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《※休載中》自己完結付与術師三栗傑の受難   作者: 莢山 迷
第1章:平穏な国タイダール王国編
18/44

18.頂点に近い者の背中を見る。

 ───コンコン

「入れ」

 ミョルニィルは突然の来客に冷たく答える。だが現在書類仕事の真っ最中なのだ。それも致し方ない。


「支部長遊びに来たよ」

「なんだお前か。急ぎでなければあとじゃダメか? 」

 執務室に入ってきたのは冒険者協会ダルーイ支部医療班班長のリアスだった。


「それ、本来もっと早く終わってるはずの仕事でしょう? 」

「そうだな、誰かさんに骨を折られて無ければ終わってたかもな」

 互いに皮肉を言い合う2人だが、どっちもどっちだと言うことは誰も言わない。

 決して二人が険悪な訳では無い、こうして悪態を言い合うのが彼らの一種のコミュニケーションなのである。


「それで、なんの用だ? 」

「うん。スグル君を()()()()に送り出したって聞いたけど、何を考えてるの? 」

「スグルは決して弱くないし、あくまでザッコスの同伴だ。心配はないだろうと判断した」

「ザッコスって所が心配だけどね」

「まぁ······アイツは性格に多少難があるが実力は確かだ。スグルは無事に帰ってくるだろうさ」

 ミョルニィルはふと窓の方を見る。その方角にはスルルクの縦穴がある。


「わざわざ同伴させて新人死なせるなんてヘマ、ザッコスはまずしない。信じようじゃないか、世界で五人の英雄(Sランク冒険者)の実力を」

「······それもそっか」


 リアスは、それ以上心配を口にする事は無かった。


 ***

「ザッコス、その槍······」

「どう、かっこいいでしょ? 」

 槍を構えながらザッコスはおどけてみせる。だが、こちらを振り向こうとはしない。

「いや最初から使えよ」

「いやぁ、スグルの実力を計りたかったからね。愛槍(コイツ)を使っちゃうと俺で全部解決しちゃうから」


 何を言っているんだか。そう悪態のひとつでもつきたいところだが、今のザッコスはついさっきまでと違う。

「······勝てるのか? 」

「スグルの闘い見てたからね。倒し方は分かった」

「本当か? 」

 訝しむように問うてみる。ザッコスは強いという事は何となく察したが、だからと言ってこの無茶苦茶な狼共を倒せるか、と聞かれれば微妙だと思う。


「スグルがさっき炎の剣で斬った時、焦げた部分は再生せず、その下から肉が盛り上がるように再生した。つまり、焼け焦げればあの狼は死ぬんだ」


 確かにその通りだ。だが───

「───再生する前に······だよな」

「モチロン」

 軍隊狼共はもはや3、4mはあるだろう。それらが復活する前に焼くと言うのは難しいはずだ。


「安心しなよ、一瞬で焼き滅ぼす」

 そう言うザッコスの槍には魔力が集まる。


「《火焔槍(バーンランス)》」

 ボウッと刃先に炎が灯る。その炎で軌跡を描きながら、ザッコスは横薙ぎに槍を振るう。


「───《黄昏の滅炎(ムスペルラセール)》」


 文字通り、一瞬だった。

 刃先が軍隊狼共に当たるや否や、燃え上がるでも無く、ただ黒い傷が残った。そう思えば、その部分から破裂するかのように炭化し、砕け散った。

 脅威の生命力を持っていた狼は今や、床に散らばる塵と化した。


「───すげぇ······」

「だろ? 」

 嘘偽りのない、つい漏れ出た感嘆にザッコスはあくまで軽く答える。


 風に吹かれて埃を立てるだけの黒い塵を見やりながら、俺は痛む体を労わってゆっくりと立ち上がる。

「依頼達成······なんだよな」

「依頼さえ終われば良いってモノじゃない。常に頭を回し続けないと。思考が止まった瞬間は常に何かを失ってると思えよ? 」

「······」


 どうしよう、実力出してからザッコスが凄く怖く感じてきた。本格的に先輩なんだなと思った。

「この軍隊狼、明らかにおかしいよね。生物として違和感がある、恐らく人間が介入してる」

「人間の介入?」

 つまり、改造とかそういう奴だろうか。


「うん、だって増えたりデカくなったりする魔物に何人もの冒険者が犠牲になってる。なのに俺らが着いた時には痩せ細ったか弱い狼が一頭。冒険者達が帰って来られなかったのは、この魔物の性質にやられたと見て間違いない。

 さて、他の狼はどこへ行ったんだろうね? 」

 ザッコスはイタズラっぽくそう聞いてくる。恐らく答えは知っているようだ。

「······まさか、迷宮(ダンジョン)から抜け出てる? 」

「───ブッブー! 残念ながら、この迷宮の構造上あんな知性の低い狼じゃ出られないよ。恐らく答えは······共喰いだろうね。彼らは常に飢えている、だからあんなに痩せ細ったんじゃないかな」

「······」

 簡単に増殖し、その末に共喰い。仮にそれが本当だとすると確かに矛盾している。

 人間の介入······つまり「改造」された、という事だろうか。


「───さて、こんな頭のおかしい事をやらかすのは()()の奴らだろうね」

「教団?」

「さっきからオウム返しだねぇ。ま、ミョルさんから世間知らずって聞いてるし別に良いんだけど」


 ミョルさん······あぁ支部長(ミョルニィル)か。


「教団、正式には『あるべき世界への導き手』って言う組織。長いし訳わかんないから基本は教団って呼ばれてる。ケラス教っていう宗教の教義を曲解した結果、世界滅ぼそう!ってなった頭のおかしい連中さ」

「そのケラス教ってのの教えは?」

「うーん、俺ケラス教徒じゃないからな······ざっくり言うと、唯一神が世界を作ってて、その神はこの不完全な世界を恥じている。我々を創造した神にこれ以上恥をかかせぬように、この世界を創った意味を我々で築くために清く生きよう。っていうのが本来の教義。

 教団は、神が創り恥じるこの世界。神はこの世界の存在を好まない。故にこの世界は無に帰することが神の望みである。ってね」


 ······なるほど、曲解も曲解だな。正反対じゃないか。

 というか、唯一神ってハートゥラ様なのだろうか。あの人はそんなタイプには見えないな。ハートゥラ様は多分その不完全を愛しましょう、とか言いそう。偏見だけど。


「それが一般的なのか?」

「全然。そもそもマイナーだし、十数年前に廃れた宗派さ。一般的にはあらゆる概念に神が宿るって考え主流だね」


 この世界にもあるんだ、アニミズムの概念。


「さてスグル。ここで1つ問題だ」


 あまりに突然の言葉に、俺はつい困惑する。

(急にどうした······)

「世界を滅ぼしたい教団、そんなヤツらが改造魔物をダンジョンの奥に放した。なんの為かはこの際置いておこう。だが、それが直接世界を滅ぼす方法では無いだろう。まさか魔物を放して終わりなんて事、あると思う?」

「······どういうこ───」

 聞き返す間もなく、ザッコスは地面を蹴り、俺の元に駆ける。槍を構えて。

 咄嗟に俺は防御の姿勢をとるが、杞憂であった。


 ───キィンという金属音が洞内に木霊する。


 丁度俺の肩の上で、刃が重なる。どうやら、何者かがこの洞内に身を潜めていたらしい。

「まぁ、何処かで見てるだろうとは思ったよ」

「ふん、低俗な冒険者風情が邪魔しやがって」


 真っ黒なローブを羽織った男は、忌々しげにそう呟く。

「低俗ねぇ······そんな低俗冒険者に防御されるあんたはどうなのさ?」

「チィ······減らず口を」

 黒ローブの男は小さく舌打ちをするのみだった。


「貴様ら冒険者は我々の思想を何処までも阻みやがる。神の欠陥品共が、身の程を知れ」

「身の程なんて誰も教えちゃくれないからね。それを見つけるのが人生ってもんだよ」

「······」

 黒ローブの男はそれ以上何も言い返さない。

 あまり言い合いが得意では無いようだ。


 言い返しに困ったのか、黒ローブの男は話題を変える。

「貴様ら冒険者はいつも我々の邪魔をする、この誤謬の世界に執着する脳筋共が。我らが信仰する真世界の妨げとなる屑共はここで消えて貰う、在るべき世界へ導く為に!」

「へぇ······俺を殺そうっての?出来ると思ってる?」

「······無論、Sランク冒険者とこれ以上刃を交えるつもりは無い」


「······Sランク冒険者!?」

「そうだよ?Sランク冒険者だぜぃ」

「話の腰を居るな阿呆!」

 いや、仕方ないだろう。『コイツなんか強いなー』って思ったら冒険者協会の五本の指に入る実力者だった訳じゃん。声出るって。


「《地殻操作グラウンドコントロール》!」

 男がそう叫ぶと、腹の奥に響く地鳴りと共に、空間が震える。


「······なるほど、生き埋めって心づもりね」

「その通り。だが俺は安全に地上へ出るルートを知っているのでな、残念ながら死ぬのは貴様らだけだ。ではな、新たなる世界で再び会おう」

 そう言って、黒ローブの男は闇に姿をくらました。


「ザッコスどうする、アイツを追うか!?」

「その必要は無いよスグル、それは無駄だ。死にたくなかったら今すぐ息を止めて、俺が良いって言うまで!」

「はぁ!?」

「早く!」

 その勢いに気圧されて、俺は肺いっぱいに空気を取り込み、呼吸を止める。


「さてと······ちょっと本気出しますか───」

 そう呟くと、ザッコスは槍を構える。狙いは天井、否、その更に向こう。

 槍の先から溢れる魔力は先程の比では無い、十分に距離を取っているにも関わらず、ムンとした熱気が顔を覆う。


「───《炎巨人の崩撃(スルト・ゲヘニオ)》! 」

 ザッコスがそう叫ぶと、天井に向けた刃先から紅い魔力が放出される。

 耳を劈く様な轟音が響き、俺は咄嗟に目を閉じる。


 ゆっくりと目を開けてみれば、最下層である現在地から青空が見える。


「もう息してオッケー! 脱出するぞ! 」

「どうやって!? 」

「スグル、空飛べる? 」

「無茶言うな! 」


 そう思ったが、意外とそうでも無いかもしれない。

 時間も無いようなので、試してみる。失敗しても俺は悪くない。

「《無重力付与(アンチグラビティ)》」

「おっ? 体が浮く! 」

「とりあえず地面を蹴れ! 」


 重力の影響を抜け出した状態で地面を蹴り、迷宮が崩れる前に何とか地上へと脱出出来たのだった。


「さぁスグル、早く帰ろう。早く帰って······俺は迷宮(ダンジョン)を1個ぶっ潰した始末書書かないとな······」

「世知辛いな」

 これが英雄とも呼ばれるSランク冒険者の1人だと思うと、なんだか少しやるせない。

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