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《※休載中》自己完結付与術師三栗傑の受難   作者: 莢山 迷
第1章:平穏な国タイダール王国編
28/44

28.外骨格な死神が断つ。

 パチパチと小さく爆ぜる焚き火が、どうにも不安な心を落ち着かせてくれる。


 何者かによる作為的な遭難が発覚した瞬間、俺たちは森からの脱出を諦め、その場で野営すると決めた。

 木々は切り倒されている為、ある程度の見晴らしが確保され、丁度おあつらえ向きの切り株もある。野営地としては恵まれているらしい。

 俺としては見晴らしがいい事が不安だと思うがルベル曰く、魔物は人間に比べて視覚以外の感覚が遥かに優れているため、見晴らしの悪い場所は対してメリットにならないラウンジらしい。

 逆にこのようなある程度の視野を確保出来る地形の方が敵を視認しやすく安全なのだそうだ。そう言われると納得せざるを得ない。


 と言いつつ、炎をじっと見つめていては意味も無いだろうけどな。


 時は恐らく真夜中。俺以外は皆就寝中だ。

 ピエリスから見張りを交代して、今に至る。全員の命が掛かっている大事な仕事だが、如何せん緊張感に欠ける。

 そもそも今日会った魔物はマンティス一体のみ。ほかは魔物では無い小動物くらいなものだ。野営地に魔物が襲いかかってくる可能性は低いと思う。

 万が一という事もあるだろうと一応警戒はしているが、薄れかかった時間感覚の中で長い間何も無い。今ほどスマートフォンを持って転生したかったと思う事も無いだろう。


「──はァ······暇」

「そう言うなよ。これも大事な事だ」

 いつの間にか、後ろにはルベルが居た。


「あれ、もう交代の時間か? 」

「まだだよ。どうも眠れなくてね、スグルも話し相手が居た方がいいんじゃないか? 」

「······そうかもな」

 確かにこれ以上は、寝落ちしそうだ。


「まさかこんな事になるとはな」

「そうだな······」

 森から出られない。どうすれば出られるのか、なぜ出られないのか、何も分からない。

 じわじわとなぶる様な絶望感に、気持ちは沈んでゆく。

 だが可能性の1つとして、俺とピエリスだけでこの依頼に来ていたかもしれなかった。逆も然りだ。こうして四人で受注した事は、間違いじゃ無かったと思う。


「······スグルは凄いよな」

「ん? 」

 ルベルの突拍子のない呟きに、俺は疑問の音を漏らす。俺何かやったっけ?


「人間誰しも、姿形の違う者には少なからず忌避感を持つ。だが、君はピエリスちゃんと組んでいるし、信頼し合ってる。······羨ましいよ」

「······」

 俺は何も答えない。ルベルの意図が見えないからだ。


 彼の言葉に一瞬『あぁ、コイツも他の奴らと同じなのか』と落胆した。ピエリスを色眼鏡で見た様に感じたからだ。

 だが最後にルベルは『羨ましい』と言った。

 そんな俺の複雑な心情を読み取ってか、ルベルは物憂げに続ける。


「······こんな状況だ。あまり隠し事はしたくない。最初スグルに声を掛けたのは、スグルが有名人だからじゃないんだ。理由はどちらかと言うと、ピエリスちゃんの方かな」

 そう言って、ルベルは自身の頭を緩く覆い隠す帽子に手をかけた。

 その帽子の下から現れたのは──


「──角······? 」

「あぁ、そうさ。俺と、アルモスも、魔族(エヴィル)なんだ」


 素直に驚いた。思っていた魔族とは少し違った。

 魔族ってもっと肌が黒とか紫がかってて、耳が尖ってて、白目が黒くて······その新鮮さに耽っていた。

 そんな俺を、ルベルは小さく笑い飛ばした。


「はは、その表情。普通、相手の正体が魔族だって解れば、人間族(ヒューマン)がまず浮かべる表情は嫌悪や恐怖だ。なのにスグルは······好奇心って所かな」

(······当たってるな)


「魔族って差別されてるのか? 」

「そうだね、昔から人間とは中が悪いんだ。『人魔(じんま)の仲天地を裂く』なんて(ことわざ)が出来るくらいにはね」

 犬猿の仲、みたいなニュアンスだろうか。


「差別と言うより、敵対視って方が近いかも知れない。四百年以上も前から争ってきた、どちらかを燃やし尽くすまで火は消えないかも」

 寂しげな目を焚き火に向けたまま、ルベルは告げた。


 と、俺はふと疑問を口にする。

「じゃあなんで、ルベルは人間の国に来たんだ? 」

 そんないがみ合ってる種族の国にわざわざ来る理由が、分からなかった。


「この関係性を、何とかしたいなって思うんだ。魔法に優れた魔族と、技術躍進の要と言える人間、この二種族が素直に手を組めば、世界は飛躍的に進化する筈なんだ」


「······なるほどな」

 思ったよりしっかりとした理由だったので、俺は適当な返事しか返せなかった。年齢は俺とさほど変わらない様に見えるが、余程先を見据えて行動している。

 大学生になったばかりだから、と就活から目を背けていた自分が恥ずかしい。まぁ、結果逃げ仰せた訳だが。


「──で、今のが表向きの理由」

「は? 」

 その一言に俺は目を見開いた。俺の感心を返せと言ってやろうか、等と考えていると。

「俺もアルモスも、魔族の国じゃちょっと後暗い立ち位置でね。亡命してきたのさ」

「······亡命ねぇ」

 その単語から、悪い想像はいくらでも出る。少なくとも波瀾万丈と言うに相応しい過去を歩んできたのだろう。

 気になるが、流石に掘り下げられなかった。


「······さて、そろそろ見張り交代の時間だ。ゆっくり休むといい」

「うん、ありがとう。じゃ、おやすみ」

 焚き火に足向けるように、俺は目の荒い布に包まる。こんな布でも、体温は多少保てるのだ。

 そうして俺の意識は、深く眠りについた。


 ***

 ──翌朝、瞼を貫く日差しで目が覚めた。

「······おはよう」

「······」

 明け方の見張り番だったアルモスと目が合ったので声を掛けるが、返答は無い。ただ感情の読めない視線が帰ってくるばかりだ。

 ピエリスとは仲が良さげに見えたから、人見知りでは無いと思うんだがな。


 やがて全員がもそもそと起き上がり、早々に朝食をとる。献立は塩味強めの燻製肉と、簡単なスープ。これが冒険中の普通の食事だそうだ。

 ちなみにスープだが、ルベルは調理中によく分からない粉を入れていた、『これ入れると美味いんだ』だとか言って。いざ出来上がると嗅ぎなれた匂いがたつのだから驚いた。

恐らくルベルが入れた粉末はコンソメと思われる。あるんだ、異世界に。


 そんな感心もそこそこに、朝食を終えた俺たちは早々に歩き出した。森を出る方法すら分からないが、留まるより歩いた方が発見もあるだろう、と4人で決めた。


 しかし、ただ歩くだけと言うのも退屈なものだ。俺は沈黙には耐えられないタイプなのだ。

「そう言えば、ルベルの《職業(クラス)》って何なんだ? 昨日は剣も魔法も使ってたけど」

 俺は適当に話題を振る。


「ん、《魔術剣士(キャストセイバー)》だよ」

 その答えに、俺は転生直前の記憶を探る。

(······あったっけ、そんな職業? )

 そもそもハッキリと覚えている訳では無いが、なんとなく覚えがない。


「そんな職業あったのか」

「まぁ、中級職業は珍しいからね。けど剣術も魔法も本職並みに扱えるから便利だよ」


(中級職業······そんなものがあるのか)

 見覚えが無いのは、初期選択には無かったからなのだろう。

「······て事は、職業って進化するのか? 」

「知らなかったのか。そうだよ、職業は条件を満たすと進化するんだ」

(異世界覚える事多くね? )

 俺はもう、情報量に困惑していた。


「有名なのだと、魔法職から進化する《賢者》とかかな。他にも俺の《魔術剣士》みたいに複数の技能(スキル)によって複合進化する場合もあるし、ひとつの技術(スキル)を洗練する事で進化する職業もあるんだ。職業によって加護も違うから、職業の進化は戦闘における最適化とも言えるんだ」

「······」


(大丈夫、まだ理解できてる。要するに、スキルレベルの育て方によって職業が変わって、職業によって加護(バフ)が違う、と。

 育て方もその人の戦い方によるから、結局進化した職業はその人にとって都合のいい加護を与えてくれる······って事だよな? )


 俺は必死で脳内のメモ帳に筆を走らせた。

「······大丈夫か? 」

「あ、うん。すまん、ありがとう」

 何とか記憶に留めようとして、生返事を返す。


 そんな平穏な時間はやがて、終わる。


 ──ゾワッ······

 全身の産毛が逆立つような、不快な感覚。本能が告げる危険信号。『ヤバい奴が居る』と。

 ルベルもアルモスも、ピエリスもまだ気付いて無い。俺だけが知覚している、鋭く刺す様な殺気を。


(──来るっ! )

 何か言葉を発する事すら時間の無駄だ。俺は口を開く事もせずに、ピエリスの腕を引く。

 咄嗟の事でピエリスはバランスを崩し、尻を地面に打つが、そんなものは些末な問題だ。


 ──斬ッ!

 擬音に漢字を使うなら、こう言う表現になるだろう。

 ピエリスがさっきまで立っていた場所は、深くえぐり斬られていた。


「魔物か! 」

「あぁ、構えろ! 」

 端的な会話を交わした後、すぐさま戦闘態勢に移行する。

 斬撃の飛んできた方向から現れたのは、再び蟷螂(カマキリ)だった。


(またカマキリかよ! けど、色が違う──? )

 昨日の殺人蟷螂(キラーマンティス)はよく見る黄緑色の全身だった。だが今日のは全身真っ黒、また身体も一回りほど小さく見える。

 だが、圧力(プレッシャー)は昨日の比では無い。確実に強敵だろう。

 俺は覚悟を決めた。


 ぐい、と突然襟を引かれる。

「っ!? 」

「ダメだ、逃げるぞ! 」

 ルベルは必死の形相でそう言った。それ程までに強敵なのだろうか。


 アルモスもピエリスに手を伸ばす。

 その手をとり立ち上がろうとするピエリス。その足元は、無常にも崩れ落ちた。

「「······! 」」

 地面に刻まれた亀裂の傍で大地を踏み締めれば、崩れるのは極自然である。しかしこの状況では、あまりに理不尽だったと言える。

 道ずれにはするまいと、ピエリスに突き飛ばされたアルモスも呆気に取られていた。



「──ピエリス! 」

 俺はルベルの手を振り払い、ピエリスの落ちた亀裂に向かおうとする。だが、止められる。


「ダメだ、逃げるのが先だ! ピエリスなら大丈夫だ! 」

「っ! 何の根拠があって······! 」

「······信じろ! 」

「······チィッ」


『信じろ』と言うその顔を見て、俺は理解した。

 確かに無事な保証は無い。だが、信じるしか無いのだ。

 今無理に助けに出て、むざむざと殺されれば本末転倒になる。

 今は無事を信じて、体勢を整える事が先決なのだと。


 俺はピエリスを信じる。そして今は生き残る。

 それが今出来る事なのだ。

読んでいただきありがとうございます!

少しでも面白いと感じていただけたなら、ブクマ・評価お待ちしております。

感想を頂けると筆者のモチベーションになり、作品がもっと面白くなるかもしれません。

これからも応援よろしくお願いします!!

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