モーニングコーヒー
目覚ましより五分も早く起きるなんて何年ぶりだろうか。目覚ましとの死闘の末起きるよりも清々しい朝を迎え、俺は目の前にあるダークネスなモーニングコーヒーを口へと運んだ。
(何故コーヒーから鉄の味がするんだ……?)
「お、お味は如何でしょうか?」
ダークネスの運び屋たるサンシャちゃんが、朝日より眩しい笑顔で俺の顔を覗き込んでくる。
「お、おいじいよ……っ!」
俺は有らん限りの活力でサンシャちゃんに笑顔で答えた。なんならこの後死んでも良いくらいに気合を入れた。
──ガチャ
「おはようございます旦那さま。モーニングコーヒーを…………あれれ?」
アサヒーナは俺が起きていることに驚いているが、それよりも早くいつものが欲しい。俺はサンシャちゃんのコーヒーを清水の舞台で切腹する勢いで飲み干し、アサヒーナのコーヒーに手をかけた。
「こっちも残すと勿体ないから貰おうかな……」
二人の気分を害すること無くやり過ごすために一言付け加える。やはりアサヒーナのモーニングコーヒーは美味い。俺好みの味を心得ている。
「ふーっ。二人ともありがとう。今日は良い仕事が出来そうだよ」
「……そうですか」
「へへ、ありがとうございます♪」
──バタン……
二人が部屋を後にし廊下から微かに二人の話し声が聞こえてきた。
「わ、私も少しコーヒーを頂いてもいいですか?」
「? どうぞ」
サンシャちゃんがアサヒーナの煎れたコーヒーを飲もうとしている。
(おいおいアサヒーナ。それは止めないとサンシャちゃんのコーヒーが劇薬だとバレるだろが……)
俺は扉に張り付きヒヤヒヤしながら次の言葉を待った……。
「―――とても苦い……です」
「……ふふっ」
「こんな苦い物を毎日飲んでたら旦那様死んでしまいますよ!」
「……そうね♪」
待て待て。サンシャちゃんたった今俺に毒を飲ませたよね? あれはセーフなのかい?
「明日から私が旦那様のモーニングコーヒーをお持ちしても宜しいですか!?」
「…………」
(止めろ! 止めるんだアサヒーナ!!)
俺は扉の向こうのアサヒーナの脳に向かって全力で念波を送りつけた。
「……いいわよ。明日から宜しくね♪」
──ガクッ
俺は項垂れその場に跪いた。
「やった♪ それではコーヒーの練習をしてきますね!!」
──タタタタタ……
走り去るサンシャちゃんの足音が消え、アサヒーナの気配が強まる。
「聞きましたか旦那さま?」
「……ああ。俺の死刑宣告がな」
「私は旦那さまが早起きなされるのなら何だって良いんですけどね♪」
「いやいや、毎日劇薬を飲んだら本当に死んでしまうぞ……?」
「大丈夫ですよ。彼女は頑張り屋さんですから、直ぐに上達致しますよ」
「それはそうだが、何よりアサヒーナの煎れたコーヒーが飲めなくなるのが辛い。昼はアサヒーナが煎れてくれ」
「……はい♡」
──タッタッタッタッ
心なしかいつもより軽快な足取りでアサヒーナは去って行った。
(…………仕事するか)
俺はデスクに座り、書類に目を通し始めた。