レッドグリズリー
母さんを連れて、ようやく先程兎がいた場所に着いた。この場所は吹き抜けになっていて、よく目立つので場所がすぐわかって助かった。
「あれぇ?さっきここら辺にいたはずなのに...。」
ここにいたホーンラビットを見たのは30分ほど前だったので、いなくなっているのは何も不思議では無いのだが、やはり僕は昔から体が弱かった母が喜ぶようなものを見せたかった。
僕は昨夜ピクニックに行くというお母さんを必死で父さんが止めているのをドアの隙間から見てしまっていた。
(今日は母さんが無理してまで来てくれたピクニックなのに...。)
なんだかやるせない気持ちになっている時、
ーガサッ
ちょうど隣の低木から音がなった。
母さんは僕の方を向くと、
「あっちじゃない?」
と指をさして、無理を感じさせない笑顔で笑った。
「うん!」
向こうの開けた雑木林に歩いてゆくと、視界の端に、何かに引っかかれたような跡が木についていた。
(なんだろうこれ...。)
すると、後ろから鋭く息を吸い込むような音が聞こえた。
後ろを振り向くと、顔を真っ青に青ざめさせた母さんが立っていた。
「どうしたの?」
そう聞くと、母さんは強い力で僕の手を引き、早歩きで歩き出した。その早歩きはどんどん早くなっていって、ついには走り出してしまった。
「ねえ母さん、どうしたの?」
そろそろ息が苦しくなってきた。
「いいから走って!」
「ねえ、急にどうしたの?!」
叫ぶような母さんの言葉に、僕の不安は膨らんでゆくばかりだ。
「ねえ母さん、来たのはそっちじゃ...、」
「いいから!」
そのまま少し走ると、開けた場所に出て急に母さんが立ち止まった。
「あ、あぁ...。」
母さんが変な声をだしている。
「ねえ、どうしたの?!」
僕はある事に気がついた。
(あれ、なんか...。)
どんどん視界が狭まってきて、足元がグラグラする。
(血の、匂いがする...。)
ーグシャッ、メシャメシャッ
骨を砕く音がした。
母さんの高い背で見えていなかった前方を見る。
(え?)
目の前には、さっき見たレッドホーンラビットを口に咥えて噛み砕いている大きい熊がいた。
(レッド、グリズリー?)
目の前が真っ黒になった。
(どうして…?もっと奥にいるはずじゃ?)
この道中に見た、数え切れない程の木の引っかき傷や無理やりおられたような切り口の切り株がどんどん頭の中を流れる。
(そうか…。母さんは)
ー僕を助けようとしてたんだ。ー




