表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《※休載中》自己完結付与術師三栗傑の受難   作者: 莢山 迷
第1章:平穏な国タイダール王国編
14/44

14.Aランク冒険者と戦う。

「スグルさんですね、お待ちしておりました。ではこちらへどうぞ」

 そう言われ、俺はカイナに案内される。


 カウンターの奥にある扉を開けると、強い日差しが俺の目に触れる。

 薄く目を開くと、そこは中庭と言うには余りに広大な場所だった。

 地面には土が張られ、壁の上には座席のようなものが見える。そこには他の冒険者らしき人影が見えた。

 小規模なコロッセオのような場所、考えるまでもなく、ここで戦闘試験を行うのだろう。


 そして、その試合場の中心に仁王立ちをする鎧姿の大男が。

「よく来たな、勇気ある命知らずよ。俺は冒険者協会ダルーイ支部支部長、ミョルニィルだ。今回試験官を務める、よろしく頼む」


(ゲッ、支部長ってことは、ここで一番偉いじゃん。緊張するわぁ······いや待て、支部長って事は戦闘能力はあんまりなのでは······?)

 なんて思ったのも束の間、近くにいたカイナが一言。


「ミョルニィルさんは現役のAランク冒険者です。正直、加減の上手い方では無いので······お気を付けて」

「なんで今そんな事言うの!?」


(つまり、相当な実力者って事か······?いや、ポジティブに考えよう。一般的に強いとされる人と立ち会えるんだ。自分の実力を知る良い機会だろう)

 正直俺自身の強さの立ち位置は分からないが、多分弱くはないだろうと思う。多分相手がAランクでも善戦出来るはずだ。だが慢心は良くないってエイリアスも言ってたしな。ここは謙虚に行こうか。


「新参者なんで、お手柔らかに頼みますわ」

 俺はそう言って、背中に掛けた黒塗りの鞘に収まっている獅子王の牙を抜く。

 ここに来る前に、しっかりと受け取ってきた。


「ほう······付与術師と聞いていたが、いい武器を使うな。ならば俺も使わねばなるまい!」

 ミョルニィルが左の篭手(ガントレット)にハマる宝玉に手をかける。

 宝玉に魔力の粒子が集まり、そこから棒のような物が突き出す。


(あれが、《収納晶石(チェストジュエル)》って奴か。かっけぇな)

 特撮ヒーローの変身シーンのようなカッコ良さがそこにはあった。


 ミョルニィルがゆっくりと引き抜いたそれは、柄の長い大槌(ハンマー)

「《現出(ゼーラ)》《天鎚トール》!さて、つまらない戦いはするなよ?」


(······逆じゃね?)

 ここは異世界で、前世のギリシャ神話は関係ない。ミョルニィルがトールというハンマーを使ったって何の問題は無いのだ。

 だが、ツッコミたかった。誰にも理解されないし意味もないと分かっていたから、心の中で。


 そんなくだらない事を考えている間に、カイナの声が響く。

「では両者構えてください。冒険者試験、開始!」


「来い!」

「言われなくとも!《速力強化付与(ファスト)》!」

 付与魔法でスピードを上げ、一気に間合いを詰める。

 相手は全身鎧(フルプレート)で、武器も重量級。恐らくスピードに弱い。


(決まった!)

 剣を振り抜く瞬間、くるりと反転させて峰の方をミョルニィルに向ける。

「オラァ!」


 ───ガキィン!


 だが、俺の剣はミョルニィルに届かない。ハンマーの柄が行先を阻む。

「ッ!」

「速いな、素晴らしい。だが、峰打ちとは関心しないな。俺が相手なんだ、殺す気でこい!」


「分かっt───!」

 返事をしようとした瞬間、水平にハンマーが振られる。間一髪で避けたつもりだが、こめかみが熱い。触れてみると、べっとりと血が手に触れる。掠ったらしい。


「さすがに一筋縄じゃいかないなっ······!」

「怪我の具合を見ている場合か!?」

 既にミョルニィルがハンマーを振りかぶっている。



(速い───!いつの間にっ)

 全身鎧の筈が、まるで重量を感じない立ち回りだ。


「グッ······!」

 振られたハンマーを何とか剣で受けた。かろうじて止めたが、じりじりと押される。


(重ッ······!)

「くっ······《筋力強化付与(パワーブースト)》ォ!」

「ッ!?」


 身体強化を使う事で、潰されそうな程の重い攻撃を相殺し、少しづつだが、押し返す。

 もう少しで完全に押し返せる、という所でミョルニィルが軽快なステップで数歩退る。体勢を立て直す算段だろう。


「自信に強化魔法をかけて戦う、か。面白いやり方だ。それに、俺のトールを受けて無事なその東剣も素晴らしいな。銘はなんだ?」


「······」

 俺は一瞬言葉に詰まる。

 というのも、今朝鞘を受け取りに行った際、オニキスにこう言われたのだ。


『───《獅子王の牙》なんて代物、存在すら眉唾だった物だ。その名を言った所で鼻で笑われるだけだろうよ。

 だが、一部の馬鹿は信じて奪おうとするかもな。一応気にしておくに越したことは無いだろう。無闇に人に言わん方が厄介事が少なくて済む。

 ま、キークェンの大森林から帰ってきたお前さんには要らん心配かもしれんがな』

 という訳だ。まぁその通りだと思う。


「悪いけど、俺の剣は恥ずかしがり屋なんだ。匿名希望で頼むよ」

「それは残念だ!」

 そして再び鍔迫り合い(相手はハンマーだが)になる。


(っ押される!嘘だろ《筋力強化》を上回ってきた!?本気じゃなかったって事か!)

「ぐっクソ······がはっ!」

 突然腹に衝撃が走り、後方に引っ張られる。否、吹き飛ばされた。


「武器ばかり意識していてはこうなる」

「······げほっ、アドバイスどーも」

 ミョルニィルに蹴られた腹を押さえ、俺は皮肉を込めて応える。


 激しい痛みに耐えながら、頭の中で元々の異世界転生に対するイメージを拭いとった。

(異世界舐めすぎだったな······普通に強ぇ。もはや人の形した化物だぞ、このおっさん)

「それじゃあ少し、姑息に行くか。《麻痺付与(パラライズ)》!」

 展開した魔法陣は割れない。発動した証拠だ。


「っ!ほぉ······」

 指先がピクリと小さく動き、ミョルニィルは驚きの表情を浮かべる。

 その隙に、俺は一足に間合いを詰めた。


「《自動防御(オートガード)》!」

「ッ!?」


 そう叫ぶと同時にミョルニィルの両腕が駆動し、俺の剣撃をハンマーで受け止めた。


「麻痺の状態異常を付与した、という事か。戦略としては良いが、麻痺は《 技能(スキル)》を止められない。常識だろう?」

「マジ······がァ!」

 ハンマーの柄の先が俺の鳩尾に埋まる。すかさず俺は距離をとるがダメージがデカい、吐瀉物を吐き散らしながら俺は膝をついていた。


「ちなみにこの鎧は、装備者の状態異常を治す効果がある。もう麻痺は無くなった、さてそろそろ終わりか?」

 ミョルニィルはそう問いかける。


(これ勝たなきゃ合格出来ないの?そんな事無いよな、新人にこれは無理ゲーだろ本来。多分ここまで善戦すれば冒険者にはなれるだろう、だが───)


「───まだだ!」

 ここで負けを認めるのは、なんか嫌だ。


「よく言った、ミクリ・スグル!」

「《炎熱付与(フレアコート)》!」

 蛇を焼き払った魔法、これを俺は《獅子王の牙》に付与する。

 俺はそのまま、刀身の燃え盛る大太刀を構える。


「なるほど、面白い!なら俺も、少々本気を出させてもらおうか《雷神の大槌(トールハンマー)》!」

 バチバチと音を立てて放電しながら、ミョルニィルのハンマー、トールは雷を纏う。


(付与魔法じゃなくても出来るのかよ、そういうの!)


「次はこちらから行く───ぞ!」


(速っ───)

 先程よりも更に早い。最早目で負えない速度でミョルニィルが近づく。

 気づけば近くにいて、気づけば横腹を凪払われていた。

 これに気づいたのは壁にめり込んだ直後だった。

「あ······が······」


 これが、Aランク冒険者。ヤバすぎる。


(これもう、負けか······?

 いや、ふざけんな。負けるって事は死ぬって事だ。俺はまだ、死ぬ訳には行かない!)

「······《継続回復付与(ヒーリング)》」

「っ!回復魔法まで······」


 ミョルニィルはどこか驚いた表情を浮かべるが、最早俺の目に入っていない。

 ズキズキと痛む胸部を抑えながら、俺は肺を絞る。


「《二重速力強化付与(ツヴァイ・ファスト)》《三重(ドライ・)筋力強化付与(パワーブースト)》!」


 つい先程、俺の体を受け止めた壁を足蹴に俺は跳躍する。

「オラァ!」

 俺は全力で、燃え盛る獅子王の牙をミョルニィルに投げつける。


 ***

「······ッ!」

(投げたっ!?)

 突然の奇行にミョルニィルは困惑する。しかしいつまでも戸惑ってはいられない、ミョルニィルは即座にトールで大太刀を弾く。


(······居ない───どこだ?)

 気がつけば、スグルの姿が無い。燃え盛る大太刀を目眩しに使ったか。

 その瞬間、中庭に指す陽の光が遮られる。


(───上か!)

 そう思い上空を見上げると、そこには小汚い布切れ(マント)が風に舞うのみだった。


「残念、後ろだよ!」

「っ!」

 ミョルニィルが振り向くより速く、上を向いて無防備になった喉元に何か硬いものが当てられる。

 鞘に収まった、解体用と思われるナイフだ。


 この鞘を外して居たなら······ミョルニィルは死んでいた。

「······チェックメイト」

「良いだろう、お前の勝ちだ」

 ミョルニィルは両手を上げて、負けを認めた。


 その瞬間、会場は大きく湧いたがそれを聞くよりも早くスグルは気を失うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ