お掃除
部屋の扉を静かに開け、そーっと廊下の片隅を覗き込む。
サンシャちゃんが懸命に窓ガラスを拭いている。俺は心配でこうやって隅から覗いているのだが、今の所は大丈夫そうだ。
「何をしてるんですか旦那さま?」
「んのっく!!」
急に後ろから話し掛けられ心臓がケツから出そうになる。
「ア、アサヒーナか脅かすなよ……」
「別に普通に話し掛けただけですが……何か後ろめたい事でも?」
「いやいやいや……! 彼女の働きぶりを監視していただけだ」
「そうですか。それでは分かりにくいでしょうから旦那さまにはコレを差し上げます♪」
と、手渡されたのはホウキとチリトリ。つまり……掃除しろってことか……トホホ。
「ではよろしくお願いしますね♡」
俺は世界一含みのある笑顔で送り出されサンシャちゃんの所へ行った。
「手伝うよ」
「へ? えっ!? そ、そんな!? ええーっ!?」
──ズテンッ!!
「健全チャンス!!!!」
何に驚いたのか知らないが、サンシャちゃんは急にバランスを崩し両手をバタバタとさせる。足下には水の入ったバケツが置いてあり実に健全な未来が予想される。
──バシャーン!
「カモン! 健全スプラッシュ!!」
サンシャちゃんが蹌踉めきバケツが蹴飛ばされた。そして飛び散った水は―――
「冷だび……っ!!」
何故か俺の所へ…………。
「ハーックション!!」
「すみませんすみません!!!!」
「ハハ……大丈夫だ。サンシャちゃんが風邪引かなくて良かったよ……ゴホゥッッ!!」
俺はベッドの中の湯たんぽに足を擦りつけ、マスクへと咳き込む。
「弱っちい体ですね旦那さま」
「うう……寒い…………」
「風邪のところすみませんが、急ぎの書類が何点か御座いまして」
「代わりに判子捺してくれ……」
「サインも御座います」
「……ペンをくれ」
俺はベッドから手だけを出してアサヒーナからペンを受け取った。
「ココとココに……」
──スラスラスラ
「これで良いか……?」
「はい、ありがとうございます。では」
「あ、あの……!」
「あ、サンシャちゃんは旦那さまを見張ってて下さい。目を離すと直ぐに悪さをしますから♪」
「…………」
俺は可愛い監視の下、風邪ライフを満喫せざるを得なかった。