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《※休載中》自己完結付与術師三栗傑の受難   作者: 莢山 迷
第1章:平穏な国タイダール王国編
40/44

40.その覚悟に応えるには。

「凄いなピエリス、私と大盾を背負ってこのスピードで走れるとは······」

「舌を噛むかもしれないので、静かにした方が良いですよ」

 スグルとカァムが激突する戦場から、ピエリスはベルを背負って走っていた。不測の事態に備え、ベルには神子の双璧(シルド・ジェミニア)の片方を被せている。

 向かう先はタイマンの街。冒険者協会支部のある街なら何かしらの支援、援助を望めるかもしれない。

 無事、辿り着けさえすれば。


「──っ! ベルちゃん、頭を下げてください! 」

 不意に感じた殺気に、ピエリスは声を荒らげる。

 その半身を捻り、背後から首筋に突き立てられようとしていた凶刃を盾で防ぐ。


「──あらら、バレちゃった」

 攻撃を防がれた女、ヘバーデインは特に残念がる様子もなく、わざとらしくそう零す。

「······」

 考える間でもない。この女はカァムの仲間であり、同様にベルを狙う敵であると。

 初めて会う相手ではあるが、それだけはハッキリと分かる。

 否、この女には覚えがあった。

「さて、はじめましてなんて挨拶は要らないわよね? その娘をこちらに渡しなさい、そうすれば痛い思いしなくて済むわ」

「······貴女、ダルーイの冒険者協会に侵入してきた人、ですよね」

 ピエリスはそう言い放つ。ヘバーデインは話を逸らされたことにあからさまに眉根を顰める。

「あら、あの時私顔は見せてないハズなのだけど······並外れた感覚ね、流石はケモノもどき。気色の悪い」

「······」

「あら、怒ったの? 案外ナイーブなのね」


 ピエリスは分かっている、これは挑発だと。


「ベルちゃんは渡しません。私が護るから」

「······じゃあ、死んでもらうしかないわね! 」

 その瞬間、戦いの火蓋が切られる。

 瞬く間に距離を詰めてきたヘバーデインが短剣を振るい、ピエリスは人並外れた動体視力で刃を躱す。

(ベルちゃんを背負ったままじゃ追い詰められる······けど降ろしたら真っ先に狙われてしまう)

 葛藤の末、ベルは盾の1枚をベルに持たせたまま地面に降ろした。

「その盾を絶対に離さないで下さい」

「······分かった」

 ベルは強い目をベルに向けでこくりと頷き頷く。目の奥には恐怖が見て取れたが、その強い眼差しからは恐怖をものともしないという覚悟が伝わった。


「あらあら、降ろしちゃって良いのかしら? 私の狙いはそのお嬢ちゃんなのだけど」

「狙いたければどうぞ、背後から貴女に攻撃するだけです」

「そう、なら仕方ないわね!」

 そう言って再び、ヘバーデインは驚異的な速度で迫る。そのやや目尻の垂れ始めた眼を吊り上げ、刃を振りかぶって。

 しかしその動きは、僅かに先程と違う。

「──はぁ!」

 ピエリスは咄嗟に構えた盾を回し、横に向ける。その盾は、すぐ横をすり抜けようとしたヘバーデインの鼻っ柱に直撃した。

「──っぷあぁあ! 」

 ボタボタと鼻血を垂らしながら、ヘバーデインはあからさまに狼狽える。怒りで目は血走り、歯が軋むほどに顎を噛み締めているようだった。


「やりやがったわねクソガキがぁ······! もういいわ、もう《運命の特異点》だってどうでもいい。あくまで特異点が敵対しない事が目的だしね、殺しても問題無いのよ。あんた諸共醜く殺してあげる! 」

 ヒステリックな声をあげ、何もかもを投げ捨てたような様相でヘバーデインは振りかぶる。

 ピエリスが握る盾をから再び火花が散る。

 繰り返される斬撃を愚直にも受け続けるピエリス。逆に言えば、盾さえあればそれを防げると慢心にも似た感情を、ヘバーデインは砕きにかかる。

「──《腐敗の刺突(レイピッドスポイラー)》! 」

「······!」

 異質である事はピエリスにも分かった。しかしながら、身にに刻まれた盾での防御という反射反応が、魔力を帯びた刺突を受けてしまった。

 その切先を受けた場所から、純朴な白を纏っていた盾の色相は陰り、やがてボロボロと崩れ始めた。

「──死ね! 」

「くっ······」

 あまりに呆気ない壁の崩落に驚いていたピエリスの隙を刃で突いてくる。結果ピエリスは頬に薄く傷をもらってしまった。

 その様子を見るや否や、ヘバーデインは肩を震わす。

「ククク······アハハハハ! 散々手こずらせてくれたけど、これで終わりねぇ。私の《特殊技能(ユニークスキル)》は毒属性の魔力を生成し、武器に纏わせるの。貴女の頬から侵入した魔毒はゆっくりと全身を巡り、そして最後には貴女を苦しませて殺す! アハハ! 」

「······で、だからなんですか? 」

 高笑いをするヘバーデインに対し、なおもピエリスは淡々と応えた。

 黒ずんだ穴の空いた盾を構え、ピエリスは一切の恐怖を感じさせない顔で相対する。

「ふぅん······泣いて命乞いでもすれば解毒してあげても良かったのだけど。残念ね」

「······」

 ヘバーデインは改めて刃を構える。その様子を見て、ピエリスは防御姿勢をとる。

「あら、どこ見てるの? もうまともに目が見えてないでしょう。当然よね、顔から毒が入ったんだから」

 最早ヘバーデインはピエリスへの興味を無くしていた。

 ヘバーデインが見たかった姿を晒さなかったピエリスの気高さに、ヘバーデインは失望した。

 醜さを持たない愚かしいまでの美しさを前に抱かれたその感情は、嫉妬に似通ったものであり、ヘバーデインの反応は自己防衛に過ぎなかった。

「死んで──」


「──待て! 」

 その言葉はまるで魔法のように、その場にいた全員の耳に届き、ヘバーデインもピエリスも動きを止めた。

「私を連れて行けば彼女らは見逃すのだろう? ならば連れて行け。もちろん、ピエリスの解毒もして欲しい」

「······少し遅かったけど、まぁいいわ。ほら──」

「ダメです!」

 ベルに手を伸ばすヘバーデインの声を遮り、ピエリスは声をあげる。


「貴女はさっき、ベルを殺しても問題ないって言いました。貴女達がベルの何に対して過敏になってるかは知りませんが、要するに貴女達が求めているのはベルが持つ何かであって、ベル本人じゃない! 少しでも気に入らなければすぐにでも殺すでしょうし、生きたまま道具のように使われる可能性の方がずっと高い。

 そんな······そんな受難に、ベルが囚われる事は私が許さない! 」

「許さないから、なんだって言うの? 」

「簡単です。死んでも護ります」

 脳を侵す毒故に、朦朧とした意識の中でハッキリと答える。

 同時に、まるで走馬灯を眺めるように、この旅に出る前のスグルとのやり取りを思い出していた。


 ***

「ピエリス、明日からの護衛依頼だが、役割をちゃんと決めておこう」

「······役割、ですか」

 道具の整理をするスグルが思い出したかのように、私にそう言い出した。

「あぁ。護衛対象を守る事を、完全にピエリスに任せたい」

「······それは、私ひとりで護衛するという事ですか? 」

「いや、ピエリスには護衛だけに専念して欲しいって事だ。正直、俺は誰かを守る戦いってのが苦手だ。その点については、俺はピエリスに遠く及ばない。

 そこで、だ。ピエリスは対象を守る、俺は脅威を排除する。っていう風に役割を完全に分けたい」

「なるほど。分かりました」

 私は二つ返事でそう答えた。スグルの言葉を疑う余地など無かったからだ。

「······ただ、不測の事態ってのはどうしても起こっちまう。例えば俺とピエリスが離れてしまったりとかな。

 そんな時は、俺が来るまで耐えて欲しい。俺は絶対にお前の元に駆け付けるから」

「······はい! 」

 そのスグルの強い眼差しに、私は強く応えた。


 ***

 スグルは必ず来てくれる、ピエリスはそう信じて立ち上がる。

 例えボロ雑巾のようになろうとも、それがスグルと交した約束だから。

「私には、守る事しか出来ないから! 」

 そんな彼女の覚悟に、強い想いに呼応するように、『壁』は脈動するように淡い光を漏らす。

 腐蝕し、風穴の空いた盾は漏れ出す光を吸収して自己修復を始めた。

「その盾、ただの盾じゃないようね」

「えぇ、大切な物を全部守る為の盾です」

 その時、平原を吹く風がピエリスに希望を運ぶ。

 スグルの匂いが、近づいている。

 ハリボテのような希望が一歩一歩と歩み寄る。


 思えば、無意識に目を逸らしていたのかもしれない。強く香る血の匂い、いつもと違う足音。

 でも、そんなハズは無いと切り捨てた可能性。有り得て欲しくないと望んだ事実。

 あまりにも無常に、現実は立ちはだかる。

「──ほらよ、スグルなら()()()()()やったぞ? 」

 現れたのは、糸の切れた人形のようになったスグルを担いだ、カァムであった。

「······っ! 」

「そう睨むなよ。かろうじて殺しちゃいねぇから」

 そう言いながら、カァムはスグルを放り投げる。

 その瞬間、ピエリスの中でプツンと何かが切れた。


 ──刹那、獣人の血と細く締まった脚部を駆動させてカァムに接近した。

 本来その身の前に構えて身を守る為の盾を肩の上まで振りかぶり、本能のままの殺意を叩きつける。

 だが、ギィンという重い衝突音と共にピエリスが振るった鈍器は止められる。

「怖······けどまぁ、ありがとう。俺に意識を割いてくれて」

「······? 」

 一瞬カァムの言葉の意味が分からなかったピエリスだが、すぐに理解し振り向いた。


 目を離した、離してしまったのだ。護衛対象(ベル)から。

 すぐにベルの若干虚ろになった瞳と目が合う。

 視線を僅かに落とせば腹部には血が滲み、鈍く光る凶刃が先端を覗かせている。

「──ベル! 」

 悲痛な叫びは、無情にも平野に散る。

読んでいただきありがとうございます!

少しでも面白いと感じていただけたなら、ブクマ・評価お待ちしております。

感想を頂けると筆者のモチベーションになり、作品がもっと面白くなるかもしれません。

これからも応援よろしくお願いします。

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