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《※休載中》自己完結付与術師三栗傑の受難   作者: 莢山 迷
第1章:平穏な国タイダール王国編
17/44

17.シンプルに騙された。

 俺は今、ダンジョンにいます。そして大変イラついています。


「ごめんスグル! そっち行った! 」

「またかよ! 」

 ただいまダンジョンは地下二階。現在進行形でザッコスに絶望している。

 街に近いダンジョンという事で、難易度はそう高くない。ダンジョン内にいる魔物もキークェンの大森林に比べれば可愛いものだ。

 とは言え魔物の数は多いし戦地も狭い。俺とザッコスである程度役割分担をしながら効率的に魔物を仕留めつつ奥へ進む。そういう手筈だった。


「コレで何匹目だよ!」

 本来ザッコスが討つはずだった魔物の死骸から太刀を引き抜きながら、俺は悪態を着く。

「ごめんごめん、今日はちょっと······ね? 」


 何が『今日はちょっとね』だ。

 正直本格的に不安になってきた。


 このザッコスという男、俺が言うのもなんだが、まるで動きが素人なのだ。

 無難なショートソードを振り回す姿は、もはや剣に振られている。間合いもあまり掴めておらず、5匹に1匹は空振る。そのため、俺が代わりに討伐することになるのだ。

 そして極めつけは······。


 ───カチリ

 何か軽快な音がする。これを聞くのは本日何度目だろう。

「······ごめんスグル、なんか押した」

「ふざけんなよぉ! 」


 ───ゴゴゴゴゴという地鳴りにも似た音とともに、遠くから大岩が転がってくる。

 迂闊にも程がある、とブチ切れたくもなる。


 しかしザッコス、動きは素人だがセンスはある様に見える。元一般人の俺が何を言ってんだって話だが、足運びや警戒は並以上に出来ている。体力もあるようだ。

 一応は先輩冒険者という事なのだろうか。


 そんなふうに辟易としながらも、ゆっくりと迷宮深くへと潜っていく。体感では五時間くらいだ。

 多分俺1人なら半分で潜っているだろう、というのは買いかぶりだろうか。


 色んな意味で疲れ果てた足を引き摺り階段を降りると、広い空間に出る。

 そしてその空間の中心には、一頭の魔物が鎮座している。


「あれが軍隊狼(アーミーウルフ)か? 」

「報告によればそうだね。1人でいける? 」

 1人で行かす気かよ。だが、別に不安という訳でも無い。


「分かった、行ってくる」

「いってらー。ピンチになったら助けるからね」

(全然頼もしくない)


 そう考えながら、俺は1歩1歩と軍隊狼に近づく。やがて向こうも気付いたようで、ムクリと立ち上がり低く唸る。

 ティウルよりも二回り程小さい。大型犬より少し大きいくらいだ。正直、大丈夫だろう。

「ガルルルァ! 」


 軍隊狼は大きく跳躍し、俺に噛み付こうとする。俺は冷静にその牙を太刀で受けた。

「えっ? 」

 それと同時に間抜けな声が漏れた。無論俺の口から。

 あまりに非力なのだ。森で戦ったどの魔物よりも、先日戦ったミョルニィルよりも。

 よく見れば軍隊狼の肋骨は透けて見え、ガリガリに痩せている。


 その瞬間軍隊狼にティウルが重なるが、すぐに振り払う。ティウルは死んだ。

「オラァ! 」

「ギャイン───」

 なるべく苦しまないように、俺は一太刀で軍隊狼の頭を落とす。


「ふう······」

 太刀に付いた血を振り払い、鞘に収める。依頼達成だ。

 俺はとりあえず、広間の入口に戻ることにした。

 ザッコスは何かワイワイと盛り上がっているが、どうせくだらないだろう。何をほざいているのやら───


「───スグル、後ろ」

 その言葉を聞き取った瞬間、俺は反射的に振り返る。

 直後肩に走る激痛。左の視界に紅い飛沫が舞った。

「ぐっ······! 」

 俺の左肩にぞぶりと噛み付いているのは、先程斬った筈の軍隊狼だった。


(なんで、確かに頭を落とした筈······まさか軍隊狼は二匹居たのかっ!? )

 パニック気味な頭を回していると、次にふくらはぎに同様の痛みが走る。

 見ればそこに食らいつくのも、軍隊狼。


「はぁ!? 」

(なんで何処に隠れてたっ!? 一面岩壁で隠れる場所なんて何処にもないのに───)


 と、俺はふと気づいた。

 肩に食らいつく狼も、脚に噛みつく狼も、薄らだが首に傷のようなものがある。

 首をぐるりと囲むようなその線は、丁度俺が斬った位置だ。

 

 今まで考えもしなかった可能性が、一瞬で正解と悟る。

(コイツら······分裂したって言うのか! )

 俺は闇雲に、脚に食らいつく狼をなんとか抜刀した太刀で袈裟斬りにする。


 ギャインとひと鳴きして真っ二つになった狼。その断面からモコモコと肉が盛り上がり、それぞれが狼の形を成してゆく。確定である。


(なるほど、斬ったら駄目ってか! なら───)

「───《身体強化付与(パワーブースト)》!」

 再び食らいつこうとする二頭の狼を蹴散らし、肩に噛みつく狼も無理やり引き剥がす。

 それでも諦めようとしない狼の鼻っ柱を思いっきり蹴り飛ばした。

「まだ格闘術(こっち)の方がスキルレベル高ぇんだよ! 」

 飛びかかってきては蹴り飛ばし、あるいは殴り飛ばし、という攻防をひたすら続ける。

 しかし違和感にはすぐに気づく。


(······コイツら、殴った端から回復してないか? ていうかむしろ───)


 狼を見上げながら、俺はぽつりと。

「デカくなってね? ······うわっと! 」

 既にティウルよりもデカくなった軍隊狼(3頭)が一気に頭から齧り取ろうとする。

 なんとか避けるが、攻め込み方がもはや分からない。


「スグル! 諦めるのか!? 」


 うるせぇ、外野は引っ込んでろ。

 俺はザッコスの言葉を聞き流そうとした。


「お前の攻撃方法はただ斬るのと、ただの打撃しかないのか!? 試験で使ってたヤツあるだろ、あの炎の剣! 」


 ······たまにはいい事言うじゃないか。

「とりあえず感謝はしとくよ、《炎熱付与(フレアコート)》! 」


 普通に斬るよりも、レーザーとかで焼き切った方が治癒がしにくいってなんかで聞いた事がある。焼き斬れば再生は防げるかもしれない。


 俺は紅く燃える太刀を振り上げ、大きくなった軍隊狼共を横薙ぎにする。

 ジュクジュクと泡立ち、黒く焦げた断面は、先程のように再生していない。

「やった······ぁ! 」

 そう甘くは無かった。


 普通に斬るよりも確かに遅いが、それでも、黒ずんだ部分を押し退けるように、斬った狼がそれぞれ再生している。

 結果、狼は倍の6頭になる。しかも炎のダメージが入ってか、さらに大きくなっている。


「しまっ───くっ! 」

 再生しながら反撃しようとする狼に、俺は一旦下がって距離をとる。

 その時チラリとザッコスを見やると片目を瞑って舌を出していた。


 (てへぺろじゃねぇよ。せめて少しは神妙にしろ! )


 そんなザッコスに気を取られ、俺は一頭の狼の突進をもろに食らう。

「がはぁっ! 」


 でこぼこした岩場を転がり、気がつけばザッコスの足元に来ていた。

 これは『楽な依頼』だった筈なのに、完膚なきまでに叩きのめされている。

「おい、ザッコス。あんたCランク魔物を狩る依頼って言ったよなぁ!? 」

「うん、言ったね」

 コイツ、悪びれる様子もない。

 などと思っていると、ザッコスは続けた。


「Cランク魔物を狩るだけのBランク依頼。割のいい依頼だと言った。それで、ずっと狙ってたって言った」

「······それがどうした」

 なんだろう、ザッコスの雰囲気がいつもと違う気がする。


「割のいい依頼と言うのは、僕らにとってだけじゃない。他の冒険者にしても割がいいんだ。しかも異常事態(イレギュラー)における依頼だ。ならなぜ『ずっと狙ってた』なんて悠長にしてて、こうして受注出来たんだろうね」

「······」

 確かにそうだ。簡単でポイントや報酬が高いのなら、受注は殺到するだろう。ゆっくりしてれば先に取られかねない。


「これまでね、何人もの冒険者がこの依頼を受けた。けれど、ついぞ依頼は達成されなかった」

「それって······」

「ココ最近、この辺りの冒険者が何人も消息を断ってる。その人数は、この依頼の受注者とほぼ同じだ」

「つまりこれは······Cランク相当の依頼じゃないって事か!? まさか冒険者協会が黒───」

「ハイハイ早合点だよスグル、そこまで話が飛ばなくても。嘘をついてるのは冒険者協会じゃなくて俺だもん」

「は? 」

 訳の分からないことを言い出したザッコスに、俺は首を傾げる。


「俺はスグルに、『スルルクの縦穴の深部で発見された軍隊狼一体の討伐』と言うのBランク依頼って言った。それが嘘なんだわごめんね、その依頼は先週協会が停止したんだ。

 俺たちの本当の依頼は『スルルクの縦穴におけるBランク依頼受注者失踪の原因調査及び正確なランク設定。可能ならば原因の解決』。ちなみに今やってるこの依頼、多分Aランク相当だね」

「······あのさぁ、なんで騙すかなぁ? 」

「その方が面白いかなって」

「······」

 コイツ、迷宮から出たらシバキ回そう。


 俺の肩をぽんと叩き、ザッコスは前に進みでる。

「と、言う訳だ。お疲れ様、スグル。ここからは、俺の仕事だ」

「······は? 」

 (道中の雑魚もろくに倒せないコイツが? )


「『途中の雑魚もろくに倒せない癖に』って顔だね」

「いや、だって事実じゃん」

 俺の即答に、ザッコスはケラケラと笑い出す。


「いやぁ、慣れない武器ってのは大変だね。俺普段剣なんて使わないんだよ。俺は専ら───こっちだから」

 ポケットから1枚の手袋を取り出し、左手にはめる。手の甲の部分には、小さな宝玉が光る。


「───収納晶石(チェストジュエル)······! 」

「さて、ちょっと本気出そうか

 《現出(ゼーラ)》《神器・終焉に哭く戦槍(スピアオブラグナレク)》」


 手の甲に魔力の粒子が集まり、形を成す。そしてザッコスは身の丈程ある長槍を抜き出した。

「交代だスグル。言ったろ、俺はお前より強いんだ」

 そう言って、ザッコスはゆっくりと巨大軍隊狼共に近づく。

 底の見えない魔力を漂わせながら。


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