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37 ただいま!

「やっぱり来たのかよ……」

「そりゃあね」

 今日は教会の裏にいる聖職者は何も言わず転移を見送ってくれた、しぶしぶそうではあったが。クロームとかプロウパあたりから通すよう言われているのだろう。

 今回の転移先は何やら大きな神殿風の建物の入り口前の廊下のようだ。奥行きもマーシュが絶句するくらい広い。マーシュの分析によればここは魔法で維持されている空間らしく、隣の草原も含め、これほどの広さを維持するにはとてつもない魔力が必要なようだ。

 そしてお出迎えはルナスケープだ。もう何か吹っ切れたのか、それともマーシュたちに本性を見せているからかウィンドウを通して会話する様子はない。

「もうちょっと丁寧な言葉遣いすれば、芍薬とか牡丹とか百合の花なのに」

「うるせえ、オレ様はずっとこうなんだよ。今更変えれると思うか」

 ロア、解、マーシュ、カフスの四人が来たのを確認すると、ルナスケープはくるりと回って「ついて来い」と歩き出した。

 右を向けば、壁には大小さまざまな絵画が飾られている。種類も油絵や浮世絵、アニメ風のイラストなどもあってロアたちを楽しませる。

 左の草原には区画が整理され、いろいろな花や野菜、木が育てられている。りんごや桜などがそれぞれの区画をきれいに彩っていた。

「で、なんでまたここを? 直接あのおじいちゃんの部屋に行けばよかったんじゃないの?」

「ジジイの命令だよ。なんだ、あいつが育てた木でも見てほしかったんだろ。それとあいつはおじいちゃんじゃねえよ、おいぼれに見せかけてクソ強い。そこの龍とか悪魔と同じような長生きする種族なんじゃねえのか? 今は病気で弱ってやがるけどな」

 直接本人から聞いたわけではないが、スレイプニルの話や状況から整理して、龍や悪魔ではなくクロームは日本からの転生者、つまりただの人間だろう。会ったら聞いておこうと、解は頭の中のメモ帳に紫のラメ入りペンを走らせた。

「あのりんご、ひとつもらえるだろうか?」

 カフスはどうやらりんご区画にある真っ赤なりんごが気に入ったらしい。

「勝手に取ってこい。どうせひとつなくなろうが気づきゃしねえ」

「それでいいの、あなた……」

 嬉しそうにりんご区画へとダッシュするカフスを見送りながら、マーシュは小さくため息をついた。

「うまいぞ! これ!」

「おお、いいな」

 すぐに戻ってきたカフスは、両手に四段のピラミッド状に積み上げられたあかいりんごを抱えていた。ロアが少しりんご区画の方を向くと、一本だけりんごがすべてもぎ取られている。

「いただきまーす! んー、うまー!」

 ひとつ奪い取り、そのままかじりつく解。満面の笑みを浮かべている様子からして、たいそう美味しいようだ。

 そしてすぐに目を見開く。

「……うっ!?」

「あ。言い忘れてたけど、けっこう農薬かけてんぞ、それ。洗ってから食え」

「は、早く言ってよぉ……」


 しばらく観光気分で進むと、ふとルナスケープが立ち止まり、横にあった扉を開いた。

 その奥は昨日来た、真っ白いクロームの療養している部屋だった。

「あれ?」ロアが口を半開きにして疑問を呈する。「昨日なんか高級ホテルのロビーみたいなところじゃなかったか?」

 そのいくらか言葉足らずな疑問にルナスケープが解説する。

「まあ、昨日はロビーから繋がっていたな。この空間のちょうど中心に管理室が埋まってるんだが、そこの機械をいじりゃ部屋のつながりでも転送魔法陣のつながりもいくらでも変えられるってわけだ」

「へー。便利だな」

 部屋に入り、右手を持ち上げるロア。

「よう、じいさん」

「……」

 昨日と変わらずベッドの上に座っているクロームは、じいさん呼びされたからか不機嫌そうだ。隣の椅子に座っていたスレイプニルが笑顔で捕捉する。

「昨日さ、『野望が砕かれた! あのガキどもめ!』とか言って泣いてたんだよこの人」

「待て待て何を言っておる!? 儂がそんなことするわけ――」

「泣いてただろ。けっこうギャン泣きだったぞ」

 慌てて否定しに入ったクロームだが、ルナスケープにまで事実を暴露され頭を抱え込んでしまう。その隣では息子のプロウパが複雑な顔をしていた。カフスはその一幕を見て「この組織、意外とアットホームなんだな」と感想を漏らした。

「だから昨日言った通りボランティア活動やればいいでしょ! スーパーいいおじいさんって大人気になるよ! たぶん!」

 笑顔でそう言い放ちながらゆっくり近づく。

「日本人でしょ? 本名は?」

 何もかも見透かしたような解の目を見て、クロームはしばし考えこんだ後呟いた。

「確かにそうじゃよ。日本にいた時の名前は、春夏光成(はるなつみつなり)じゃ」

「……は、春夏? ほんとに?」

「嘘をついておるように見えるか?」

 解は小さく首を振った。確かユラの話によればロアの本当の母親は春夏百合江だった。もしかしなくても、彼らは親戚同士で戦っていたのだろうか。

 ささっとクロームの髪とロアの髪を引きちぎり、友達お手製のハンディDNA鑑定装置へぶち込んでスイッチを入れる。

「いてて。何だよそれ?」

「……い、いや。秘密」

 解は慌ててかばんに隠した。その際、一瞬だけちらりと解の目に移った結果は『親戚の可能性:99.994%』であった。

「そ、それよりも早く帰ろう! あ、この装置壊しても無駄だからね! 昨日レンガのホテルの地下室に一式コピー置いてきたから!」

「おーっ、さすがね。さ、私もロアくんの世界へ行きたいわ!」

「我も!」

 恭しく「こちらでございます」と芝居のかかった仕草でスレイプニルが異世界鑑賞の黒い機械へ手を向ける。解も乗っかって「うむ、よかろう」と言うと、あんぐりと口を開けた鉄の箱へ入る。

 ロアたちが全員乗ると口は自動で閉まり、ガラスのようなドアから向こうでスレイプニルが手を振っているのが見える。

「えーっとパスワードはなんだっけ。富士山麓おう――」

「ばかそっちじゃねーよ! 一夜一夜に人見ごろ!」

 ロアがそう叫ぶと、周囲が黒く染まり、機械はウィーンと大きな音を立てながらふわりと浮き上がった。

 そしてだんだんとただただ黒い景色の中から色とりどりの天の川、またはネオンサインのようなものが地平線まで続く美しい道が浮かび上がる。周囲のガラス窓に張り付いて解が「わー」と感嘆の息を漏らし、カフスぽかんとみとれた。その頭をマーシュがなでる。

『あー。テステス。聞こえてるか、聞こえてたら返事しろ』

 どこからともなくルナスケープの声が響く。

「聞こえてるよー!」

『おう。で、一応オレ様はこの機会の管理責任者を任されてる。ったくあのジジイ、面倒ごと押し付けやがってクソが。思い出したら腹立ってきた』

 機械はゆっくりと天の川の上を流れていく。その先に地球があるのだろうか。

『えー、お前らが今いるのは世界と世界の狭間だ。この装置はキラキラの道に沿って進むんだが、それはお前らのいた世界……日本だったっけか。そこにつながってる。一時間もしたら着くから、それまで外の景色でも眺めておけ』

「えー? 暗いよ?」

『黙って待てガキ。すぐに変わるだろ』

 解がその言い方に言い返そうとすると、とたんに周囲が白い光に包まれる。その光が晴れると、そこは一面のひまわり畑だった。

『ああ。そこはオレ様たちの世界に一番近い異世界だ。オレ様たちは「ソニー」って呼んでる。とりあえずそんな感じで、通り道の近くにある世界の景色がころころ切り替わるからな。何かあったら壁の青いボタンを押せ、通話できる。じゃあな』

 がちゃっと受話器か何かを置く音がして、ルナスケープの声が途切れる。

 解が大きな円卓と机を取り出すと部屋の真ん中に設置した。ロアが「気が利いてんな」と言うと、解は無い胸を張る。

「あ! あそこに人がいるぞ!」

「んー? あら、ほんとね」

 カフスとマーシュが窓に顔をくっつけて外の様子を見る。ひまわり畑の少し向こうに広場らしきものがあり、老若男女あわせて十名ほどの人が思い思いに過ごしていた。このあたりは、人は少ないが落ち着いたいい場所のようだ。

 それも少しするとまた光に包まれ、今度は白を基調とした近未来的な都市が映し出される。カフスは空を縦横無尽に飛びまわる一人乗りの飛行船を興味深そうに眼で追っていた。

『この世界は「バッファロー」。科学技術の発達が著しく、魔法は存在こそしますがなかなか使われません。この都市はウースブといい、コンピュータの製造が盛んです』

「おっ」

 今度はルナスケープよりも落ち着いた女性の声が響く。解が壁の『世界説明』ボタンを押したらしい。

「コンピュータ? とはなんだ?」

「うーん。何かって言われると難しいけど、まあ、計算をものすごく速くやってくれる装置だな」

「実物これね!」

 解がデスクトップパソコンを取り出し、机にどんと置く。スイッチを入れると起動音を出しながらディスプレイに色とりどりの光の玉が現れた。

「おお……」

 興味津々なカフスは別のスイッチも押そうとしたが、「うかつに触ると壊れるから」と言われ解に止められてしまう。マーシュも興味深そうにそれを眺めていた。

 すぐ、世界が切り替わる。

『次の世界は「メタ」――』


 一時間半すると、音声が『目的地に到着します』と告げた。

 さっそくパソコンでのゲームの仕方を覚えたカフスが名残惜しそうにするが、解が「おうちでやらせてあげるから」と言うとすぐにシャットダウンした。机やいすなどと一緒にかばんへしまう。

 次の瞬間、ふわりと周囲が黒く染まり、

「おー!」

 装置はがしゃんと音を立て、開けた場所へ着陸する。

『地球です。ここは福岡県八女市、茶の生産が盛んです』

 ロアたちの家からは遠いが、そんなことは些細な問題だ。

「お疲れ様だね!」

 ウィーンと滑らかな稼働音と共にドアが開く。全員外から出ると、胸いっぱいに空気を吸い込んだ。そしてロアと解が叫ぶ。

「「ただいまぁーっ!」」

 こんにちは。ここで小ネタをひとつ。世界の名前『ソニー』も『バッファロー』も『メタ』も、コンピュータとかそんな感じ関連の企業の名前からとりました。

 で、次回が最終回! お楽しみに。

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