37.知り合いの身内に会った。
「冒険者協会の者だな、通って良し」
「どうもー」
衛兵のチェックを受けて俺とピエリス、そしてベルはタイマンの街に入った。
御者のおっさんとカァムは街に入らないらしい。
馬と馬車を停めてとく場所は街の外にあり、馬の面倒を見なければならない御者は街の外にある宿に泊まる事が一般的らしい。
カァムも「人の喧騒が苦手だ」と言ってそっちの宿に泊まると言っていた。
個人的には、彼の右目に刻まれた痛々しい傷について、周囲に奇異の目で見られることが嫌なのでは無いだろうかと思う。
まぁ、あまり詮索するのは不躾と言うものだ。本人が言うことを信じよう。
街の発展度で言えばダルーイよりも少しだけ劣っている印象だが、その代わりに活気が良い。街を歩くだけで気分が明るくなる気がする。
そうやって街の雰囲気を観察していると、不意にピエリスに声をかけられる。
「あの、スグルさん。ちょっとベルちゃんと街を回ってきて良いですか? 」
「あぁ、別に構わないぞ? 暗くなる前に冒険者協会に集合な。あと、知らない人に着いていっちゃダメだからな」
「はい! 」
そう元気の良い返事をして、ピエリスはベルと話しながら街の人混みに混じっていった。
女の子同士って本当にすぐ仲良くなるから不思議だ。
ピエリスが居れば変な輩に絡まれたとしても大丈夫だろう、と2人の背中を見送った。
「さて、俺も何処か行こうかな」
そう呟いて、俺も喧騒の中へと飛び込む。
***
散々何処へ行くか悩み、見知らぬ街で迷い、結果俺はタイマンの冒険者協会に来た。
(こういう時は情報収集をするのが基本だよな、うん。決して行くとこに困った訳では無く情報収集だからな)
そんな言い訳を己に言い聞かせながら、俺は冒険者協会の敷居を跨ぐ。
途端どこからともなく引き寄せられる襟元、突然の事にバランスを崩したと思えば何者かに首に腕を回され、転倒は回避した。
直後、首筋に当てられる冷たい感触。
そして耳元で爆ぜるがなり声。
「おいテメェら! この魔法使いを見殺しにしたくなければ俺の要求を飲め! 」
何だこの状況は。
あまりにも突然の事に、俺の脳内は驚きや恐怖を捨て去り困惑一色に染まっている。
建物に入ったら唐突にヘッドロックを決められ、首にナイフをあてられる。こんな状況、予測しろという方か無理な話だ。
「そんな事をしても出来ないものは出来ません! こんな事をする人間なら、余計冒険者登録の抹消を取り消す訳にはいきません」
「······」
協会職員の主張を聞いて、事情は何となく理解できた。
どうやらこの男は何かしらの問題行為を起こして協会から冒険者登録を抹消されたらしい。
しかしその措置に納得の行かなかった男は協会に怒鳴り込んだが、協会職員は頑として首を縦に降らなかった。
そんな状況に辟易としていた男の所に、なんにも知らない俺がやってきたと。
正直、知らないおっさんにヘッドロックされっぱなしと言うのは気分が悪い。しかしこのまま成り行きに任せても、余所者の俺は助けて貰えるか分からないしな。
やはり自分から動かないといけないのだろう。
「止めとけってこんな事。意味無いだろ、どう考えても」
「うるせぇ黙ってろ! ぶっ殺されたいか!? 」
「死にたくはないな。ま、アンタは運が無かったという訳で。《麻痺付与》」
「──ぐあっ!? 」
しなやかに俺を絞めていた筋肉は硬直し、緩んだ隙間から首を抜いて男の足を払う。
「確保ー! 」
職員の1人がそう叫び、他の職員や周りの冒険者があっという間に男を縄で縛り上げた。
「イテテ······変に捻ったな」
「大丈夫ですか? 」
若い男の職員が氷嚢を持って駆け寄って来た。こういう気遣いはありがたいものだ。
「あぁ、ありがとう」
「いえとんでもない。にしても凄いですね、まさかあの状況から自分から脱出するなんて」
「いや、運が良かっただけですよ」
「──運が良かった、ねぇ。謙虚なのは好感が持てるわ。けど、冒険者なんてやってる以上、相手を選ばないと嘗められるわよ? 」
後ろからいやに野太い声が俺に語り掛けてくる。心做しか、その声の発生場所からは圧迫感のような物を感じる。
恐る恐る振り返ると、そこには明らかにヤバい人が立っていた。
絹のように滑らかな肌に、ふんわりと塗られたチーク、黒と淡い緑のアイシャドウで彩られた目元。そして彩やかな、それでいて決してケバくはない紅のルージュの塗られた唇。
肩まで伸びた髪の毛は艶やかで、入念な手入れがされている事を物語っている。
そんな頭部を載せているのは、衣服がぴっちりと張り付いた筋骨隆々の胴体、四肢。
身長で言えば2メートルはあるだろう巨体。そんな情報が渋滞したような人物と目が合うなり、俺の思考はフリーズした。
しかしながら、目の前のその人物はそんな事を気に求めていないようで、マイペースに話を進める。
「にしても見ない顔ね、旅人さんかしら? 初めまして、冒険者協会タイマン支部の支部長をやってるデラス・クレレックよ。よろしくね」
そう言って、デラスは薄紫色のマニキュアの塗られたゴツイ手を差し出す。
「ど、ども······。ん、クレレック? 」
遠慮がちに差し出された手を握り返す最中、聞き覚えのある姓につい口が開く。
「もしかして······リアスのお兄さん? 」
「あらヤダ、リアスの知り合い? そうよ、アタシはリアスの姉よ」
姉と言う瞬間だけ、いやに語気が強く聞こえたのは気の所為だろうか。
この姉(兄)あってあの弟、と言うべきか。兄弟揃ってなかなか癖が強い。
共通の知人から会話が広がる事はよくある事で、そのまま協会内の酒場スペースで飲みながら話す事になった。決して断れなかった訳では無い。
あと俺は酒は飲まず、ジュースを頼んだ。
「──そうなの、アタシもリアスもこの街で生まれ育ってね。まぁ子供の頃なんていい思い出なんか1つも無いけど」
「へぇ······そうなんだな。リアスはそんな事一言も言って無かったけど」
「過去についてアタシはもう踏ん切り着いたけど、多分リアスはまだ振り切れて無いんだと思うわ。タイダールにずっと居るのもそういう事だと思う」
「······」
リアスは、いつも笑って表裏のない性格だと思っていたが、実際そうでも無かったらしい。
「ま、辛気臭い話ばっかりじゃ酒も不味くなるってもんよね。タイダールからタイマンに来たってことはもしかして王都に向かってるのかしら? 」
「あぁ、護衛依頼を受けてな。ちょうど休憩の為に寄ったんだ」
「あら、その割には護衛対象が見当たらないのだけど? 」
「そっちはパートナーに任せてある。正直、誰かを護るっていうなら俺よりも適任だしな」
「ふぅん、信頼してるのね」
「あぁ······」
信頼しているのだろう、多分。護るべき存在だった彼女も、いつしか共に肩を並べる相棒になった。
ピエリスが隣に居てくれれば心強いと感じるし、安心感がある。
(なんて、恥ずかしくて面と向かっては言えないな)
「······顔、赤いわよ? 」
「あー、ちょっと酔ってきたかな」
「りんごジュースでどう酔うのよ」
ニヤニヤと顔を覗き込むデラスから咄嗟に顔を背ける。
揶揄うのにも満足したのか、デラスは話題を変えてきた。
「ところで、護衛依頼はあなたとパートナーの娘だけ?」
「いや、もう1人いる。タイダールよりも前から護衛に雇ってたって。カァム・シルバーホールって言うんだけど」
「カァム······流石に知らない名前ね。アインちゃん! ちょっと調べて欲しいんだけど! 」
アインちゃんと呼ばれて反応したのは、先程の氷嚢を持ってきてくれた男の職員だった。
デラスはカァムの名を伝え、アインはすぐさま協会のカウンターの奥に走っていった。
「いや、わざわざ調べなくても」
「うーん、なーんか引っかかるのよね。カァムなんて良くも悪くも名前聞いた事は無いんだけど······」
肘を抱えながらデラスは肩をすくめる。
思えばそれは、デラスの勘だったのだろう。
しばらく経ってから、小走りでアインが俺たちの元に帰ってきた。
息を整えた後、アインは一言。
「あの、カァム・シルバーホールという人物は冒険者登録されてませんでした」
「っ!? 」
「······」
まさかの答えに目を丸くする俺と、予想通りとでも言うように落ちつした様子のデラス。
「······臭うわね」
そのデラスの一言が耳に響いた。
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