さよなら
じりっ、とライトの眩しい明かりが瞼を焼いて、僕は目を覚ました。
「おぉ、起きたか。見えるか?」
そこには見慣れた自宅があった。
「××!帰ったか?!大丈夫か?!」
と、ライトを掲げて顔中泥だらけの父さんが駆け寄ってきた。
焦ったような父さんの声に安心して、もう枯れたと思っていた涙が再び僕の頬を濡らした。
「かあ、さんが...。」
「母さんがどうした?...お前、母さんはどこだ。」
僕は森の移動中に、母さんから預かっていた首巻を差し出した。
「ごめっ、ごめんなさい...。」
僕が膝から崩れ落ちた父の泣き顔をみるのは、この日が最初で最後だった。
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「おぃ××!酒買ってこいよ!」
散らかったリビングの中から父さんの怒声が響いてきた。
母さんが死んだあの日から、父さんは変わり果ててしまった。
酒に浸り、暴力的な日々が僕の精神を蝕んでゆく。
「おい!聞いてるのか?!」
「ごめん父さん。そんなお金無いよ。」
「あ"?口答えするのか?」
駄目だ。きっとまた殴られてしまう。
「分かった。少し薬草を売ってくるよ。」
「早くしろ!」
玄関のドアを閉め、木の編み込みカゴを持った。
最初はこんな境遇に毎日泣いてばかりだったが、もう慣れてしまった。
しばらく道を歩いていると、
「今日も来たのか愚図が!」
「死んじまえ!」
僕より少し年上のこの村に住んでいる子供たちが石を持って近ずいて来た。
「お前さ、いつまでここにいんの?」
と、僕に近寄り前髪を掴んできた。
「目障りなんだよ、いい加減にさ。」
耳元で囁かれ、顔が青ざめた。
「お前さぁ、グリムさんの子供じゃないんだろ?だってお前のママは茶髪、グリムさんは金髪だもんなぁ?お前のママが股開いて別の男と不貞を働いたって噂になってんだよ!」
「違う!母さんはそんな事しない!」
と、つい言い返してしまう。
「へえー、口答えするんだ。黒目黒髪に醜い顔、オマケにクズスキルなお前に、口答え出来る権限があると思ってんの?!」
何も言い返せず、下を向いて目をつぶってしまう。
「ふん。何も言い返せないのか?」
相手がどんな顔をしてるのかなんてし知りたくないし、見たくもない。
目をつぶったままでいると、どうやら目の前の奴らは気を悪くしたらしく、
「おい魔物!この村から出てけ!」
「グリムさんにお願いしたどうだ?パパー助けてぇ!ってお前の母さんと同じようにさぁ!」
石が頭に当たり、細く血の筋が出来た。
うずくまってこの場をやり過ごそうとすると、案の定蹴られ殴られ。気がつくと周りは薄暗くなっていた。
(帰ろう...。)
(結局なんの収入もないままか...。父さんは何て言うだろうか。)
そんなことを考えているうちに、あっという間に家に着いた。
頭から血が出ていて、少し眼球を濡らしているせいで前が赤く染って見えた。
「父さん、ただいま。ごめん、今日はお酒は買ってこられなかった。」
「…?」
いつもなら奥の部屋から聞こえてくるはずの怒声が聞こえてこない。
(何かがおかしい。)
異変を感じて奥の父さんの部屋を除くと、
「!!!!!!」
そこには血まみれの父さんが横たわっていた。




