シアたんと大魔王〜大魔王は手を繋ぐ〜
「なぁ、シアた…ん゛んっ…シア」
「はい?」
我の問いかけに、にっこり笑うシアたん。
今日も可憐だ。
「何か…その…不満などないか?」
「不満、ですか?」
不思議そうな顔をするシアたん。
間近にシアたんを見ていたら脈拍が速くなって、落ちつこうとうっかり深呼吸をしてしまった。
ヤバいヤバいヤバい。
シアたんの前で深呼吸はヤバい。
魔族の感覚器の性能は人間の10倍。
魔王はさらにその倍。
大魔王ともなると、さらにその倍以上なのだ。
…つまり何が言いたいのかというと、シアたんが今日もいい匂い過ぎるのだ!
見守り用の魔道具にはあえて嗅覚はつけなかった。だってその、変態くさいだろう、そんなの!
それがどうだ!
シアたんと、け、け、けっ…こんして以降、シアたんの匂いが嗅ぎ放題なのだ!我にどうしろというのだこんなの!嗅ぐぞ!
…いや、そうではなかった。落ちつこう。シアたんが困った顔をしてこっちを見ているではないか。
「それで、だな」
何もなかったかのように仕切り直すと、素直に頷いてくれた。
出来た嫁だ。よ…め…我のよめ…嫁…
いやいや違う!
トリップしている場合ではない!
「何か困ったことや希望などはないか?すべて叶えるが」
「そうですねぇ」
シアたんがおっとりと頷いた。
未だにシアたんと同じ空間にいて会話をしているという事実が信じられんな。夢なら我はこのまま起きんぞ!絶対にだ!
「あ…」
シアたんが何か思いついたような顔をした。
「ひとつ、よろしいでしょうか」
「千でも億でも言うがいい!」
「はい。もう少しイチャイチャしたいです」
「……………………」
大魔王の聴覚は人間の…。
なんだ?今、盛大な空耳が聞こえた気が…
我が固まっていると、シアたんが少し恥ずかしそうに顔を赤らめた。
…空耳ではなかった…のか?
「その…国では婚約者はいましたが、異性として親密な行動を取ることもなく、少しそういった関係に憧れていたのです」
よく知ってる。ずっと見てたから。
だが、シアたんが我とイチャつきたい…だと…?
正直ヤバい。体が震える。
震えを抑えようとして…我は諦めた。
シアたんを前にして、我が平常心でいられるわけがないのだ。
だから、震える手をシアたんの手に重ねて握った。
「…これで、いいだろうか」
顔が真っ赤なのもわかっているが、どうしようもない。
シアたんは、こんな情けない我の顔を驚いたように見たあと、花が咲くような笑顔で笑ってくれた。
ああ、やはり我のシアたんは今日も最高だ!