11.盗賊ってどこにでも居ますね。
「お······あれか?」
森から離れてしばらく、草原を横切る土色が見えてきた。あれがブレフィの言っていた街道だろう。とりあえずそこを目指して歩いて行く。
······しばらく歩くと、街道が何やら騒がしい。
「あれは······馬車、と盗賊か?」
(マジかー、お約束イベント来たー。)
見たところ、馬車も装飾に凝っており、普通の馬車では無いようだ。貴族か大物商人の可能性が高い。
ここはテンプレ通り、助けに行こう。
馬車に近づくと、既に誰かが戦っている姿が見える。
(······マジか、先越されてるじゃん)
既に、鎧姿の青年が盗賊団を相手取り、殺陣を舞っていた。
······が、どうにも引っかかる。森でのサバイバルを通して、多少目端が効くようになったのだろうか。
盗賊も、騎士風の青年も本気に見えない。むしろ、傷つけないように立ち回っているようだ。
よく見れば、青年の鎧も何となく大きく不恰好だ。
(もしかして······騎士も盗賊もグル、って事か?うわぁ、異世界怖っ)
なんにせ、このまま馬車を放置するのも後味が悪い。とりあえず、急いで馬車の方へと向かった。
***
(本っ当にちょろいなぁ······楽勝じゃん)
男は、漏れ出そうな本音を必死に心に留めていた。
仲間3人を縄で締めながら、馬車の中を見回す。
『オイ······痛てぇって。もっと優しくしろよ』
『信用を得るためだ、我慢しろ。つか喋んな、バレたらどうする』
馬車の積荷は箱に詰まっていて、中身がなにかは分からない。だがその量は多い、これは儲けが出そうだ。
「ありがとうございます!まさか盗賊に襲われるなんて······。貴方が通りかかってくれなければどうなっていたか」
ぶくぶくと肥太った商人が満面の笑みで感謝してくる。ここは紳士的に応対をしよう。
「いえいえ、礼には及びませんよ。僕も街へと帰る途中だったので、少しばかり同乗させていただければ結構です。こいつらも付き出さなければ行けませんしね」
(ま、積荷と命も全部貰ってくけどな)
表情は爽やかな笑みを浮かべるが、実は吊り上がろうとする口角を抑えるので精一杯である。
そのまま馬車が進もうとすると、誰かが近づくのが見えた。
薄汚いマントを纏った男だった。マントの下に着ている服装は見たことが無い、異国の人間だろう。
「あのぉ······すいません、俺も街へ行きたいんすけど。ちょっと乗せちゃくれませんか?もう足が棒のようで」
「すいません······流石に身分の分からない人を乗せるのはちょっと」
商人はやんわりと、怪しげな男の乗車を断る。それもそうだ、盗賊に襲われたばかりでは、少なからず人間不信になるものだ。
(そうだ。せっかくだし、さらにいい人アピールでもしとこうか)
「まぁまぁ、いいじゃないですか。彼の身なりを見るに、あながち嘘は言ってないでしょう。それに、もしならず者なら僕が斬って捨てましょう」
「そうですか。貴方がそう言っては断るのも無礼ですね。どうぞお乗り下さい」
「どもども」
薄汚れた男は乗り慣れない様子で馬車に乗り込む。
(これでさらに優しい人って印象が付いたな。殺す人間が増えたがまぁ問題ない、人数はまだ俺たちの方が多いしな)
***
(いやーお優しいねぇ極悪人め。爽やかな顔して殺意高いや。気のいい商人は騙せても俺は騙せねぇよっと)
汚れたマントに身を包んだ怪しげな男、それは俺、三栗傑である。
この汚れたマントは、森で狩った角が二本ある黒い馬の皮を簡単に加工したものだ。あれはユニコーンという事で良いのだろうか?
めちゃくちゃ気性が荒くて手を焼いた。ユニコーンってもっと優雅で清楚なイメージだったんだが。
まぁ、それはどうでもいい。とりあえず馬車には乗り込んだ。ここでおもむろに盗賊共を拘束しては、俺はただの頭のおかしい人間だと捉えられる。で、捕えられる。
ここは隙を晒しつつ、向こうが動くのを待とう。
しかし、偽戦士がわざわざ進言して乗せてくれるとは思わなかった。正直ラッキーだった。
一応何かしらの毛皮を乗車賃代わりに、とでも考えていたが、手間が省けた。
(さて、タイミングを探るか)
商人が無防備にもうつらうつらと首をもたげる中、俺もたぬき寝入りを決める。御者も馬の操縦で忙しそうだ。そんな静かな時間がしばらく続く───。
『······おい、もういいだろ』
『あぁ、縄を解くぞ』
盗賊のヒソヒソ声が聞こえる。完全に寝ていると思っているようだ。すぐにバサバサッと縄が乱暴に落ちる音が聞こえる。
『フゥ······あぁ、キツかった。さっさと殺っちまおうぜ』
『慌てるな。気取られるなよ?』
『わーってるよ』
(······俺はもう気づいてるけどな)
やがてチャキリと刃物を構える音が幾つか聞こえる。殺気も幾つか感じている。
(まだ、もう少し引き付けろ······今!)
「《石化付与》!」
「「「「っ!?」」」」
俺は盗賊のヒソヒソ声を聞きながら考えていた呪文を叫ぶ。石化の状態異常はゲームじゃ良くある奴だ。成功は確信していた。
「なんだ······これ、動けない!?」
ただ、石化は首から下までにしてある。こいつらも喋れるようにしといた方が良いだろう。
「な、何事です!?また盗賊ですか!?」
俺の呪文の声に飛び起きた商人は慌てた様子でこちらを見やる。
座ったままの俺、何故か縄が解けている盗賊どもと、何故か剣を構える偽戦士。この状況、どう捉えるか。
「······何事ですか?」
「見ての通り、賊ですよ。それもかなり悪質な、ね」
思考を放棄した商人に対して、ゆっくりと俺が答えてやる。
「ふざけんな!お前が変な動きをしたから捕らえようとしたんだろうが!」
と、偽戦士が喚き散らす。酷い濡れ衣だ。
「おいおい、さっきまでの優しい口調を忘れてるぞ?それに、縛っていた筈の盗賊の縄は何故か解け、そいつらは御者、商人さん、そして俺に刃を向けてる」
「それがなんだ───、それがどうしたんです?僕が彼らとグルという証拠はないでしょう?」
繕った様に丁寧な口調に戻る偽戦士。チラリと商人の方を見やると、明らかに偽戦士を訝しんでいる。ここらでトドメを刺しておこうか。
「証拠、ねぇ······。その右手に握ってる剣、盗品だろう。それ左利き用だぞ?」
「なっ!?嘘、まじで?」
「······チョロいな」
つい本音が漏れてしまった。
正直、ここまで雑なブラフに引っかかるとは思っていなかった。
「貴様っ······はめやがったな!」
「騙そうとしてた奴らが何言ってんだか。商人さん、こいつらは街で衛兵にでも渡しましょう」
「そうですね······。仕事柄、盗賊に襲われる事は時折あるのですが、ここまで悪質なものは初めてですよ。貴方が居てくれて助かりました」
(もしかして······この商人さんが1番チョロいのでは?)
という失礼な考えを心に閉じ込め、改めて盗賊共を縛ってゆく。
「クソッ······上手くいってたのによ」
「人生そんなもんだ。上手くいかない中で折り合いつけてくんだよ、普通」
偽戦士のぼやきに適当に相槌を返しながら、縄を強く結ぶ。
(無いとは思うが、念の為に付与魔法でも掛けとくか)
結んだばかりの縄に手を向け、唱えておく。
「《不壊付与》」
「てめぇ、何しやがった?」
「ん?万が一、お前らが刃物を仕込んでて逃げ出したりしないように、と思ってな」
「チィ······」
どこか悔しげな偽戦士を後目に、他の盗賊にも同じ魔法を順に掛けてゆく。
これで、一安心だろう。
そのまま馬車の柱に背中を預け、目を瞑る。
馬車に揺られること小一時間。商人に揺さぶられて目が覚めた。
「お兄さん、魔法使いのお兄さん。もうじき街に着きますよ」
「ん······ありがとうございます」
寝ぼけ眼を擦りながら、馬車の外に目を向ける。茶色っぽい街道の先に、灰色の壁が立ちはだかっている。
(あれが······街か)
「······さて、楽しみだ」
新たな出会いに、俺は胸を躍らせる。




