12.冒険者になろうと思います。
「さぁ、着きましたよ。ここがタイダール王国の西端の街、通称『森隣の街』ダルーイです」
商人の言葉を聞きながら、馬車はダルーイの街の入口に差し掛かる。
街を囲む高い壁の中心に、ぽかんと穴の空いたように門が開かれている。
「そこの馬車、止まれ」
すると突然、無精髭を生やした門番らしき人物に声をかけられる。
「お疲れ様ですベルモントさん」
「あぁ、貴方でしたか。今回の仕入れはどうでした?」
「上々ですよ。そうそう、帰路で盗賊に逢いましてね、こいつらの身柄をお願いします」
「ご協力感謝します」
商人と壮年の門兵はどうやら顔見知りらしい。などと思っていると、ベルモントと呼ばれた門番と目が合った。
「失礼ですが、そちらのローブの男は?」
「あぁ、盗賊に会った時に助けていただいたんですよ。お礼に街まで送って差しあげたんです。彼の身柄は私が保証しますし、入街税は私が負担します」
「そうですか。貴方がそう言うなら」
そう言うと、商人は数枚の銀貨を門番に手渡し、馬車はそのまま街に入ってゆく。
「ありがとうございます、税金まで負担して貰って」
「良いんですよ。命の恩人です、恩には全霊で返さなければ」
「ありがとうございます。ええと······」
「あ、そういえば自己紹介がまだでしたね。ナインウルズ商会の会長をしております、セルアーキ・ナインウルズと申します」
「改めましてミクリ・スグルです」
こういう、新しい出会いというのはいいな。
「ところで俺無一文なんですけど、冒険者か何かになろうかなって······。何かギルド的なのってあります?」
「冒険者ですか······あまりオススメはしませんが、スグルさんは腕が立つようですし大丈夫でしょう。何かしらの協会に入っていれば身分証明にもなりますしね。冒険者協会の建物はアレです。あの、今人が入っていった」
セルアーキが指さした先には、確かに建物に入る男の姿が。
しかしその男、明らかにヤバい。頭部はスキンヘッドで、上裸にトゲトゲしい肩パッド。まるで世紀末のような格好をしている。
「冒険者って、全員あんな感じですか?」
「流石にそんな事は······無いですよ」
(今の間は何!?)
しかし、こういう時は冒険者に登録しておくのが定石だ。行かない訳にはいかないだろう。
(それに、森で戦った魔物よりは怖くない。大丈夫だぞ俺!)
そう自分を鼓舞しながら、俺は冒険者協会の敷居を跨ぐ。
「───見ねぇ顔だな、お前」
目の前に、つい今しがた入った強面の世紀末男が立っていた。
ビビっちゃダメだ。ビビっちゃダメだ。
「どうも、冒険者志望で来ました。何か文句でも?」
俺の返答に、世紀末男はじっとこちらを睨みつける。
「文句はねぇさ。だがな、冒険者になろうって言うなら覚えておかなきゃいけねぇ事があるんだぜ?」
なんだか聞いた事ある様な無いような言葉をかけられる。
なんだろう、「先輩の敬い方をなぁ!」って殴られるのかな。
やはり、異世界転生から怖い人に絡まれるのは一連の流れなのだろうか。
「で、その覚えておかなきゃいけない事って?」
「······まず、冒険者っつー職業は常に危険の最前線だ。楽して一攫千金とか考えているってのなら止めておけ。常に命の危険と隣り合わせな上、収入も不安定だ。生半可な覚悟なら回れ右して里へ帰るんだな」
(······ん?)
「それにな、意外と上下関係が厳しいんだ。勿論学のない奴が多いから、口調にはうるさくないが、冒険者のランクが1番下をGとして8段階ある中で、もし合同で即席チームを組む場合はよりランクが上の人間に従わなくちゃいけねぇっていう暗黙の了解がある。そこは念頭に入れておけよ」
(······何この人。ただのいい人だ)
「そ、そうか。忠告してくれてありがとう。まぁ命の危険ならもう幾つか潜ってるしな、今更だ」
「ククク······生意気言うじゃねぇの。だが、慢心は破滅を呼ぶ。危機感は忘れるなよ」
(すっげぇいい事言うんだけど。ヒャッハーッて略奪しそうな見た目の人に本気で諭されたんだけど)
「わ、分かった。忘れないさ」
見た目と中身のギャップに戸惑いながら、俺は何とか返答する。しかし、世紀末男はまだ話を続ける。
「ところでお前······職業はなんだ?」
職業······あぁ、転生前に決めた奴か。割と忘れかけていた。
「ん、付与術師だけど?」
その答えに、世紀末男は目を丸くする。
「付与術師······ってあの?ククク······クハハッ!なるほど、面白ぇ!」
世紀末男は腹を抱えて大笑いを始める。最初は訳が分からなかったが、女神とのやり取りを思い出して合点が行った。
(そういや、1番不人気の不遇職だったっけ。職業笑われるのもお約束か)
などと考えていると、ポンと肩に手を置かれる。
「そんな顔をするな。付与術師は確かに不遇職だなんて言われているが、俺は不遇職なんて存在しないと思っている。周りからの評価や、実践で苦労するかもしれない。
お前が進む道は恐らく茨の道だ。お前もそれが分かっているだろう、その顔を見ればわかる。だからこそ、俺は応援してるぜ」
笑顔で親指を立てる世紀末男。やべぇ泣きそう。本気で言ってくれてるやん。
「ありがとう······」
「俺はエイリアス。エイリアス・ニヒルだ。よろしく」
その名の通り、ニヒルな笑みを浮かべるエイリアス。
「俺はミクリ・スグルだ。よろしく頼むよ」
そう言って俺たちはがしりと握手を交わす。
「スグルか、珍しい名だな。さて、あまり長話も悪いだろう、冒険者登録の窓口はあそこだ。行ってこい、お前がいつか俺に追いつく事を願ってるぜ」
と、エイリアスはそのまま踵を返して去っていった。
とりあえず、俺はエイリアスの指さした方向に向かう。長いカウンターの1番端の窓口だ。
俺は、受付嬢と思われる女性に話しかけた。
「すいません、冒険者になりたいんだけど」
「冒険者登録ですね、かしこまりました。ではこちらの用紙に記入お願いします」
そう言って1枚の紙を手渡される。死んでから2回目だぞこういう書類。逆に違和感がある。
とは言え、A4の綺麗な紙では無く、歪な羊皮紙だ。その点は異世界っぽい。
記入内容も難しいことは無い。名前、性別、年齢、職業。バイトの面接書類よりも書くものは少ない。
そして最後、試験形式の選択。
(採取試験、筆記試験、戦闘試験か······。どれがどんな試験かは何となく分かるな。ま、戦闘試験でいっか。俺探し物苦手だし、筆記なんて勉強して無いし)
「戦闘試験っ······と。よし、受付のお姉さんお願いします」
俺から書類を受け取った受付嬢さん(名はカイナと言うらしい。胸元に名札が掛かっている)は内容をまじまじと確認すると。
「大変失礼ですが、戦闘試験で大丈夫ですか?」
「······へ?」
つい頓狂な声が出る。まさかそこが聞き返されるとは思っていなかった。
こういう時、戦闘試験が普通だし、ポピュラーなのでは?
「職業が付与術師ですと、戦闘試験は少々厳しいかと······。私個人としてはおすすめ出来かねます」
(何、心配してくれてる?優しいねこの人。異世界良い人多いな、案外)
「なるほど······ま、大丈夫ですよ」
「そこまで言うなら、このままで承ります」
俺としては、一番合格の可能性が高い試験を選んでるつもりなんでね。
カイナさんが書類に判を押し、別の別の職員に手渡す所を見ていると───。
「では、明日のお昼にこちらの受付までお願いしますね」
「······え、明日?」
「はい、常に試験官が常駐している訳では無いので、ダルーイ支部では書類提出の翌日に試験を行う形になっております」
(マジか、今から受けるつもりだったわ。やべぇ恥ずかしっ)
「······分かりました」
熱を持った耳を掻きながら、俺は冒険者協会を後にした。
「さて、早速予定が狂ったな。」
とりあえず、何とか時間を潰そう。
***
「ミョルニィルさん、こちらを」
「ん、冒険者登録か?なんでわざわざ」
ガタイのいい大男、ミョルニィルはカイナから書類を受け取ると、ざっと目を通す。
「いえ、明日の昼に試験を予定しているのですが、試験官の予定があわず、他の支部から誰か招集をお願いしたいのです」
「なるほどな。付与術師で戦闘試験······ミクリ・スグルか。面白い」
「······?」
カイナはその言葉の真意を理解出来なかった。
「試験官の件は了解した。他支部への連絡の必要はない。俺が試験官をしよう」
「本気ですか!?」
「もちろん手は抜くさ。若い芽を摘むつもりは無い」
「いや、そういう意味では······」
「安心しろ。冒険者協会ダルーイ支部支部長兼、Aランク冒険者《天鎚》のミョルニィルが責任もって見定めよう」
こうして、スグルの知らないところで厄介事は進行していた。




