15.根掘り葉掘り聞かれた。
「う······」
混濁する意識の中、ゆっくりと俺の目が覚める。
「あ······起きた。ご機嫌いかが? スグルくん」
俺の名を呼ぶ声が聞こえる。可愛い声だ。
目を開けると、可愛らしい顔と目が合った。
肩まで伸ばしたクリーム色の髪をふわりとなびかせ、大きな瞳でこちらを覗き込む。
「えっと、色々聞きたい事があるんだけどとりあえず······なんで俺の上に乗ってんの? 」
「なんでって······検診だよ」
(なるほど、なら良かった······じゃねぇよ!? )
「あ、あんまり女の子が男の上に乗るもんじゃねぇよ」
「あはは、照れてる。それより体調はどう? 骨は、肋骨は痛くない? 」
軽く躱された。あまりこういうのに耐性が無いから辞めてもらいたいな。
「あぁ、別になんとも······って肋骨? 」
「うん、もうバッキバキに折れてたから」
マジか······逆に今、こうして痛くないって凄くないか?
「治ってるのか? 」
「もちろん!僕は世界一治癒魔法の上手い人間だからね!」
(あ、そうですか)
自分で世界一とかいう人はあまり信用出来ないが、実際肋骨が繋がってるらしいのであながち間違いじゃないだろう。
「そうそう、あのミョルニィルの肋骨も同じぐらいぶち折っといたから安心してね」
「その情報のどこでどう安心しろと?」
ダメだ、ヤバい人だこの人。
「そう言えば、自己紹介がまだだったね」
「あぁ、うん」
(もう、これ以上話すのが怖いんだけど······)
「僕の名前はリアス・クレレック。冒険者協会ダルーイ支部専属回復術士。みんなの癒し系美少年さ!」
「······は?」
それって······男って事?
「詐欺じゃん!」
「失礼な!こんな可愛い顔でしかもついてるんだよ?お得でしょ!」
「何が『お得でしょ』だ!降りろ、男に乗られる趣味も願望も無い!」
リアスは不服そうに俺から降りる。不服なのはこっちだって言うのに。
「ま、僕の性別はどうでもいいとして。凄いよね、君。まさかミョルニィル支部長に勝っちゃうなんて」
「······それは新手のイヤミか?あれを勝ったとは思ってねぇよ」
「君、ひねくれてるねー」
リアスは冗談ぽく返すが、俺は本気でそう思っている。
ミョルニィルは終始手を抜いていた。下手くそだったが、死なない程度には加減が出来ていた。もし殺す気があったなら、最初の一撃で俺は肉片になっていたと思う。
「謙虚なのは良いけど、過ぎると嘗められるよ?例え手抜きだったとしても、支部長に勝つのは凄いことなんだから」
「まぁ、強いって事は認めとくよ」
そう言いながら、俺は重たい体を起こす。思いの外長く寝ていたらしく、身体の動きがぎこち無く感じる。
そんな俺を、リアスは眉をひそめて覗き込むと、
「······それはなんかウザイね」
「ぶっ飛ばすぞ」
「ははは、やってみなよ。またベットでしばらく寝かせてあげるから」
リアスは口角を上げてそう答える。目が笑っていない。
(······怒らせたらマジで殺られる)
俺はついに言葉をつまらせた。
「そうそう、支部長が呼んでたよ。もう十分動けるでしょ?」
「あ、うん。分かった」
だるさだけが残る体を持ち上げて、俺は医務室を出た。
***
───コンコン、と執務室の扉がノックされる。
「入れ」
ミョルニィルは一言そう声をかける。両開きの扉から顔を覗かせたのは、ミクリ・スグルだ。
「ども。なんの御用でしょう?」
「あまり急かすな。とりあえずそこに座れ」
ミョルニィルはスグルを応接用の椅子に促す。
ミョルニィルはスグルをいまいち測りかねていた。付与術師だと言うが戦闘力は高く、冒険者にしては学がある様だが世間知らずな所がある。雑なつくりのマントを羽織っているが、その内にか着ている衣服は見た事がない、精巧な物を着用している。
だが人となりなど一朝一夕に分かるものでは無い、という事はミョルニィルも理解している。じっくりと見定めると考えている。
ミョルニィルは早速本題に入る
「まず、合格おめでとう。お前は今日から晴れて冒険者だ」
「あー、ありがとうございます」
雑に喜ぶスグルを見て、ミョルニィルは少し眉をひそめる。
「まぁ手を抜いていたとは言え俺に勝ったんだからな。認めざるを得ないだろうよ。手を抜いていたがな」
大事な事なので二回言う。本気を出していれば負けるはずは無かったのだ、とミョルニィルは自分に言い聞かせる。なんとも大人気ない。
「えっと······用事はとりあえずそんだけですか?」
「待て待て焦るな。色々話がある」
そそくさと退散しようとするスグルをなんとか引き留め、話を続ける。そもそも、ここでスグルが帰ってしまっては正式に冒険者とは認められないからだ。
試験により好ましい成績を残した者は、その後こうして支部長により直接冒険者カードを渡される。しかしその時、支部長は新人の内面を探り、本当に冒険者登録をして良いかという判断を下すのだ。
言わば、これは第2試験なのだ。
この第2試験の面接を経て、例えば腕っ節だけのゴロツキなどを弾いている。
「ミクリ・スグル、質問だ。お前の出身は?」
「え、何急に。取り調べ?」
「お前は何か罪でも犯したのか?そんな堅く考えるな」
この第2試験の存在は本来受験者は知らないのだが、人の口に戸は立てられない。既にどこかから漏れており、今や知らない者は居ない。すると当たり前に猫を被る輩が増える。
お陰でライシルと言う嘘発見の魔具を全支部に配備するハメになったのだ。嘘をつけば、信頼性が無いと判断される。
「出身は······多分言ってもわかんないだろうけど、ニホンって言う小さな島国だ」
「そうか······」
ミョルニィルはチラリと手元のライシルを見やる。嘘は言っていない。
(ニホン、どこかで聞いた気が······)
どことなく聞き覚えのある言葉だったが、特に思い当たる節も無く、ミョルニィルは気のせいだと一蹴する。
「どうこの街まで来た?」
「キークェンの大森林から。森を出てからは通りすがりの馬車に乗って来た」
再び真実だ。多少疑いたくなる経歴ではあるが、ライシルに不調はない。
「森を通って来た······か。ならあの実力も合点が行く」
タイダール大国は、他国からは『平穏の国』と言われている。
問題や面倒事を好まない王家の方策として国境では厳しい身分確認が行われている。そこで「一定の戦闘力がある」と判断された人間は常に監視がつき、行動の全ては国に把握される。仮に国に敵意があれば事を起こす前に取り押さえるためだ。
そんな人物が街に来るとなれば、街の行政及び冒険者協会支部に連絡が入る。
だが、この検査が及ばない入国ルートが1つある。それがキークェン大森林を通るルートだ。
隣国であるフヌンとの国境に跨るように広がる大森林には検問が設置されていない。そんな無謀な入国をする人間はまず居ない、という理由からだ。
仮にそれが可能な相手であった場合、無闇に刺激すべきでは無いという理由もある。監視が気に障り、国と敵対する事は互いに損になる。
とは言え、キークェンの大森林の外周はBランク以上の冒険者にとってはハイリスクハイリターンではあるが、実入りのいい狩場でもある。つまりその程度の場所である。中心に行くほど魔物が強力になる件の森では、確かに通過は難しいだろう。しかし、広大な大森林を迂回するように移動すれば決して不可能では無い。
その後もスグルについて幾つか質問をしたが、答えに一切嘘は無かった。だが部分的に濁している所もあったから、隠し事はあるらしいとミョルニィルは判断した。
その上でスグルは無害であるとして、正式に冒険者資格を発行した。
「じゃあ、これが冒険者カードだ。無くした場合は無条件で試験の受け直しになるからな」
「どうも。あざーす」
気の抜けた返事をしながら、俺の手から冒険者カードを受け取る。
「じゃあ、あとの説明はカイナから聞いてくれ。俺は仕事に戻る」
「わかりましたー」
最後まで何処か気の抜けた返事を述べながらスグルは執務室を出た。
「······なかなか面白い男だな」
「居たんですか、シーさん」
小柄な少女の姿をした大魔道士、シーゼルがいつの間にか窓際に立っていた。
「······あぁ、《自己希釈》の魔法でずっと居たぞ?」
「またそんな高度な魔法を······。それで、面白い男とは?」
「······魔力循環が常人と異なっている」
「どういう事です?」
少女の姿をしているが、まるでおっさんの様な喋り方の大魔道士に、ミョルニィルは問い返す。
「脳筋には伝わらんだろう。少なくとも魔法職じゃ無ければ伝わらん感覚の話だからな」
「あぁ、そうですか」
人型で言葉が通じるなら、普通の人間で大丈夫だろう。そう自身の中で纏めたミョルニィルだった。




