36.伝説を聞こう。
突然お休みを頂いて申し訳ありません。
次週より連載を再開させて頂きます。
「くっせぇ、寄るなバカ! 」
「ふざけんな、それが功労者に言う言葉か!? 少しは労えコノヤロウ! 」
馬車に着くなりそんな罵詈が投げつけられる、あんまりだ。
しかし全身から悪臭が漂うのも事実である。
魔力も底を着きかけていたから、本当はやりたく無かったのだが仕方ない。
「······《清潔付与》」
そう唱えると、なけなしの魔力を消費して衣服に染み付いた血や土の汚れは蒸発する様に消え、全身を包んでいた悪臭も消え去った。
猟奇的なまでに真っ赤に染まっていたマントは元の透き通る白を取り戻した。
「ほら、これでいいだろ」
「へぇ、やっぱ付与魔法ってのは便利なんだな」
余計な体力を消費した俺に、カァムはそんな間の抜けた言葉を返してくる。
「──っと、付与魔法とかお前の臭いはどうでもいいんだよ。レッサードラゴンの死体を何とかしないとな」
思い出したようにカァムは手を叩き、馬車から軽やかに飛び降りる。
俺はそのどうでもいい事になけなしの魔力を使ったんだが?
そんな重たい身体を持ち上げて、一対のドラゴンの亡骸を半ば呆れた目で見やる。
「つーかこんなデカい魔物、解体するのに丸1日費やすだろうし、解体したとしても全部持って帰れないだろ? 」
「んな事分かってるよ。だからこういうのはプロに任せるんだよ」
「······プロ? 」
どういう事だろうか。
「スグル、《サルベージコール》は持ってるか? 」
「さる······? 何それ」
「······」
当然、知らない事柄に分からないと返すと、決まりきったように呆れた顔が返ってくる。
もう何度も見たが、いつまでも不愉快さは変わらない。
「······マジか、回収屋も知らないのか? 」
「そう言うの良いから教えろ、お願いします」
どうせ常識欠如してますよ、とぶっきらぼうに応えた後、「人に物を頼む態度としてどうか」という葛藤の末の奇妙な文章が出来上がる。
その甲斐あってか、カァムはちゃんと回収屋について教えてくれた。
回収屋というのはその名の通り「回収」を生業とする職業らしい。
主な業務は迷宮等で行方不明になった冒険者の回収や、今回のように大きかったり、数が多い為に運びきれない獲物を回収するそうだ。
「で、その回収屋を呼ぶのがこれ、《回収依頼用設置ビーコン》通称サルベージコールだ」
「へぇ、そんなものがあるのか」
覚えにくい固有名詞が出てきた時点で、俺は話半分で聞こうと決めた。
「まずこの紙に名前を書いて、下の空白に細かい要望を書いておくんだ」
ほぼまっさらな羊皮紙を指差しながらそれを俺に手渡す。
「要望って言うと? 」
「まぁ例えば『この部位以外は売却してくれ』とか、『査定金は全て銀行に預けておいてくれ』とかだな。何も書かなければ全部売り払われて金だけが冒険者協会に保管される」
「なるほどな」
とりあえず銀行に口座(異世界にその概念があるのかさておき)が無いから必要ない。
「そうだな、一応魔石くらいは確保して起きたいな。魔石は売らないで協会に預けてくれ······っと」
「書けたか? なら《サルベコ》のこの部分を押してくれ」
ひったくるように用紙を預かると、カァムはサルベージコールの僅かに凹んだ部分を突きつける。
「ここか? ──え、痛った」
言われた通りに指の腹で押すと、プツリと小さな痛みが走る。咄嗟に手を引くと、傷ついた皮膚から血が漏れて指の上でドームを形成している。
「よし、じゃあ紙のこの辺に印を押せ」
「血判なら最初からそう言ってくんない? 」
カァムはそんな俺の言葉を無視する。些細な理不尽に首を傾げながら、言われた通りに血を羊皮紙に押し付ける。
「よし、後はここのボタンを押してここに置いておけば完了だ。こうしておけば、このサルベコがある座標が探知魔法を通じてここ近辺の回収屋に共有される。そうすれば、手の空いてる回収屋が取りに来るって訳だ」
「······」
(異世界ハイテク過ぎない? 回収屋のシステムがまるでウー○ーイーツなんだけど······いやちょっと違うか? )
俺はまたしても、異世界の魔法科学に唖然とする事になった。
***
「いやぁー素晴らしい! かっこよかったぞ、スグル! 」
「そりゃどーも」
回収屋を呼び、その後何事も無く馬車は目的地へ向けて動き出した。
お望み通り魔物との大立ち回りを見れたベルはご満悦であった。
「まさかあれ程のドラゴンを真っ二つにするとは! 最初は報酬目当てで依頼を受けた十把一絡げの冒険者と思っていたが、報酬目当ての隠れた実力派冒険者と評価を改めなければな! 」
「報酬目当ては変わらねぇのな」
褒めているのか貶しているのかは微妙な所だが、俺は少なくとも褒められていると思っている。
こんな状況だが、正直満更でもない。
「どうだスグル、王都に着いたら私専属の護衛にならないか? 」
「ありがたいお誘いだけど遠慮させてもらうよ、世界中を見て回る旅の途中なんでな」
(まだ始まってないも同然だけど)
「そうか······なら仕方ない。だが、諦めた訳では無いぞ? その旅が終わった頃に、またスカウトしてやる」
一瞬悲しげな表情を浮かべたベルだったが、すぐにいたずらっぽい顔でそう言い放つ。
その須臾の間に見えた悲観の顔がやけに印象に残り、俺は生返事しか返せなかった。
そんな曖昧な感じでベルとの会話が終わり、その間ずっと抱いていた疑問をふと口にする。
「ところでピエリス──」
「はい、どうしました? 」
「──俺はなんでずっと膝枕されてんの?」
「スグルさんは戦いの度に限界まで魔力を使うので、休んだ方が良いんですよ」
「なるほどそういう事ね······って微妙に答えになってないんだよな」
片の頬でピエリスの少し高い体温を感じながら、やんわりとツッコむ。
「嫌······でした? 」
「そんなこと無い。けど、ちょっと恥ずいかな」
太ももから伝わる温度差のせいか、少し顔が熱くなる。
「けっ羨ましいね、両手に花を抱えて満足か? 」
「ちょっと嬉しい」
少し距離を置いた場所で独りごちるカァムを後目に、俺はこの花園を満喫していた。
そんな中、ベルはしきりに先程の戦闘を反芻する様に感想をこぼしていた。
「しかし本当に素晴らしかった。その戦い様たるや、かの英雄を彷彿とさせる」
「······英雄? 」
「竜護の賢者ですよね? 」
英雄という言葉に興味を持つと、ピエリスもまた興味津々という風に応える。
「おぉ、ピエリスは知っていたか。魔法職でありながら直接戦闘をこなし、身の丈程ある大剣を振り回したという傑物だ」
「······それ、ほぼ俺じゃね? 」
「まさか、賢者は何百年も前に亡くなられてます。それに史実では、その大剣はスグルさんの持つ東剣では無いそうです」
冗談のつもりだったのだが、ピエリスにマジレスされてしまった。
すると、話す内に興が乗ってきたのか、ベルは意気揚々と賢者の伝説について語り出した。
「その賢者は名をクリス・カスタニアと言った。左手に杖を掲げ、右手で大剣を担ぎ、竜を連れて歩くその姿から、人々は畏敬の念を込めて《竜護の賢者》と呼んだそうな。
クリスが成し遂げた偉業は数え挙げればキリが無い。たったひとつだけ例にあげるなら、彼を知る者なら皆同じ伝説を語るだろう。
ある時、悪しき魔導師が大陸に火焔の雨を振らせ、大海に沈め、雷をもって穿った。たった一人の人間によって起こされた天変地異に民衆は混乱し、ある者は諦め、ある者は悪しき魔導師に取り入って生き残らんとした。
しかしながら、その魔導師の望みはただ一つ、『己を含む全ての破滅』。姑息な者共の薄氷の如き望みは一蹴されるのみだった。
そこに立ち上がったのが賢者クリス・カスタニア。大剣を振るって火焔の雨を切り裂き、杖を振るって大地を包む水を蒸発させて見せた。天地を割く雷も、あたかもクリスを避けるように当たらない。
その圧倒的な力を前に、悪しき魔導師は膝を付いて赦しを乞うた。賢者クリスはその魔導師の姿を竜に変え、己に付き従う事を命じた。《竜護の賢者》と呼ばれるようになったのはこの頃から、と言われている」
その楽しげなベルの語りに、ピエリスがころりと首を傾げる。
「あれ、雷を防いだのは竜ではありませんでした? 悪しき魔導師も確かその場で首を撥ねられたと聞いたのですが······」
「ま、伝説とはいえ所詮は伝聞。地域によって齟齬は出るだろう」
「へぇ······でも今の話って事実に基づいてんだろ? なんて言うか、そんなデタラメな人間がいたって考えると凄いよな」
「感想が子供のそれだな」
「うるせぇ」
茶化すカァムを軽くいなしながら、俺は会話を続ける。
「ところでベル、他にも伝説の人物とかって居るのか? 」
「あぁもちろん、竜護の賢者に負けず劣らずの英雄は数多く居る。例えば彼の話はどうだろう、神にノロマの呪いを掛けられた《神速の勇者》について──」
「盛り上がっているところ失礼します。そろそろタイマンの街に着きます、ここで補給と休憩を兼ねてしばし1晩停泊していきますのでご準備を」
こうして王都への旅は、1つ目のチェックポイントへ到着しようとしていた。
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