33 目覚まし屋さん
「っ!?」
右手に握っていた『ミルキーウェイ』がいともたやすく斬り裂き、その勢いのままエッジはロアを貫こうと剣を突き出す。
ロアはすぐに前へ飛びのいて躱すが、先ほどよりもはるかに素早い動きでエッジは剣を振るった。
切っ先がロアの右腕へわずかに当たって赤い傷を形作る。
「その間抜け顔、笑えるじゃんね。……説明してやるよ。俺の【新月】は攻撃を吸収して回復する魔法。ついでに身体能力も底上げしてくれるじゃんよ」
「卑怯だなオイ」
「これが実力の差じゃんよ!」
残像を残すほどの速さで剣が振り下ろされる。
「【桜舞】!」
エッジが技を発動すると、ロアの背後から桃色の花びらが大量に舞い散ってきた。
ロアは剣を回避しつつ花びらをよく見る。
「よそ見はよくないじゃん」
「お前の動きぐらい読めるってこった!」
体が叫ぶままにくるくると回転し、エッジの黒い件を躱す。
花びらをよく見ていると、床や壁に触れた瞬間花びらは爆発を起こしているようだった。
風の流れに乗るかのようにゆらりと花びらはロアへと押し寄せる。
「銃もないのになかなかやるじゃんね?」
ロアはそれには答えず、無言でエッジの顔面に右ストレートを叩き込んだ。
いきなりの予測できなかった攻撃に一瞬ひるんだエッジだったが、すぐに技を放つ。
「【暁明星】っ!」
その切っ先へ金色の光が収束したかと思うと、竜巻かと思うような螺旋を描く風の波が放たれる。
だいぶ急に放ったためか、風の渦はロアの左腕をわずかに抉るだけにとどまり、かわりに花びらが吹き飛ばされ、壁にめちゃくちゃにぶつかって爆破する。
しまったという顔のエッジへロアが今度は左で頬を殴りつける。
「うがっ!?」
「おらぁ!」
顔面に全力のパンチをぶちかまして吹き飛ばし、倒れこんだエッジへ追撃で膝蹴りを叩き込んだ。
銃も破壊された以上情けをかける暇などないので、とにかく殴る。
「がっ! ……お、おま――ぐはっ!?」
エッジがうめき声を上げながら剣を握り、ロアに向かって突き出した。
それをジャンプして難なく躱し、腕を狙って剣を弾き飛ばす。
「っ!」
「よそ見はよくないんじゃなかったか?」
足を大きく振ってつま先で頬を蹴り飛ばす。エッジがまっすぐ吹き飛んで壁に衝突した。自分でもびっくりするぐらいの威力だ。
エッジはとっさに起き上がって剣を拾った。
「【虚花】!」
そう叫ぶと同時にロアへ飛びかかるエッジ。
その斬りかかる速度が尋常ではないほど速く、ロアは「まだ奥の手隠してたのかよ!?」と悪態をついた。
首へ漆黒の刃が迫り――なぜか、腕に激しい痛みを覚える。
「ぐっ!?」
まばたきをするとエッジは距離を取って剣を構えていた。ロアがどういうことだ、という前にエッジが種明かしをする。
「危なかったじゃんね……この技は幻覚を見せる技じゃん。お前が回避を諦めて動かないでいる隙に、ここから【朧月】を撃った」
「ちくしょう……いったいいくつ技持ってんだよ、お前……」
右腕の肘あたりは骨が見えるほど抉れている。痛みに顔をしかめつつも、ロアは心のどこかで「思ってたよりも案外痛くないな」と冷静でもあった。
必死に解決策を模索するため、言葉を投げて時間稼ぎする。
「なあ。ポルシェは寝てんのか? 今」
にやりと笑ったエッジは時間稼ぎという意図を読み取ったようだが、【虚花】が効果を発揮したからか余裕そうな笑みで乗っかってくる。
「寝てるね。無理矢理寝かせているって言った方がいいかもしれないけど」
「なるほどなあ。おいポルシェ、ぼさっとしてねーで起きろ!」
エッジが目を見開く。ロアは、それと同時に一瞬動きが鈍ったのを見逃さない。
「ははーん。分かったぜ」ロアが血がどばどばと出て動きにくい右腕を無理やり動かし、人差し指をエッジに向ける。「呼びかけたら起きれるわけだ」
「っ! すぐに消し飛ばしてやる! 【夢幽灯】!」
ロアの体ががくんと重くなった。続いて放たれた【二日月】の二日月がロアへ迫り、左頬をすぱっと斬り裂く。
「おーいポルシェ。俺に手ぇ出す気か?」
斬りかかってくるエッジが一瞬固まり、そのままバランスを崩してロアの目の前で倒れる。もろに二日月が左足へぶつかって傷を作った。
すぐに起き上がるが、くるくる動く二日月を躱す隙にロアのストレートが顔へヒットしよろける。
「【虚花】! 【暁明星】!」
「ポルシェポルシェポルシェ。起きろー」
明らかに【暁明星】の狙いがそれ、焦った表情を見せるエッジ。ロアは【虚花】の幻覚の攻撃をまともにくらったが、痛くも痒くもない。
「【桜舞】! 【暁明星】! 【朧月】ッ!」
剣の技のオンパレードだ。ひとまず【暁明星】を躱し、【朧月】はダンスのステップを踏むように避ける。【桜舞】は当たるまで距離があるので問題ない。それまでに、ポルシェの意識を覚醒させるだけだ。
「く、くそっ! なんで当たらない!」
「隙あり!」
もろに下腹部へロアの蹴りがさく裂する。
出血で意識がだいぶ曇っているが、エッジの動きもだいぶのろくなっている。大丈夫だろう。
「おい!」
大声にびくっと体が跳ねるエッジ。
「さっさと起きろ! 馬鹿野郎っ!」
「……っ!」
エッジは頭を押さえると、ゆらりとその場に倒れこんだ。
「お、まえ……おぼえ、て……ろ…………」
がくっと倒れたその姿を見て、ロアも座り込み、出血多量のせいで重い瞼を閉じた。




