13.そうだ、鍛冶屋行こう。
「······らっしゃい」
ぶっきらぼうな挨拶を受けて、俺はその店に入る。
冒険者試験が明日であると知り、暇を持て余した俺はふと、鍛冶屋へ行こうと思ったのだ。
要件は、ティウルの牙の加工だ。
森を出て、ここに来るまでゆっくりと考えた。時間をかけるほど、ブレフィの案は別におかしい事はないと気づいた。
昔話の「花咲か爺さん」でも、死んだシロの墓木を加工して臼と杵を作ったりしてたし。
まぁ、死人に口なし。狼だけど。俺がティウルの思いを完璧に汲んでやることは出来なくても、お飾りではいて欲しくない。そう思うようになった。
結局エゴかもしれないが、これでいいだろう。
と、言う訳で街の住人に聞いて周り、評判のいい鍛冶屋に入った次第だ。
「······兄ちゃん。戦士職には見えねぇが、何の用だ?」
寡黙な店主が、訝しげにこちらを見やる。口元を覆い隠す大量の髭をたくわえ、ちょこんと小さい身長とがっしりしたガタイの店主。これは······ドワーフと言うやつなのではないだろうか。
「いや、ちょっと依頼があって······」
そう言って、俺は店主にティウルの牙を差し出す。
「この牙がどうした?」
「これで、解体用のナイフを作って欲しい」
「頼む相手を間違えとるだろう。帰れ」
はっきりと断られてしまった。だが、ここで引き下がる訳にはいかない。
「アンタはこの街で一番の鍛冶屋だと聞いた。頼むよ」
「分かっとるなら話が早い。街一番の鍛冶屋にただのナイフを作らせようってのか!?」
段々と店主の語気が強くなる。だが、俺も負けない。
「街一番のアンタだからだ!信頼して、この牙を預けられるんだ······」
「······何か、訳ありか?」
俺の表情から何かを汲み取ったらしい店主は、急に話を聞いてくれる様になった。
俺は森での出来事、ティウルとの話を店主にした。
「······ヒグッ。なるほど、そのティウルってのは、お前さんを守る為に命を······くそっ泣き落としとは卑怯だぞ!」
「泣き落としって俺が泣くやつだろ······」
真っ赤に腫れた目元を擦りながら、店主は手を差し出す。
「お前の事情はよく分かった。良いだろう。その仕事、このオニキスが請け負った!」
涙声でそういうオニキスに一抹の不安を抱えながら、俺はティウルの牙を渡す。
「今持ち合わせが無いんでな、代金は完成後に渡したいんだが」
「代金は要らねぇよ。そんな話聞いて金とってちゃ、地精族の名折れだ。地精族は人情深いんだ」
本当に、異世界に恵まれたと思う。
森を出てから、会う人々は優しい人ばかりだ。
「······そうだ、ついでにお願いしたいんだけど」
「あ?今度はなんだ。次は仲間の鳥が───なんて言ったらぶっ飛ばすぞ」
「いやそんな訳無いって。鞘を作って欲しいんだ」
なんの鞘かというと、あの時虎から拾った大太刀だ。やはりああいう武器を背中に背負うのはロマンだろう、だが抜身のまま背負うのも恐ろしい。という訳で鞘が欲しいのだ。
「鞘っつったってお前さん、剣なんざ持ってねぇじゃねぇか」
「あ、失礼。これなんだが······」
そう言って、俺は魔法の鞄から大太刀を取り出す。
「へぇ、マジックバックか。珍しい物持ってるな」
「······っ!」
やらかした、そう思った。作った時にも実は一瞬思っていた。これを無闇に見せびらかしても良いものか、と。
いや慌てるな、平常心だ。
「······そんなに珍しいかな?」
「あぁ。今どきそんな骨董品使ってる奴なんて見ねぇぞ?」
······骨董品?骨董品って言った?今。
予想外の言葉に思考が止まっている最中、オニキスは小さな指輪を取り出した。
「なんだ知らねぇのか?今はこの《収納晶石》が普通だろう」
知らない物が出てきた。なんだそれ。
「何、それ?」
「《収納晶石》は空間属性を持った魔物の魔石を加工して術式を彫り込んだ魔晶石の事だ。それをこんなふうに指輪とかの装飾品に加工して身につけるんだ。兄ちゃん他国の人かい?」
ちょっとだけ、異世界で技術チート的なの出来るかも。なんて思っていた自分が恥ずかしい。
これを世に出して良いのか?って何真面目に悩んでんの馬鹿かよ。
「······それ、買える?」
「この街の装飾屋に行けば買えるだろうよ。ところで、鞘が欲しいって剣はそれか?」
オニキスは無理やりに話題を戻す。
異世界、意外と進んでいたよ。
と、ヘコむのもその辺にして、大太刀をオニキスに手渡す。
「この形状······東剣の一種か。随分デカいな」
「東剣?」
「あぁ。こういう片刃で少し反りの入った剣をそう呼ぶんだ。東の島国に住む獣人族の文化圏で使われている」
へぇ、獣人族はサムライ的なイメージなのだろうか。行ってみたいな。
「どれどれ······───っ!なぁ兄ちゃん、この剣どこで手に入れた?」
オニキスが唐突に神妙な眼差しでこちらを覗く。
「どこでって······さっき話した虎が咥えてたんだよ」
「虎が咥えてた······まさか!」
オニキスは慌てた様子で戸棚にあった一冊の本に手をかける。
「それは?」
「セルタス・ウォートの魔物図録大全集の第七版だ」
知らない人の書いた知らない本の名前を言いながら、あるページを開いて俺に見せつけてくる。
「こいつか?」
「あー、そうそうこんな奴」
そのページの絵は、俺が戦った虎そのものだった。
それを聞くと、オニキスはデカいため息をつく。
「こいつは、キークェンの大森林でのみ発見された固有種らしい。兄ちゃん、大森林から来たのか」
「······そうだな」
俺は正直に答える。嘘をつく理由は無い。
「ワシの《武具鑑定》のスキルでも名前しか分からない。つまり、相当高位の武器という事になる。そしてこいつの名前は『獅子王の牙』。まず間違いないだろう」
「······話が見えないんだけど」
オニキスは再びため息を着く。
「はァ······今からだいたい四百年前、世界は種族大戦の真っ只中だった───」
そうして、オニキスは昔話を始めた。
四百年前、全ての種族が威信を示さんと争い合う種族大戦が起きていた。戦争のキッカケも、終戦に至る経緯も不明。ただ大戦があったという記録のみが残っていた。
長々と話されたけど、詳しい話はぶっちゃけ理解出来なかった。だってこの世界の常識にそもそも疎いんだもん。
まぁその、重要な所をかいつまむと、その当時獣人族の長、獣王レグルスが使っていたとされる武器の名が「獅子王の牙」だったらしい。
「大昔の伝聞でしか存在しない武器だ。誰しもがおとぎ話の武器だと思っている。コレが存在すると分かれば、世界がひっくり返るぞ」
「······そんなヤバいの?」
オニキスは無言で頷く。
(マジか······なんか急に主人公ムーブ来たんじゃないか?)
これは調子に乗るだろう。初期装備で伝説の武器とか。
「それで、その剣にはどんな特殊能力が!?」
「近い近い!特殊能力なんざ知らん!さっきも言ったがワシの《武具鑑定》じゃ名前しかわからん!だがまぁ、伝説の獣王レグルスは拳1つで山を平坦にしたという伝説を残すバケモンだからな、それの力に耐えられるぐらい頑丈なんだろう。斬れ味も、特別良い訳ではなく普通だな」
「······それだけ?」
「剣だぞ!?何を期待しとるんだ」
(それもそうッスよね。剣だもんね、結局使い手がメインだもんね。
頑丈······良いじゃないか。壊れる心配が薄いから)
「東剣用の鞘も仕上げておこう、明日の朝取りに来い」
「え、そんな直ぐに?」
いくら街一番の鍛冶屋と言えど、それは余りにも早いのでは······
「ハハッ、それが出来るから街一番なんだよ!」
ごつい胸を張って、オニキスはそう答える。聞いた所によると、鍛冶の神の加護を得ているらしい。だからなんだとは思うが、本人がこう言っているのだから大丈夫なのだろう。
「じゃあ、明日の朝に取りに来るよ」
「おう、楽しみにしてろよ」
そう言って、俺は鍛冶屋を後にした。
さて、次はどこへ行こうか。なんて考えていると、唐突に思い出す。どこで寝るのか、と。
まぁ悩む事は無い、宿屋へ行くべきだ。だが金がない。
(そうだ、森で狩った素材が沢山あるな。あれ売って金作るか)
取り敢えず冒険者協会に戻って換金する事にした。
ちなみに、その際はつつがなく金を入手した。
結構な量の素材を出したが、《収納晶石》とやらが流通している以上、ある程度の量では驚かれないらしい。
唯一周りの目を引いたのは、俺が《魔法の鞄》を使ってた事だ。時代遅れで悪かったなチクショウ。
取り敢えず金額15枚と銀貨が8枚を受け取った後、近くの安宿に部屋を借りた。1泊金貨4枚、相場が分からんから高いのか安いのか······。
冒険者及び、冒険者試験受験生は無料で協会の宿泊施設を利用出来る事を知ったのは、翌日の事だった。
余談ですが、傑が宿泊したのは現代で言うビジネスホテルです。
それと貨幣価値ですが、金貨1枚=1万円、銀貨=千円、銅貨=百円という設定です。
1泊金貨4枚(四万円)······ビジネスホテルとすると高いですよね。
定価は銀貨7枚だそうですよ。
はい、傑はボラれてます。それも大幅に。
怖いですね。




