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10.そして森を出る。

「───ドラゴン······っ!」

 俺は絶句せざるをえなかった。それはその巨体故だろうか、それとも放たれる圧力(プレッシャー)故だろうか。

 それは分からないが、この時初めて「蛇に睨まれた蛙」の気持ちを理解した。


『人間、そう警戒するな。我は貴様に害をなすつもりは無い。それに、貴様ではどう足掻こうと我には勝てんしな』


 ······悔しいが、このドラゴンの言う通りだった。人間如きが逆らっていい存在じゃない。

 前に戦った虎も恐ろしく強かった。他の魔物とは比較にならない程に。俺はその虎こそこの森の頂点だと思った。


 ───が、目の前のドラゴンはそのレベルを遥かに超越していた。


『我が名は神炎竜ブレフィオーレ。名を聞こう、人間』


 俺の恐れなど露知らず、ブレフィオーレと名乗ったドラゴンは自己紹介を始めやがった。

「······俺は三栗 傑だ。お前だよな?最初に俺に声掛けてきたのは」

『いかにも。あのままでは貴様は野垂れ死ぬ事が決まりきっていたでな、ちとアドバイスしてやったのよ』


(······アドバイス、だったのか?あれは)

 そんな疑問はさておき、気になっていた事を聞く。

「なんでアドバイスなんかしたんだ?あんたにとって何のメリットがあった?」


 このレベルの生物だ。俺のような矮小な人間をわざわざ生かす様に声をかける理由が考えつかない。

 何か裏があるのでは······そう考えていたが、全くの杞憂であった。

『なに、我は長い事この場に留まっておるでな。話し相手が欲しかったのだ』


(あ、そうですか······)

 まぁなんにせ、陰謀的なのに巻き込まれて居ないようで助かった。


『少し話そう、スグル。異世界の話も聞かせてくれると助かる』

「俺で良ければ······って、俺が異世界から来たって事はお見通しなのね」

『異世界人はこの世界の人間と魔力の流れが違うからな。我ら神竜なら見れば分かる』

「······さいですか」


 こうして、俺とブレフィオーレは色んな話をした。

 俺が一度死んだこと、そして女神にあって転生した事。こっちに来てから、いや元の世界ですら誰にも言えなかった愚痴をたくさん言った気がする。久々に会話をして、気が緩んだのかもしれない。

 対してブレフィオーレも色んなことを話してくれた。

 ブレフィオーレ自身が七神竜と呼ばれる最上位の七頭の竜の一体である事。この世界の人類史よりも長く生きているらしく、エピソードも濃くて面白かった。

 大学に入ったばっかりの頃、新しくできた友達と話をした事を思い出した。


 本当に何でもない、とりとめのない話だったが、何よりも有意義だと思った。


『そうか······酒を飲んで死んだのか。我の友にも大層な酒好きがいたのだが、ある日突然死んだのだ。なぜ死んだのか今まで理解出来なかったが、なるほど合点がいった』

「ドラゴンにもアル中が居るんだな。何それおもしろ」


 ブレフィオーレは笑いながら話すから、俺も笑ってしまう。

 こうして話せば話す程、思う事がある。


「ドラゴンって、本当に人間くさいな」

『基本的な知能で言えば、お主ら人間や他の種族よりも遥かに高いのでな。無理もない』

「そっか······って、他の種族?人間以外に種族があるのか?」

『あぁ、お主ら《人間族(ヒューマン)》に加え、《森精族(エルフ)》、《地精族(ドワーフ)》、《獣人族(ビースト)》、《魔族(エヴィル)》······この辺りが基本だな。それぞれの種族内で細かい区別があったり、少数の民族なども居たりするが、だいたいこんなものだ』


 ······やはり異世界。他種族という概念がある。

 それだけで多少、テンションが上がるというものだ。


「······本当にいい時間だった。久々に誰かと話せて楽しかったよ」

『我はお主よりも長い事会話など交わしておらなんだからな、礼を言うのは我の方だ。スグル、手を出せ』

「······?」


 言われるがまま、ブレフィオーレの方に手を差し出すと、俺の掌の上に巨大な爪を添える。

 そしてそこには、1つの指輪が残っていた。

「これは?」

『そうだな、名付けるなら《神炎竜の加護の指輪(ブレフィ・リング)》と言った所か。我とスグルを繋ぐ役割を持つ指輪だ。身につけておれば、どこに居ようと我はスグルの居場所を分かるし、この指輪を通して会話もできる』


 え、お子様携帯かな?ブザー付いてないからセーフか。

 しかしなんか、凄いものを貰った気がする。

「······見てたのか。けどいいの?こんなすごい指輪貰って」

『当たり前だ。これは我とお前の友情の証だ』


(おっと、さりげなく友達認定ですか。でもまぁ、心強いな)

「ありがとう、有り難く頂くよ」

 俺はその指輪をすっと右手の人差し指にはめる。薬指は空けとくよ、もちろん。


(······友情か)

 友と言う言葉を意識すると、どうしてもティウルの顔が脳裏を過ぎる。

『······あの狼の事か。あれは本当に残念だったな』

「慰めてくれてんの?······いいよ、あの事は俺の中である程度踏ん切りがついたから。俺はコイツと一緒に世界中を周りたいと思う。森の中でしか一緒にいられなかった分、俺が世界に連れてってやりたいんだ」

『良い事だと思うぞ。ただ、お節介だとは思うが一つ案があるのだが』

「なんだ?」


『その狼の牙を、ナイフか何かに加工してはどうだ?』

「······え?ちょっと待って。これは形見なんだぞ?そんな道具扱いなんて······」

 ───流石に認められない。

 ブレフィオーレの冗談なのかも知れないが、だとしても気分が良いものでは無い。自分のせいで死なせてしまった相棒を道具にするなんて───

「───出来るわけ無いだろ!?」

 つい、声が出ていた。しかもいやに荒く。


『気を悪くしたのなら謝ろう。しかし、そこは死生観の違いだろうか。我としては、お飾りとして一緒に旅するより、道具として互いに協力し合って冒険する方が良いのでは、と思ったまでだ。ティウルはお主の為に死を選んだ。死してなおスグルの役に立てると言うなら、ティウルも喜ぶのではないか?』

「······」


 言いたいことは分かる。決して間違ってはいない

 けど、簡単には頷けない。これは俺個人の思想の問題だろう。

 だが、言われてみれば、ブレフィオーレの言う通りかもしれない。

「とりあえず、今は結論は出せない。ま、前向きに検討するよ」

『うむ······すまんな、余計なお世話であった』

「そんな事は無いよ」

 そう場を収めようとするが、雰囲気は中々元には戻らなかった。僅かにくすんだ空気の中、ブレフィオーレが口を開く。


『そう言ってくれると助かる。······さて、いつまでも我のような老いぼれといる訳にもいくまい。人里に行くのだろ?』

「そうだな。短かったけど、ブレフィオーレと話せて良かったよ。楽しかった」

『それは良かった。それと、我の事はブレフィと呼ぶといい。親しい者からはそう呼ばれている』

「そっか。ありがとう、ブレフィ」


 そうして笑顔で手を振り、歩き出そうとした。

『あー······スグルよ、まさかそんな格好で行くつもりか?』

「?······あぁ」

 ブレフィに指摘されて、自分の服装を見てみると、シャツもジーパンもボロボロだった。

(やべぇ······前衛的過ぎるだろ。どうするか)


『お前の付与魔法なら、直せるのではないか?』

「なるほど······そうだな。《自動修復付与(オートリペア)》」

 ブレフィのアドバイスを踏まえ、魔法をかけてみる。

 すると、ダメージジーンズと言うにもボロボロだったデニム生地はみるみる新しくなり、現状一張羅のシャツも新品同様になった。


『身綺麗にはなったが······この世界ではなかなか異質な装いだな。ひとまずローブでも着た方が良いだろう』

「あぁ、落ち着いたらそうするよ」


『うむ、それと······付与術師だと言うなら、杖の一本でもあった方が良いだろう。これも持っていくといい』

 そう言うと、ブレフィは一本の杖を差し出した。


 とても綺麗な杖だった。真っ白な木材から作られており、結構軽い。

 装飾も決して派手ではなく、さりげなく竜の模様が彫ってあった。

 そして杖の先端に着いた拳大の真っ赤な宝玉は、中から燃えるような強い魔力を感じる。

「······これは?」

『うむ、これはな聖白の妖樹(シャイン・トレント)の木材を加工し、そこに獄炎蜥蜴(ヘルサラマンダー)の魔石を加工したものを使っている。杖としての質も去ることながら、装飾にも凝った我の最高傑作だ』

「え、これブレフィが作ったのか?」

『その通りだ。先程の指輪もそうだぞ?こうして洞穴に長い事引きこもっていると、趣味がほしくなるというものだ』


 まぁ、分からなくはないな。

「ありがとう。使わせてもらうよ」

『うむ······他に欲しいものはないか?』

「えっと······大丈夫。気持ちだけ頂いておくよ」


(······なんだろう、おばあちゃん家に行った時みたいな感じだ。別れ際になんか色々持たされるやつ)

『そうか。そこに転送魔法陣が設置してある。それに乗れば、森の外に転送されるように設定してあるからな。森を出たらまっすぐ進め、しばらく歩けば街道が見える。その街道に沿って歩けばダルーイという街に着く』

「森からまっすぐ、街道出たら道にそって······ね。ありがとう。じゃ、行くよ」

『うむ、達者でな』


 ブレフィに手を振られながら、転送魔法陣に乗る。するとたちまち光が魔法陣から溢れ出した。

(やっと······サバイバルから脱出か。長かったな)


 ······光が収まると、頬を爽やかな風が撫でる。密林の湿った風ではない、程よく乾いた風。

 遮られるものもなく、太陽の光が直に俺を照らす。


 眩しさに目を細めるが、決して不快では無い。


 この先、新たな出会いと、更なる受難が待ち受けているだろう。

 だが、それ全部含めて経験だ。楽しもうと思う。

 こうして、俺のあらたなる旅が始まる。

序章:転生サバイバル編

~出会いと別れの秘境~

─[完]─


次回より

第一章:平穏な国タイダール王国編

~□□□□□□□□~

が始まります、何卒。

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