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4.素人の適当は危険。

 魔法の鞄(マジックバック)。それは、ゲームやファンタジーで時折登場するアイテム。

 物理を超えた内容量を持ち、無限に物が入る場合もある。

 作品によっては、鞄の中では時間が停止する。という設定があったりもする。


 という訳で作っていこうと思う。用意する物は、ヤギ一頭、大きめの岩、手頃な石、樹皮、付与魔法。そして───

(魔石······ってやつだよな、これ)

 俺が手に持って眺めている宝石のような石。これは、骨だけになったティラノの残骸の元に落ちていた物だ。触れてみると魔力を感じるし、いわゆる魔石であると勝手に判断した。


 魔法の鞄なんて作った事も無いし作り方も知らない。試行錯誤を繰り返すしか無い。鞄に魔法を込めて作れば良いと思うから、魔力を持った石を使えばいいんじゃないかな。

 なんて適当に捉えて、早速作り始める。


 まず手頃な石を岩で砕き割り、鋭利にする。そう、打製石器だ。

 ただ、ちょっと尖った石では斬れ味に不安しかないのでここで魔法を付与する。

「《斬れ味強化付与(シャープエッジ)》《金剛化付与(ダイヤメッキ)》」

 こうする事で、この石器は良く切れて、それでいて頑丈になった筈だ。


(これ使えば、ティラノも解体出来たんじゃね?まぁどうでもいいか)

 石器でヤギの皮を剥ぎ取り、皮からは肉を綺麗に削ぎ落とす。

 毛は後で使うから、ある程度とっておこう。

 その後で別の手頃な石で満遍なく皮を叩く。


 次に作った石器を使い、大きめの岩に穴を開ける。このためにダイヤモンド加工を施したのだ。

 小一時間程かけて岩に凹みを作った後、そこに水を溜め、樹皮とヤギ皮、あとヤギの脳みそを一緒にぶち込む。

 その後、鍋替わりの岩に付与魔法をかける。

(前みたいな超高温だとすぐに蒸発しそうだな。俺の魔法はイメージに引っ張られるんだ、コンロの中火位のイメージを保持して······)

「······《炎熱付与(ヒート)》」

 魔法をかけて1、2分。しばらくするとゆったりと湯気が上がる。成功したらしい。


 こうする事で樹皮に含まれるタンニンが、ヤギ皮のタンパク質をなんかこう······上手いことして、なんやかんやで腐りにくく、しなやかにしてくれる······筈だ。


(皮の鞣し方なんて詳しく知るかバカヤロー。人生で実際にやるなんて思っても居なかったわ)

 別に誰にという訳でもなく、頭の中でキレてみたりする。


 放り込んだ後で、ちょっと不安になった俺は近くから頑丈な枝を1本拾ってきて、樹皮をゴリゴリとほぐしたりした。

 なんかこうした方が、タンニンが染みでそうだ。


 この間に、昼飯でも作ろうか。と考え、俺は皮を剥いだヤギに手をかける。

 先程の石器包丁をヤギの腹に突き立て、正中線に沿って引く。

 するとパックリと腹が割れ、中からデロデロと内蔵が垂れてきた。


「······あ、ダメだこれ。うっ······オエッ」

 皮を剥ぐのは大丈夫だったが、内蔵はアウトだったらしい。俺は目の前のグロ風景に思わず嘔吐する。

 咄嗟ではあったが、川が近くにあって良かった。

 魚の内蔵は大丈夫なのに、何故だろうか。


 目を瞑りながら、俺はヤギの内臓を取り出し、腹の中を川で洗う。

 ちなみに内臓を取り出した時、ティウルが物欲しそうな目で見てたので食わせてやっている。今でもくちゃくちゃとガムのように噛んでいる。意外とグルメなのかもしれない。

 俺もホルモンは好きだが、下処理が面倒くさいので今回はパスだ。


 綺麗になったヤギをある程度の大きさに切り分け、それらを魔法で熱した石に張り付ける。

 食中毒が怖いのでしっかりと火を通す。

 両面を焼いたら出来上がりだ。


 ティラノのように《焼き目付与》を使っても良かったが、今回は実験も兼ねて普通に焼いてみた。もしかしたら何か違うかもしれない。

 焼けた物を手に取り、そのままかぶりつく。


「······くっさ」

 独特な獣臭が鼻を抜ける。味は最悪だった。

(昨日食ったヤギはこんな臭み無かったはずだが······)

 やはり焼き方の問題だろうか。いや、焼き方だけでこうも不味くなるものか?

 などと考えると、一つの可能性にたどり着く。恐らく鮮度なのでは無いだろうか。

 昨日はティウルが狩ってきた物をすぐに焼いたが、これは俺が寝ている間に積まれていたものだ。どれだけ時間が経っているか分からない。


(魔法の鞄に時間停止の機能は必須だな······)

 と、考えながらも臭い肉を食べた。せっかくティウルが取ってきてくれたんだ、無駄には出来んだろう。

 しかしせめてソース······いや、塩でいい。何か味付けが欲しいと切実に思った。


 なんともさもしい食事を終え、再び魔法の鞄の作成に取り掛かる。

 たっぷり浸したヤギ皮を、鞄の展開図を思い浮かべながら切り抜く。イメージは肩から下げるタイプのバックだ。

 昔から手先は器用な方で、図工とか家庭科の成績だけはトップクラスだったのだ。

 切った皮の縁に小さな穴をいくつも空け、そこにむしった毛を差し込み結ぶ。これによって縫合し、鞄の形にしてゆく。

 着の身着のまま異世界に来た以上、縫い針や糸なんて無いのだから、こんな方法しか思いつかなったのだ。


 そしてだいたい30分くらいでイメージ通りの肩下げ鞄が出来上がった。


 さて、鞄は出来上がった。次はこれを魔法の鞄にする工程だ。

 鞄にそのまま付与魔法をかければとりあえずは魔法の鞄になるだろう。しかし俺の付与魔法には時間制限があるらしく、魔法の鞄もしばらくすれば普通の鞄に戻ってしまうだろう。


 そこでこの魔石だ。これを使えば半永久的に魔法を付与し続けられる。異世界モノは大抵そんな感じだ。


 さて、魔石の使い方だが、もちろん分からない。

 俺の考えられる方法では、魔石をくっつけた鞄に魔法を付与するか、杖のように魔石を通して魔法を唱えた後に魔石をくっつけるか。逆にそれ以外思いつかなかった。


 まず手順を考え、後から魔石をくっつける後者の方法を試してみる。

(まず、魔法の鞄に必須な四次元ポ〇ット的な機能を······)

「《空間拡張付与(スペースエキスパンド)》───っ!?」

 魔法を唱えた瞬間、ブワッと汗が吹き出し、視界がチカチカし始める。心臓は早鐘を打ち、指先が激しく震える。


 スキル獲得に関して理解したように、この現象も何となく理解出来た。

 原因は魔力だ。恐らく今の魔法によってゴッソリ持っていかれたらしい。

 全力疾走をした後のような疲労感が一気に襲いかかる。


 視界が霞む。目は開いているはずなのに、真っ暗にも真っ白にも見える。

 しかしそれもやがて止み、すぐに体が落ち着いてきた。

「はァ······はぁ······」


(まさか魔法一個でここまで消耗するなんて······《筋力強化付与》や《炎熱付与》とは比べ物にならないな)

 クラクラする頭で思考するが、どうにも頭が回らない。

 だが魔力を消耗していることから、魔法は成立していると考えられる。

 しかし、もうこの時点でヘトヘトだがまだ完成では無い。

 希望として、時間停止の機能は欲しい。


(けど、《空間拡張付与》でこの消耗······時間停止は多分ヤバいよな。ちょっと妥協しとこうか)

 とは言え、現在魔力はガス欠状態である。今使ったら多分再び女神様と相見える結果になるだろう。

 魔法の鞄を作る為に死んで、蘇生権利使うのはちょっぴり恥ずかしい。「いのちだいじに」だ。

 横になって魔力が回復するのを待つことにする。


 * * *


 ふと気付くと、もう日が傾いていた。どうやら眠ってししまっていたらしい。

 傍らではティウルが眠っている。ついでにヤギの山が一回り大きくなっている、どうやら俺が寝ている間にまた狩りに行っていた様だ。本格的に腐りにくい機能が必須らしい。


 魔力も体感としてはほぼ全回復している、魔法を使っても問題は無いだろう。

 作りかけの鞄に、魔石を使って魔法を唱えてみる。

(《時間停止》的なのは嫌な予感がする。ここは敢えて、時間の進みを遅くする感じで行こう)

「《時間停滞(タイムスロウ)》」


 ───ボタボタッ······地面に液体が垂れる音がする。

 下を見ると、赤い物が地面の一部を染め上げていた。

「······は?」

(喉の奥がサビ臭い。鼻血、だろうか。頭······痛───)


 そう考えた辺りで、俺の意識は途絶えた。


  * * *


「······死にました?」

「いや、ギリギリ生きてるわね。空間を広げる魔法で一度魔力を大幅に消費したお陰で、容量が多少増えていたらしいわ。順番が逆だったら死んでたわね」


 今だ森の中でサバイバルを続ける傑を、2人の女神がモニタリングしていた。

 魔力を大幅に使い果たし、その場で気絶する傑を冷静に分析する先輩女神ことレリェナは、その様子にぼやく。

「それにしてもしぶといわね。早く死んでくれた方が楽なのに」

「先輩、そういう事言うのやめてください。死なないに越したことはないじゃないですか」

「だってぇ、死んで1回生き返らせてあげれば監察義務は終了じゃない。私も他の仕事があるのだけど」


 女神は転生者に対して一度の蘇生を行うか、または町に到着し身の安全が保証されるまで監察を続ける義務を持つ。

 蘇生に関しては自動でも可能だが、転送については座標を指定し手動で行わなければいけないのだ。

 その場でただ蘇生するだけでは再び死ぬだけであるため、転生者がキークェンの大森林内にいる場合、常に女神が転送の為に待機していなければならないのだ。


「先輩、これも仕事なんですが。それに先輩、仕事が減ってて暇だって言ってましたよね」

「······そんな事言ったかしら」


 白々しくしらを切る残念な上司(レリェナ)に、ハートゥラはため息をつく。

 ハートゥラにも、レリェナの言いたいことは理解出来る。この監察の途中は他の業務を行う事も出来ない。よってその間、仕事は溜まる一方なのである。

 一度援助と蘇生を行ってしまえば後は通常業務に戻っても良い事となっているため、その方が都合はいい。


 いつもなら、ゲーム感覚の抜けない転生者はすぐに死亡し、さっさと蘇生・転送を行うことで手が離れるのだが、今回の転生者、三栗傑はなかなか死なない。

(最初逃げ回っていた時は他の転生者と対して変わらない様子だったのに、突然戦闘を始めた······。まるで第三者から戦うように言われたみたいに。まぁ、気の所為でしょうか)

 ハートゥラは意外に勘が良い女神だったが、事実が確認できない以上、彼女の中では憶測の域を出ない。


「それにしても、なんでこうも魔法を使いこなしてるのかしら。いつもなら死んだ所でその辺もレクチャーするって言うのに」

「そうですね······それも不思議ですよね」


 魔法を使えている事についてはただの偶然ではあるが、通常とは異なる事が重なった為に、女神達は深く考えすぎていた。


 何はともあれ、女神たちによる傑の監察はもうしばらく続きそうである。

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