ドジっ娘サンシャ
重ーい足で屋敷へと戻り、アサヒーナに手渡された書類に目を通した。
「えー……っと…………」
そこにはサンシャの経歴や現在働いている喫茶店への経緯など書かれており、最後に屋敷で雇って欲しい旨がひしひしと書かれていた。
「旦那さま。ぶっちゃけますと、このサンシャちゃんはあまりにも酷い出来で喫茶店のオーナーも最初は目を瞑っておりましたが、次第に喫茶店があんな状態になり耐えられなくなったそうです……」
「いや、俺はアレでも……」
「何か?」
死神の鎌を喉元に押し当てられた様な冷たさが俺を襲う。とてもじゃないがアサヒーナのあの笑顔は真面に見たら心臓が麻痺して破裂してしまいそうだ……!
「…………」
サンシャちゃんを見ると、俯いたまま何も言わない。まあ無理は無いだろう。遠回しに喫茶店をクビになったのだから……。
「サンシャちゃん。貴女には拒否権があります。ただし、ココで働けば大抵のミスはこのスケベが許してくれますし、貴女の修行にもなるでしょう」
(ひでー言い草……)
俺は何も言わず黙ってアサヒーナの言葉を聞いた。何か言えば100000000倍になって返ってくるのは火を見るより明らかだから……。
「そこまで重く考えなくてもいいさ。何より……ココは喫茶店よりお給料が良いぞ?」
俺の言葉にサンシャちゃんは静かに頭を上げ「ココで働かせて下さい……」と一言放った。
「それじゃ、案内するね」
アサヒーナがサンシャちゃんを連れて部屋を出て行く。
ふと窓の外に目をやると、屋敷に一台の黒い車が…………。
「…………黒い神め……何の用だ?」
──コンコン
「入れ」
いつもより少し強い口調でアサヒーナを促す。
「失礼します旦那さま。冥府黒神の方がお越しです」
「……通せ」
スルリとドアを開け現れたのは漆黒の様に不気味な黒いスーツに身を包んだ一人の若い青年だった。
「お初にお目にかかります。私冥府黒神の会より来ました【伊藤銀次】と申します」
「この屋敷を預かる【神崎八郎】だ……」
伊藤銀次と名乗る青年はペコリと頭を下げ、俺は椅子に座ったまま微動だにしない。
「貴方様のお噂は常々耳にしております」
「前口上はいい。用件を言え……」
「では……これより冥府黒神の会は支配下拡大の為に魔界へ出陣する予定でございます」
「ああ……そんな手紙が前に来ていたな」
「貴方様は魔界に置かれまして神と崇められる程の存在だった。しかし今ではその命は我々が預かっている事をゆめゆめお忘れ無きよう…………」
「……ちっ、相変わらず嫌な物言いだ。大人しくしてろと言いたいんだな?」
「……左様……では」
青年はスタスタと部屋を後にし、表に停めた黒い車に乗り込み走り去っていった……。
(受胎期にはまだ少し早いはずだが……何かありそうだな)
「時雨……いるか?」
──スタッ
「お側に」
「冥府黒神の動きを探れ。奴等、魔界との戦争を始めるつもりだ……」
「御意……」
──シュッ
隠密である時雨は素早く身を消し、仕事へと取り掛かる。
(……仕方ない。暫くは大人しくしているか…………)