍い殴打の音がする。

「ちょ、ちょっと待って! 痛いから! ロ、ロアの負けにしてあげるからストップーっ!」

「やったー! 私の勝ちぃ!」

「……」

 だいぶグダグダになってしまったが、ロアは負けた。ワイバーンを狩らなければならない。

 まだ消えない火の壁を眺めつつ、面倒だなあとぼやく。

「ま、まったく……審判に手を出すなんて……ほんとはルール違反なのよ……」

 ようやく火の壁が消えると、嬉しそうな顔の解と頬をさすっているマーシュがいた。

 ちなみに、解さんが発動しようとした魔法は【夜ノ(ヴァルム・ノ)結界(クトゥルヌム)】です。防御するだけの結界ではなく、触れた物を吸い込んで解さんのかばんなどに転送してくれます。空間操作の魔法なので、この世界ではかなり上級な魔法です。

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