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《※休載中》自己完結付与術師三栗傑の受難   作者: 莢山 迷
第1章:平穏な国タイダール王国編
20/44

20.竜、強い。

 ワイヴァーン、強靭な爪と大きな翼を持つ魔物。一般に亜竜種に分類され、知能は高くない。故に動くものを軒並み獲物と認識し襲いかかる、らしい。


 なんだろう、無理って感じはしない。イケそうだ。

 だって、森で闘った虎の方がよっぽど怖かったもん。あの圧倒的強者感に比べれば、声と体がデカいだけな感じがする。

「皆さん隠れてて。ちょっと倒してきます」

「ダメ、勝てっこない! 」

 ケモ耳少女が必死に止めようとする。


「大丈夫、俺強いから」

 そう言って俺は獅子王の牙を握り締め、馬車の外に出る。


 ピギャアァ───!

 馬車から1歩踏み出すと、すぐさま薄灰色の亜竜と目が合う。けたたましく鳴き、俺を威嚇してくる。


 すると、上空に浮いていたワイヴァーンは一転し、俺めがけて急降下を始める。

「うおっと! 」

 ワイヴァーンの体当たりを避け、俺は獅子王の牙を構える。

 地面に降り立ったワイヴァーンも俺を睨み、再び咆哮する。


「どっからでもかかってこ───なぁ!? 」

 突然俺めがけて飛んでくる炎の塊に、俺は飛んで避ける。


(こ、コイツ炎吐きやがった!? )

 ワイヴァーンってそういう事しないイメージなんだが、この世界では炎を吐くようだ。


 突然の火炎放射に戸惑っていると、次は俺に向かってドシンドシンと走ってくる。

(来る······! )


 トッ、と地面を蹴ったかと思うと、ワイヴァーンはサマーソルトキックを決める。

 些か予想外の攻撃だったが、咄嗟の反射神経で直撃は避け、左腕を爪が掠る程度で済んだ。


(マジか、めちゃくちゃアクロバティックじゃ───痛っ······)

 先程攻撃の爪に触れた左腕がイヤに痛む。ふと見やると、傷口は紫色に変色していた。


 この現象は、異世界(こっち)に来て2度目だ。


(毒か······)


 前言撤回、この魔物は強い。さて、どう切り崩すか。

 と、その前にパンパンに腫れ上がった腕を何とかせねば。とりあえず魔法の鞄から携帯用の水筒を取り出す。

「《付与(エンチャント)万能薬(エリクサー)》」

 びちゃびちゃと水筒の中の水を腕にかける。こうするとみるみる紫色の腕が元に戻るから不思議だ。


 しかし、あまりのんびりもしてられない。ワイヴァーンは既に次の行動に移っている。全身でぶちかましを繰り出すようだ。


 当然俺はその攻撃を避けようとする。だがその時、目の端に馬車が映る。ワイヴァーンの進行方向にだ。

(───受けるしか無いのか)

「《筋力強化付与(パワーブースト)》! 」

 そう唱えて、俺はワイヴァーンの前に躍り出る。


 ガキィン!とワイヴァーンの鼻先と俺の太刀が強く打ち合う。


(ヤバい······飛ばされるっ! )

「《重量付与(ヘビーグラム)》! 」

 思いつきではあったが、その魔法のおかげでまともに攻撃を受けられる。

 両足で地面を削りながら、馬車のギリギリで食い止める。


 結果論ではあるが現状ワイヴァーンに最も接近している、攻撃のチャンスだ。俺は一瞬で太刀を引き顎目掛けて斬りあげる。

 モンスターなら、いや生物なら頭は弱点だろう。斬れなくとも衝撃さえ与えられればダメージになる。

「おらぁ!」

 頭は弱点、それ故に防御も固くかすり傷程度しか付けられない。だが、顎を打てば脳みそも揺れるだろう。


 だが、案外当たりが甘かったらしく、ワイヴァーンはふわりと後ろに飛び退き、大きな翼をはためかせる。

 ピギャア───!

 大空を飛び、こちらを見下ろす。


 空を飛ばれると面倒だ。俺には現状遠距離攻撃が無い。

 だが、考えれば案外作れるかもしれない。街に帰ったら遠距離攻撃を考えてみよう。

 とは言え、今はそんな余裕はない。


 空から見下ろす亜竜をいかにして地に落とすか。この状況は、生前やっていたハンティングゲームでよく経験した。

 俺は足元にある石1つ拾い上げる。

「《付与(エンチャント)閃光弾(スタングレネード)》。おら落ちろ! 」

 付与魔法をかけ、すぐさま上空のワイヴァーンに向けて投げる。

 外すピンなどは無かったが、魔法をかけた後に時差で光を放つ様にイメージした。俺はすぐに目を閉じる。


 薄い瞼の向こうで、カッと何かが光るのを感じる。

 そして1拍置いて聞こえる断末魔。上手くいったらしい。


 目を開けると、そこには無様に地面に墜ちたワイヴァーンが。

 俺はすかさず距離を詰め、太刀を振り上げる。

 ゲームのようにダメージ式ではないのだ、首を落とせば一撃で終わる。


 そう、ゲームでは無いのだ。


 ビギャアァァァア───!

 太い尻尾を、太い首を振り回し、ワイヴァーンはその場で無茶苦茶に暴れる。

 閃光弾で墜ちたモンスターも生きるために必死だ。いつまでも隙を晒さない。光で目が見えなくなった程度で大人しくはならないのだ。

 あまりの苛烈さに、どうにも攻めあぐねていた。すると───


 ───ボウ! 目を瞑ったままの頭から一筋の炎が吐き出される。

(ヤバっ! )

 何とか予期せぬ炎を避けるが、避けた先がまずかった。


 ちょうど頭上から、尻尾が振り下ろされる。

「ごはぁ───! 」

 回避をした直後だ、他の行動などままならなかった。


「───《継続回復付与》······」

 一旦ワイヴァーンから離れるように転がり、食らったダメージを癒す。

 だがその間に、ワイヴァーンの方も調子が戻ったようだ。充血した目でこちらを睨む。


(······クソ、倒そうにも隙が無い。その上固いし、あのケモっ娘の言う事素直に聞くべきだったかな、普通に強ぇ)

 だが、絶望して諦める気はさらさらない。その腑抜けた考えは、失う物を増やすだけだ。


 必死に俺は攻略法を考える。

 何かある筈だ。そう考える間にも、ワイヴァーンは両の脚に力を篭める。


 来る───!

(その勢い、利用させてもらう!)

「《斬味強化付与(シャープエッジ)》! 」

 先程のように受ける構えをとる。次は真っ二つにしてやる。


 だが、ワイヴァーンにも野生の本能とやらがあるらしい。

 俺の目の前でピタリと止まり、その場で反転する。

 尻尾を横薙ぎに、俺の身体を強く打つ。

 勿論太刀は前に構えてた為、横からの攻撃には無防備だ。

「───っ! 」


 呻き声を漏らしながら、水切りのように地面を転がる。

 急いで《継続回復付与》を唱えようとするが、息が上手く吸えない。声が出せない。

 パクパクと口を動かすが、サビ臭い空気を絞り出すだけだった。


(ヤバい───)

 衝撃の為、大太刀も何処かへ飛ばされた。

「カッ······ハ······」

 まだ、まだやれる。なんでもいい、捻りだせ!

 そう思い、俺はがむしゃらに右腕を突き出す。


 ポッ───と、突き出した右手の人差し指の付け根が優しく光る。

 突然の事に困惑していると、たちまち小さな火種は大きくなり俺の手を包む。だが、不思議と熱くない。ただ温かい。


 やがて俺の身体よりも、ワイヴァーンよりも大きくなった炎の塊は変形を始めた。

 翼のようなものが2枚生え、次第に生き物らしい形になる。

 炎のそれは、口と思われる場所を開く。


『───亜竜如きが、身の程を知れ』

「っ!? 」

 この声を、俺は知っている。ブレフィオーレだ。


『我が友に手を出そうと云うのなら······その矮小な命ここで消滅すると思え』

 その言葉にワイヴァーンは身を縮こまらせ、やがてあさっての方向へ飛び去っていった。


「······ブレフィ、サンキュ。助かったよ」

 大分落ち着いてきた状態で、かすれ切った声で俺はとりあえず感謝しておく。

『スグル······貴様もだ』

「へあ? 」

『亜竜ごときにあれ程まで苦戦しおってこの馬鹿者が! 』


 (え、えぇ······俺が怒られんの? つーか俺に対しての方が語気が強いんだが)


『次亜竜如きに手こずる様なら、貴様諸共焼いてくれる。ではな』

 それだけ言い残し、ブレフィの姿は空気に散った。


(あいつ······あんなキャラだっけ? )

 既に何も無くなった虚空を見つめながら、俺は呆然としていた。


「な······ワイヴァーンが······! ならもう一度呼んでやらぁ!」

 後ろで横たわるモゴロツキはそう喚くと、もう一度笛に口を近づける。

 その声に反応して俺は振り向いたが、心配は無用だった。


「させるかよ」

 ベタなセリフと共に力強く腕を踏みつけにされ、ゴロツキは笛を地面に落とした。


「なっ誰だ!? ······テメェら、こんな事してタダで済むと思ってんのか! 俺らのバックにはナリアガール男爵が居るんだ、テメェら如き冒険者なんか社会的に抹殺されるだろうよ! 」

「へぇ、ナリアガールねぇ。向上心の強いおっさんだな、とは思ってたけど違法奴隷に手を出してたか」

「あ? てめぇ、あんまり舐めた口を───っ!? 」

 男は首を無理に捻り、自分を踏みつけにする者の方を見る。すると顔色がみるみる悪くなっていった。


「舐めた口を······なに? 」

 男の腕をぐりぐりと踏みながら、ザッコスはニタリと笑う。

 やっぱりザッコスは有名人のようだ。こんなモブでも一目見て把握したらしい。


「良いとこ持ってったな、おい」

 俺は皮肉を込めてそう言った。どうせ来るならもっと早く来て欲しかった。

「あはは、良いとこ取りしたつもりは無いよ。最後を華麗に決めたのさ」

 それを『良いとこ持ってった』って言うんだよ。


「見るからに不服な顔。仕方ないだろ、俺が出ると高確率で馬車が木炭になる。炎遣いの俺は色々気を使うのさ」

「俺も炎遣いに入るんじゃねぇの? 」

「まだまだ未熟だし、大丈夫でしょ」

(くっ······言い返せない)

 俺は一旦無視する事に決めた。


「にしても、最後の炎の竜は凄かったね。あれもスグルの技? 」

「あれは······いや、やっぱり秘密」

「おいおい、そりゃ無いだろう」

「お前も、Sランク冒険者だって事隠してたろ?そのお返しだ」


 まぁ、神竜との関係は流石に広まるとマズイ気がする。

 ザッコスは信用してない訳じゃないが、口が軽そうだ。なので言わない。


(───さて、強くなんないとな)

 至らなかった自分に苛立ち、俺は人知れず拳を握り込んだ。

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