深夜の時間
夜中に目が覚めると、ベッドの脇に椅子に座ったまま寝ているサンシャちゃんが居た。
(……今の今までココに居たのか?)
何だか申し訳ないことをしたきがして、サンシャちゃんを抱え部屋を出た。
(えーっと、部屋は……)
『サンシャ』と書かれた部屋の扉を開け、ベッドに優しく寝かせる。おでこを撫でて部屋を後にし、俺はキッチンへと立ち寄った。
「コーヒーでも煎れるか……」
適当なカップにコーヒーを注ぎ、自室へと戻る。書類に目を通したがやる気が起きないのはいつものことだ。
「…………時雨か?」
「ハッ」
天井から素早く降り立つ時雨。黒い忍び装束に身を包みその顔は窺えない。
「状況は?」
「天界より2000もの天使達が出動。中には能天使の姿も確認済みです……」
「そうか。結果として押しても引いても、大物が出る度に規模が大きくなりそうだな。さっさと終わってくれれば良いが……引き続き監視を頼む」
「御意……」
素早く天井へと身を翻し、時雨は消えた。そしてそれを見計らったかの如く奴は現れた。
──スゥゥゥゥ…………
魔界のドブ川の様なある意味懐かしい臭い。直接私の所に来ると言う事は今回の戦争はやはり本気なのか……?
「何の用だへカーテ……ココへは来るなと言ってある筈だぞ」
「勿論失礼を承知で参りました。此度の戦争、小規模と見せ掛けて奴等は本気の様です。となれば以前より戦争にて消耗している我々に勝ち目は薄い。貴方様には是非とも我が軍勢に尽力願いたい次第であります」
魅惑の素肌に無数の犬や狼を身に纏い、蛇のような目付きで俺を睨む悪魔。
「すまんな。天界の奴等を始末したいのはやまやまだが、俺の力の殆どを天界に取られて封印されている。今の俺は唯の人間だよ」
「唯今別働隊が浄玻璃鏡の行方を追っています。前回の大戦で行方が知れなくなっていた鏡の欠片の情報を二つほど手に入れました故……欠片があれば貴方様もそれなりに力を取り戻せるはずです」
「…………」
鏡に映る者の本質を暴き出すと言われる浄玻璃鏡。欠片と言えども俺の本来の力の半分程は取り戻せるだろう。しかし噂によると鏡は無間地獄に落とされ粉々になり、罪人共の海の隙間を抜け行方が分からなくなった筈。何より無間地獄に行き、番人を目を盗んで回収出来る程の実力と顔が利く奴が果たして魔界に居るかどうか…………。
「欠片を回収出来次第またお迎えに参ります。その時までにお心をお決め下さるよう御願い申し上げます……」
へカーテは竜巻の如く一陣の風となり四方に霧散し消え、静寂だけが残された。
「未だに俺に縋る程魔界は落ちぶれたのか……?」
1人残された俺は、雲の合間に見える下弦の月に問い掛けた。