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《※休載中》自己完結付与術師三栗傑の受難   作者: 莢山 迷
第1章:平穏な国タイダール王国編
43/44

43.どんな見た目でも癒し系だった。

 デラスに着いていくと、別室のベッドにはベルが横たわっていた。

 だが彼女に一切の動きは無い。顔色も白いままだ。

「······そんな」

 呆然、そして次第に怒りが湧いてでる。唇を噛み、爪が食い込むほどに手を握り締め、湧き出る憤怒は紅い流血として漏れ出ていた。

「私が出来ることは全部やってみた。けど、そのどれもが効かなかったわ。これ以上悪化する事は無いでしょうけど、同時に良くもならない。現状から一切が変わらないのよ」

「······ん? 」

「現場にいなかったから分からないけど、貴方たちの敵にはとんでもない奴がいるのね。まさか時間を止める魔法をこの娘にかけるなんて」

「······あー、それ俺だわ」

「は? 」

 頓狂な声を上げるデラスに、俺は成り行きを説明した。


「──なるほど、それで時間を止めた······と。貴方ねぇ、そりゃあそんな高度な魔法使ったら魔力空っぽにもなるわよ! 最悪、死んでたかも知れないのよ!? 」

「死ぬのを恐れて手を尽くさないってのは嫌だったからさ」

「······まぁ良いわ。時間停止が貴方の仕業ならこの娘の治療が出来る」

「本当か! 」

「えぇ、この娘の傷に付いてたのは呪術(カースド)系の毒、呪術毒は回復魔法や自然治癒を妨害するのよねぇ」

「え、それって大丈夫なのか? 」

「······こう見えて、人を治す事に関しては誰にも負けない自負がある。私に任せなさい」

 力強い目配せに、俺は強い安堵を覚えた。


 そしてデラス付き添いの元、俺はベルにかけた時間停止魔法の解除の用意をする。

「じゃあ、解くぞ? 」

「えぇ、お願い」

 付与魔法を解除する際は、特に難しい事は無い。ただ対象を認識して、『解除しろ』と念じるだけで何となく解除できる。

 今回もいつも通りだ。

(──解除······っと)

 その瞬間、ベルの胸部は弱々しく上下し始め、横たえられたベッドの上に血の染みが広がる。

「癒しの女神よ、彼の者に解呪の祝福と癒しを与えたまへ──······《癒ノ女神の祝福(ブレスオブパナクィア)》」

 デラスがベルの傷口に手を添え、魔力を込める。すると手編みのセーターの糸を引っ張っていくように、黒い魔力の糸がスルスルと傷口から抜けてゆく。

「······これが呪毒? 」

「えぇそうよ。かなり複雑で強い······これの使い手は相当なものね」

 冷や汗が頬を光らせながらデラスはそうつぶやく、その表情に余裕は無い。


「──呪毒に限らず、呪術(カースド)系の魔法は縄とか鎖みたいな物なの。魔力で形作ったそれで対象を縛る。でも結び方は人それぞれで、解きやすい術者もいれば、本人しか解き方を知らない場合もある。

 今もあと半分って所だけど、残りの術式が複雑すぎてこれ以上解けないわね······」

 まさに匙を投げたとでもいうように、デラスは両手を上に掲げる。

「······もう助からない、のか?」

「早合点しないの、せっかちさんね。まだ話には続きがあるわ。例えばスグルはもし解けないぐるぐる巻きの縄をなんとしても解きたいってなったらどうする? 」

「え? ······切る、かな」

「正解よ! 」

「······っ! 」

 楽しげに答えると同時にデラスは掲げた手を手刀としてベルに振り下ろす。直後、その勢いの強さからか辺りには圧力(プレッシャー)と突風が吹くような衝撃が飛ぶ。

 突然のことに目を瞑って腕を構えていたが、恐る恐ると目を開けてみると、腕を組んで仁王立ちするデラスが視界に映る。

「······治ったのか? 」

「えぇ、呪毒は全部断ち切ったし傷も完全に塞いだわ。あとは安静にするだけよ」

(呪いを断ち切って解いたってことか、流石はリアスの血縁だな・・・・・・って、ちょっと待てよ? )

 初めて見る解呪という動作だったが、その過程にふと疑問が湧く。

「なぁ、そうやって手で無理矢理断ち切れるっていうなら、ちまちま解く必要なかったんじゃないのか? もう最初からズバッと・・・・・・」

「そんな簡単に出来るなら苦労しないわよ。縄をナイフで切るにしても、一本の縄を切るのと束ねた縄を切るのとじゃ話が違うでしょ? この辺は()()()()()()()が大事なのよ」

 デラスの目配せを横に躱しながら、その言葉に納得する。

 つまりは無理矢理に断ち切るのは相当な切れ味、すなわち個人の技量が物を言うということらしい。そう考えるに、デラスは確実に断ち切れる程度まで丁寧に解いていたということなのだろう。

「そっか······おっと」

 とにかく、ベルが助かったという安堵に胸を撫で下ろすと、ガクンと膝の力が抜けてその場にへたりこんでしまった。

「アナタも病み上がりみたいなものなんだから、ベッドに戻って休んでなさい」

「あぁ、すまない」

 そう言われて立とうとするが上手く足に力が入らない。その結果「もう、仕方ないわね」とデラスにお姫様抱っこでベッドまで運ばれた。周りの職員や冒険者の絶妙に暖かい目線が辛かった······。


 寝かされた俺の傍にデラスが座り込む。もう放っておいてくれないだろうか。

 そう気まずく思っていると、デラスが口を開く。

「それで、アナタこれからどうするの? 」

「どうするって······まぁベルが元気になり次第王都に出立って感じかな······あ、馬車ぶっ飛んだんだ、この街って馬車ある? 」

「うん、まぁそうでしょうね。けど、あまりそれは勧めないわ」

「······? どういうことだ? 」

 言葉を選ぶ様なデラスではあったが、俺の今後に関わる事だ。深掘りしない訳にはいかないだろう。

「スグル、あなたがベルと呼んだあの娘が何者か、分かっているかしら? 」

「ベルが何者か······? 」

 確かに、俺はベルの事を殆ど知らない。けど何となく察する所はある。

 初めて会った時のやや高慢な態度、そしてあの年齢で1人で平然と馬車と護衛を雇う胆力と金銭感覚。

 有名なものとはいえ、物語を暗記して流暢に語る姿は教養を感じた。

「──どこかの貴族の娘が、家柄とか厳しい躾に我慢ならなくなって家出した、って所かな」

「そうね、いい線行ってるわ。······聞いてはいたけど、本当に世間知らずなのね。さすがに呆れもするわ」

「なんだよ、それ」

 何故そんな態度を取られているのかも分からないまま、俺はなんの気なしに返した。そんな俺がどう見えたのか、デラスは嘆息を一つこぼした。

「彼女の名前は、ベルフェグリンデ=セレスティリア=タイダール。タイダール王国王位継承権第三位。ま、平たく言えば王女様なのよ」

「······え? 」

 その一言に、俺の思考は凍り付いた。

 いや、まさか王族とは思わないじゃないか。そんなフィクションみたいなテンプレあるのかよ。


「話を戻すけど、家出した王女様をどこの誰ともわからない男が連れて帰ってきた、お腹に傷をこさえて。そんな状況だけみたら、どう思われるかしらね? 」

「『我が国の王女を帰還させた英雄、誉めて遣わそう! 』って感じじゃないの? 」

「楽観的に考えたらそういう考えもできるわね。でも、たぶんその可能性は限りなく低いわ」

 デラスはいやに神妙な顔つきで、言葉を選ぶようにゆっくりと続けた。

「『家出した我が国の王女をかどわかし、あまつさえ傷物にして返しに来た愚か者』って思われるんじゃないかしら。彼らのメンツを考えるに、あなたを悪に仕立てて処刑するのが一番安心なのよね」

「なんにも安心出来ねぇよ」

 なぜ王女助けて殺されなければいけないのか。


 このまま親切に家まで送り届けても首が飛ぶなら、このままどこか逃げたほうが良いのだろうか。いや、逃亡生活は絶対に嫌だ。それに乗り掛かった舟だ、ベルはちゃんと王都に送り返さなければならないだろう。

 となると一番の得策は俺たちの身分正体を隠したうえで、ベルを王都まで送るだけ送ってすぐに姿をくらませば、謂れのない罪で頭と胴がおさらばすることもないだろう。護衛依頼の報酬が手に入らないのはもったいないが、一番の目的は王都に行くことだ。行きつくならば十分といえる。

(とりあえず、そのスタンスで行こう)

 進路は決まった。あとはベルを含めて皆が全快するまで待機だ。俺を含めて。


 二日後、ベルが目を覚ました。その知らせを聞いてすぐ、ほとんど元通りになった俺とピエリスはすぐに見舞いに行った。

「よかった、気が付いたんだな」

「スグル、ピエリス。すまない、迷惑をかけた」

 這い出るようにベッドから体を起こし、ベルは深く頭を下げる。だが、俺はこの辞宜を受け取るわけにはいかなかった。

「頭を上げてくれ、俺たちが至らなかったばかりに大怪我させちまった」

「違うな。二人がいなかったら、二人でなければ取返しのつかない事態になっていたやもしれん。ありがとう、この礼は素直に受け取ってほしい」

「そうか。なら、どういたしまして。かな? 」

 歯切れの悪い返事を返すのが精一杯だった。素直に答えるには、懸念点が多すぎる。

 そんな微妙な感情が伝わってか、その場に気まずい沈黙が流れる。


「──スグルは、聞いたのだろう、私の事?」

「あぁ、聞いたよ。ベルフェグリンデ王女陛下」

 冗談交じりに敬称を込めて呼ぶと、ベルは眉根を顰めながら笑みを浮かべる。

「やめてくれ、どうかこれまで通りベルと呼んでほしい。友人としての頼みだ」

「そっか。じゃあそう呼ばせてもらうよ、ベル」

 俺がにっと微笑んで見せると、つられたようにベルも口角をあげる。

 若干ではあるが雰囲気が良くなったところで俺は続けた。

「しかし本当に災難だったよな、命を狙われるなんて並のことじゃない」

「あ、あぁ······、そうだな」

 その微妙な受け答えで、僅かにベルの顔が陰るのを俺は見逃さなかった。気にならないといえば嘘になるが、隠したい事なら無理に聞く訳にもいかないだろう。


 それでも、なんとなく察しというか、キーワードは分かっている。

 ──《特異点》。カァムがベルをそう呼称した。

 前世の知識で特異点といえば、数学とか物理学における定義や法則性の埒外に存在する点みたいな感じだった筈だ。

 ベルがどういう定義においての特異点と呼ばれているのかは正直分からない。だが、その何かしらの特異性が教団にとって目の上のたんこぶなのだろう。

(ほんっとに、考える事が多すぎる、俺頭使うの苦手なんだよな······)


 ──前途は多難。それでも進まない訳にはいかない。

 全快したベルが歩ける様になった頃、俺たちはデラス達に見送られてタイマンの街を出発した。

読んでいただきありがとうございます。

これまでお付き合い頂いている読者様方には大変申し訳ないのですが、今話を境にしばらくおやすみをいただきたいと思っています。

面白いと思って読んで下さっている皆様には申し訳なく思っています。

詳細は活動報告にて説明させていただきます。

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